『007 黄金銃を持つ男』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『007 黄金銃を持つ男』ボンド一気通貫レビュー09|または三つの乳首を持つ男

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『007 黄金銃を持つ男』
The Man with the Golden Gun

ロジャー・ムーアがボンドを演じるシリーズ9作目。ボンドガールはモード・アダムス、ブリット・エクランド。

公開:1974 年  時間:124分  
製作国:イギリス

スタッフ 
監督:         ガイ・ハミルトン
脚本:      リチャード・メイボーム
         トム・マンキーウィッツ
原作:        イアン・フレミング
        『007黄金の銃を持つ男』
キャスト
ジェームズ・ボンド:  ロジャー・ムーア
スカラマンガ:   クリストファー・リー
ニック・ナック:エルヴェ・ヴィルシェーズ
アンドレア・アンダース:モード・アダムス
メアリー・グッドナイト:

          ブリット・エクランド
ヒップ中尉:    スーン=テック・オー
ペッパー保安官: クリフトン・ジェームズ
ハイ・ファット:    リチャード・ロー
M:          バーナード・リー
Q:      デスモンド・リュウェリン
マネーペニー:   ロイス・マクスウェル

勝手に評点:2.5
 (悪くはないけど)

あらすじ

英国秘密情報部にボンドの番号007が刻まれた黄金の銃弾が届く。それは「黄金銃を持つ男」の異名を持つ素顔が分からない殺し屋フランシスコ・スカラマンガ(クリストファー・リー)からの抹殺予告の様に見えた。

自ら調査に乗り出したボンドは、太陽エネルギー開発の鍵となる「ソレックス・アジテイター」をめぐってスカラマンガと対決することになる。

一気通貫レビュー(ネタバレあり)

ロジャー・ムーア主演のボンド第二弾。まずはタイはプーケット近くの島にあるスカラマンガの屋敷のシーンから。

三つの乳首と黄金銃を持つ男スカラマンガは、愛人のアンドレア(モード・アダムス)とビーチで寝そべり、その後、潜入してきた刺客とからくり屋敷で対戦。

裏で対戦を仕切っているのがスカラマンガの部下で小人症の男・ニック・ナック(エルヴェ・ヴィルシェーズ)。ボンドもいないのに、この対決は結構長いのでややダレる。

結局、ここでは蝋人形のボンドが登場するのみ。ボンド本人ではなく偽物でアヴァンタイトルを済ませるのは、『ロシアより愛をこめて』以来か?

そしてタイトル後、ようやくロジャー・ムーアのお出まし。英国秘密情報部のM(バーナード・リー)のもとに007と刻印された黄金の弾丸が届く。

それは正体不明の殺し屋スカラマンガからの抹殺予告、何者かがボンドを殺すために、高い金でスカラマンガを雇ったのだ。

ならば先手必勝と、ボンドは過去に同僚の002が黄金銃で殺された際の弾丸を故人の愛人だった踊り子から奪還し、それを鋳造した人物がマカオにいることを突き止める。こうして、ボンドは少しずつ獲物に近づいていく。

イアン・フレミング原作では、何とKGBに洗脳されたボンドが青酸銃でMを殺しかけるのだ。その後にMはボンドをショック療法で立ち直らせるためか、ダメでも危険な任務の使い捨て要員に丁度良いと考えたか、彼にスカラマンガの調査を命じる。

こんな話がそのまま映画にできる訳がなく、大幅に改変されたのが本作。

ボンドはマカオで見つけたアンドレアを追って香港に行き、彼女に吐かせた、スカラマンガが訪れる筈のナイトクラブで待ち伏せする。

だが、「ソレックス・アジテイター」なる装置の開発者で太陽エネルギー王と言われる男が近くで射殺されたことで、ボンドは香港警察に逮捕されてしまう。

この警察官がどうも怪しく、ボンドを船に乗せてどこかに連れだそうとする。新たな敵かと思いきや、実はMの差し金でボンドに協力するヒップ中尉(スーン=テック・オー)なのである。

スクラップ同然になったクイーンエリザベス号が海に沈んだままになっているカットが登場するが、あれは火災事故で沈んだ当時実在した船の映像で、その中に英国情報部の秘密基地があるという設定には驚いた。

このあたりまでの展開は、さほどコメディ色も強くなく、アクションとサスペンスのバランスも舞台設定も良かったのだが、その後はだいぶ勝手が変わる。

三つ目の乳首を貼ってスカラマンガになりすましたボンドが、依頼人であるハイ・ファット(リチャード・ロー)に近づくためにバンコクの屋敷へ。

そこでボンドは謎のスモウレスラーと戦ったり(このパターン多くない?)、道場では空手の門下生たちと格闘してみたり。

空手着姿のロジャー・ムーアは新鮮ではあるが、孤島のアジトでカンフーの集団相手に白人が戦う風景は、前年公開で大ヒットした『燃えよドラゴン』安易なパクリにしかみえない。

しかも、ボンドは空手の達人ではなくフェアに戦うこともないし、空手対決は援軍であるヒップ中尉とその従妹の女子高生二人組にお任せという、他力本願ぶり。

いつも助けてくれるCIAフェリックス・ライターに代わり、本作では韓国系のヒップ中尉が大活躍。

本作に個性と品格を与えているとすれば、それはスカラマンガを演じたクリストファー・リーに依るところが大きい。

本作公開時は『スターウォーズ』『ロード・オブ・ザ・リング』もまだ始まっておらず、ドラキュラ俳優として知られる名優だったクリストファー・リー

だが、怖さの中に気品があり、これまでボンドと戦ってきた悪漢たちとは一線を画すキャラを演じている。

スカラマンガという人物も、過去にはサーカスで動物を愛する青年だったが、愛する象が殺されたことで人間への復讐心が芽生える。

ガンマンとして腕が立ち、ボンドと古式正しいルールで決闘をするフェアネスにも好感が持てる。タイでボートを動かしてくれた少年に約束したカネをやらずに「借金にしといて」と川に突き落とすボンドの方が悪人にみえるほどだ。

このスカラマンガの人物設定は良かったが、太陽光を集めて巨大な黄金銃を作ろうとする大袈裟な舞台装置や、黄金のライターや万年筆を組み合わせて銃にする小道具が、あまりにチャチな仕掛けに見えてしまったのは残念。

ことに黄金銃のデザインは、威圧感も機能美も乏しく、もう少しどうにかならなかったのかと感じた。

ボンドガールには、スカラマンガの愛人で、ボンドに挑戦状を出すことで彼を使ってスカラマンガを倒してもらおうと画策するアンドレア・アンダースを演じたモード・アダムス

彼女は、ロジャー・ムーア『007 オクトパシー』でも違う役でメインのボンドガールを演じており、珍しい例となった。本作ではキックボクシングのリングサイド席で、死体となって座っている姿が痛ましい。

もう一人のボンドガールが、英国情報部員でボンドにぞっこんのメアリー・グッドナイトを演じたブリット・エクランド。彼女は間抜けなキャラで、ドジばかり踏むが、そのヘマのおかげでドラマが進んでいく。

こういうドジっ娘はショーン・コネリー『007 ダイヤモンドは永遠に』にも登場したが、あまりに度が過ぎるとシリアスなスパイ映画として成立しなくなる。

しかも、コミックリリーフのキャラが他にもいる。前作『007死ぬのは奴らだ』でも登場したペッパー保安官(クリフトン・ジェームズ)だ。

今回は夫婦でタイに旅行中にスカラマンガを追走中のボンドと出会って、ノリノリで彼の相棒をやるというもの。この叩き上げの保安官は憎めないキャラなのだけれど、さすがに米国を離れての登場はやりすぎ。

また、言動自体は正統派の悪党キャラなのだが、見た目が小人なので、すっかりコメディ要員になってしまっているのが、スカラマンガの子分のニック・ナック(エルヴェ・ヴィルシェーズ)

ラストシーンでニック・ナックがボンドを殺そうと暴れ回るのも、あまりにお約束すぎて興ざめ。敵ボスを倒した後に、ボンドが女の子とイチャイチャしている最中にコミカルなキャラが命をねらいに来て失敗するパターンも、マンネリ化。

ボンドがカーディーラーのショウルームから拝借してそのままカーチェイスに入るシーン。乗っているのはAMCホーネット

米国の大衆車でしかも特別装備もなく、ボンドカーと言っていいのか分からないが、これが壊れた橋から向こう岸へと川を超えるスパイラルジャンプを見せる。

今ならCG合成にしか見えないだろうが、この時代だもの、当然本当にスタントでやっている。それも緻密な計算をしたうえで、一発目のテイクで成功させたというから、大したものだ。

このカースタントシーンクリストファー・リーの悪役演技は、本作での拾い物といえるかな。