『ドント ルックアップ』考察とネタバレ|見上げてごらん、夜の星を

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『ドント・ルック・アップ』 
Don’t Look Up

半年後に彗星が地球に衝突すると分かった時、人はどう動くか。コメディのようで、実はリアルなドラマなのかもしれないぞ。

公開:2022 年  時間:138分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ 
監督・脚本:      アダム・マッケイ

キャスト
ランドール・ミンディ: 
        レオナルド・ディカプリオ
ケイト・ディビアスキー:
        ジェニファー・ローレンス
ジャニー・オーリアン大統領: 
           メリル・ストリープ
ブリー・エヴァンティー: 
         ケイト・ブランシェット
ジャック・ブレマー : タイラー・ペリー
オグルソープ博士:    ロブ・モーガン
ジェイソン・オーリアン首席補佐官: 
              ジョナ・ヒル
ピーター・イッシャーウェル: 
           マーク・ライランス
ユール:      ティモシー・シャラメ
ドラスク大佐:     ロン・パールマン
ライリー・ビーナ:   アリアナ・グランデ
DJ Chello:       キッド・カディ
ジューン・ミンディ:メラニー・リンスキー

勝手に評点:3.5
       (一見の価値はあり)

(C)Netflix. All Rights Reserved.

あらすじ

落ちこぼれ気味の天文学者ランドール・ミンディ教授(レオナルド・ディカプリオ)はある日、教え子の大学院生ケイト(ジェニファー・ローレンス)とともに、地球に衝突する恐れがある巨大彗星の存在を発見し、世界中の人々に迫りくる危機を知らせようと躍起になる。

仲間の協力も得て、オーリアン大統領(メリル・ストリープ)とその息子で大統領補佐官のジェイソン(ジョナ・ヒルと対面する機会を得たり、陽気な朝のテレビ番組「デイリー・リップ」に出演するなどして、熱心に危機を訴えてまわる二人。

しかし人類への警告は至難の業で、空回りしてばかり。そのうちに事態は思わぬ方向へと転がっていく。

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レビュー(まずはネタバレなし)

てっきりディザスタームービーだと

レオナルド・ディカプリオが演じる天文学者ミンディジェニファー・ローレンスが演じる大学院生ケイトの二人が、彗星を発見して歓喜したのも束の間、その軌道がほぼ確実に地球に半年後に衝突すると判明する。

この限られた情報と主演の二人の顔ぶれで、すっかりシリアスなディザスタームービーだと思い込んでしまった。それこそ『アルマゲドン』『ディープインパクト』、邦画ならちょっと変化球で『フィッシュストーリー』みたいな。

だが、私は大事なことを見落していた。監督はアダム・マッケイ『マネー・ショート 華麗なる大逆転』『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』といった、コメディ分野で活躍している映画人ではないか。

いつもよりちょっとポッチャリ体型で無精ひげの教授を演じるレオナルド・ディカプリオと、鼻ピアス(磁石でくっつけるフェイクだそう)姿が新鮮なジェニファー・ローレンスの迷コンビ。

(C)Netflix. All Rights Reserved.

「あれ、この映画はシリアスな作品ではないの?」
という予感は、NASAの惑星防衛調整室長テディ・オグルソープ博士(ロブ・モーガン)の肩書をミンディ教授とケイトがいじり始めたあたりから。そして予感が確信にかわったのは、この地球が壊滅するという一大事をホワイトハウスに報告に行ったときのシーン。

ジャニー・オーリアン大統領(メリル・ストリープ)には7時間待った挙句に会えず、息子のジェイソン・オーリアン首席補佐官(ジョナ・ヒル)もどこか抜けている。後日ようやく会えた大統領はこの重大な報告よりも自分の支持率が大事であり、ろくに聞く耳を持たない。「静観して精査しましょ」が結論のポンコツ大統領なのである。

結局、支持率と視聴率でしょ

ミシガンステートの博士課程のケイトが発見者と知るや、「アイビーリーグの専門家に調べさせましょう」、という反応は笑ってしまった。メリル・ストリープは名コメディエンヌの実力発揮。『ザ・ランドロマット -パナマ文書流出-』『ザ・プロム』の路線だ。こういう役もうまい。

(C)Netflix. All Rights Reserved.

大統領が動いてくれないとなれば、マスコミに訴えかけて社会を動かそうと、ミンディ教授とケイトはテレビ番組「デイリー・リップ」に出演することに成功。

だが、大統領が支持率優先なら、こちらは視聴率至上主義。どんなにショッキングなニュースも明るく楽しく伝えるのがモットー。彗星の話より、本日のゲスト、ライリー・ビーナ(アリアナ・グランデ)が彼氏と復縁する話の方に盛り上がる始末。あまりの能天気ぶりに、ケイトが「地球が壊滅するって話ですよ!」とぶち切れする。

激昂するケイトの横で、終始落ち着いていたミンディ教授は、番組の女性キャスターであるブリー・エヴァンティー(ケイト・ブランシェット)のお気に召したようで、ミンディはその後マスコミに<彗星の教授>として持て囃され、ブリーとは不倫関係に突入。一方のケイトは、オンエア中のブチ切れが受け、ネットは大喜利状態に。

(C)Netflix. All Rights Reserved.

人は信じたくないものは過少評価する

一体、地球壊滅を半年前に控えて、こいつらは何をやっておるのだ、という迷走状態(衝突までのカウントダウンをケイトがダイエットアプリで把握しているのが笑)。だが、この展開は意外と真実味がある。ひとは誰も、信じたくないもの、起こってほしくないものは、発生率を過少に見積もるものだ。

100%、人類はみな死にますと言われても、何とか現実逃避しようとする。半年後の滅亡より目先の支持率や視聴率というのも、あながちあり得ない話ではない。たった一人で怒りの拳をあげる若者を世界中で揶揄して、SNSで嘲笑する様子は、環境活動家グレタ・トゥーンベリをめぐる一連の出来事を意識したものだろう。

思えばアダム・マッケイ監督は『マネー・ショート 華麗なる大逆転』でも、サブプライムに沸く金融市場がみるみる瓦解していく現実の姿を、コミカルに、だが風刺をこめて描き切っている。

今回のテーマも現実めいた部分は随所にみられ、彗星衝突を前にしても人間はこんな愚かしいことをしているのかと思うと、幾多のディザスタームービーよりも、よほど背筋が寒くなる内容である。

(C)Netflix. All Rights Reserved.

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

ビリオネアの考えそうなこと

さて、はじめは彗星の衝突話を相手にしていなかったオーリアン大統領だが、自分のスキャンダルが勃発し世間の目をそらそうとしたのか、スペースシャトルに核兵器を積んで、彗星の軌道を変えてしまおうと動き出す。緊急事態の中で市民の不安を煽って、自分の存在感を高めるやり口は政治家の常套手段である。

映画は中盤、ハイテク企業バッシュ社のCEOで世界第3位の大金持ちピーター・イッシャーウェル(マーク・ライランス)が登場してくると、話が俄然面白くなってくる。このピーターはオーリアン大統領の超大口スポンサーで、事業内容や風貌から、どこかスティーブ・ジョブズを意識しているようだ。

『ドント・ルック・アップ』ティーザー予告編 - Netflix

ピーターの資金と技術援助で宇宙に大量のロケットを発射した米国政府だが、なぜか計画は急遽変更となり、スペースシャトルが戻ってくる。実は、バッシュ社の調査によると、彗星には数兆円相当のレアアースが存在するという。彗星を分割することで、衝突を回避しレアアースを手に入れようと計画を見直したのである。

この、優秀だがどこか胡散くさそうなピーターといい、何でも錬金術に結び付ける超富裕者層のしたたかさといい、けして架空の物語で片付けられない説得力がある。名優マーク・ライランスが、こういう怪しい役もこなすとは意外だが、好演している。

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見上げるべきか、見上げないべきか

この後、ミンディ教授と仲違いしたケイトは、イリノイの実家近くの小売店でレジのバイト中に知り合った万引き犯のユール(ティモシー・シャラメ!)と親しくなっていき、一方のミンディ教授は、ブリーとの不倫が妻ジューン(メラニー・リンスキー)にみつかって修羅場となる。

とても地球壊滅が近づいている状況とは思えない展開のなかで、見上げれば彗星の姿は日に日に大きくなっており、みな現実を認識させられる。

(C)Netflix. All Rights Reserved.

人類が絶滅しそうだというのに、レアアースに欲を出してどうするのか。空を見上げて現実を直視しろという、しっかりと脅威に向き合う人々に対し、空を見上げるな、連中に騙されるぞ(Don’t Look Up!)と、政府の言葉に踊らされる人々(地球温暖化はフェイクニュースだと騒いでいた某大統領と似ている)。これが原題の意味だったのだ。

look up には「調べる」という意味も含んでいるのかも。「見上げるなよ、調べるなよ」といって国民を真実から遠ざける政府のやり方が何とも怖い。

本作は結局、どのような結末を迎えるのか。ここでは詳細は控えるが、およそディザスター映画ではお目にかかったことのない終わり方だ。だが、これはこれで、全然アリだと思う。

中盤でピーターが大統領にアルゴリズム解析の結果「あんたはブロンテロックに食われて死ぬよ。意味は私にも分からないが」と言うのだが、その台詞が思わぬ形で回収される。人間、どういう死に様が幸福なのだろうかと、考えさせられる作品だ。