『理由』
宮部みゆきの人気小説を大林宣彦監督が100人以上の出演者によるドキュメンタリー手法で忠実に再現。
公開:2004 年 時間:160分
製作国:日本
スタッフ 監督・脚本: 大林宣彦 脚本: 石森史郎 原作: 宮部みゆき『理由』 キャスト(登場順) 交番の石川巡査長:村田雄浩 交番の女子中学生:中浜奈美子 片倉信子:寺島咲 管理人 佐野利明:岸部一徳 1225号室 佐藤義男:大和田伸也 管理人の妻 佐野なおこ:小林かおり 2024号室 葛西美枝子:久本雅美 ラジオのアナウンサー:安田敬一郎 葛西美枝子の夫 葛西一之:大久保運 警察官:小磯勝弥、若林謙 資産家の若い夫:松田洋治 その妻 とし子:宝生舞 佐藤の妻 佐藤秋江:松田美由紀 その娘 佐藤彩美:横山香夢 その息子 佐藤博史:伊阪達也 救急車隊員:園部貴一、佐和タカシ 警察官:三浦景虎、加藤雅 佐藤の秘書:橘ゆかり 荒川北署巡査部長 吉田達夫:河原さぶ 荒川北署巡査長 黒井洋次:葛原光生 学習教室経営者 小糸貴子:赤座美代子 生徒: 陳平歩、向井優貴、向井沙織 清水映里、松村理子 ラーメン屋の若者:大和田悠太 小学生の小糸孝弘:立原勇武 小糸静子:風吹ジュン 小糸信治:山田辰夫 警察庁捜査一課警部 田嶋稔:渡辺裕之 片倉ハウス 片倉義文:柄本明 義文の妻 片倉幸恵:渡辺えり 労務者風の男:大前均、横田房七 義文の長男 片倉春樹:真鍋卓也 義文の母 片倉たえ子:菅井きん マンション事業部長 井出康文:長沢純 ウエストタワー理事長:石上三登志 理事:沢井晴夫、高橋恒美、古山桂司 杉田明夫 2026号室 北畠敦子:小林聡美 北畠智恵子 敦子の姑:風見章子 敦子の息子:小阪光、小阪明 秋吉勝子(砂川里子):古手川祐子 三田ハツエ(砂川トメ):利根はる恵 砂川信夫:綾田俊樹 八代祐司:加瀬亮 小糸孝弘:厚木拓郎 19階の高校生 木暮美佳:久保麻衣子 810号室 篠田いずみ:多部未華子 宝井綾子の母 宝井敏子:左時枝 綾子の弟 宝井康隆:細山田隆人 綾子の父 宝井睦夫:ベンガル 宝井綾子:伊藤歩 綾子の息子 宝井祐介:加藤智恵理 綾子の担任 常盤一郎:小形雄二 綾子の祖父 宝井辰雄:立川談志 石田直澄の母 石田キヌ江:南田洋子 捜査官:久保田哲司、佐倉敏 雀荘の店主 木田好子:明日香七穂 雀荘の客: 柳下毅一郎、篠原健、茂木節美、 藤田健次、田野慶太、丸島健、千茱萸、 國光直人、大久保正通、今津智之、 木下康志、本田唯一、久保山努、北山正剛、 梅崎雄三、藤原雅一、宮入康弘 一起不動産社長 早川一起:石橋蓮司 あきら玩具元店主 Aさん:麿赤兒 Aさんの妻:東郷晴子 占有屋の若い男:柳沢慎吾 占有屋の若い女:島崎和歌子 石田直澄の弁護士 戸村六郎:小林稔侍 事務局の女性:高橋かおり 小糸信治の部下:勝野洋輔、木村文 林優樹、武井丈兒 大手家電メーカー社長:縄田一男 下町の玩具店店主:濱井利夫 石田直澄の長男 直己:宮崎将 石田直澄の長女 由香里:宮崎あおい 由香里の友人:花澤香菜 花屋の店主 有吉房雄:永六輔 石田直澄:勝野洋 石田直澄の父 直隆:片岡鶴太郎 石田直澄の同僚 並樹史朗、横山あきお 砂川里子:根岸季衣 あしべの客:山本晋也、池永いづみ 局アナ:荻野奈緒美 あしべの経営者 伊沢和宣:真田健一郎 伊沢の妻 伊沢総子:入江若葉 里子の息子 砂川毅:小林健 毅の恋人:菊池凛子 老人ホーム職員:嶋田久作 砂川信夫の母 トメ:鈴木幸枝 秋吉勝子の兄 克之:峰岸徹 克之の妻 さなえ:吉行由美 局アナ:田中大士 老人ホーム職員 皆川康子:角替和枝 浜松駅の警察官:岡村洋一 ストリートミュージシャン:ストロー (さくまひでき、笹沢チャーリー昌之、 小野滋久) 若者グループ:スパイス (沼田恒守、佐藤哲也、岡田仁、 甲斐厚史、小川和伸) 三田ハツエの次女:林優枝 三田ハツエの孫:柴山智加 イーストタワーの住人 B子:裕木奈江 すれ違うおばさん:大山のぶ代 美容院の先生:木野花 美容院の客:田根楽子 出版社の編集長:小林のり一 作家:中江有里
勝手に評点:
(私は薦めない)
ポイント
- 100名近い出演者が次々とカメラ目線で殺人事件について語り出す。ドキュメンタリー手法で撮られた映像が続く160分をひたすら観ていると、最後にお経のような歌が繰り返し流れてくる。殺人事件が結ぶ絆~。すごい映画だ。考えるな、耐えろ。
あらすじ
東京が大嵐に見舞われたある晩、荒川区の超高級マンションで、一家四人の惨殺事件が発生する。捜査が進むうち、被害者たちはその部屋に住んでいたはずの一家ではなく、全くの他人同士であったことが判明する。
今更レビュー(ネタバレあり)
タワマンという言葉のなかった時代に
160分間、精神状態を保っていられるかの耐久レースと言っても良い、私にとっては拷問のような作品だった。紛れもなく、大林宣彦監督のフィルモグラフィの中で最大の異色作だ。
原作は宮部みゆきの直木賞受賞作。千住のタワマンで起きた一家殺人事件を、住民や関係者等、膨大な人数の証言によるドキュメンタリーのような手法で綴った力作長編小説。
それを映画化した本作は、事件の真相が明かされていく過程は勿論だが、大勢の登場人物による証言の積み重ねというスタイルまで、忠実に再現する。それが、他に例を見ない異質な作品を生み出している。
◇
若干ネタバレになるが、簡単にストーリーを説明すると、荒川区の高級タワマン「ヴァンダール千住北ニューシティ」のウエストタワー2025室で、四人の死体が発見される。
一人は転落死で、残りは何者かに殺されたようだ。一家皆殺しの事件として警察は捜査を進めるが、被害者はまったくの赤の他人だということが分かってくる。では、彼らはなぜ、この部屋で暮らし、なぜ殺されたのか。
100人のなかに主人公はいない
この謎の解明を前述のドキュメンタリー手法で描くことが原作の大きな特徴であり、100人近くいる登場人物にもあえて主人公のような存在を作っていない。全員が同じように事件の一端を担っているような構成なのだ。
大林監督は、映画でもそれを再現した。今回、ページの冒頭にあるキャスト表は通常の数倍のボリュームに膨らんでいる。見やすく整理しようと思ったのだが、あきらめた。
◇
大部分が大林映画の常連はじめ、過去作の出演者だ。大林ファンなら、顔と名前が一致する俳優が多いだろう。懐かしい顔も何人か見える。
ワンカットしか出ない役者が多いので、説明せずとも印象に残るよう、顔の分かる俳優を随所に起用したという。なるほど、大林監督の人徳と人脈のなせる業だ。
ただ、見応えのある配役は確かに楽しめたものの、主人公、或いは主要キャストというものを極力作らない構成はいただけない。
これだけ登場人物が多いと目移りしてしまい、誰に感情移入してよいか見当もつかず、ひたすら証言を聞き続けることになるのだ。これはつらい。
宮部みゆきの原作は受賞作だけあって、多くの映像化オファーがあったそうだが、どれも出演者をある程度絞ってドラマにする構想だったようだ。
「映像化にあたっては100人以上の関係者証言で構成すること」という原作者の条件を最初にのんだのがWOWWOWで、同じように「大勢出演させないと意味がない」と思っていたのが大林宣彦監督だった。
原作者と監督がともに必要だと考えている以上、この「主役を置かない」というスタイルは正解なのかもしれない。私はまったく相性が合わなかったけれど。
全員がカメラに語りかける異様
もうひとつ、大きな特徴といえるのが、証言者がほぼ全員、事件についてカメラ目線で語りかけてくることだ。これは強烈に違和感がある。
一体みんな、誰に語りかけているのだろう。そして、なんでこんなに素人くさい演技なのだろう。
短いカットが、インタビューのように使われるのならまだしも、この語りかけがほぼ全編にわたって継続するのだから、たまらない。
◇
映画の終盤で事件の真相がみえてくると、その真相の手記を出版しないかとなったり映画化したりという話になる。なので、証言者が語りかけているのは、その劇中映画の撮影なのだという見方ができるのかもしれない。アイデアとしては面白いが、エンタメとしてはつらい。
また、短い時間内で事件を語る演技というのは、ベテラン俳優でも結構難しいのではないか。これだけ大勢の出演者のなかで、本作で演技らしい演技を見たのは勝野洋だけだった。というと、辛口すぎるだろうか。
法廷に立つのではなく、街頭のインタビューに答えるような形式だから、役者は大変なのだろう。事件が解決したあとに語っているのだから、あまり感情的になるのも白々しいし、かといって淡泊な回答が続いてもつまらないし。
原作の忠実な再現力が裏目に
良くも悪くも、大林監督の凄い所は、原作を忠実に再現しようと思ったら、トコトンやってしまうところだ。
『瞳の中の訪問者』のブラックジャックやピノコ、ヒョータンツギといった手塚治虫ワールドの再現力を思い出してほしい。それが本作では、100人以上の証言積み上げ形式という形になっているのだ。
観客がついてこれるかなど、実験精神旺盛な大林監督はきっと気にしていない。まあ、そこが魅力でもある。
◇
好き嫌いが分かれるところだろうが、いかにもセットですという毒々しい夜空の青と陽光の赤、更には交番の周辺などの照明があまりに人工的で私は苦手。まるで舞台を観ているような気になる。もっと自然な色合いにしてくれればよいのに。
ただでさえマンションのモデルルームのようなエントランスや部屋の中、エレベータホールなど単調な場面が多く、そこに人工的な照明の組み合わせでは長丁場が息苦しい。合成でツインタワーを作ってしまったのは、監督らしい遊び心を感じたが。
殺人事件が結ぶ絆~
長編の原作を160分にまで短くまとめたということかもしれないが、冒頭に長々と出演者をクレジットしたり、原作にもない荒川区の歴史に結構な時間を割いているのは勘弁してほしい。
序盤がもたついたせいか、なんと19章まで細分化した構成で160分も費やしているのに、ラストでさらに長々と文字だけでエピローグを説明し始める。荒川区の歴史いらないから、ここ映像化してよと言いたい。
◇
極めつけはエンドロールで流れる曲だ。「殺人事件がむすぶ絆~」という歌詞が、老若男女入れ替わりで繰り返し歌い継がれる。これは怖い。何かのマインドコントロールかと思ってしまう。
公開時は酷評された作品が、歳月を経て大ウケする例もある。大林監督作品なら『金田一耕助の冒険』あたりは、今になって大勢で馬鹿笑いしながら鑑賞するにふさわしい。
だが、本作のような殺人事件ものだと、みんなで馬鹿笑いするわけにもいかない。とりあえず160分を耐えた自分を褒めてあげることにする。