『天外者』 考察とネタバレ:見返りも名声も求めなかった男、五代友厚

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『天外者』 

三浦春馬最後の主演作品。自由な夢を誰もが見られる国を目指し、幕末から明治を奔走した男・五代友厚。その誠実さ、芯の強さ、爽やかさ、映画の役が本人と重なる。この作品がこのタイミングに存在したことに感謝。

公開:2020 年  時間:109分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:   田中光敏
脚本    小松江里子

キャスト
五代友厚: 三浦春馬
坂本龍馬: 三浦翔平
岩崎弥太郎:西川貴教
伊藤博文: 森永悠希
はる:   森川葵
五代豊子: 蓮佛美沙子

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2020「五代友厚」製作委員会

あらすじ (公式サイトから引用)

江戸末期、ペリー来航に震撼した日本の片隅で、新しい時代の到来を敏感に察知した若き二人の青年武士が全速力で駆け抜ける。

五代才助(後の友厚、三浦春馬)と坂本龍馬(三浦翔平)。二人はなぜか、大勢の侍に命を狙われている。

日本の未来を遠くまで見据える二人の人生が、この瞬間、重なり始める。攘夷か、開国か。五代は激しい内輪揉めには目もくれず、世界に目を向けていた。

そんな折、遊女のはる(森川葵)と出会い「自由な夢を見たい」という想いに駆られ、誰もが夢見ることのできる国をつくるため坂本龍馬、岩崎弥太郎(西川貴教)、伊藤博文(森永悠希)らと志を共にするのであった。

レビュー

惜しまれるも最後の主演作に相応しい作品

三浦春馬にとって、最後の主演映画となってしまったことは、とても残念で寂しい。日本の映画界にとっても、貴重な逸材を失ってしまった。

だが、彼を主演とし、五代友厚という傑物を描いた本作は、幕末に命を張った男の生き様を静かながらも真摯にとらえた作品だ。

三浦春馬という役者の、最後の主演を飾るにふさわしい佳作だと感じた。

本作で彼が演じている五代友厚は、この国の未来を見据え、坂本龍馬、勝海舟、トーマス・グラバーといった人物たちと交わり、明治維新や近代日本に多大な影響を与えた人物だ。

特に、大阪商業会議所の初代会頭として、その後の大阪経済発展に大きく貢献し、東の渋沢栄一と並び称されることも多い。大阪の庶民にとっても、信任の厚い人物だという。

NHK朝ドラ「あさが来た」でディーン・フジオカが演じ、主人公あさ(波瑠)が尊敬し、亡くなった回では五代ロスを生んだと記憶する。

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幕末のこの国で夜明けを見ていた者たち

だが、映画で描かれるのはその前の更に過酷な時代。

薩摩藩で殿に才能を認められ、長崎海軍伝習所で学び、海外で多くの知見を得ながらも、世間の人々からは誰にも理解されず、不遇の時代を生き抜く姿だ。

列強6ヶ国に日本が支配されないためには、どうすべきか。それを考え抜いた五代は、多くの人々に疎んじられながらも、当時の日本を守っていたのだ。

幕末の日本、薩摩や長崎が舞台となれば、西郷隆盛や坂本龍馬、勝海舟あたりが中心のドラマとなるものが多い。

本作のように五代が竜馬や岩崎弥太郎、伊藤博文らと意気投合しながら、日夜この国の明日を論じて酒を交わしている展開は珍しいように思う。

どこまで史実に忠実なのだろう。本作には市民有志が立ち上げた五代友厚・映画製作プロジェクトがバックにあり、功績の検証などにも余念がないように見受けられるけれど。

とはいえ、五代友厚のための映画という出自ゆえ、全体的にデフォルメされているのは、仕方ないところ。日本が植民地にならなかったのは、彼一人の功績のようになっている。

坂本龍馬とここまでの親交があったのか、司馬遼太郎を読んだ限りでは読み取れなかったが、ともに気が合いそうな肝の座った天外者同士ではある。むしろ自然流れか。

北辰一刀流の剣術使いとして塾頭まで行った竜馬をさしおいて、五代が華麗な剣さばきを見せるのは、映画ならではの動きと思ったが、あれは示現流の使い手の構えだということで、結構リアルなのかもしれない。

グラバー邸は現存するからそのまま外観が使えるが、長崎の出島はさすがにそのままは使えない。この出島がしっかりと海の中に飛び出している絵姿を見ただけで、何とも胸が熱くなる。

素晴らしき作り手たち

清潔感や、誠実さ、そして静かながらも芯の強さを感じさせる五代に三浦春馬は、まさにふさわしく、もはや彼以外には想像できない配役だった。ここは田中光敏監督の人選に感謝である。

田中光敏監督は日本アカデミー賞優秀監督賞の『海難1890』が代表作だろうか。私は遠い昔の彼の初監督作『化粧師 KEWAISHI』しか観ていないのだが、その後も継続的に作品を世に出している。

また、本作の脚本家・小松江里子とは、『海難1890』『サクラサク』『利休にたずねよ』でもコンビを組んでいる。

共演者の顔ぶれを見てみよう。日本の夜明けを目指す同志の坂本龍馬三浦翔平。時代劇は珍しいと思う。

多くの人がそれぞれにイメージを持つこの役を演じるのは難しそうだが、威勢のよさも勢いもあり、私は好感を持った。

五代が落ち着いたイメージだけに、ダブル三浦で動静のバランスも良かった。

(C)2020「五代友厚」製作委員会

岩崎弥太郎西川貴教は、ミュージカルならいざ知らず、時代劇どころか俳優業も経験が浅いのだと思うが、才能なのか、こちらも堂々の演技。

五代にとって敵か味方か分かりにくいところなど、役柄としても面白く、彼の本業を忘れて、純粋に時代劇俳優として魅入ってしまった。

仲間としては伊藤利助を演じた森永悠希『ちはやふる』『小さな恋のうた』など、子役時代からのベテラン。

彼はあくの強い仲間たちの中では比較的人あたりのソフトな人物として場を和ませてくれるが、あれが後の伊藤博文だったとは。

そして五代とはなかなか結ばれないが、互いに思い合っている長崎の遊郭の遊女はる森川葵の気の強そうな顔立ちが、今回の役にはとても合っていた。

愛する彼を救い出すために自らを犠牲にする。彼女もまた、五代と同じように、見返りを求めない純粋なひとだったのだ。

最後に、明治の時代が始まり、五代と出会い結婚する豊子。蓮佛美沙子は本作では出番が少なかったのはちょっと残念だ。

彼女は高校で同級生でもあった三浦春馬本人から出演オファーを受けたそうだ。『きみに届け』以来の共演だろうか。信頼の絆を感じさせる。

妻の豊子は、短くてもラストにつなげる重要な役だ。彼女で良かった。

その他、大勢の出演者は書ききれないが、印象的だったのは、いつも温かい目で五代を遠くから見守る、母親役の筒井真理子だろうか。美しく、優しい母であった。遊郭の女将・かたせ梨乃も、さすがの存在感だったけど。

(C)2020「五代友厚」製作委員会

エンタメに走らず、ただ五代の人生を追う

本作は、良い作品を作ろうという作り手の姿勢が伝わってくる。いたずらにエンタメに走ることもなく、丁寧に五代の生き様を追う。

利助の持っていた万華鏡や、幼少の頃、聡明だった五代が知恵を絞ってこしらえた地球儀など、効果的に使われる小道具も多い。

幕末に時代を動かした志士たちの死はあっけなく、突然に訪れる。竜馬もしかり、五代もまたしかりだ。

主人公の最後がナレ死なのは寂しい気もした。映画としてどこにクライマックスを持ってきたかったのかが、分かりにくい。

年末に3時間枠でテレビ局が特番で放映しそうなドラマに見えないこともない。

ただ、彼を受け容れたのかが分からなかった大阪の人々が長い葬列を作る様子は、美しく、また温かいものに見えた。

見返りも名声も求めず、ひたすら日本という国の明日を考えてきた五代友厚という偉大で孤高な男は、いま私の中ではすっかり三浦春馬と同化している。

彼の溌剌と動く姿と、気取らない笑顔に、スクリーンで最後に出会えたことに感謝したい。この作品があって良かった。きっと彼も、雲の上でそう思っているのではないか。

素敵な作品をありがとう。安らかにお眠りください。