『ヘルドッグス』考察とネタバレ|准一も坂口もどうにもヘルドッグ、Wow

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『ヘルドッグス』 
Hell Dogs: In The House Of Bamboo

原田眞人監督との三度目のタッグで岡田准一が演じるのは潜入捜査官。バディはサイコ野郎の坂口健太郎。

公開:2022 年  時間:138分  
製作国:日本
  

スタッフ  
監督・脚本:     原田眞人 
原作:        深町秋生
   『ヘルドッグス 地獄の犬たち』
キャスト 
兼高昭吾/出月梧郎: 岡田准一 
室岡秀喜:      坂口健太郎 
吉佐恵美裏:     松岡茉優 
十朱義孝:      MIYAVI 
土岐勉:       北村一輝 
熊沢伸雄:      吉原光夫 
三神國也:      金田哲 
お歯黒:       吉田壮辰 
番犬:        村上淳 
阿内将:       酒向芳 
衣笠典子:      大竹しのぶ 
俵谷一房:      田中美央 
勝所杏南:      木竜麻生 
ルカ:        中島亜梨沙 
佐代子:       赤間麻里子

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)2022「ヘルドッグス」製作委員会

あらすじ

愛する人が殺される事件を止められなかったことから闇に落ち、復讐のみに生きてきた元警官・兼高昭吾(岡田准一)。その獰猛さから警察組織に目をつけられた兼高は、関東最大のヤクザ「東鞘会」への潜入という危険なミッションを強要される。

兼高の任務は、組織の若きトップ・十朱(MIYAVI)が持つ秘密ファイルを奪取すること。警察はデータ分析により、兼高との相性が98%という東鞘会のサイコパスなヤクザ・室岡秀喜(坂口健太郎)に白羽の矢を立て、兼高と室岡が組織内でバディとなるよう仕向ける。

かくしてコンビを組むことになった二人は、猛スピードで組織を上り詰めていく。

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レビュー(まずはネタバレなし)

岡田准一と坂口健太郎のバディ

岡田准一潜入捜査官もののバディムービーをやるって、誰と組むのよ? 坂口健太郎! 正直、意外なキャスティングであったが、劇場予告を観ただけで、期待値があがる。

いつも見慣れたスリムで繊細そうで優しい顔立ちの坂口健太郎とは違う、鍛えあげた肉体で攻撃的なサイコパス野郎!

おお、さすがは原田眞人監督、そこらのアクション映画とは気合いの入れ方が違う。なんでも、監督デビュー以来、潜入捜査官のカッケー映画を撮ることは監督の悲願だったとか。

(C)2022「ヘルドッグス」製作委員会

そこにきて『関ケ原』(2017)、『燃えよ剣』(2021)と原田監督作品に主演してきた岡田准一と、ついに三度目のタッグで現代劇アクションに挑む。

前作では自身の土方歳三関連の殺陣をつけていた岡田准一が、本作ではファイトコレオグラファーとして格闘デザインを担当。

彼が格闘技をアピールしだしたのは『フライ, ダディ, フライ』(2005、成島出監督)あたりからだと思うが、ここまで本格的にアクションを自ら振り付ける俳優になってしまうとは、想像できなかったなあ。

(C)2022「ヘルドッグス」製作委員会

そして今回原田組に初参加の坂口健太郎。その演技の弾けっぷりは、原田監督岡田准一らと一緒に映画が作れる嬉しさに満ち溢れているようで、観ている方も盛り上がる。

原作は深町秋生の警察小説。想像よりも映画は原作に忠実だった。映画と同様のアクションを文字で表現できているのは深町秋生の筆力なのだろう。

歌舞伎町の交番で兼高が昔の名前で同僚に呼ばれるところや、いきなり十朱に撃たれるところなど、映画オリジナルの良さもあれば、原作の方が過激に書かれている場面もあり、どの順番でも両方楽しめることは請け合い。

潜入捜査の過酷なミッション

冒頭、タトゥーだらけの身体で世捨て人のような無精ヒゲの岡田准一。一人ずつ獲物を見つけ出しては息の根を止めて回っているように見える。

そして新宿交番詰めの警官・出月梧郎の回想シーン。ヒゲのない岡田准一制服警官姿には、『恋する惑星』(ウォン・カーウァイ監督)のトニー・レオンのような爽やかさがある。

だが、彼が好意を寄せていたスーパーのバイトの女子高生が、店内でマッド・ドッグを名乗る連中に射殺される。自分なら防げたはず。自責の念にかられた彼は闇に落ち、犯人たちを全て始末し、復讐を果たす。

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そんな彼に目を付けた警察の裏組織のエースである阿内(酒向芳)は、兼高昭吾という名前を与えて暴力団「東鞘会」への潜入を強要する。

兼高の任務は、組織の若きトップ・十朱(MIYAVI)が持つ秘密ファイル奪取。そのために、データ分析で相性の良さが顕著な、東鞘会のサイコパスなヤクザ・室岡(坂口健太郎)に近づく。

なんとも強引な展開の序盤であるが、コンビを組んでから戦い方をあれこれ兼高に教わる室岡との師弟関係があまりに仲良さそうで、男の色気が漂いまくる。アクションは過激で速い。

『ザ・ファブル』では<殺さない殺し屋>だった岡田准一が、ここではその反動のように殺しまくる。日本人離れした激しさの二人のアクションと、国内ロケながらどこかハリウッドの監督が撮ったような、原田眞人監督らしいロケ地やセットの世界観がマッチする。

その他のキャスティング

主演の二人以外のキャスティングも華がある。組織の若きトップ、インテリヤクザの十朱MIYAVI。本業はサムライギタリストだが、このひとは、役者としても存在感があるしセクシーだ。

ただ、今回の役は『ギャングース』(2018、入江悠監督)と似ているなあ。兼高たちにリングの上で防弾ジョッキ着用を命じ、いきなり発砲する派手なアクションも、どこかMIYAVIだとサマになる。

(C)2022「ヘルドッグス」製作委員会

そして十朱に仕える東鞘会三羽烏の一人、漢気ヤクザの土岐北村一輝。兼高たちのボスでもある。映画化もされたドラマ『シグナル 長期未解決事件捜査班』のファンには、時空を越えて北村一輝坂口健太郎と向き合っているだけで感動できる。

同作や福山雅治『ガリレオ』では刑事役だった北村一輝だけど、やっぱ本作を観ると極道の人だわ。

(C)2022「ヘルドッグス」製作委員会

それにしても、本作と同日公開のガリレオ新作『沈黙のパレード』で、北村一輝、酒向芳、村上淳という三人もの俳優の出演がかぶるというのは、ただの偶然なのだろうが、ちょっとどうかと思う。役者にも監督にも罪はないが、売れてる俳優にオファーが偏りすぎてやしないかい。

まあ、本作で警察のエース役の酒向芳は、鼻のもがれたヤクザ幹部・大前田役の大場泰正や、リーゼントのヤリ手ババア佐代子役の赤間麻里子ともども、原田眞人監督作品の常連なのだけれど。

ちなみに北村一輝酒向芳は、本作と『沈黙のパレード』とで全く逆の組み合わせの役を演じている。その演技も合わせて、見比べてみると面白い。

(C)2022「ヘルドッグス」製作委員会

その他、東鞘会の土岐の愛人を演じた松岡茉優と、兼高が常連で通うマッサージ師大竹しのぶは、いずれも演技派女優の怪演がみられ、なかなか楽しい。

そしてホステス役の中島亜梨沙も、元宝塚歌劇団の娘役スターとは思えない体を張った演技で、少ない出番ながらインパクト大。

東鞘会の三羽烏で十朱会長の秘書役の熊沢役に吉原光夫。こちらは元劇団四季『レ・ミゼラブル』のジャン・ヴァルジャンだ。身のこなしやイタリア語でオペラを歌いあげるシーンなど、このひとならではのハマリ役だった。

組織内でどっしり構える熊沢と対照的に、東鞘会のインテリチキンこと憎まれ役の三神を演じた金田哲(はんにゃ)もいい感じ。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

潜入捜査とアクション

シーンの流れや役者の緊張感を重視する原田眞人監督の映画では、ワイヤーアクションなどは採り入れず、あくまでリアルな動きと間合いで魅せる格闘が基本のようだ。

その意味では、劇場予告などで度肝を抜くようなキャッチ―な場面は少ないが、いざ本編中には、全体の流れや勢いを削がない、迫力のあるアクションが堪能できる。

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これだけ腕の立つ潜入捜査官の兼高が、組織を飛び出して逃げてしまわないのかというと、殺された女子高生や同じ事件の遺族たちに、足長おじさんのようにまちまった資金を定期的に送ってあげているから、警察からの報酬が必要なのだろう。

ジョン・カーペンターだったら、小型爆弾を頭の中に埋め込んでしまい、逆らえないようにしてしまいそうだが、強制的に働く設定では、兼高の純情キャラが生きてこないということか。

そんな兼高を兄貴のように慕う室岡。だが、ふとしたことをきっかけに、兼高の正体に気づく。

<60秒予告>映画『ヘルドッグス』9月16日(金)全国公開

警察内部の極秘情報の入ったデータファイルを持っている十朱。それを持っている限り、警察は手が出せない。まるで『孤狼の血』(白石和彌監督)に出てくるような設定だが、そこに潜入捜査官ものがからんでくるとは贅沢なつくりである。

この分野には燦然と輝く香港警察ノワールの傑作『インファナル・アフェア』があるが、それに比較すると、終盤で潜入捜査のイヌが何匹も出てくるところに少々できすぎ感が否めない。

とはいえ、男の色気は十分の本作。坂口健太郎新境地といえる狂犬ぶりを見るだけでも、大いに価値がある。