『ライトハウス』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『ライトハウス』考察とネタバレ|灯し火も憎しみも幾歳月

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『ライトハウス』
 The Lighthouse

界と遮断された灯台で過酷な任務を続ける二人の灯台守は、徐々に狂気と幻想に侵されていく。

公開:2021 年  時間:110分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ 
監督:        ロバート・エガース
脚本:        ロバート・エガース
           マックス・エガース
キャスト
イーフレイム・ウィンズロー:
         ロバート・パティンソン
トーマス・ウェイク: ウィレム・デフォー
人魚:        ワレリヤ・カラマン
本物のウィンズロー: ローガン・ホークス

勝手に評点:3.0
     (一見の価値はあり)

(C)2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

あらすじ

1890年代、ニューイングランドの孤島。四週間にわたり灯台と島の管理をおこなうため、二人の灯台守が島にやってきた。

ベテランのトーマス・ウェイク(ウィレム・デフォー)と未経験の若者イーフレイム・ウィンズロー(ロバート・パティンソン)は、初日からそりが合わずに衝突を繰り返す。

険悪な雰囲気の中、島を襲った嵐により、二人は島に閉じ込められてしまう。

レビュー(まずはネタバレなし)

A24が放つスリラーとあえて言う意味

絶海の孤島で何カ月も二人きりの厳しい生活を強いられる灯台守を描いたスリラー。観る者を主人公と同じように狂気の淵に追い込もうとしてくる。スリラーであり、ひたすら怖がらせるだけのホラーとは違う。

観ている間は陰鬱な気分になるし、しかもそれは鑑賞後にも持続する。その意味では、人を選ぶ作品であり、私はどうにも苦手な部類だが、この手の作品が大好きな映画ファンは絶対にいるし、そういう方々からの評価は高いだろう。

そうとは知らずに嗜好の合わない人が誤って映画館に足を運んでしまわないように、『A24が放つ傑作スリラー』とわざわざ広告に入れているのだろう。すごいなA24。製作配給会社の名前で映画の作風を分からせてしまうなんて。

そう、本作はA24の『A GHOST STORY』『ミッドサマー』のような、難解で後味は悪いが、観終わるとどこか気になる作品なのだ。

本作は、かのエドガー・アラン・ポー未完となった最後の著作に着想を得て、マックス・エガースが脚本を書き始めた。一旦暗礁に乗り上げたが、この企画に関心の高かった兄のロバート・エガース監督が参画し、共同で脚本を書き、完成に漕ぎつける。マニアックなエガース兄弟のこだわりが随所に滲み出ている。

(C)2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

正方形の枠をはめられた閉塞感

冒頭、荒れて暗い海の中を進む一艘の船。二人の男が見つめる先には、強い光を放つ灯台。彼らは、前任者と交代でこの異境の地で任務につくのだ。

狭い塔内、低い天井、ソファの裂け目からは人魚の人形。冒頭からしばらく経っても、台詞がない。サイレントなのか。そう思った頃に、食事となり、ようやく会話が始まる。

足の悪い老齢の男は元船乗りのベテラン灯台守トーマス・ウェイク(ウィレム・デフォー)、その助手を務めるのは新人のイーフレイム・ウィンズロー(ロバート・パティンソン)

四週間の任務が始まる。高圧的に命令を繰り返すトムと、規則書に従う堅物のウィンズロー、性格の合わない二人ははじめから険悪なムードだ。

特徴的な<1.19:1>アスペクト比を採用した画面は、ほぼ正方形に近い。

1930年代に多用されたこのフォーマットは近年では『グランド・ブダペスト・ホテル』(ウェス・アンダーソン監督)でも使われている。同作では華やかな色調のおかげで、温かみのある印象を与えていたが、本作では全編モノクロということもあり、緊迫した息苦しさをうむ。

おかげで、灯台の内部の狭さや、上下に長い塔のような構造を強調する効果があった。考えたら、ウィレム・デフォーは両方の作品に出演しているのか。よほど正方形のアスペクト比に縁があるのだろう。

(C)2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

灯台守の単調な重労働の日々

上司のトムは灯室の管理を専管業務と激しく主張し、ウィンズローに入室さえ許さない。ウィンズローは交代で灯室の業務を切望するが聞き入れられず、階下の機械室や野外の貯水槽掃除、さらには外壁の塗装など重労働をさせられる。

塔の上下構造は、そのまま二人の上下関係にあてはまり、光を浴びながら重要業務に酔うトムと底辺で肉体労働のウィンズローには、『天国と地獄』のような格差がある。日本映画にも造詣が深いというロバート・エガース監督は、ここに黒澤明を意識したのかもしれない。

それにしても、ここでの生活は過酷そうだ。灯台壁面を塗り直し、屋根の水漏れを補修し、石炭や灯油を運び、真鍮をこすり洗いし、貯水槽を洗浄し、灯台のビーコンに燃料を供給する。

三度の食事の内容も冴えないし、何より便所のような貯水槽の水が慣れない。おまけに悪天候が続けば、何週間も暴風雨にさらされる。精神異常を来したとしても肯ける。

思えば、私の記憶にある灯台守の映画といえば、何といっても木下惠介監督の『喜びも悲しみも幾歳月』、洋画だったらマイケル・ファスベンダー主演の『光をくれた人』あたりか。どれも家族で守るものだったが、本作は家族帯同不可の危険すぎる僻地灯台らしい。

(C)2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

キャスティングについて

そして、ただ危険で過酷なだけでなく、スリラーらしい要素がでてくる。ウィンズローの前任者は死んでしまったらしいことや、人魚やカモメといった、トムのいう<不吉な存在>とされるものが登場し始める。

これらの不吉要素の見せ方や、終始通底音として聞こえている機械の作動音、荒いモノクロの画質など、どうにも『イレイザーヘッド』をはじめとするデヴィッド・リンチ監督作品を思い出してしまう。

キャスティングはほとんどウィレム・デフォーロバート・パティンソンの二人芝居。名優ウィレム・デフォーの怪演には今更驚かないので、今回もあっぱれとしかいいようがない。

ロバート・パティンソンは、ヒット作『トワイライト』シリーズや『TENET』(クリストファー・ノーラン監督)のイメージからは、こんなボロ雑巾みたいな役をやる俳優とは思わなかった。

新境地開拓だとすれば、だいぶ演技の幅は広がった。公開直前の『THE BATMAN』のブルース・ウェインは、イケメン路線なのかボロ雑巾なのか、気になるところだ。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

イレイザーヘッドかシャイニングか

デヴィッド・リンチ路線だとすれば、本作のストーリー展開をあれこれ考察しても、あまりきっちりした答えはない気がする。ところどころウィンズローの夢やら妄想やらが入り込んでいるし、汚れた飲料水の代わりに飲み始めた酒や灯油(飲めるのか!)のせいで、現実との境も不鮮明になっている。

待ちに待った視察船が悪天候のために約束の日に現れず、その後食料の補充もないまま、いつまで二人の灯台守任務が継続するのか分からない状況になっていく。

幽閉された状況下で次第に狂気の世界に入っていくといえば、思い浮かぶのはスタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』だろう。これはロバート・エガース監督も意識しているのは明白だ。だってトムが手斧もって足引き摺って歩いているし。

そのほかにも、メルヴィルの『白鯨』はじめ、監督がオマージュを捧げた作品は数多くあるという。それを探しながら観ると、面白いのかもしれない。ウィンズローの幻想でトムが灯台男になるのも楽しい(下は元ネタとなった作品)。

Hypnose (Schneider)
Sascha Schneider, Hypnosis, 1904

トムとウィンズローという役名は、中盤以降になって初めて明かされる。それまでは互いに名前さえ知らずに生活していたのだ。まあ、二人しかいない生活だから、不要なのか。

だが、カナダで木こりをやっていたというウィンズローは、実は見殺しにした同僚の名義を盗んでここに働きにきており、本名はトーマス・ハワードだと白状する。つまり、どちらもトムという名前だったのだ

(C)2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

二人のトーマスと現実の悲劇

分かりにくいので、引き続きウィンズローと呼ばせてもらう。

一時は仲良くなったように見えた二人だが、航海日誌にはウィンズローのことを散々こき下ろして無給で解雇しろとまで書いていたトムの本性を知り、二人の仲には決定的な溝ができる。そしてウィンズローは、ついに格闘の末トムを殺害してしまう。

本作の脚本は、1801年に実際に起きた悲劇がヒントになっている。ともにトーマスという二人のウェールズ人の灯台守が嵐の中、灯台に閉じ込められる。年配のトーマスは事故で亡くなり、若いトーマスは同僚の死で非難され罰せられると考えて狂ってしまう。本作の展開と詳細は異なるが、キーとなる部分は共通している。

どんなにウィンズローが懇願しても、最後まで彼を灯室に入れることを許さなかったトム。彼を殺害し、ウィンズローはついにその光の源に立ち入ることができる。

二人の男をここまで惹きつけるものは何なのか。光は権力の象徴なのか。男根のように屹立した灯台の中で、男たちは父親の座を奪い合う。エディプスコンプレックスのような行動原理。

そして、フレネルレンズの中身を目の当たりにしたウィンズローは、その光を浴びながら地上に落下し、生きたままカモメたちに内臓をついばまれるラストに繋がる。

この二人をギリシャ神話の神をモチーフにしているという見方があるようだ。海の老神プロテウスがトムで、人間に火をもたらしてゼウスの恨みを買い、鳥にはらわたをえぐられるプロメテウスにウィンズローだという。

私は同じギリシャ神話でも、神々ではなくイカロスの翼を思い出していた。ようやく手に入れた光源をまえに身を焼かれるように墜ちていくウィンズローは、太陽に近づきすぎて墜落するイカロスのように見えたのだ。

いずれにせよ、物語のキモは狂気の世界に入り込むことだろうから、あまり気にしなくてよいのかもしれない。深読みすればスルメのような味わいはある。但し、万人受けはしない。