『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』
A Rainy Day in New York
ウディ・アレンがNYで撮るラブコメが何とも心地よい。シャラメのピアノ弾き語りがカッコよすぎる。降りしきる雨の中、アリゾナ育ちの彼女にマンハッタンを案内しようと張り切る彼氏。運命の一晩が始まる。
公開:2020 年 時間:92分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ウディ・アレン キャスト ギャツビー: ティモシー・シャラメ アシュレー: エル・ファニング チャン・ティレル: セレーナ・ゴメス テッド・ダヴィドフ: ジュード・ロウ フランシスコ・ヴェガ: ディエゴ・ルナ ポラード: リーヴ・シュレイバー コニー・ダヴィドフ: レベッカ・ホール ギャツビーの母: チェリー・ジョーンズ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
大学生のカップル、ギャツビー(ティモシー・シャラメ)とアシュレー(エル・ファニング)は、ニューヨークでロマンチックな週末を過ごそうとしていた。
きっかけは、アシュレーが学校の課題で有名な映画監督ポラード(リーヴ・シュレイバー)にマンハッタンでインタビューをすることになったこと。
生粋のニューヨーカーのギャツビーは、アリゾナ生まれのアシュレーに街を案内したくてたまらない。
ギャツビーは自分好みのデートプランを詰め込むが、2人の計画は晴れた日の夕立のように瞬く間に狂い始め、思いもよらないさまざまな出来事が巻き起こってしまう。
レビュー(まずはネタバレなし)
ネガティブな先入観は否めず
新年一発目のレビューはウディ・アレン監督お得意のロマンティックコメディ、今回の舞台はマンハッタン。
映画を観る際には、なるべく事前情報や先入観を抜きに観るように心がけているが、今回は少なからずネガティブな印象を持ってしまっている。いずれも監督に関することだ。
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ひとつは、監督の量産姿勢に関する、まったく個人的な意見。
これはクリント・イーストウッド監督にも思っていることだが、高齢にも関わらず、年1本程度のハイペースで映画をコンスタントに世に出し、しかも相応の水準を維持していることは、ひとつの偉大な才能だ。
◇
だが、どうしても器用に手軽にこしらえて、はい出来上がり、に思えてしまう。これが勿体ない。じっくり時間をかけて撮れば、もっといいものになるとは限らないだろうが、一本一本への印象やありがたみは薄れる。
だから監督がいかに作品を量産しようと、結局出てくるのは、世間が覚えている『アニーホール』以来の〇〇といったコメント。新しいところでも、せいぜい『ブル―ジャスミン』か。
欧米各地を転々として撮り続けたご当地ドラマシリーズも観てはいるが、私には『ミッドナイト・イン・パリ』しか印象に残っていない。
もうひとつのネガティブ情報は、むしろこちらの方が重大だが、#MeToo運動の影響。ウディ・アレンも過去の性的虐待容疑が再び問題となり、運動の中で告発された著名人の一人となっている。
本作の出演者からも次々に出演の後悔やギャラの寄付が公表されるなど、倫理的にも興行的にも、冴えない状況になっている。
出演者からの総スカンは、映画を観る者にいい印象は与えないだろう。アマゾン・スタジオからの契約キャンセルなど、影響は日本で想像するよりも大きい。
豪華な人気俳優陣は見ごたえあり
前置きが長くなったが、本作は気楽に観られるロマコメで、ウディ・アレンらしいシニカルなスパイスも相当効いている。何といっても、若手人気俳優を揃えたキャスティングの華やかさ。
◇
マンハッタンの裕福な家庭に育つも、田舎町のヤードレー大学に通う、ひねくれてナイーブな青年、その名も華麗なるギャツビーに、目下絶好調のティモシー・シャラメ。
裕福な家のボンボン役は『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』と通じるも、今回は陰のある一面も。ピアノの弾き語りの何と絵になることよ。
ギャンブラーとしての才覚もある役なので、ポーカーの勝負シーンは、もっとじっくり観たかった。
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アリゾナの銀行家の娘・アシュレーは、ギャツビーの恋人。演じるは『マレフィセント』のエル・ファニング。大学新聞の取材で有名映画監督のポラードを訪ねてマンハッタンに行くことになる。
子供の頃以来のNYだと興奮する彼女が、ポラードの人脈を通じて雨のNYでエキサイティングな経験を重ねていく。ハイテンションになり喋りまくるエル・ファニングが何とも可愛らしい。
マンハッタン時代のギャツビーが付き合っていた娘の妹チャン役に、ジャームッシュ監督『デッド・ドント・ダイ』のセレーナ・ゴメス。ミュージシャンとしての活躍の方が有名かもしれない。
ギャツビーが旧友に頼まれて参加した学生映画の共演者で、キスするだけの役かと思っていたら、実は重要なキャストだった。
◇
その他、映画関係者な有名監督のローランド・ポラードに『スポットライト 世紀のスクープ』のリーヴ・シュレイバー。相変わらず独特の凄みがある。
そもそも、この役名ってロマン・ポランスキー由来? ともに性的虐待告発の自虐ネタなのか。
脚本家ダヴィドフのジュード・ロウは、二枚目オーラを消しているので、なかなか気が付きにくい。彼が、妻を親友に奪われる情けない男の役をやるとは。「アフターシェーブも妻も、親友と共有か」
妻役には、ほぼワンカット出演だけど、アレンとは『それでも恋するバルセロナ』でも組んだレベッカ・ホール。
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そしてアシュレーがほいほいと自宅までお持ち帰りされてしまう、手のはやさで有名な人気俳優フランシスコ・ヴェガ役に、金子ノブアキかと思ったらディエゴ・ルナ。
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』でも思ったけど、やはり似ている。
レビュー(ここからネタバレ)
若干のネタバレがありますので、未見の方は、ご留意願います。
Everything happens to me
冒頭の、ヤードレー大学は架空っぽいけど、話の流れからするとペンシルバニア州の学校だろうか。ウディ・アレンらしさが濃厚になるのは、やはり田舎町ではなく、マンハッタンに移ってからだ。
この観光名所の塊のような街を、しっかりと生活者目線で映画として切り取っているのは彼ならでは。メトロポリタン美術館の中にまでカメラが入るとはさすが(セットか?)。
◇
エッジの効いたジョークと洒脱な会話が持ち味のウディ・アレン作品。ただ、今回その会話の切れ味はやや控えめだ。
その分、ギャツビーがチャンと再会してから降り出す雨による静けさと、時折流れるモダンジャズのピアノの響きが、映画全体に心地よく浸透している。
◇
例えば「Everything happens to me」のような、聞き慣れているはずのジャズのスタンダードナンバーも、ティモシー・シャラメがスローテンポで気だるい感じで弾き語ると、歌詞の字幕と相俟って、新鮮な発見がある。
あの少しかすれた歌い方は、オリジナルのマット・デニスを意識したのか。私にはチェット・ベイカーっぽく聞こえたけれど。
少年少女から成長したリトルロマンス
『マッチポイント』のような不条理なエンディングではないけれど、ウディ・アレンがギャツビーとアシュレーを素直に復縁させる訳がない。
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前の晩に、アシュレーを見失い高級コールガールをホームパーティに連れ帰ったギャツビーは、母親から驚きの事実を聞き、自分のDNAを自覚したのだろう。
翌朝、やはり自分はマンハッタンの排ガスの中で暮らすのが好きだ、そうアシュレーに告げる。
フラれた格好のアシュレーだが、昨晩、人気俳優フランシスコ・ヴェガの家に邪魔さえ入らなければ、一晩一緒に過ごすつもりでいたのだ。むしろ、裏切っていたのは彼女の方といえる。
そして、また降り出した雨の中、ギャツビーが向かうセントラルパークの時計の下。
Everything happens to me. きみでなければダメなのに、ツキの悪い男なのさ。
オルゴールがなる中に、チャンが現れる。前日に二人が語っていたとおりのシチュエーションだ。
子供の頃に観た『リトルロマンス』の少年と少女のサンセットキスを思い出した。こっちの方はもう大人で、雨の中だけれど。