『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』
Mission: Impossible – Rogue Nation
回を追うごとに面白味が増していくミッション・インポッシブル。チームプレイも段々と定着。本作より登場の女スパイ・イルサに注目!
公開:2015 年 時間:131分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: クリストファー・マッカリー キャスト イーサン・ハント: トム・クルーズ ブラント: ジェレミー・レナー ベンジー: サイモン・ペグ ルーサー: ヴィング・レイムス イルサ: レベッカ・ファーガソン ソロモン・レーン: ショーン・ハリス ハンリー長官: アレック・ボールドウィン アトリー長官: サイモン・マクバーニー 英国首相: トム・ホランダー ヤニク・ヴィンター: イェンス・フルテン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
スパイ組織IMFの敏腕エージェント、イーサン・ハントは、各国の元エリート諜報部員が結成した無国籍スパイ組織<シンジケート>の正体を追っていた。
一方、ハントらの行き過ぎた活動を問題視したCIA長官アランによってIMFが解体されてしまう。
組織の後ろ盾を失ったイーサンはIMFのIT担当だった盟友ベンジーをウィーンに呼び寄せ、また謎の女性イルサと手を組みながら、<シンジケート>の陰謀を阻止しようとする。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
今回の任務だが、いつもとは少々違う
前作『ゴースト・プロトコル』から新メンバー(というか上司)にブラント(ジェレミー・レナー)も加わり、アヴァンタイトルからチームワーク十分のスタントアクション。
神経ガスの兵器輸送計画を阻止するつもりが、飛行機は離陸してしまい、無謀にも機体にしがみつくイーサン。マジメに体を張っていながら、それで笑いも取りに行く姿勢が、また一歩ジャッキー・チェンに近づく。
古びたレコード店でいつものように指令を聞くイーサン、ターゲットは<シンジケート>と名乗る無国籍スパイ組織。だが、今回は壊滅しなくてよいと、耳を疑うことを言う。なぜなら我々がシンジケートだから。
そう、このIMFのアジトは敵の手に落ちていたのだ。拉致されてしまうイーサン。こんな導入部分は見たことがない!
◇
捕まったイーサンを囲む男たち。拷問しかける、死んだはずの諜報部員、ボーン・ドクター(イェンス・フルテン)、だが、敵の一味と思しき女が攪乱しイーサンを救出する。
彼女はイルサ・ファウスト(レベッカ・ファーガソン)。レコード店でイーサンを拉致したメガネの男・ソロモン・レーン(ショーン・ハリス)の部下になりすまし、シンジケートに潜入しているMI6のエージェントなのだ。
ならずもの国家(ローグ・ネイション)
『ユージュアル・サスペクツ』の脚本家として高い評価を得たクリストファー・マッカリー監督だけあって、本作は脚本の出来が良い。
また、トム・クルーズとは『アウトロー』や『ワルキューレ』・『オール・ユー・ニード・イズ・キル』でも組んでいて、彼からの信頼も厚いようだ。
◇
シンジケートなど架空の組織で、これまでも各国で無茶ばかりやってきたIMFは、まるでならず者国家(ローグ・ネイション)であり、解体すべきだと提唱するCIAのアラン・ハンリー長官(アレック・ボールドウィン)。
それに従わざるを得ないブラントと、指名手配で雲隠れするイーサン。
だが、半年かけた単独行動で、イーサンはシンジケートこそ、死亡や行方不明の諜報部員を集めたローグ・ネイションだと突き止める。
イーサンを助けた後も、イルサの行動は謎めいた部分が多く、オペラハウスでオーストリア首相を狙撃しようとし、敵なのか味方なのか判然としない。
敵のデータを盗みに、厳重に警備されたデータセンターに侵入するのは毎度おなじみだが、マスクや生体認証だけでなく歩き方が違うと撃たれてしまうゲートや、観ている方が苦しくなる3分間息を止めての水中タンクでの認証データ差し替え作業など、新機軸も忘れない。
ジェームズ・ボンドへの挑戦状
トム・クルーズが文字通り命がけで臨むアクションが、作品の売りであることは本作でも変わらない。
冒頭の軍用機の主翼歩きから離陸中のドアぶら下がり、オペラハウスの舞台装置を活用した格闘や、猛スピードのノーヘル・バイクアクション、どれもこれも見応え十分。トム・クルーズがこのシリーズに注ぐ情熱の高さは揺るぎない。
◇
ダニエル・クレイグのボンドがあえて封印してきたスパイヒーローの軽妙さ(涼しい顔して危険行為をこなす)が本作にはほど良く散りばめられ、久々に楽しめる。
イルサが突如ビキニ姿で登場する雰囲気はボンド・ガールを彷彿とさせるし、ベラルーシからロンドン、ハバナ、ウィーン、モロッコと目まぐるしく世界を飛び回るスタイルも007の向こうを張る。
また、オペラハウスで特定の音符の場面を待ちクラリネット改造銃で狙撃するあたりは、ヒッチコックの『知りすぎていた男』を思わせる。
潜入スパイの悲哀
MI6のアトリー長官(サイモン・マクバーニー)は、イルサをシンジケートに潜入させた事実を隠蔽しており、彼女は戻る祖国もなく長官の非情な命令に従うほかはない。
まるで『インファナル・アフェア』のトニー・レオンだ。このイルサの持つ悲劇性が、本作をただの活劇ものから、感情移入できるドラマへと引き上げる。
◇
終盤でベンジー(サイモン・ペグ)がレーンに拉致されてしまい、イーサンはUSBメモリーとの交換取引の場に現れる。
いつもおちゃらけキャラのベンジーが、衣服の下に爆弾を装着させられ、レーンの指示通りに発言する様子が怖い。一方イーサンは事前にメモリーを破壊し、データを全て自分の頭に記憶している。俺を殺せば、データはないぞ。
このあとのイルサも交えた銃撃戦は華々しいが、レーンを強化ガラスで囲った落とし穴に閉じ込め麻酔ガスで眠らせる結末は、冒頭のレコード店の意趣返しであり、なかなかいい。
トム・クルーズと組むときはいつも、時間に追われて撮りながら脚本を作っていくそうで、このラストも途中でひらめいたものだとか。
◇
作りながら考えていくことの影響なのか分からないが、本作はMI6とシンジケート、レーンやイルサの相関関係が適度な複雑さで、あまり理解に苦しまずにすんだのが嬉しい。イルサが敵か味方かという点に、うまく関心を絞れるような作りになっているためだろうか。
次作の『フォールアウト』も同じくクリストファー・マッカリーの監督・脚本で、どちらも面白い作品ではあるが、こと脚本に関しては、本作に比べるとあちらはひねり過ぎの感がある。
私を愛した(けれど浮気はしない)スパイ
結局、レーンは殺されず、イルサはMI6から解放され、それが次回作に繋がっていくことになる。
イーサンは水中タンクで溺死寸前のところを人魚姫のようにイルサに救われたこともあり、二人がこのまま恋に落ちてもおかしくない雰囲気十分。
ではあるが、そこは長年忘れられない離れた妻・ジュリア(本作には登場しないけれど)の存在があるので、このギリギリな感じでの別れでよいのだ。
IMFは自作自演のならずもの国家ではなかった。MI6のアトリー長官が、自作自演でシンジケートを作り、レーンと手を組んでいたのだ。
本作では一番卑劣な役回りのアトリー。演じるサイモン・マクバーニーはル・カレの『裏切りのサーカス』ではMI6のもっと下っ端役だったから、とても長官には見えない。
英国首相(トム・ホランダー)は何だか立派な役でずるいなあ。オーストリア首相は、すぐに殺されちゃって可哀想なのに。
◇
CIAのハンリー長官は、イーサンによってこの手柄をもらい、「敵を欺くためにIMF無用論を提唱していた」と言わざるを得ず、皮肉にもIMF長官に迎え入れられる。ハンリー長官はなかなか憎めないキャラなので、ぜひ長生きしてもらいたいものだ。
『ミッション:インポッシブル』
M:I-1 (1996)
『ミッション:インポッシブル2』
M:I-2 (2000)
『ミッション:インポッシブル3』
M:I-3 (2006)
『ゴースト・プロトコル』
M:I-4 (2011)
『ローグ・ネイション』
M:I-5 (2015)
『フォールアウト』
M:I-6 (2018)
『デッドレコニング PART ONE』
M:I-7 (2023)