『エターナルズ』
The Eternals
アベンジャーズの遥か昔、人類創成期から地球を見守ってきたエターナルズの神たちが、今また宿敵を倒すために集結する。
公開:2021 年 時間:156分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: クロエ・ジャオ
キャスト
<エターナルズ>
セルシ: ジェンマ・チャン
イカリス: リチャード・マッデン
スプライト: リア・マクヒュー
キンゴ: クメイル・ナンジアニ
ファストス:
ブライアン・タイリー・ヘンリー
マッカリ: ローレン・リドロフ
ドルイグ: バリー・コーガン
ギルガメッシュ:
ドン・リー(マ・ドンソク)
セナ: アンジェリーナ・ジョリー
エイジャック: サルマ・ハエック
<その他>
デイン・ウィットマン:
キット・ハリントン
カルーン: ハーリッシュ・パテル
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
地球に新たな脅威が迫るとき、7000年にわたり人智を超えた力で人類を密かに見守ってきた、10人の守護者がついに姿を現す。彼らの名は、エターナルズ。
だが、地球滅亡まで残された時間はたった7日。タイムリミットが迫る中、彼らは離れ離れになった仲間たちと再び結集し、人類を守ることができるのか?
そして、彼らを待ち受ける〈衝撃の事実〉とは…アベンジャーズに次ぐ、新たなヒーローチームの戦いが始まる!
レビュー(まずはネタバレなし)
アベンジャーズを超越する、無名の戦士たち
MCUはアベンジャーズの主力メンバーたちがサノスを倒して以降、長いバカンスに入ってしまったためか、フェーズ4の方向性はまだよく見えていない。
その中で、本作は<アベンジャーズ>を超越する、などとMCUと絡めた宣伝文句でプロモーションを仕掛けてはいるが、実は内容的には彼らとほとんど絡まない。
台詞の中に多少登場し、同じユニバースに生きている話だというのが分かる程度だ。
◇
それもそのはず、<エターナルズ>の超人たちは、これまでのMCUのヒーローたちよりも遥か昔の人類創成期から、地球の行く末を見守ってきた神のような存在。マイティーソーでさえ、「ああ、あの若造かい」と言えるほどの古株なのだ。
サノス相手にあれだけ四苦八苦していたこれまでの戦いを遠くで傍観していた神様たちによる、これまで以上に時間軸やスケールが大きな物語なので、正直MCUの中で過去の話と絡ませていくのは難しい。
そんなに強い守護神たちがいたのなら、サノスに指パッチンでやられる前に助けに来てくれよとなるだろう。だが、これについては、彼らは特定の敵としか戦えないという理屈で逃げられてしまう。
新顔を一気に大量投入する戦術
だから、本作ではとりあえずMCUのことは忘れて、純粋に10人の超人たちのアクション巨編として楽しむのが正解ではないかと思う。
そういう目線でみれば、本作はなかなか面白いし、紀元前から生き続けているヒーローたちという荒唐無稽な設定にそれなりの説得力を与えるだけの絵作りもできている。
だから、「『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、始まりにすぎない」に代表される、無理にヒット作にぶら下げるようなキャッチコピーも、目障りな気がしてならない(観客動員ねらいなのだろうけど)。
クロエ・ジャオ監督は『ノマドランド』でオスカーを獲って一躍有名に。当時、MCUの最新作の監督だと知って意外に感じたが、実際観てみると、この手のジャンルでも堂々たる仕事ぶりである。
主人公のセルシが古代バビロンの村を歩く姿は、ノマドのキャンプを歩くフランシス・マクドーマンドと重なる。雄大な大自然の中に主人公たちを置いてみたり、キャスティングにもダイバーシティを感じさせたりと、随所にクロエ・ジャオらしさを見出せるようにも思える。
◇
一気に知名度の低いヒ―ローたちを大量投入し、独自の世界観の物語を見せてくれるという点では『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と近い気もする。
今後のMCUへの絡み方も、同作のようになるのかもしれない。もっとも、クロエ・ジャオはまじめ路線の監督だから、ガーディアンズのような際どいジョークは控えめだけど(ディズニー傘下だからか)。
10人の超人たちが同じようなコスチュームで、それぞれ異なる得意技や特殊能力で戦うというプロットは『X-MEN』のようでもある。
ごく簡単に内容紹介
神のごとき存在の天空族セレスティアルズの命を受け、海から現れては襲い掛かるディヴィアンツと呼ばれる怪物たちから人類を守ってきたエターナルズの超人たち。
古代の昔からの戦いで敵は全滅したかにみえ、超人たちは人間になりすまして何百年も生きているが、長い沈黙を破って、再びディヴィアンツが現れる。
各地で多様な職業につき、人間生活を送っている昔の仲間たちを一人ずつ呼び戻していくプロセスは、まるで『SUNNY 強い気持ち・強い愛』のメンバー再結成のようであり、ちょっとおかしい。
キャスティングを振り返ると、エターナルズが10人もいる一方で、敵のディヴィアンツは爬虫類系の怪物キャラなので俳優はおらず、また普通に人間の脇役キャラは、恋人やマネージャーなどごく少数で出番が少ない。
セレスティアルズも目玉が6つでまるでエヴァのリリスか巨神兵か、あるいは『20世紀少年』のともだちかみたいな不気味キャラであり、独特の雰囲気ではあるが、俳優ではない。
本作に深みが足りないとすれば、ヒーロー以外に俳優を置かなかったことが一因といえそうだ。
キャスティングはなかなかツボ
だが、10人のエターナルズたちの配役はいい。有名どころは少ないかもしれないが、個人的には昔から推してた俳優が何人も入っていて、これは嬉しい。
◇
まずは主人公のセルシ(ジェンマ・チャン)。触るものの物質を変化させる能力を持つ女性。
若い頃の水野美紀似のこの女性は、前にMCUで見覚えがと思っていたら、『キャプテン・マーベル』のミン・エルヴァ役だった(あの時は憎まれ役だったけど)。MCUも大量の作品数なので、違う役で再登場や、同じ役を別の俳優がという例はままある。
◇
セルシの元カレのイカリス(リチャード・マッデン)は目から光線を放ち空を飛ぶ、最強エターナルズ戦士。
『1917 命をかけた伝令』で主人公のお兄さん役の兵士だったのは覚えているが、なぜか映画を観ている間は、彼がセバスチャン・スタンに見えてしまい、バッキーは元々超人だったのか、と混乱した。
『X-MEN』でいうサイクロップスと同様、目からビームの男はヒロインの彼氏で主役にはなれないジンクスに従う。
ギルガメッシュ(ドン・リー)も最強パワーを誇る戦士の一人。ドン・リーって書いてるから分からなかったけど、顔みれば一目瞭然、『新感染 ファイナル・エクスプレス』のマ・ドンソクだ。
強くて気立てのよいナイスガイ。エターナルズの戦う様子は『ドクターストレンジ』の魔術師っぽいので、マ・ドンソクが、ちょっとベネディクト・ウォンのようにも見えてしまう。
個人的に嬉しかったのは、マッカリのローレン・リドロフの起用。電光石火の動きはMCUではクイック・シルバーがいたが、こちらは初の聴覚障害者ヒーローだ。
ローレン・リドロフのあの躍動感のある手話を使った演技は、『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』を初めて観た時の印象を鮮明に覚えている。同作でも活動的で輝いていた彼女だが、よもやヒーロー役までこなすとは、これは想像以上の活躍。
同じく嬉しい誤算だったのは、ドルイグ役のバリー・コーガン。不気味過ぎる少年の『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』から『ダンケルク』と、何かと不穏な空気を発する存在感。
バリー・コーガン もどうみてもヒーローキャラは不向き。だが、その彼だからこそ、善悪が見分けにくい役柄を巧みに演じる。
武器庫のような女セナにはアンジェリーナ・ジョリー。本作では一番のビッグネームか。最近では『マレフィセント』の印象が新しいためか、ディズニーっぽい配役。
今回もしょっちゅう白目剥き出しの魔女顔になってしまうのだが、なにげに強い。10年ぶりのアクション映画だとか。いつ以来だ、『ソルト』か?
◇
そのほか、ボリウッドの映画スターになっている、めっちゃ陽気なキンゴ(クメイル・ナンジアニ)と初のLGBTヒーローで男の奥さんがいる技術職人ファストス(ブライアン・タイリー・ヘンリー)。
いつまでも少女のまま成長しないティンカーベルのようなスプライト(リア・マクヒュー)。そして、これら全員を統率しているリーダーのエイジャック(サルマ・ハエック)という多種多彩な布陣である。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。
スピード感あるアクションシーン
本作の戦闘アクションは、エターナルズたちの個々人にアベンジャーズほどキャラが立っていないので(そりゃそうだ、みんな映画初参戦だから)、その分をスピード感と攻撃の破壊力で補っているようにみえた。これはこれで迫力がある。
◇
敵キャラはみんな名もなき怪物たちなので印象は薄いが、それでも双方攻撃は多彩で飽きさせない。
冒頭、エターナルズたちが次々と初登場しては異なる攻撃を仕掛けてくるあたりは、まるでライダーか戦隊ヒーローもののシリーズ初回放映のようなワチャワチャ感があって面白い。
さて、本作の中盤からの衝撃告白には、結構驚かされた。ここから先は、未見の方にはまず劇場で驚かれることをお勧めします。
エターナルズたちは、なぜ死なずに何世紀も生きていられるのか。もともと生きていないからだという。生きていないから死なない。
では、そんな彼らを動員して、なぜセレスティアルズは地球人類をディヴィアンツから守っているのか。
「地球滅亡まで、あと7日」という宣伝文句になっているが、そこで起きることは、セレスティアルズが仕掛けた新たなる生命の種の<出現>なのである。
そしてその成長に欠かせない餌となるのが知的生物。大量に人口を増やした人類はその食料源となるのだ。エターナルズたちが人類の成長を見守っていたのは、この目的のため。彼らは救世主ではなく、殺戮者だった。
いや、すごい話になってきた。サノスが指パッチンで人口を半減させたときは、エサが足らなくなってしまったので、新しい種の出現を遅らせることになりかけたというではないか。
人類はどこまでツキがないのだ。サノスを倒し人口が戻れば、新種の出現が早まる。
◇
はたして、その事実を前にして、エターナルズたちはどう動くのか。誰が敵で、誰が味方か。この辺の人物像の描き分けは、なかなか見応えがあった。ロキでもいれば、裏切るのは彼だろうとすぐ分かるのに、本作では見当がつかない。
というわけで、本作はMCUフェーズ4といいながら、MCUを忘れて独立した作品として楽しむべき作品なのである。
エンドロール前後にいつものように挿入するMCU定番の次回作への匂わせも、今回は不要だったと思う。せっかくきれいに終わったのになあ(そうでもないか)。