『ナイトメア アリー』考察とネタバレ|悪夢の小路にはまった男たち

スポンサーリンク

『ナイトメア・アリー』
 Nightmare Alley

ギレルモ・デル・トロがブラッドリー・クーパー主演で描くフィルム・ノワール。獣人(ギーク)の世界へようこそ。

公開:2022 年  時間:150分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ 
監督・脚本:     ギレルモ・デル・トロ
脚本:             キム・モーガン
原作:ウィリアム・リンゼイ・グレシャム
    『ナイトメア・アリー 悪夢小路』

キャスト
スタン・カーライル:
         ブラッドリー・クーパー
リリス・リッター:ケイト・ブランシェット
モリー・ケイヒル:   ルーニー・マーラ
ジーナ・クルンバイン:  トニ・コレット
クレム・ホートリー: ウィレム・デフォー
ピート:      デヴィッド・ストラザーン
ブルーノ:       ロン・パールマン
少佐:       マーク・ポヴィネッリ
ギーク:      ポール・アンダーソン
エズラ・グリンドル:
        リチャード・ジェンキンス
アンダーソン:  ホルト・マッキャラニー
キンボール判事:  ピーター・マクニール
フェリシア:
     メアリー・スティーンバージェン

勝手に評点:3.5
       (一見の価値はあり)

(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

あらすじ

ショービジネスでの成功を夢みる野心にあふれた青年スタン(ブラッドリー・クーパー)は、人間か獣か正体不明な生き物を出し物にする怪しげなカーニバルの一座とめぐり合う。

そこで読心術の技を学んだスタンは、人をひきつける天性の才能とカリスマ性を武器に、トップの興行師となる。しかし、その先には思いがけない闇が待ち受けていた。

スポンサーリンク

レビュー(まずはネタバレなし)

ギレルモ・デル・トロのノワール

1946年出版のウィリアム・リンゼイ・グレシャムの著書「ナイトメア・アリー悪夢小路」の再映画化、ギレルモ・デル・トロ監督がメガホンを取ったサスペンススリラーである。

アカデミー賞で作品賞・監督賞を獲った『シェイプ・オブ・ウォーター』や、傑作『パンズ・ラビリンス』等を例に出すまでもなく、ギレルモ・デル・トロの得意科目は怪物を登場させるダーク・ファンタジー。初期の作品では『デビルズ・バックボーン』『クロノス』等、ホラー系も得意だった。

そんな彼には珍しく、今回は怪物ともオカルトとも無縁な、第二次大戦開戦前の米国の現実社会を描いている。だが、それでも映画が醸し出すのは、いつモンスターや悪魔が出てきてもおかしくない、いつものギレルモ・デル・トロらしい怪しい雰囲気なのが興味深い。

監督は若い頃からノワールとホラーはどうしても撮りたいジャンルだったそうだ。本作のノワール初挑戦で、ようやく念願が叶ったことになる。

(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

見世物小屋の一座

冒頭で何者かの遺体を家ごと焼き払った主人公のスタン(ブラッドリー・クーパー)は、流れ着いたカーニバルの一座の一員となる。人間か獣か正体不明な獣人ギークを出し物にする支配人のクレム(ウィレム・デフォー)や、怪力のブルーノ(ロン・パールマン)、小人症の少佐(マーク・ポヴィネッリ)をはじめ、怪しげな連中が揃っている。

フリークスたちの旅芸人一座といった雰囲気と、寂れた夜の町にそこだけ煌々と電気が灯るテントやメリーゴーラウンド、小さな観覧車。いかにもそれっぽい幻想的な世界。

見世物小屋の映画といえば、古くはフェリーニの『道』からリンチの『エレファントマン』、ヒュー・ジャックマン主演の『グレイテスト・ショーマン』まで、どれもレベルが高いが、本作も見劣りしない。

スタンは次第に一座に馴染み、妖艶な読心術師のジーナ(トニ・コレット)と、そのパートナーのピート(デヴィッド・ストラザーン)の読心トリックに魅了される。

そして二人に取り入っては芸を修得したスタンは、恋仲になった一座の娘モリー(ルーニー・マーラ)とともに、もっと大きな舞台を目指して一座を飛び出していく。

(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

キャスティングについて

氏素性も善悪もよく分からないが、どうやら読心術の魔力に惹かれてしまったスタン演じるのは、本作の製作も務めるブラッドリー・クーパー。いつものヒーローキャラとは一味違うのが新鮮。

彼を取り巻く妖艶の読心術師ジーナにトニ・コレット『シックス・センス』の時代から近年の『もう終わりにしよう。』まで、この手の怪しい映画には欠かせない女優。

そしてヒロイン・モリー役のルーニー・マーラ。露出の多いステージ衣装で全身に電気を通すシーンは、どこかノーラン監督の『プレステージ』を思い出させる。

(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

物語の展開において重要なのはスタンと彼を巡る三人の女性(残る一人は後半で登場)だが、カーニバルの男性陣もなかなか個性派揃いだ。

何をやってもピカイチの怪優ウィレム・デフォーは、本作では一座の支配人。最近の作品では『ライトハウス』に通ずる変人役。がめつく非情な男に見えたが、獣人ギークを演じる男を、どうやって悪夢小路ナイトメア・アリ―に転がっている浮浪者から調達してくるか、熱く語る様子がいい。

「ごく短い間だが、次のヤツがくるまで、ギークをやってみる気はないか」

阿片を垂らした酒を飲ませてやれば、いつのまにか、ギークから離れられなくなっているという。

ギレルモ・デル・トロ監督作『ナイトメア・アリー』ティザー予告

変人役といえば、怪力ブルーノ役のロン・パールマンは、本作と同様にオスカー作品賞ノミネートの『ドント・ルック・アップ』でも、マッチョで単細胞の軍人を演じていて、どこかキャラがかぶる。

スタンに読心術のトリックを伝授する高齢の師匠ピートを演じるのは、前回作品賞でオスカーを獲った『ノマドランド』(クロエ・ジャオ監督)に出演のデヴィッド・ストラザーン

ピートは、テクニックに走り自分を過信しそうなスタンに「幽霊スプーキーショーをやってはダメだ」と口を酸っぱく言う。だが、モリーと一座を飛び出して都会に出たスタンは、その魔力に囚われてしまう。

(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

一座を飛び出した二人を待つもの

二年後、スタンはモリーとともに、高級ホテルのショウで読心術を披露し客を沸かせるが、二人のトリックを見破り、ステージの彼を挑発してきたのが心理学博士のリリス・リッター(ケイト・ブランシェット)だった。

だが、どうにかその場を乗り切ったスタンは、その後リリスと手を組み、彼女の患者である上流社会の顧客層の霊視依頼を受けて荒稼ぎするようになる。

戦死した息子に会いたいというキンボール判事夫妻(ピーター・マクニールメアリー・スティーンバージェン)の霊視では、首尾よく成功を収めたものの、次の依頼者である大富豪のエズラ・グリンドル(リチャード・ジェンキンス)は、インチキがばれれば命が危ない怖い相手だった。

二部構成の後半戦はいわゆるコンゲーム的な展開で、どこまでイカサマ読心術で荒稼ぎができるかがポイントになってくる。悪役の親玉的なエズラを演じるリチャード・ジェンキンス『シェイプ・オブ・ウォーター』での優しきゲイの隣人役とはだいぶ異なるキャラだが、怖いわりに結構騙されやすかったりする。

(C)2021 20th Century Studios. All rights reserved.

スタンを巡る女の三人目はケイト・ブランシェット扮する心理学者リリスだが、どう見ても怪しい女であり、こんな人物のカウンセリングは受けたくない。それにしてもケイト・ブランシェット、さすがの存在感。ルーニー・マーラとの組み合わせは『キャロル』(トッド・ヘインズ監督)での惹かれ合った二人の女を思い出させる。

そういえば、ウディ・アレンの『ブル―ジャスミン』で主演のケイト・ブランシェットの妹役だったのが『シェイプ・オブ・ウォーター』の主演のサリー・ホーキンスだ。どこかギレルモ・デル・トロ監督とも縁を感じる。

スポンサーリンク

最初の映画化は『悪魔の往く町』

本作の原作は1947年に一度映画化されている。エドマンド・グールディング監督の『悪魔の往く町』。スタンを演じるのはタイロン・パワー。44歳の若さで急逝した元祖二枚目俳優のようだが、残念ながらよく存じ上げない。本作には彼の娘のロミナ・パワーがカメオ出演しているらしいが、当然気づかなかった。

ギレルモ・デル・トロ監督は、本作では原作の魅力を引き立たせるため、あえて、『悪魔の往く町』とは距離を置くよう心掛けたということだが、この作品はなかなかよく出来たフィルム・ノワールという声もある。ぜひ、どこかで探して観てみたい。

さて、コンゲームの成り行きはここでは語らないが、ダーク・ファンタジー作品ではないものの、ギレルモ・デル・トロ監督らしく、最後は寓話的な展開を見せる。このエンディングは切れ味がよいが、どうやら『悪魔の往く町』と同じく原作を踏襲しており、本作オリジナルではなさそうだ。原作も未読なので、近いうちに確認してみたい。

本作にギレルモ・デル・トロらしさがあったかというと微妙だが、彼なりに工夫を凝らした魅せるフィルム・ノワールへの挑戦は窺えた。どうなるか先が見えない展開で二時間半飽きさせない映画作りも嬉しい。ぜひ『悪魔の往く町』と比較してみたい。