『ザ・クリエイター 創造者』
The Creator
ギャレス・エドワーズ監督が描く、人間とAIとの戦いは、想像と一味違う
公開:2023年 時間:133分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ギャレス・エドワーズ
キャスト
ジョシュア・テイラー:
ジョン・デヴィッド・ワシントン
アルファ・オー/ アルフィー:
マデリン・ユナ・ヴォイルズ
マヤ・テイラー: ジェンマ・チャン
ハウエル大佐: アリソン・ジャネイ
ハルン: 渡辺謙
ドリュー: スタージル・シンプソン
オムニ/ブイ軍曹:アマル・チャダ=パテル
シップリー: ロビー・タン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
2075年、人間を守るために開発されたはずのAIが、ロサンゼルスで核爆発を引き起こした。
人類とAIの存亡をかけた戦争が激化する中、元特殊部隊のジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、人類を滅亡させる兵器を創り出した「クリエイター」の潜伏先を突き止め、暗殺に向かう。
しかしそこにいたのは、超進化型AIの幼い少女アルフィー(マデリン・ユナ・ヴォイルズ)だった。ジョシュアはある理由から、暗殺対象であるはずのアルフィーを守り抜くことを決意する。
今更レビュー(ネタバレあり)
人類VS人工知能
『GODZILLA ゴジラ』で知られるギャレス・エドワーズ監督によるAIと人類との戦争を描いたSFアクション。
『スターウォーズ』のスピンオフ企画『ローグ・ワン/ スター・ウォーズ・ストーリー』も彼の監督作だ。私はSWシリーズ全作の中で、戦う者の儚さや虚しさがしっかり描かれている、この作品が一番好きだ。相当変わり者かもしれない。
『ザ・クリエイター 創造者』も根底に同じ匂いを嗅ぎ取ることができる。だから、つい好意的に観てしまう。
◇
冒頭の背景説明が秀逸だ。古いニュース映像のような粗い画質で、ロボット共存の明るい未来が映し出される。掃除や家事から始まり、手術や危険作業、戦闘行為など、時間の流れとともに高度化していくロボットたち。
だが、10年前にLAで核爆発が起き大勢の人間が亡くなった。AIの仕業だ。そこから西洋諸国はAIを禁止したが、ニューアジアではAI開発を継続。シュミラントと呼ばれる人間のコピーと共存し、AIの恩恵を享受しながら生活していた。
2065年、西洋と東洋、人類とAIの間で戦争が続く中、米軍は<ニルマータ>と呼ばれるAIの設計者であり神のような存在を抹殺すべく、潜入捜査官ジョシュア・テイラー(ジョン・デヴィッド・ワシントン)をニューアジアに送り込んでいた。
彼は潜入先で情報を持っているとみられるマヤ(ジェンマ・チャン)に近づき結婚。彼女は妊娠していたが、米軍の攻撃で身籠ったまま死んでしまう。ここまでがアヴァンタイトル。言葉にすると複雑に見えるが、映画では分かりやすく伝えてくれる。
そして5年後、LAには巨大なグラウンドゼロが広がっている。未来都市の造形が素晴らしい。米軍には上空からAIを攻撃する最強兵器ノマドがあるが、ニルマータはそれを破壊できる兵器アルファ・オーを作ったという。
米軍は、敵地の内情に詳しいジョシュアに「マヤがまだ生きているらしい」という情報をちらつかせ、ニルマータ暗殺とアルファ・オー破壊のミッションに参加させる。
人類とAI、どちらでもいい
ジョシュアは潜入先の敵の女マヤを愛してしまい、子どもまで作ったが、自軍にその家族を殺されてしまう。もはや人類とAIのどちらが勝とうが関心はないが、マヤがまだ生きているという情報だけを頼りに、妻の消息を探す。
噛み砕いて言えば、そういう話だ。
◇
AIと人類の戦争への恐怖は日に日に現実性を帯びているが、映画の中では『ターミネーター』に代表されるように、大抵AIが悪者となっている。だが、興味深いことに、本作ではAIはけして自発的に人間を襲おうとはしない。
そのため、米軍が完全な憎まれ役として描かれている。ニューアジアの舞台のせいもあり、これはベトナム戦争、もっと言えば『地獄の黙示録』を意識した絵になっている。

人間である主人公が敵陣の異性を愛してしまうことや、米軍が諸悪の権化である描き方は、まるで『アバター』ではないか。ロボット相手に攻撃しまくるハウエル大佐(アリソン・ジャネイ)も、『アバター』に出てきた不死身の鬼軍曹とよく似ている。
◇
ジョシュアが敵の基地内の密封された部屋から救出したのは坊主頭の少女(ずっと男の子だと思ってた)。アルフィーと名付けたその子供(マデリン・ユナ・ヴォイルズ)こそ、AIの最終兵器アルファ・オーなのだ。
その子供を殺せという軍の命令に背き、ジョシュアは子連れでニューアジアの繁華街に逃げ込んでいく。
多数作品にオマージュありまくり
このアルフィーは、機械の電源だとか通信だとかを自在に操る力を持っている。そういう超能力めいた才能をもつ児童が大きな子供部屋のような独房にいるのって、まるで大友克洋の『AKIRA』だよ。
米軍が大量のロボットを殺戮したりプレス機にかけたりするのは、『第9地区』のエイリアンへの処遇に近い。
そう書くとこの作品は、さも、いろんな人気作からのいいとこ取りで成立している二番煎じの作品のように思われそうだ。だがそれはオマージュであって、模倣ではない。

アストラッド・ジルベルトやドビュッシー、レディオヘッドといった音楽の選び方にも独特のこだわりがありそうで、なかなか効果的。
ギャレス・エドワーズ監督の日本への愛情も多分に感じられる。
タイトルやエンドロールに使われる、江戸文字フォントはじめ、随所に日本語が登場するし(基地内のドアに「核」と大きく書かれたフォントデザインもクールだった)、未来化した渋谷も舞台になっている。
日本語のネオンや街頭ビジョン、そして高層ビルの夜景の組み合わせは、『ブレードランナ―』を意識したものだろうが、案外、後継者の『ブレードランナー2049』より出来がいいかも。

天国で待ってるよ
主人公のジョシュア役には『TENET テネット』の名もなき男、ジョン・デヴィッド・ワシントン。妻マヤ役にはMCU映画『エターナルズ』で主役扱いだったジェンマ・チャン。
でも、映画的に一番インパクトがあったのは、アルフィー役の少女マデリン・ユナ・ヴォイルズかな。もうお年頃になっているのだろうけど。
AIの組織を束ねているハルンを渡辺謙が演じているのは『GODZILLA ゴジラ』の縁なのだろう。

彼の渋い演技には何の不満もないのだが、ハリウッドでこういう役をやる日本人俳優というと、まず渡辺謙か真田広之になってしまうので、ちょっと新鮮味がないというのが正直な感想。
◇
さて、米軍を敵に回して、アルフィーとともにマヤを探すジョシュア。
「マヤこそが、探していたニルマータだった」というのは薄々初めから気づいていたが、アルフィーはAIだからさすがにジョシュアとマヤの子ではないだろう。
そう思っていたら、なんとマヤは生前、子どもをコピーしてアルフィーを創造していた。
そうなると、もうジョシュアとアルフィーは父子の関係。
ついに発見したマヤの生命維持装置を止めて植物人間から解放したり、宇宙から我が子を地上に脱出させて、「天国で待ってるよ」とジョシュアが帰らぬ人となったり、終盤は感動テンコ盛りで忙しい。
よく出来てはいるが、この時間内ではやや詰め込み過多の感あり。舞台を宇宙まで持っていくのは、やや風呂敷を広げ過ぎたか。
結局、LAの核爆発も人間の作業ミスで、AIに罪をなすりつけたというではないか。AIよりも人間の方が恐ろしいというメッセージは明確に伝わった。