『レディ・プレイヤー1』
Ready Player One
スピルバーグがアーネスト・クラインの原作を映画化、VR空間でエッグハントに燃えるライバルたち
公開:2018 年 時間:140分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: スティーヴン・スピルバーグ 原作: アーネスト・クライン 『ゲームウォーズ』 キャスト ウェイド・ワッツ/パーシヴァル: タイ・シェリダン サマンサ・クック/アルテミス: オリヴィア・クック ヘレン・ハリス/エイチ:リナ・ウェイス トシロウ/ダイトウ: 森崎ウィン ゾウ/ショウ: フィリップ・チャオ ノーラン・ソレント: ベン・メンデルソーン アイロック: T・J・ミラー ジェームズ・ハリデー: マーク・ライランス オグデン・モロー: サイモン・ペグ フナーレ・ザンドー: ハナ・ジョン=カーメン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
貧富の格差が激化し、多くの人々が荒廃した街に暮らす2045年。世界中の人々がアクセスするVRの世界OASIS(オアシス)に入り、理想の人生を楽しむことが若者たちの唯一の希望だった。
そんなある日、オアシスの開発によって巨万の富を築いた大富豪のジェームズ・ハリデー(マーク・ライランス)が死去し、オアシスの隠された3つの謎を解明した者に、莫大な遺産とオアシスの運営権を明け渡すというメッセージが発信される。
それ以降、世界中の人々が謎解きに躍起になり、17歳の孤独な青年ウェイド(タイ・シェリダン)もそれに参加していた。
そしてある時、謎めいた美女アルテミス(オリヴィア・クック)と出会ったウェイドは、1つ目の謎を解き明かすことに成功。一躍オアシスの有名人となるが、ハリデーの遺産を狙う巨大企業IOI社の魔の手が迫る。
今更レビュー(ネタバレあり)
OASISのVR空間で宝探し
タイトルにワンがあるからって、シリーズものではない。対戦ゲームでお馴染みの、一人目プレイヤーのプレイ開始のメッセージ。アーネスト・クラインの原作『ゲームウォーズ』よりクールな題名じゃないか。
時は2045年。OASISと呼ばれるVRの空間で、老若男女がアバターを使い理想の人生をエンジョイしている世界。貧困で荒廃する社会の若者たちには、唯一の憩いの場として機能している。
そのOASISの創設者で巨万の富を持つジェームズ・ハリデー(マーク・ライランス)が宝探しの遺言を残し、3つの鍵を最初に探し当てた者には全財産と運営権を遺贈するという。
世界中にガンターと呼ばれる、このエッグを探すハンターたちが現れ、17歳の孤独な高校生ウェイド(タイ・シェリダン)もその一人だった。
本作は、彼のアバターであるパーシヴァルが、仲間たちと力を合わせて巨大資本と戦いながらそのエッグを探す物語。
ゲームの世界のキャラクターたちが登場する映画というとディズニーアニメの『シュガーラッシュ』を思い出す。
あの作品は出来が良かったが、まさか同じような事をVRでアバターたちが繰り広げる、実写とCGのハイブリッド映画で実現できるとは想像しなかった。
さすがはスティーヴン・スピルバーグというしかない。これだけ権利関係の難しそうなキャラを勢ぞろいさせるのも、エンタメ作品として文句なしの出来栄えに仕上げるのも、スピルバーグのネームバリューと実力の賜物だろう。
ハリデーのモデルはスティーブ・ジョブズかもしれないが、スピルバーグもまた、同じようなカリスマである。
かつてエドガー・ライト監督が『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』で同じような試みを映画にしたのだけれど、さすがにこちらの方が格上で別格の充実度合い。
オタクのネタがテンコ盛り
映画は冒頭、ヴァン・ヘイレンの”JUMP”の演奏から始まり、人々がゴーグルをかけてVRに興じる米国コロンバスのスラム街のような街並み。曲はティアーズ・フォー・フィアーズに代わり、世代的に私にはハマる。OASISが富士通ワープロ(OASYSの方)に思えてしまう世代だ。
そしてエッグ探しの登竜門であるカーレース。『ブレードランナー』のような未来都市に『マッハGoGoGo』のようなレースのスピード感。
◇
パーシヴァルの愛車は『バックトゥザフューチャー』のデローリアン、一方、ヒロインのアルテミスは『AKIRA』の金田のバイク。
ゴール前に待ち構えるコングにどう立ち向かうかを見せることで、本作の中でのパーシヴァルと親友のエイチ、そしてアルテミスの立ち位置が分かり、またハリデーのすべての情報が保存されている資料館の活用法も分かるようになっている効率的な展開。
アーネスト・クラインの原作は、映画よりももっと日本のサブカル依存度が高い小説になっている。オタクネタが多すぎて、日本人が読んでもマニア以外は見落としてしまうネタも多い。トマス・ピンチョンの『ヴァインランド』を思い出す。
オタクならではの膨大な情報量。好き嫌いがありそうだが、私は原作を面白く読んだ。鍵を一つずつ見つけていく宝さがしの面白さは、やはり映画よりも原作に分がある。
クロスオーバーのキャラが無数に
映画では、時間的制約や権利関係の交渉結果、そしてスピルバーグが自身の過去作の登場をある程度抑えたことで(賢明です)、原作とは結構登場させるゲームやアニメ・特撮のキャラなどが異なっている。
それはそれで面白い。というか、原作まんまでは、世界中に展開される映画としては日本ネタが多すぎて伝わらないだろうから、これで正解だったと思う。
スパイダーマンは日本ではガラケー並みに独自進化し、レオパルドンなる巨大ロボットを操る。これを映画に出さなかったのは理解できる。ジャイアントロボもアイアンジャイアントに選手交代か。
その他、映画ではエッグ探しのプロセスをはじめ、ストーリーも大枠以外は大胆な改変がみられるが、これも時間的制約からは妥当だろう。
無数に出てくるクロスオーバーのネタについては、とても書き切れないし、覚え切れない。印象的だったのは『シャイニング』。
あのホテルの空間の不気味さを、血の池エレベーターやシャワー室の老婆まで含めて再現していたのは、本格再現の『ドクタースリープ』とは違う意味で驚き。
◇
嬉しかったのはメカゴジラがハリウッド映画についに登場したことか。しかも驚いたことに対戦相手は機動戦士ガンダムじゃないか。夢の対戦が、スピルバーグ監修のもとでみられるなんて。
原作では、ここは3分でカラータイマーが切れるウルトラマンだったのだが、権利が取れなかったとか。個人的にはガンダムで良かったけど。
ガンターの仲間たち
パーシヴァル、アルテミス、エイチの三人に加え、三船敏郎顔の日本人ダイトウと中国人のショウ。この5人はライバルでもあるが、共闘しながらエッグを探す。
そして巨大企業であるIOIのCEOノーラン・ソレント(ベン・メンデルソーン)が資本力にものを言わせ、彼らを懐柔したり命をねらったりで、エッグを先取りしようと執拗に攻めてくる。
スピルバーグ的な映画の面白さは、アバターが主役でも健在で、彼らは『グーニーズ』のような乗りで悪と戦う。
主人公パーシヴァルことウェイド・ワッツ役にはタイ・シェリダン。あの目はどこかで見覚えがと思ったら、『X-MEN』の<鼻から牛乳、目から光線>男サイクロップの俳優だ。
ウェイドがVRゴーグルしてると、はずしたらビームが放たれそうでドキドキする。
天才ガンターの一人、アルテミスことサマンサ・クックにはオリヴィア・クック。『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』の主人公の恋人役が印象的。
ダイトウことトシロウ役には『蜜蜂と遠雷』の森崎ウィンがハリウッド大抜擢。「俺はガンダムで行く」の日本語台詞は良かったが、『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』の斉藤慶太・祥太のように、出演場面が短いのが残念。
VRの世界でアバターが本名を晒してしまうヤバさは細田守の『竜とそばかすの姫』でもお馴染みだが、本作ではアルテミスと親しくなりたいパーシヴァルが安易に本名を明かして敵に盗聴されてしまう。
更にはIOI社のCEOノーラン・ソレントが、ポッドの脇にパスワードを書いた付箋を貼って盗み見されたりと、本作はネット関連の情報管理のイロハも教えてくれる。
ストーリー的には予定調和だが、テンコ盛りのクロスオーバーネタとエンタメ指数の高さで、個人的には大満足。世代が違うと、これらのネタがどこまで刺さるのかは気になるところだが。