『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』
Wonka
『チャーリーとチョコレート工場』の天才ショコラティエ、ウォンカの若き日をティモシー・シャラメで映画化。前作より毒気控えめ甘さ多め。
公開:2024 年 時間:116分
製作国:イギリス
スタッフ
監督: ポール・キング
製作: デヴィッド・ハイマン
キャラクター創作: ロアルド・ダール
『チョコレート工場の秘密』
キャスト
ウィリー・ウォンカ:ティモシー・シャラメ
ヌードル: ケイラ・レーン
ウンパルンパ: ヒュー・グラント
スクラビット: オリヴィア・コールマン
ブリーチャー: トム・デイヴィス
スラグワース: パターソン・ジョセフ
プロドノーズ: マット・ルーカス
フィクルグルーバー:マシュー・ベイントン
警察署長: キーガン=マイケル・キー
ジュリアス神父: ローワン・アトキンソン
ウィリーの母: サリー・ホーキンス
<洗濯係>
元会計士: ジム・カーター
元配管業者: ナターシャ・ロスウェル
元コメディアン: リッチ・フルチャー
元電話交換手: ラキー・ザクラル
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
純粋な心ときらめくイマジネーションを持ち、人びとを幸せにする「魔法のチョコレート」を作り出すチョコ職人のウィリー・ウォンカ(ティモシー・シャラメ)は、亡き母と約束した世界一のチョコレート店を開くという夢をかなえるため、一流のチョコ職人が集まるチョコレートの町へやってくる。
ウォンカのチョコレートはまたたく間に評判となるが、町を牛耳る「チョコレート組合」からは、その才能を妬まれ目をつけられてしまう。
さらに、とある因縁からウォンカを付け狙うウンパルンパ(ヒュー・グラント)というオレンジ色の小さな紳士も現れ、事態はますます面倒なことに。それでもウォンカは、町にチョコレート店を開くため奮闘する。
レビュー(ほぼネタバレなし)
デップからシャラメに
ティム・バートン監督がジョニー・デップ主演で撮った『チャーリーとチョコレート工場』(2005)は文句なしに面白いが、本作はその工場主で天才ショコラティエのウィリー・ウォンカの若き日の物語。
イケメン度合いではジョニデに負けないティモシー・シャラメが、若きウォンカを演じる。
監督は『パディントン』シリーズのポール・キングだが、それよりも『ハリーポッター』シリーズの製作を手掛けたデヴィッド・ハイマンがプロデューサーという方が、日本では売り文句になっているようだ。
あいにく『パディントン』は未見だが、『ハリーポッター』に通じるような英国のファンタジー映画のもつ雰囲気は本作でも感じられる。
ソブリン銀貨12枚しか持たずに、憧れの地、ギャラリーグルメでチョコレート店を開こうと町に乗り込んでくるウォンカ。腕は一流だが、銀貨はみるみると無くなっていき、気が付けば無一文で怪しげな宿泊所に立っている。
宿の女店主スクラビット(オリヴィア・コールマン)に騙されては怪しげな契約書にサインしてしまい、法外な宿泊費を払えずウォンカは洗濯係で27年間も奴隷のように働くはめに(階段の上り下りに追加料金がかかるのは笑)。
まるでピノキオをはじめとするディズニーの古典的な映画のように、善人の主人公がずるがしこい連中に騙され、窮地に追い込まれていく展開。だがその中でもウォンカは希望を失わず、いつも陽気に歌って踊る。
◇
楽しいし、夢があるし、おまけに映像も洗練されている。これがウォンカの話でなければ、私は本作をもっと褒めちぎっていただろう。つまり、前作を知らなければ、という意味だ。
毒気がないウォンカは寂しい
何といったらいいか。ティム・バートンの『チャーリーとチョコレート工場』には、面白さと同時に、毒気が詰まっていたのだ。
ジョニー・デップ演じるウォンカは、もっと謎めいて鼻持ちならない存在だったし、映像こそ美しいものの、登場人物は大人も子供も概ね腹黒い連中だった。
だから、けして品の良いファンタジーではなかったのだが、そこに禁断の魅力があったように思う。それに比べると、ティモシー・シャラメのウォンカはあまりに善人だ。
◇
本当なら、現在彼が演じている『デューン 砂の惑星』シリーズの主人公アトレイデスのように、単純な善人ではなく、正体不明の危ういダークサイドを合わせ持っていてほしい。
そうでないと、本作は『チャーリーとチョコレート工場』の前日譚に見えないのだ。
- 宿泊所のオーナー、ミセス・スクラビット(オリヴィア・コールマン)と使用人のブリーチャー(トム・デイヴィス)
- ウォンカに営業妨害をかけるチョコレート組合の三店主。アーサー・スラグワース(パターソン・ジョセフ)、プロドノーズ(マット・ルーカス)、フィクルグルーバー(マシュー・ベイントン)
- 組合に操られている警察署長(キーガン=マイケル・キー)やジュリアス神父(ローワン・アトキンソン)
チョコレート組合の三人が中心となって、ウォンカをこの町から追い出そうとする。
一方で、ウォンカと同様に借金返済のため洗濯係にさせられた仲間たちはみな善人揃いで、何とか彼にチョコレート店を開かせてあげようと協力する。
善悪の対立が極めてはっきりしているせいで、どうにも先が読めてくる。何をしでかすか予測できないジョニー・デップのウォンカのハラハラ感は本作には希薄になってしまう。
ウンパルンパにはやられた!
優等生的なファンタジー映画にあって、ひとり気を吐くのが、オレンジ色の小人、ウンパルンパだ。前作にも登場したキャラだが、まさか元祖二枚目俳優ヒュー・グラントが小人になって彼を演じるとは驚きだ。このギャップはたまらない!
ウンパルンパは後にウォンカのチョコレート工場で働く仲間となるが、ここではまだ、ウォンカがウンパルンパの島から勝手に持ち出したカカオ豆を取返しに来た追っ手なのである。
前作では、無数にいるウンパルンパが不思議な曲で一糸乱れず踊る姿が印象的だったが、ここではヒュー・グラントが一人で、その歌と踊りを披露する。
ロアルド・ダールによる児童文学『チョコレート工場の秘密』は、ティム・バートン監督以前に『夢のチョコレート工場』(1971、メル・スチュアート監督)で映画化されている。
この時は全編ミュージカルだったが、バートンはウンパルンパの曲だけを残して、あとは普通のドラマにした。これは慧眼だったと思う。
◇
本作では再び、全編ミュージカル仕立てに戻しており、これはこれで良くできているが、一方で毒気を奪う要因のひとつにもなっている。
例えばチョコレート組合の三悪党が、警察署長を懐柔するために間抜けな歌で踊るのは、ちょっとお子様向け過ぎる気がする。
ファンタジーが子供向けで何が悪いと言われそうだが、それならばウォンカがついに開店し大繁盛したチョコレート店が、ライバルたちに毒を盛られて客たちが大騒ぎし、しまいには大火災で全焼してしまう方が、子供には大ショックだろう。
造形の美しさは見事
本作で感心した点は、美術、特に小道具のセンスの良さだ。
ウォンカが孤児のヌードル(ケイラ・レーン)に手作りのチョコを初めてプレゼントする際のポータブルのチョコレート工場セットの造形。ドールハウスのような精巧な作りが楽しい。
これは、後半で出てくるウンパルンパのホームバーセットにも同じことが言える。ああいう凝ったデザインとか、犬を使って洗濯仕事をオートメーション化する手法とか、英国ならではの手の込み具合が好き。
捨てられたヌードルの本当の親は誰かというエピソードは、本作においてはやや盛り上がりに欠けてしまったように思う。
むしろ、夢みることを禁じられたこの町で、「素敵なことはみな夢みることから始まるのよ」と、愛情をもってウォンカを育てた亡き母(『シェイプ・オブ・ウォーター』のサリー・ホーキンス!)が、最後にウォンカに温かいメッセージを伝える場面の方が、胸に残る。
◇
ティム・バートン監督の毒気の魅力を他者が継承するのは難しい。そう考えれば、本作はティモシー・シャラメの好演とヒュー・グラントの反則級の隠し技のおかげで、なかなか健闘していた作品というべきか。