『アントマン&ワスプ:クアントマニア』
Ant-Man and the Wasp: Quantumania
アントマンとワスプの量子世界での戦いから始まるMCUフェーズ5。征服者カーンのお手並み拝見。
公開:2023 年 時間:125分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ペイトン・リード
脚本: ジェフ・ラブネス
キャスト
スコット・ラング: ポール・ラッド
ホープ・ヴァン・ダイン:
エヴァンジェリン・リリー
征服者カーン: ジョナサン・メジャース
キャシー・ラング:
キャスリン・ニュートン
ジャネット・ヴァン・ダイン:
ミシェル・ファイファー
ハンク・ピム: マイケル・ダグラス
ジェントーラ: ケイティ・オブライアン
ダレン・クロス: コリー・ストール
クライラー卿: ビル・マーレイ
勝手に評点:
(悪くはないけど)

コンテンツ
あらすじ
最小&最強のアベンジャーズ、アントマン(ポール・ラッド)は、<量子世界>に導く装置を生み出した娘キャシー(キャスリン・ニュートン)達とともに、 ミクロより小さな世界へ引きずり込まれてしまう。
そこで待ち受けていたのは、過去、現在、未来すべての時を操る能力を持つ、 マーベル史上最凶の敵、征服者カーン(ジョナサン・メジャース)。
彼がこの世界から解き放たれたら、全人類に恐るべき危機が迫る…。 アベンジャーズで最も”普通すぎる男”アントマンが、マーベル史上最大の脅威に挑む。
レビュー(ほぼネタバレなし)
MCUはいよいよフェーズ5に
新たな「アベンジャーズ」へ続く物語が、ついに始動したと世間では大きく騒ぎ立てるが、本作ではまだその動きがほんのわずかに始まった段階にすぎない。
アントマンであるスコット・ラングを中心に、そのパートナーであるワスプと娘、そして義父母という磯野家のような家族構成のメンバーがメインの映画だ。
◇
とはいえ、早くも本作からMCUはフェーズ5に突入らしい。
『アべンジャーズ/エンドゲーム』(2019)でサノスを倒してワールドカップで優勝した後、ヒーローたちはそれぞれの所属リーグに戻り、映画やDisney+で小規模な勝利を積み重ねたフェーズ4。
振り返れば丸二年ほどでよくもこれだけの本数を作り上げたものだ。おかげでMCUはすっかり一見さんお断りのマニアックな会員制映画になり果ててしまった。
私も映画作品全作と主要なドラマには付き合ってきたので、マルチバースなるものはおぼろげに理解しているつもりだが、アントマンにでてくる量子世界はあまり実感がわかない(当然か)。
時代は流れ、キャシーは年頃の娘に
本作は冒頭、『エンドゲーム』での戦い以来、地元サンフランシスコの市民からヒーローとして(異常なほど)愛されて調子に乗っているスコット(ポール・ラッド)。
娘のキャシーが今後の脅威に備えて開発したと言う量子世界へと信号を送る人工衛星が、量子世界に彼らの居場所を知らせてしまったことで、一家もろとも量子世界に引きずり込まれてしまう。
◇
映画の舞台はほぼ9割がた、この量子世界ということになる。『アントマン』(2015)では幼かったキャシーが、こんなに大きく成長したかと時代の流れを感じる。まるで私も指パッチンで時間が停まっていたかと思うほどだ。
もっとも、キャストは子役だったアビー・ライダー・フォートソンからエマ・ファーマン、そして今回のキャスリン・ニュートンで三代目。
キャスリン・ニュートンは見た顔だと思ったら、『ザ・スイッチ』(2020)で殺人鬼と人格が入れ替わる女子高生を怪演してた主演の娘ではないか。

ちょっとだけ復習の時間
家族構成と過去作を簡単におさらいすると、キャシーはスコットの前妻との娘。
『アントマン』(2015)では、彼が養育費のためにコソ泥に入った縁で、その家主ハンク・ピム博士(マイケル・ダグラス)からアントマンのスーツを託されてヒーローに。
この時の敵がハンクの助手だったハチ男ことダレン(コリー・ストール)だが、本作では思わぬ形で再登場する。
◇
そしてハンクの娘ホープ(エヴァンジェリン・リリー)は、二作目の『アントマン&ワスプ』(2018)でヒーローとしてスコットと公私ともにパートナーとなる。
◇
この二人はともに二代目で、初代は開発者のハンクと妻のジャネット(ミシェル・ファイファー)であった。ジャネットは30年間、量子世界に閉じこめられていたが、同作の中で無事に生還する。
一方スコットは同作のラストで量子世界に入り込んでいた際に、サノスの指パッチンで地球のホープたちが消失し、戻れなくなってしまう。
◇
『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)では、量子世界から偶然にスコットが戻れたことで、反撃のきっかけが生まれる。この普通すぎるヒーローは、意外とMCUでの貢献度が高いのだ。
フェーズ5の新たなるヴィラン
一応ここまでおさらいをしたが、アントマンシリーズに関しては、さほど予備知識なくとも十分楽しめるのがセールスポイントだと思う。
スイッチ一つで瞬時に大きくも小さくもなれるヒーローだということさえ分かっていれば、あまり理解に困らない。
◇
勿論、十分な知識がある御仁には、深読みポイントは多くあり、更に楽しめそうだ。
量子世界の人々を襲ってくる今回の敵・征服者カーン(ジョナサン・メジャース)が、MCUドラマ『ロキ』に出てきた時間変異取締局(TVA)の創設者である<在り続ける者>と関連がありそうなこと。
今後フェーズ5においてサノスのようなヴィランとしてマルチバースを支配する存在になりそうなこと。

だけど、そこまで考えるのは時期尚早かなあ。次作でどうなっていくのか知らないが、今のところ、「そういえば征服者カーンって『クアントマニア』に出てきてたな」と覚えておくくらいでいいのでは。
なので本作ではシンプルに、量子世界ではぐれた家族たちが再会し、故郷を失ってそこに暮らす先住民のジェントーラ(ケイティ・オブライアン)たちとも力を合わせて、カーンと戦う物語として観て盛り上がるので全然よいと思う。
本作の楽しめるポイント
マジメなキャラのキャプテン・アメリカやブラック・パンサーの単体作品だと、ついちょっとしたアラが見つかっても気になってしまう。
だが、アントマンやガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのようなおふざけキャラの単体作品だと、そんな欠点も笑いの材料に見えてしまう点で得している。
サイズを瞬時に変えて戦うスタイルのヒーローが、キャシーも含めて三人になってしまったが、アクションシーンは飽きさせず、結構楽しめた。
量子世界のエイリアンのような生物たちの多様なデザインが面白かったせいかもしれない。『スターウォーズ』の異星の酒場や会議場によくでてきた、いろんな宇宙人大集合のあの雰囲気だ。
なかでも、クライラー卿の役でビル・マーレイが出てきたのは良かった。いかにも怪しそうだ。彼の活躍はもっと見たかった。
◇
ヒーローとして父スコットとともに戦う娘キャシーの姿は、『キック・アス』(2010)のヒット・ガール(クロエ・グレース・モレッツ)を思い出してしまい、ちょっと感動。

そして量子世界の内情に詳しく、なにやらワケアリっぽいジャネット(ミシェル・ファイファー)に対して、今回は活躍少なめかと思ったピム博士(マイケル・ダグラス)も、得意のアリさん攻撃で見せ場あり。ネズミの大群が出てきたパニック映画『ウィラード』(1971)のようだ。
近年なら『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021)にもあった。
かつての敵ダレン(コリー・ストール)がM.O.D.O.K.と名を変え、ハンプティダンプティみたいな姿で蘇るアイデアは秀逸。この独特な世界観、好きだわあ。
というわけで、本作はこむずかしいマルチバースをしばし忘れて、量子空間でのヒーローバトルを堪能する映画としては、楽しめた。劇場にはアントマンのお面付けた子供たちもいたが、みんな面白く観れたのでは。
MCUの31作目にちなんで、スコットがかつて解雇されたサーティワンのネタを持ってくるのも、芸が細かい。
MCU前作『ブラックパンサー ワカンダフォーエバー』の出来に、今後の方向性がちょっと不安だったけど、これでエンタメヒーロー路線に回帰することを期待。