『リアル・スティール』
Real Steel
ヒュー・ジャックマンが父子でロボット格闘技のチャンプに挑戦。ボクシング映画はSFでも駄作なし。
公開:2011 年 時間:127分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ショーン・レヴィ
脚本: ジョン・ゲイティンズ
原作: リチャード・マシスン
『四角い墓場』
キャスト
チャーリー・ケントン:
ヒュー・ジャックマン
マックス・ケントン: ダコタ・ゴヨ
ベイリー・タレット:
エヴァンジェリン・リリー
フィン: アンソニー・マッキー
リッキー: ケヴィン・デュランド
デブラ・バーンズ: ホープ・デイヴィス
マーヴィン・バーンズ:
ジェームズ・レブホーン
タク・マシド: カール・ユーン
ファラ・レンコヴァ: オルガ・フォンダ
キングピン: ジョン・ゲイティンズ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
2020年、リモコンで遠隔操作されたロボット同士が戦う“ロボット格闘技”が大流行。
プロボクサーからロボット格闘技の世界に身を転じたチャーリー(ヒュー・ジャックマン)は、スクラップ寸前のロボットを闇試合に出場させて一攫千金を夢見ていた。
ある日、離婚のため離れて暮らしていた11歳の息子マックス(ダコタ・ゴヨ)を預かることになり、慣れない父子の共同生活が始まるが、廃工場で旧式ロボット<ATOM>を発見したことから二人の運命が大きく変わっていく。
今更レビュー(ネタバレあり)
近未来版の『チャンプ』なのだ
2011年の公開時には、2020年という時代設定が丁度いい感じの近未来ものだと思ったが、いつの間にかとっくに通り過ぎてしまっていた。
本作に登場するようなロボット格闘技は、本作に登場するロボットと同名の「鉄腕アトム」の時代から長年待ち続けているが、まだ普及には至っていない。
◇
本作はロボット格闘技ものとはいいながら、昔捨てた妻が亡くなったことで再会したダメ父と11歳の息子が、ボクシングの試合を通じて絆を強めていく話。
泣かせる父子のボクシング映画、ジョン・ヴォイトの『チャンプ』(1979)の再来のような作品なのである。金髪少年のかわいい感じもどこか似ている。
冒頭、大型トラックを走らせ、ネオンの煌びやかな夜の遊園地にやってくる主人公のチャーリー・ケントン(ヒュー・ジャックマン)。美しい導入部だ。
オンボロの戦闘ロボット<アンブッシュ>を闘牛と戦わせて賭け金を得るつもりが、マシンは大破。
リッキー(ケヴィン・デュランド)に敗け分を支払う前にずらかろうとした所に、亡くなった妻との息子マックス(ダコタ・ゴヨ)の養育権の話が飛び込んでくる。
◇
我が子には何の未練も愛情もないチャーリーは、彼を養子にしたいという妻の姉デブラ(ホープ・デイヴィス)の夫マーヴィン・バーンズ(ジェームズ・レブホーン)が裕福であることに目をつけ、裏取引で自分の優先権を明け渡す。
こうしてチャーリーはその資金で新しいマシン<ノイジーボーイ>を買い付け、同時に、夫妻がバカンスに行っている数週間をマックスと過ごすことになる。
原作をよくぞここまで拡張した
原作はリチャード・マシスンの短篇『四角い墓場』だが、主人公がオンボロ機械を戦わせるという設定が共通なだけで、このシニカルな短編をよくぞここまで膨らませて感動ドラマに仕立てたものだと感心する。
原作はたしか、試合直前に故障してしまったオンボロ機械の中に、バレないように主人公が入り込んで屈強な敵マシン相手に戦うといった筋書きだった。
本作のチャーリーはさすがにそんな無茶はしないが、どこか同じような匂いのするアレンジで、人馬一体となる戦いを繰り広げる。
監督は新作『デッドプール&ウルヴァリン』が公開中のショーン・レヴィ。
彼は『フリーガイ』でライアン・レイノルズ、本作でヒュー・ジャックマンをそれぞれ過去に主演で起用しているのだ。なるほど、マッチョなヒュー・ジャックマンがローガンに見えてしまうのも無理はない。
◇
本作は場末の賭けファイトを通じて、会ったことのない父子が次第に意気投合し心を通じ合わせるようになるという鉄板人情ドラマに、個性的なロボットのバトルがきちんと融合しているところがいい。
ロボットたちは旧型のみならず新型でも、動きに多少人間臭さがみられ、CGっぽくないギリギリの線を保っている。これが流麗すぎると『トランスフォーマー』になってしまうところだが、踏みとどまっている。
◇
ポンコツの<アンブッシュ>や「超悪男子」と漢字で大書きされた<ノイジーボーイ>も、主役としてはイマイチ感情移入しにくいデザイン。
だが、真打で登場する、廃棄場にあった旧型の<ATOM>は、さすがにツボを心得ている。優しそうな顔とホンダのアシモのようなコミカルな動き、だが本気を出せば強い。これは憎めないキャラだ。
バーチャルゲームでなくリアルの試合
2014年製でスパーリング用のロボットとして製造されたATOMは本来リングで戦うマシンには向かないが、ゲームとロボット対戦大好き少年のマックスの懸命な努力で、次第に実力をつけていく。
ヒュー・ジャックマンのウルヴァリンもかつては金網デスマッチで戦っていたが、本作のATOMも場末のリングで初勝利を挙げ、そこから破竹の勢いで勝ち上がり、ファンも増えていく。
ついには、天才プログラマーのタク・マシド(カール・ユーン)が設計した現チャンピオン<ゼウス>に挑戦する機会を手にする。
日本人の強敵が現れたり、ロボット同士の戦いで勝ち上がっていくスタイルは、『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』や本作の製作総指揮でもあるスピルバーグの『レディ・プレイヤー1』にも通じる。
だが、両者がバーチャルゲームなのに対し、こちらはリアル・スティールだもの、重みが違う。
ボクサーだったチャーリーが所属していたジムのオーナーの娘で、深い仲だったベイリーに『アントマン&ワスプ』のエヴァンジェリン・リリー。
賭け試合の胴元フィンには『キャプテン・アメリカ』を引き継いだアンソニー・マッキー。ヒュー・ジャックマンだけでなく、マーベルヒーローがそこかしこにいる。
ちなみに、賭け金を踏み倒したチャーリーに報復するリッキー役のケヴィン・デュランドも、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』で肥満化する怪力ミュータントを演じている。
シャドウ機能が最高だ
序盤でスクラップになった二台もATOMもみなリモコン操縦なのだが、ATOMは途中から音声認識で動くようになり、インカムをつけてアメフトのヘッドコーチのような指示ができるようになる。
だが、ゼウスの激しい攻撃でATOMの音声認識が機能しなくなり、旧式ならではのシャドウ機能を活用することになる。この展開がいい。
これまではマックス少年と同じ振り付けでダンスするのが売りだったこの機能で、チャーリーがとるボクサーの動きができるようになるのだ。
リモコン操縦のジャイアントロボから、知る人ぞ知るジャンボーグAにランクアップしたようなもの。この発想は、チャーリーがロボット内に入る原作をしっかり踏襲している。
ただ、ATOMがどんなに殴られてもチャーリーは痛くも痒くもないところが、玉にキズ。何もない空間で必死な形相でシャドーボクシングしているのも、任天堂スイッチっぽくてちょっと間抜けかな。
とはいえ、ボクシング映画に駄作なしと言われるが、本作もロボット格闘技とはいえ、例外ではない。ATOMと少年の愛くるしさで、満足のいくエンタメ作品になっている。今見ても十分楽しい。