『時の翼にのって ファラウェイ・ソー・クロース!』今更レビュー|ヴェンダース監督のベルリン続編は味変を楽しもう

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『時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!』
In weiter Ferne, so nah!

壁の崩壊したベルリンを舞台に、ヴィム・ヴェンダース監督が作り上げた『ベルリン・天使の詩』の続編。

公開:1993 年  時間:147分  
製作国:ドイツ
 

スタッフ 
監督:       ヴィム・ヴェンダース

キャスト
カシエル:      オットー・ザンダー
ラファエラ:  ナスターシャ・キンスキー
ダミエル:       ブルーノ・ガンツ
エミット・フレスティ:ウィレム・デフォー
トニー・ベイカー:ホルスト・ブッフホルツ
ハナ:         モニカ・ハンセン
コンラート:    ハインツ・リューマン
マリオン:   ソルヴェイグ・ドマルタン
ヴィンター: リュディガー・フォーグラー
ルー・リード:     (本人役)
ピーター・フォーク:  (本人役)
ミハイル・ゴルバチョフ:(本人役)

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

ポイント

  • 『ベルリン・天使の詩』の天使カシエルが、前作で人間になったダミエルと地上で再会し、抱擁し喜びあう。そのシーンだけでも本作は観るべき価値がある。
  • 同じベルリンの舞台、同じ天使と人間の設定、モノクロ・カラーの技法も同じだが、物語はまるで異なる。味変を楽しめる一本。

あらすじ

天使カシエル(オットー・ザンダー)は、親友ダミエル(ブルーノ・ガンツ)が去っていったベルリンの街で、壁崩壊後に様々な思いに揺れる人々の心を覗いて過ごしていた。

ある日、ふとしたことから人間世界に降りることがかなったカシエルはダミエルを訪ねるが、自分にはそんな幸せな生活は想像できなかった。

天使ラファエラ(ナスターシャ・キンスキー)や堕天使エミット・フレスティ(ウィレム・デフォー)に見守られながら、人間としては無力なカシエルの苦悩の日々が始まる。

今更レビュー(ネタバレあり)

『ベルリン・天使の詩』の再来

ヴィム・ヴェンダース監督の代表作『ベルリン・天使の詩』のエンディングには”To be Continued”と示される。その続編が6年後に公開された本作だ。同作は何度も観ているのに、なぜか続編はこれまで観たことがなかった。

舞台であるベルリンには、前作で東西を隔てていた壁が取り壊されており、人々は自由を謳歌している。

だが、全てのベルリン市民が幸福に過ごしているわけではない。天使の銅像の上に立ち、人々の心の声に耳を傾けている天使たちは、それが良く分かっている。

前作同様、天使の目線で見ている映像はモノクロ、人間の目で見ている映像はカラーの使い分け。その切り替えは前作以上にきめ細かい印象。

今回の主人公は天使カシエル(オットー・ザンダー)。前作で下界におりて人間として生きる道を選んだダミエル(ブルーノ・ガンツ)の盟友だ。

ダミエルが抜け、本作でカシエルがともに天使として人間たちを見守る同僚にはラファエラ。演じるのは『パリ、テキサス』以来のヴェンダース作品となるナスターシャ・キンスキー

ピザ・ハウス<天使の家>

「フニクリフニクラ」を絶唱しながらピザ配達用の自転車を走らせる陽気なダミエル。その自転車にこっそり便乗する天使カシエル。

ダミエルは旧友を認識できないが、どこか通じ合っている風の男二人のツーショットはいい。ああ、『ベルリン・天使の詩』が帰ってきた。耳がくすぐったくなると、ダミエルはそこにカシエルの存在を感じる。

「ああ、あいつにも俺の自慢のピザを喰わせてやりたいよ」

ダミエルは前作でサーカスの空中ブランコ乗りだったマリオン(ソルヴェイグ・ドマルタン)と家庭を持ち、娘ドーリアと三人でささやかながら幸福に暮らしているのだ。

前作同様、しばらくの間は、天使カシエルとともに、ベルリンに暮らす人々の日常に付き合い、心の声を聞くことになる。

2022年8月に逝去したゴルバチョフご本人が登場したのには驚いた。それもアーカイブ映像ではなく、出演だ。彼がいなければ、ベルリンの壁は今もドイツを東西に分断していたかもしれない。

ハナとその兄弟

さて、カシエルが見守っているアパートに住む母子。幼い娘ライサを残して、母ハナ(モニカ・ハンセン)はひとりで暮らす老人コンラート(ハインツ・リューマン)の様子を見に訪ねる。

コンラートはかつてハナが子供だった頃、運転手として政府要人を乗せてクルマを走らせた。ハナの父親が祖国を捨て米国逃亡を図る際、彼女は母とドイツに残った。その時の運転手がコンラート。そして、ハナの兄は、父と渡米し、そのまま生き別れとなった。

ハナの周辺を嗅ぎまわっている探偵ヴィンター(リュディガー・フォーグラー)は、東ドイツ崩壊の混乱で荒稼ぎする悪徳商人のベイカーの命令でハナの消息を探していた。このベイカーこそが、ハナの兄なのだ。

文字にすれば単純だが、入り組んだ物語でこの背景をすっと理解するのは、少々骨が折れた。

ナチスの鉤十字マークの缶に入ったアルミで包まれた歯が、コンラートの古い愛車のシート下に隠されている。捕虜になった時の自害用に毒でも仕込んでいる歯かと思ったが、これは幼かったハナの乳歯。

これをきっかけにカシエルは、「我々天使は人間のように歯も抜けないし、昨今では頼りにもされない」と天使の無味乾燥な人生を嘆く。

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善行を積まなくては

さて、天使が人間になる場面転換から映画が俄然面白くなるのも前回を踏襲している。

アパートのベランダから誤って転落した少女ライサ。目を塞ぎ絶叫するカシエルだったが、次の瞬間には地上で彼女を抱きかかえている(ここで映像はカラーに)。

地上におりると漏れなく(当座の生活資金のために換金する)鎧がついてくるルールも一緒だ。

やることなすこと目新しい人間生活。風や光を肌に感じる。駅で出会った堕天使エミット・フレスティ(ウィレム・デフォー)のせいで賭博騒動で警察につかまるカシエル。

だが、そこで彼を引き取りに来たダミエルと再会する。雨にあたりながら、地上生活の素晴らしさを熱く語るダミエルがいい。

人間社会で善行を積もうとしていたカシエルだったが、皮肉なことに、やることはすべて裏目に出る。

不良少年たちが隠していた拳銃を奪い、パスポートの偽造業者に脅かしをかけ、食料品店では図らずも拳銃で酒を脅し取ることになり、駅では女性客の心の声を聞こうとして痴漢と間違われる。

ホームレスとなって駅に座るカシエルに、通りがかったルー・リード(本人!)が声をかける。

「どうしたら、あんたの歌のように善良になれるだろう」
「分かってたら、教えるさ」

カシエルは偽パスポートの代金を稼ごうと、当たり屋のように走行中のクルマに飛び込む。そこで、クルマを運転していたベイカーと親しくなり、彼が仕事をくれる。

ようやく仕事を得たことで、それが悪行とは知らずに精を出すカシエルは、ベイカーの身の危険を救ったことで信頼を勝ち得、武器の密売の仕事を任される。

本人の意に反して、いつしか悪事でボスに気に入られていくカシエルが、スコセッシ監督の『アイリッシュマン』デ・ニーロのよう。

なぜ俺は善良になれないんだ

だが、ようやくここで、カシエルは自分の過ちに気づく。

「こんな取引は阻止しなければ。なぜ、俺は善良になれないんだ

前作では常に沈着冷静でダミエルの良き友だった天使カシエルが、同じように人間界にきて、こんなに善行を積むのに苦労して、そして最後にようやくなすべきことを見つける。単なる前作の繰り返しではない映画の醍醐味がここにある。

彼に目を付けては不吉な囁きを続ける堕天使エミット・フレスティは、人間になりすましてカシエルを困惑させる。ウィレム・デフォーの悪人顔がハマる。

そして刑事コロンボのピーター・フォーク(本人役)は本作でも健在。「見えないが、いるんだろ?」で握手を求めるスタイルも相変わらずだ。

そのピーターに助けを借りて、そしてマリオンの所属するサーカス団の連中とともに、カシエルたちは武器を強奪に向かう。

空中ブランコで強奪した武器のケースをバケツリレーするサーカス団。この光景はスペクタクルだ。そしてベイカーの武器をすべて船に積み逃亡する。

だが、思わぬ邪魔が入る。かつてカシエルが退治したベイカーの商売敵が船をジャックしたのだ。

太く短い人生

ダミエルのような幸せな人間生活を過ごせず、踏み外した人生をなんとか善行に舵を切り直したカシエル。

武器の取引阻止には成功しかけたが、最後になって、自分に人間としての人生を歩むきっかけを作った少女ライサを救おうとして、敵の銃撃に倒れる。

不吉な人生を予言していた堕天使エミット・フレスティの言った通り、彼は短い人生の幕を閉じる。

空中ブランコ、モノクロとカラー、そして生と死。材料は前作と共通ながら、味付けはまるで異なり、マンネリズムを感じることはない。

カシエルが撃たれたあとは画面がモノクロとなり、再びラファエラと人々の生活を見守るようになる。死んでしまった彼に、悲壮感が漂わないのが救いだ。

全く描かれなかったベイカーとハナの兄妹再会、人間社会での役割・設定がイマイチ不明だった堕天使、やたら詰め込んだ挿話詩的な美しさの希薄化など、難点もある。

だがそれでも、2時間半を飽きさせない魅力のある作品であることに、異論はない。