『CHiLDREN チルドレン』
伊坂幸太郎の同名原作の映像化作品。坂口憲二、大森南朋の家裁調査官コンビに小西真奈美と三浦春馬。原作ファンには薦めにくいけど。
公開:2006 年 時間:104分
製作国:日本
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
家庭裁判所で調査官として働く武藤(坂口憲二)は、先輩の陣内(大森南朋)と共に銀行強盗に巻きこまれる。
無事に解放されたものの、武藤は一緒に人質になった女性・美春(小西真奈美)に一目ぼれしてしまう。
翌日、万引きで補導された少年・志朗(三浦春馬)を担当することになった武藤は、志朗の父親(國村隼)に対する様子に違和感を抱く。
今更レビュー(まずはネタバレなし)
大胆なアレンジに唖然
2006年5月にWOWOWでテレビドラマ化され、同年11月に劇場公開された、伊坂幸太郎の同名原作の映像化作品。監督は、『東京タワー』(江國香織の方ね)の源孝志。
原作を愛する者として、本作はその大胆なアレンジに結構唖然とした。はたして、原作を知らず本作を観たひとは、どのくらい楽しめるものなのか、気になるところだ。
観るべきものは、家裁調査官の主人公と対峙する高校生役である三浦春馬のフレッシュな演技と、天才的な資質を持つ先輩格の家裁調査官の陣内を演じる大森南朋のふてぶてしくも自由奔放な演技である。それ以外に、個人的には目を引くものはみつからなかった。
伊坂幸太郎によれば、原作『チルドレン』は短編集のふりをした長編小説だという。「バンク」「チルドレン」「レトリーバー」「チルドレンⅡ」「イン」の全五編で構成されている。
私はこの本『チルドレン』全体を映像化したものと思っていたが、どうやら対象となっているのは概ね「バンク」と「チルドレン」の冒頭の二編のみだ。
所収の短編全てを映画化しなければいけないルールはないし、対象に「チルドレン」が含まれる以上、誇大広告でもない。それは分かっている。だが、この二編を抽出したことは、少々乱暴だったと思う。
なぜ、この二編を映像化したのか
本作について語る前に、原作の話になってしまい恐縮だが、所収の五編は時系列から大きく二つに分かれる。陣内が学生時代の話(「バンク」「レトリーバー」「イン」)と、家裁調査官になってからの話(「チルドレンⅠ・Ⅱ」)だ。
前者の学生時代には、鴨居という友人と、永瀬という盲目の青年がレギュラーメンバー。後者の家裁調査官時代は、武藤という後輩が登場する。この二つの時代が、微妙なバランスと順序で入り混じっているために、原作では不思議な読後感がうまれる。
◇
本作は、まず「バンク」で銀行強盗の場に遭遇するエピソードから入る。原作では鴨居と陣内が人質になり、そこで盲導犬を連れた永瀬に出会う。
映画では、鴨居の代わりに武藤(坂口憲二)を入れた。このアイデアはありだと思う。時代を分けずに済ませたかったのだろう(原作で鴨居が永瀬に出会うのは12年後に出版された続編『サブマリン』まで待つ必要がある)。
でも、それならば、なぜ以降の物語にもっと、永瀬(加瀬亮)と盲導犬を登場させなかったのか。脚本をいじって、「レトリーバー」や「イン」の要素を加えればいいのに。
本作の猛烈な違和感は、冒頭の銀行強盗の一件が、中盤以降にほとんど効いておらず、分断されていることだ。
原作を知るひとは、なんでもっと永瀬を登場させないのだと思うだろうし、原作未読のひとは、事件の概要も把握しないうちに、いきなり登場した盲目の青年が推理を喋り倒していく展開に、茫然とするだろう。
◇
銀行強盗のエピソードについては、横浜馬車道にある旧第一銀行をロケ地にしているが、伊坂幸太郎原作ものとしては、同年公開の『陽気なギャングが地球を回す』が同じ地域で銀行強盗をしているため、二番煎じに思えてしまう。
同作では自由奔放で口先の達者なギャングを佐藤浩市が演じており、本作の大森南朋とちょっとキャラかぶり感もある。
ちなみに、私が盲目の永瀬(加瀬亮)をもっと登場させたかったのは、彼が陣内(大森南朋)をうまい具合にあしらう達人だったから。武藤(坂口憲二)にとって陣内は先輩なので、文句はいうけど会話の面白味に欠けるのだ。
「バンク」から「チルドレン」へ
そして「バンク」が終わると、物語は「チルドレン」に入っていき、少年少女になめられっ放しの武藤が、万引きで補導された木原志朗(三浦春馬)と接していく話に移っていく。
このエピソードは、いかにも伊坂幸太郎らしいひねりが効いている。短編の結末としてはキレが良いが、このオチひとつで長編作品を支えられるかという点では、やや不安を感じたが。
◇
そして、映画オリジナルのキャラである、書店店員の青木美春(小西真奈美)が登場する。彼女は銀行強盗の人質のひとりでもあり、ゆえに武藤と知り合いになるのだが、この美春の存在理由がイマイチ理解できなかった。
男ばかりの映画だとむさ苦しいので、万引きとからめた女性キャラを出して、何か恋愛要素を入れたかっただけなのではないか。小西真奈美が登場すること自体は素直に嬉しいのだが、それならばもっと永瀬を出してくれよ(しつこいか)。
◇
女性キャラが欲しければ、いっそ武藤か永瀬を女性にしてしまえば良かったのだ。ほら、『ガリレオ』の湯川教授に張り付く女刑事だって、当初の東野圭吾原作では男だったはず。
そうそう、ガリレオの女刑事で思い出したが、吉高由里子がなぜか、本作では青木美春の高校時代を演じている。ここって、わざわざ配役まで代える必要あるか? 小西真奈美、女子高生役イケたんじゃね? 吉高由里子も、『僕等がいた』(2012、三木孝浩監督)でまだ女子高生やってたし。
美春も難解なキャラだったが、武藤もまた謎めいている。料理好きなのはよいが、日サロ通いをする理由はなんだ? 『黒い家』(森田芳光監督)で水泳に精を出す主人公の不可思議さを思い出した。
今更レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見・未読の方はご留意願います。
伊坂原作の持ち味と合っているか
三浦春馬演じる志朗が、面談に連れてきたジャージ姿の父親(國村隼)に対する様子に武藤は違和感を抱く。やがてそこから、意外な事実が浮かび上がっていく。
なぜか本作には、家裁の主任調査官・小山内に小林隆、銀行強盗事件を捜査する刑事に近藤芳正、居酒屋でからむ客に相島一之など、三谷幸喜作品の常連メンバーが脇を固めている。
だから、芝居はシリアスでも、ついコメディ目線で観てしまうのが悩みどころだったが、國村隼が一人はいるだけで、どこか本格的な人間ドラマに変わってしまうのだから、不思議なものだ。
とはいったものの、いきなり会津の雪が積もった駅舎のホームで、三浦春馬と國村隼が別れの抱擁をかわす展開は、ちょっと強引だった気はするが。
マスカレードのような仮面をかぶって陣内たちが人質になっている、ライトタッチな冒頭から始まったというのに、両親に見捨てられた重い過去をもつ万引き癖のあるヒロインを出してみたり、裕福な父親に敵意をもつ高校生がまったくの赤の他人である初老の男に愛着を感じてしまったり。
ウェットなドラマに収束させようとする流れは、ドライな風合いを洒脱な会話を持ち味とする伊坂幸太郎原作とも相性が合っていないように思う。
一瞬とはいえ三浦春馬と小西真奈美の共演するシーンは、『東京公園』(青山真治監督)を思い出させる。
ちなみに、他に伊坂作品では、三浦春馬は『アイネクライネナハトムジーク』、小西真奈美は『Sweet Rain 死神の精度』に出演。大森南朋の出演作は『フィッシュストーリー』と『ポテチ』。加瀬亮と吉高由里子は『重力ピエロ』といったところ。伊坂作品常連の濱田岳には本数で及ばないけど。
ところで、本作で私の好きなシーンは、居酒屋で少年法にケチをつけるサラリーマンたちを、陣内が荒っぽい論法でやっつけるところ。原作まんまの台詞でも、ここはスカッと気持ちよかった。
「そもそも、大人がカッコよけりゃ、子供はぐれねえんだよ」