『ラ・ラ・ランド』 今更レビュー:レインボーブリッジも封鎖できない日本では、とても撮れないミュージカル

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『ラ・ラ・ランド』 La La Land

それは、夢の国LAに生まれたひとつのラブストーリー。ミュージカル映画を愛する全てのひとに、デミアン・チャゼル監督が贈る傑作。

公開:2017 年  時間:128分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督: デイミアン・チャゼル
音楽: ジャスティン・ハーウィッツ
キャスト
セブ:   ライアン・ゴズリング
ミア:   エマ・ストーン
キース:  ジョン・レジェンド
ビル:    J.K.シモンズ
<ミアのルームメイト>
トレイシー:キャリー・ヘルナンデス
アレクシス:ジェシカ・ローテ
ケイトリン:ソノヤ・ミズノ


勝手に評点:5.0
(何をおいても必見)

(C)2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

あらすじ

オーディションに落ちて意気消沈していた女優志望のミア(エマ・ストーン)は、ピアノの音色に誘われて入ったジャズバーで、ピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と最悪な出会いをする。

そして後日、ミアは、あるパーティ会場のプールサイドで不機嫌そうに80年代ポップスを演奏するセバスチャンと再会。初めての会話でぶつかりあう二人だったが、互いの才能と夢に惹かれ合ううちに恋に落ちていく。

今更レビュー(ネタバレあり)

渋滞の高速道路ダンスにはや興奮

映画愛、ミュージカル愛、そしてジャズ愛に満ちた作品は、見るたびに元気を与えてくれる。

ロサンゼルスのハイウェイを借り切って撮影されたという冒頭の渋滞のクルマの列の中で若者たちが<Another Day of Sun>を歌い踊るシーン。

照りつける西海岸の陽光にキレのいいダンス、ビートの効いた音楽に、バンの荷室が開いて登場するリズムセクションのバカらしさと陽気さ。

いやもう、のっけから興奮全開! 曲がキレイに終わってタイトル登場。早くも、ここで拍手したい。

スタジオのカフェでバイトしながら女優を目指しオーディションに挑戦し落ち続けるミア(エマ・ストーン)と、ジャズにぞっこんのピアニストで由緒あるライブハウスの再建を夢見るセブ(ライアン・ゴズリング)

冒頭のハイウェイではクラクションに中指立てて応酬した見知らぬ二人だったが、セブが演奏するジャズバーで鉢合わせ。だが、演奏を褒めようとしたミアに肩をぶつけ出ていくセブ。

勝手な選曲で演奏し支配人(J・K・シモンズ)から解雇されたところだったのだ。『セッション』に続き、シモンズは厳しい上司役だ。

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夕暮れ時のタップダンスに酔う

そんな二人が再度顔を合わすのはプールサイドのパーティ。女優目指してネットワーキングするミアは、a-ha<Take on Me>を演奏するバンドのキーボードがあのピアノマンだと気づく。

こうして、始めは互いを毒づき合っていた二人だが、映画女優とジャズの店というそれぞれの夢を追ってLAで頑張っている者同士、次第に惹かれ合っていく。

夕焼けを前に<A Lovely Night>を歌い踊る二人がロマンティック。恋愛ミュージカルなのだから、ミアとセブが好き合っていくのは当たり前か。

当時ミアにはボーイフレンドがいて、その家族とのディナーを放り出して、映画館で彼女を待つセブのもとへ全力疾走! ああ、青春と音楽がシンクロする。

映画の中のジェームス・ディーンと同じくグリフィス天文台に向かった二人が、プラネタリウムの空中でダンスするのは、ちょっと甘美すぎる演出な気はしたけれど。

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ザッツ・エンタテインメント!

本作では、会話の途中で歌い出したり踊り出したりして、物語の流れを削ぐような演出は少なく、ミュージカルシーンはとても自然に差し込まれている。ミュージカル映画としては、普通のドラマ部分の比重が多いのかもしれないが。

ビビッドな色彩設計、ダンス、音楽、どれも美しいシーンばかりだ。アステア&ロジャース、ジーン・ケリーといったMGMミュージカルや、ミシェル・ルグランとジャック・ドゥミにみられるフランスっぽいミュージカル作品、そしてMTVのような演出。

本作は映画のあちこちに、いろいろなミュージカルの影響を感じ取れる。これはけして模倣ではなく、ミュージカルをこよなく愛するデイミアン・チャゼル監督が、これらの傑作にオマージュを捧げながら、現代版のミュージカルとして昇華させたものだと思う。

本ページの情報は2021年9月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。

公開当時、アカデミー賞史上最多タイの14ノミネート、そしてゴールデングローブ賞は歴代最多7部門受賞、その他受賞は数知れずという圧巻の評価。

デミアン・チャゼル監督、当時30歳そこそこのまだ若手監督だというのに、恐るべき才能。そもそもここまでのステップに無駄がない。

高校時代に熱中したドラムの経験が、出世作となる『セッション』を生み出し、そのヒットによりハーバード在学中から温めていた本作の実現に漕ぎつける。

しかも、本作の叙情的な音楽を受け持つジャスティン・ハーウィッツは大学のクラスメートだというではないか。

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恋人には夢を諦めないでいてほしい

エマ・ストーンの大きな瞳の放つ眼力と、それにぶつからないように引きの演技のライアン・ゴズリングの組み合わせが何ともよいバランス。『ラブ・アゲイン』で共演していたときは、特に思わなかったけど。

ミアは、一生懸命に台詞を暗記してはオーディションに臨むものの、ろくに演技も見てもらえず落選続きの厳しい世界。脚本から演出まで独力で仕上げた一人舞台も散々な結果に終わり、夢破れて故郷に戻る。

一方のセブも、「今更ジャズかよ」と石塚真一のコミック『ブルージャイアント』に出てきそうな苦境で生活のために、友人キース(ジョン・レジェンド)の全米ツアーメンバーに加わる。

自分とは合わない音楽だが皮肉にもヒットし、二人は一緒に過ごすことも少なくなる。

いつの間にか店を持つ夢を忘れたようにツアーを続けるセブを責めるミア。だが、彼女の方が、先に女優を諦めて帰省してしまう。

そんな彼女に、ついにチャンスが巡ってくる。女優業のオファーの電話を受けて、オープンカーで彼女の実家に乗り付けるセブは、まるで『ドライヴ』の主人公のよう。

デートの待ちぼうけも電話の取次ぎも、携帯やSNSのない時代だからこその映画的な出来事。セブもまた、ミアに夢を諦めてほしくないのだ。

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ここから更にネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

考えてみれば、このエンディングしかない

野暮は承知で、少しだけ終盤の展開について触れたい。この流れなら当然最後はハッピーエンドかなと思っていたが、なかなかどっちつかずの展開でハラハラする。

あれから5年が経過し、パリで成功を収めたのか、ミアは今や売れっ子女優になっており、大きな家には夫のデヴィッド(トム・エヴェレット・スコット)と小さな娘がいる。

車が渋滞にはまり、夫婦で予定を変更し、たまたまふらっと立ち寄ったクラブには、昔彼女がセブのために作った店の名前のロゴ。そして運命の再会。

店の前の壁面に大きくミアの舞台の広告が貼られていたから、当然彼女の活躍をセブは知っている。けれど、念願の店を開店しても連絡はしない男の美学

ここまでの話の持っていき方と、ステージでのセブの演奏を聴きながらミアが回想と妄想とりまぜていろいろ思い出すシーンの、なんとも混沌とした感じがよい。

ファンタジー感に溢れているし、個人的には強面のオーナー(J・K・シモンズ)が急にお茶目になるギャップが好きだ。

でも、全ては幻想。隣りの席には優しい夫がいて、ミアには帰るべき家がある。セブにも、立派に立ち上げたこの店がある。

二人とも、それぞれが追いかけていた夢を実現させたのだ。ただ、そのために大切なものをひとつ手離してしまった

再会してもまったく言葉は交わさず、遠くから見つめ合い、ほんのかすかに微笑み合う二人。邦画だったら、ここでメチャクチャに説明的な台詞を挟むに違いない。

でも、饒舌なミュージカル映画でも、ここぞというシーンは無言なのである。さすが、デイミアン・チャゼル。これぞほろ苦い大人の恋。