『ミークス・カットオフ』(2011)
『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』(2013)
『ショーイング・アップ』(2022)
『ミークス・カットオフ』
Meek’s Cutoff
公開:2011 年 時間:103分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ケリー・ライカート
キャスト
エミリー・テスロー:
ミシェル・ウィリアムズ
スティーブン・ミーク:
ブルース・グリーンウッド
ソロモン・テスロー: ウィル・パットン
ミリー・ゲイトリー: ゾーイ・カザン
トーマス・ゲイトリー: ポール・ダノ
グローリー・ホワイト:
シャーリー・ヘンダーソン
ウィリアム・ホワイト: ニール・ハフ
ジミー・ホワイト: トミー・ネルソン
原住民: ロッド・ロンドー
勝手に評点:
(悪くはないけど)
あらすじ
1845年、オレゴン州。移住の旅に出たテスロー夫妻(ミシェル・ウィリアムズ、ウィル・パットン)ら3家族は、道を熟知しているという男スティーブン・ミーク(ブルース・グリーンウッド)にガイドを依頼する。
旅は2週間で終わるはずだったが、5週間が経過しても目的地にたどり着かず、道程は過酷さを増すばかり。3家族の男たちは、ミークを疑い始めていた。そんな中、一行の前にひとりの原住民(ロッド・ロンドー)が姿を現す。
レビュー(若干ネタバレあり)
カットオフって何?
ケリー・ライカート監督は『ファースト・カウ』(2019)で1820年のオレゴンを舞台に作品を撮っているが、本作はその四半世紀あとのオレゴンの物語。西部開拓時代のアメリカを描いているが、いわゆる西部劇ではまったくないところが、彼女らしい。
◇
主演はケリー・ライカート監督作品には欠かせないミューズのミシェル・ウィリアムズ。彼女をはじめとする三組の家族が幌馬車で広大な砂漠を西部へと移動していく。
道案内に雇った人物がミーク(ブルース・グリーンウッド)。この男が何事にも知ったかぶりをしている様子で、彼の案内通りに進んでも目的地には何週間もたどり着かない。
もはや、まったく彼を信じていないのが、主人公のエミリー・テスロー(ミシェル・ウィリアムズ)。さっさとクビにしてしまえばよいのに。
ミークをクビにするからカットオフなのかと思ったが、そうではなさそうだ。カットオフとは、野球でいえば中継プレイ、つまりショートカットの道筋のことだ。
米国版Wikipediaによれば、スティーブン・ミークという実在の人物が発見したオレゴンを抜ける過酷な近道のことを“Meek Cutoff”と呼ぶらしい。それが、本作のタイトルにもなっている。
起承転結を期待するな
ミークを相手に不信感を募らせながら、陽射しが照り付ける砂漠を横断していく一行の過酷なロードムービー。
一瞬近くでみかけた一人の原住民の存在に、みな震え上がる。彼らがいかに恐ろしい部族であるかを、ミークが得意げに吹聴する。
原住民は仲間を連れて襲ってくるのではないか。不安に押しつぶされそうになりながら進む一行だが、ある日、その原住民の一人を捕えることに成功する。
原住民は仲間を連れて襲ってくるのではないか。不安に押しつぶされそうになりながら進む一行だが、ある日、その原住民の一人を捕えることに成功する。
◇
言葉も通じない相手に対し、どうにか近くの水場の在処を白状させようと、一行は悪戦苦闘する。そういう話だ。
100分もある映画なのに、ありがちな起承転結を作ろうとしないのは、さすがケリー・ライカート監督。こういう作風は、インディーズ映画でなければなかなか成立しない。
この、定石を踏まない展開の面白味は、最新作『ショーイング・アップ』(2022)でさらに磨きがかかるが、本作は西部劇と思って見ていたせいか、終盤の放置プレイじみた展開にはやや戸惑う。
キャスティングについて
主人公エミリー・テスロー役にはミシェル・ウィリアムズ。
本作公開の2011年には『マリリン 7日間の恋』でモンローを演じ、『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』公開の2016年には『マンチェスター・バイ・ザ・シー』出演。
アカデミー賞ノミネートの大作で脚光を浴びる傍ら、ケリー・ライカート監督の地味なインディーズ作品にも義理を欠かさないところに、好感が持てる。
◇
夫のソロモン・テスロー役にはウィル・パットン。彼もインディーズ作品には積極的に出演している俳優だ。ライカート監督の『ウェンディ&ルーシー』では、自動車修理店主役でミシェルと共演。
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ゲイトリ―夫妻には、夫のトーマスにポール・ダノ、妻のミリーにゾーイ・カザン。この二人は実生活でもパートナーだ。ポール・ダノはスピルバーグの『フェイブルマンズ』で、ミシェル・ウィリアムズとともに夫婦役。
ゾーイ・カザンはコーエン兄弟の『バスターのバラード』(2018)で、オレゴンに向かう旅の一行の娘を演じていて、本作と重なる部分が多い。
しかも、原住民に襲われそうになって、自決してしまう役なのだが、その原住民を演じているのが、本作にも登場するロッド・ロンドーなのだ。これは驚き。
◇
なお、本作を観ている間、女だてらに銃を振り回す勝気なミシェル・ウィリアムズが、『荒野の誓い』のロザムンド・パイクに似てるなあと思っていたのだが、ロッド・ロンドーは同作にも出演。ネイティブ・アメリカンを演じられる役者は、限られるのかもしれない。
この終わらせ方がライカートっぽい
以下、ネタバレになるのでご留意願います。
意思の疎通もままならない原住民の捕虜は、一行を水の在処に案内し始めたようにもみえるが、実は仲間を呼び寄せて襲撃の機会を狙っている可能性もある。
また、怪しい動きをする原住民の危険性を訴え、我が道を進ませようとするミークの本性も気になる。一般的な脚本であれば、そこに何らかの答えが示されるところだ。
ミークが捕虜を射殺しようとして、逆にエミリーに銃を向けられる場面や、エミリーが捕虜に見せる気遣いから、最後は捕虜が水場に案内してくれそうなものだと想像する。
だが、それではインディーズ作品の意味がないし、ケリー・ライカートらしくない。だから、彼女は答えを明かさず、いかようにも想像が膨らむ終わらせ方で幕を閉じる。
そこに本作の面白味を感じるかどうかは、意見が分かれるところだろうが、このスタイルを堅持して撮り続けるところは、さすがだと思う。