『シュシュシュの娘』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『シュシュシュの娘』考察とネタバレ|ちくわ汁、飛んだんだけど

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『シュシュシュの娘』

入江悠監督がひさびさに自主映画の世界に戻ってきた!シュシュシュの娘よ、ミニシアターを救え。

公開:2021 年  時間:88分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:   入江悠

キャスト
鴉丸未宇:    福田沙紀
鴉丸吾郎:    宇野祥平
間野幸二:    井浦新
司秋浩:     吉岡睦雄
丹治紗枝子:   根矢涼香
牟根田瞳:    金谷真由美
小池市長:    三溝浩二
佐川市長秘書:  松澤仁晶
高峰社長:    仗桐安
ダナン:     安田ユウ
自警団員:    山中アラタ、児玉拓郎
         白畑真逸、橋野純平

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

(C)You Irie & cogitoworks Ltd.

ポイント

  • 社会派テーマなのにゆるい感じを貫く、入江悠監督ひさびさの自主映画作品。そもそも<シュシュシュの娘>って何よっていう疑問は、ネタバレなので観てのお楽しみ。ツッコミどころは山ほどあるけど、なんか温かくて、バカらしくて、嫌いになれない映画。

あらすじ

ある地方都市のはずれで暮らす25歳の鴉丸未宇(福田沙紀)は、毎朝のダンスを日課に、祖父の吾郎(宇野祥平)の介護をしている。

市役所に勤める未宇は、普段からまったく目立たない存在で職場でも孤立しており、そんな彼女に寄り添ってくれるのは、同じ役所に勤める先輩の間野幸次(井浦新)だけだった。

そんな間野が、理不尽な文書改ざんを命じられた末に、市役所の屋上から身を投げて自殺した。

吾郎から「仇をとるため、改ざん指示のデータを奪え」と告げられた未宇は、愛する間野の仇を取り、市政に一矢報いるため、ひそかに立ち上がることを決意する。

レビュー(まずはネタバレなし)

ミニシアターを救え!

入江悠監督が自己資金とクラウドファンディングの支援金のみで製作した自主映画

①商業映画では製作し得ない映画を撮ること、②未来を担う若い学生たちと、新たな日本映画の作り方を模索すること、③苦境にある全国のミニシアターで公開すること、この三つを柱にした作品である。

その意気や良し。そもそも、入江悠監督は自主映画やミニシアターで育ってきたひとであり、メジャー作品を手掛けるようになっても、恩返しをしようということなのだろうな。こちらも、入江監督センスと工夫で乗り切るローバジェット映画を、久々に観たい気持ちになる。

<シュシュシュの娘>を演じるのは福田沙紀ヤッターマン2号の印象が強い彼女だが、今回はメチャクチャ地味な役。主役の座をオーディションで勝ち取り、オスカープロモーション退社後の初主演作になる。

(C)You Irie & cogitoworks Ltd.

ところで、そもそも<シュシュシュの娘>って何なの、と思って観ていたのだが、序盤で答えが明かされる。でもこれ、不思議とポスタービジュアルにも、公式サイトのストーリー紹介にもヒントがない。

どうやらネタバレ対象になるようなので、ここでは触れないが、さすがにこのネタは解禁しないとプロモーションしにくいのではないかと、いらぬ心配をしたくなる。

だって、あのポスターだけでは、入江監督の名前しか訴求するものがない。福田沙紀の顔さえ、ろくに写っていないのだ。

映画『シュシュシュの娘』予告編 | 2021年8月21日(土)公開

移民排除条例に公文書改ざん

舞台は深谷市ならぬ架空の町・福谷市のはずれ。主人公の鴉丸未宇(福田沙紀)は市役所職員。両親は10年前に離婚し出ていき、祖父・吾郎(宇野祥平)の介護をしながら二人暮らし。

陰キャだが、実家の庭で毎朝踊るダンスと、ちくわをつめたお昼の弁当にこだわりあり。

そんな彼女の単調な地方の生活が、役所の先輩にあたる間野(井浦新)飛び降り自殺から波乱に満ちてくる。

(C)You Irie & cogitoworks Ltd.

福谷市の小池市長(三溝浩二)が推進する「移民排除条例」の可決を巡って、議事録の公文書改ざんを命じられ、やむなく従った末の死だった。

かつて新聞記者だった吾郎は、この「移民排除条例」に強く反対しており、町でも村八分のようになりつつあった。父の旧友だった間野は、吾郎の良き理解者だったが、その間野の自殺で、未宇は悲嘆に暮れる。

だが、そんな孫娘に、寝たきり介護老人の吾郎は「仇をとるため、改ざん指示のデータを奪え」と命じる。

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あらすじを文字起こしすると、何だかとても社会派な映画に思える。だって、扱っているテーマが海外からの移民排除であり、公文書改ざんだ。おまけに役名だって、市長は小池だったり、その秘書が佐川だったり。

この辺のセンシティブなネタをさらっと映画にできてしまうのは、インディーズならではの強みなのだろう。

本作がユニークなのは、こんな小難しそうな題材をきちんと正面きって扱っていながら、映画自体はエンタメ路線、しかもゆる~いテイストを貫いている点だろう。このバランス感覚が、入江悠監督の持ち味か。

(C)You Irie & cogitoworks Ltd.

随所にセルフオマージュが

企画段階の決め事で、未経験の学生スタッフを入れたりしているせいもあるのか、同じ自主映画というくくりの中でも、入江監督初期に撮っていた自主作品のエッジの立ち方には正直及ばない。

だが、キレの良さが映画のすべてではないし、こういうゆるい系の自主映画も嫌いじゃない。それに、随所に過去の入江作品のエッセンスが感じ取れるのも楽しい。

舞台が北関東だ深谷市だとかいってる時点で『SRサイタマノラッパー』(2009)の土俵にあがっている感じだし、ヤバい雰囲気の自警団が闊歩するのは『ビジランテ』(2017)を思い出させる。

それに、怪しいディスコミュージックで庭でダンスエクササイズする福田沙紀は、『聖地X』(2021)の川口春奈と思いっきりかぶる。これ、公開時期が近いけど、どっち先に撮ったんだろう。

(C)You Irie & cogitoworks Ltd.

祖父・吾郎役の宇野祥平は、予想外にコストが嵩んでしまったという老けメイク。そんなら、年相応の俳優をあてても良かったのではないか(勿論、宇野祥平は好演しているのだが)。

同様に、名前で客を呼べる井浦新をすぐに死なせてしまったのは、脚本の流れからは不可避なのは分かるが、勿体なかった。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

<シュシュシュの娘>の正体

さて、<シュシュシュの娘>の正体について。未宇の祖父・吾郎が語るところでは、鴉丸家は代々、忍者の家系。江戸時代には御庭番衆だったとか。『るろうに剣心』かと思った。

そんなわけで、未宇にも忍びの血が受け継がれており、彼女は忍者となって、間野の仇を討ちにいく。

いやあ、驚いた。<シュシュの娘>なら髪飾りだろうが、シュがひとつ増えるだけで、手裏剣になるのか。ただ、忍者になるといっても、何を伝授されるでもない。

「自分の中の忍者のバイブスを信じろ」 

妙に横文字好きなデジタルネイティブの祖父・吾郎。未宇はまず、手芸店に黒い布を買いに行き、黒装束を仕立てることに。そして、まさかのちくわ好きがなんと吹き矢の伏線に。

未宇の親友・紗枝子(根矢涼香)とのやりとりもバカらしくて楽しい。こうして未宇は忍者服に黒のコンバースでダンスエクササイズ、そして吹き矢の練習に精を出す。

どこまで無法地帯なのだ、福谷市は

本作は忍者となった未宇が、自分の得意とする吹き矢を使って、間野を自殺に追い込んだ主犯である小池市長(三溝浩二)や秘書の佐川(松澤仁晶)そしてその部下の牟根田(金谷真由美)をやっつける。

更に、外国人労働者を多く抱える産廃処理工場の高峰社長(仗桐安)や祖父らの条例反対派を暴力でねじふせる自警団の連中も懲らしめる。

この流れが基本線だとはすぐに分かるが、ろくに吹き矢も刺さらない未宇を助けに現れる謎の忍者の正体がなかなか分からない。

また、未宇にちょっかいを出し、ついにはデートしてすぐに神社の境内で彼女とカーセックスに及んでしまう、酒屋の息子で青年団のツカサ先輩(吉岡睦雄)物語へのからみ方が謎めいている。

などとあれこれ思っていると、一応すべての不明点は最後に解消される(納得できるかはともかく)。

本作のクライマックスは、条例制定も無事完了し祝杯をあげる市長派の面々や自警団たちのいる店に、山で集めた毒キノコや毒草で作った吹き矢を携え、回し蹴りの特訓で戦闘力をアップした未宇が単身攻め込む場面。

ただ、吹き矢ひとつで何人もの敵を倒すシーンは、さすがに単調で間が持たない。『仕掛人梅安』で吹き矢の使い手(片岡愛之助)の仕事がサマになっているのは、敵がひとりだからだ。

本作でも、次々に敵を倒していくが、盛り上がりは今ひとつ。大体、ラスボスであるべき市長を雑魚キャラより先に倒すのは妙な順序だ。

(C)You Irie & cogitoworks Ltd.

だが、本当の勝負は、この場面のあとに残っていた。そこで謎の忍者の正体がわかるというわけだ。最後までゆるさを貫く展開。でもスッキリした。

そういえば、『忍者ハットリくん』の飼っていた忍者犬・獅子丸も、なぜかちくわ好きだったなあ。忍者とちくわって、何か繋がりがあるのだろうか。