『水は海に向かって流れる』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『水は海に向かって流れる』考察とネタバレ|そこは令和の<めぞん一刻>

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『水は海に向かって流れる』

シェアハウスを舞台にした田島列島の原作コミックを前田哲監督が広瀬すず主演で映画化。

公開:2023 年  時間:123分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:          前田哲
脚本:         大島里美
原作:         田島列島
         『水は海に向かって流れる』
キャスト
榊千紗:        広瀬すず
熊沢直達:       大西利空
歌川茂道:       高良健吾
泉谷颯:        戸塚純貴
泉谷楓:        當真あみ
榊謹悟:        勝村政信
熊沢達夫:      北村有起哉
高島紗苗:       坂井真紀
成瀬賢三:       生瀬勝久


勝手に評点:3.0
 (一見の価値はあり)

(C)2023映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 (C)田島列島/講談社

あらすじ

高校に入学した直達(大西利空)は、通学のため叔父・茂道(高良健吾)の家に居候することに。しかし最寄り駅に迎えに来たのは、見知らぬ女性・榊さん(広瀬すず)だった。

しかも案内されたのはシェアハウスで、会社員の榊さん、親に内緒で会社を辞めマンガ家になっていた叔父の茂道、女装の占い師・颯(戸塚純貴)、海外を放浪する大学教授・成瀬(生瀬勝久)ら、くせ者ぞろいの住人たちとの共同生活が始まる。

いつも不機嫌そうだが気まぐれに美味しいご飯を振る舞ってくれる榊さんにいつしか淡い思いを抱くようになる直達だったが、彼と榊さんの間には思わぬ過去の因縁があった。

レビュー(まずはネタバレなし)

シェアハウスを舞台にしたドラマで広瀬すずが主演というから、群像恋愛ドラマのたぐいかと想像したが、ちょっと違った。そもそも、この家には恋愛にからみそうな住民は限られている。

原作は田島列島による同名コミック。監督は『ロストケア』前田哲

この手のひとつ屋根の下に多種多様な住民が暮らす設定は、昭和世代なら高橋留美子『めぞん一刻』だったりあだち充『陽あたり良好!』などでお馴染みだが、かつて下宿と呼ばれたものがシェアハウスとなっている

原作コミック未読なので映画単体でのレビューとなることをお断りしておく。

映画は冒頭、夜の雨降る駅前に降り立つ高校生の熊沢直達(大西利空)を、傘を持った初対面の女性が迎えに来る。彼女が榊千紗(広瀬すず)

(C)2023映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 (C)田島列島/講談社

直達は進学した高校に近いことから、叔父の茂道(高良健吾)の家に居候させてもらう予定だった。だが、茂道は脱サラしてニゲミチなるペンネームで漫画家になっており、この不思議なシェアハウスで暮らしていた。

そこには、千紗のほか、女装の占い師・泉谷颯(戸塚純貴)や海外を放浪する大学教授・成瀬(生瀬勝久)らが暮しており、直達も晴れてその同居人のひとりとなる。

下宿に魅力的な女性が住んでいたら、主人公が恋心を抱いてしまうのは下宿ドラマのお約束なわけで、高校生の直達も当然ながら榊さんに淡い思慕を抱いてしまう。

別に彼女がつっけんどんでフレンドリーでなくたって構わない。いや寧ろ、そこにミステリアスな魅力を見出してしまったのかも。

(C)2023映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 (C)田島列島/講談社

一方で、占い師・颯の妹・(當真あみ)は直達のクラスメイトで、捨て猫を買い始めたことをきっかけに、彼に好意を寄せていく。

ここに一応青春ラブコメ風の要素はあるが、実はそれよりも大きな仕掛が本作にはあり、それゆえに直達と榊さんの関係はギクシャクしたものになっている。このあたりは、ネタバレになるので後述したい。

前田哲監督は、2023年だけで3月に『ロストケア』、6月に本作と『大名倒産』と計三本が公開され、本年6月には『九十歳。何がめでたい』が公開予定の売れっ子監督。

妙にコメディ寄りにならず、かといってシリアス路線にも走らない青春ドラマとして本作のポジションは心地よかった。個人的には、監督の作品の中では好きな部類に入る一本だった。

ただ、悲しいかな、ドラマが弱い。盛り上がりに欠けたまま、終盤まで行ってしまう。途中までは楽しく観られたのだが、終わってみると結局あまり胸に残るものがないのが残念に思える。

それは原作由来の主題がきちんと映画になっていないからなのかは正直分からない。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見未読の方はご留意ください。

直達と榊さんの間の複雑な関係、それは直達の父親・達夫(北村有起哉)と榊さんの母親・紗苗(坂井真紀)が、かつてダブル不倫で家を捨てたという経緯によるものだ。

達夫はその後、不倫交際を終えて家族のもとに戻ってきたが、紗苗は家を出たまま音信不通だった。

榊さんはずっと二人を憎んで育ってきたが、直達はそんな出来事さえ知らずに育ち、このシェアハウスでその事実に向き合うこととなる。それを説明してくれるニゲミチ作のイラスト付き家系図の出来が良い。

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ニゲミチがここに暮らしていたことで、偶然出会ってしまった直達と榊さん。自分の不倫のせいで榊さんの母親は出て行ったきりだと知った達夫は、その消息を調べて彼女に伝える。お節介にもほどがある。

罪滅ぼしで罪悪感を軽減したい達夫のせいで、榊さんは再会を望んでいなかった母親の家を訪ねることになる。

「私、恋愛しないので」

榊さんが『ドクターX』米倉涼子のような台詞を吐く場面があるが、それは不倫の母への嫌悪感という以上に理由があった。だいぶ昔に母親と会った際、自分を捨てた親を責める榊さんに母親が言ったのだ。

「あなたも好きな人ができたら、私の気持ちが分かるわよ」

それなら、私は恋などしたくない。それが榊さん信念だった。

そんな事情は知らず、「じゃあ、僕も恋愛しない」と考える直達だったが、

「自分を好きになるひとが現れるって思わなかったの?いるよ!この私です。ハート泥棒!」

と直達に心憎い台詞をぶつける楓が健気だ。そんな楓の発言に「えっ」と驚く直達。何だか純朴で心優しいヤツなのだけど、それがかえって誰かの心を傷つけている好青年。

(C)2023映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 (C)田島列島/講談社

まるで『町田くんの世界』(石井裕也監督)や『子供はわかってあげない』(沖田修一監督)の細田佳央太のようだなあと思っていたら、何と『子供はわかってあげない』は本作と同じ田島列島の原作だった。

ということは、本作で直達の父が紗苗の消息調査を依頼する興信所の門司探偵って、『子供はわかってあげない』千葉雄大が演じていた人物か。

本作で主人公・直達を演じる大西利空『キングダム』『3月のライオン』など、主人公の少年期役で知られるが、今回は堂々主役級。

彼との組み合わせだと榊さん役の広瀬すずもすっかり大人のお姉さんに見え(原作の見た目とはだいぶ違うが)、この組み合わせは新鮮味もあって良かったと思う。

(C)2023映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 (C)田島列島/講談社

ただ、他の配役がいただけない。というか、これだけの実力者を起用しておきながら、ふさわしい場面を与えられておらず、何とも勿体なさ過ぎる。

直達の父親役の北村有起哉。そして榊さんの母親役の坂井真紀。この二人は、ほんの少しのカメオ出演でも、その作品を格上げさせてしまう実力者俳優ではないか。

クドカン伊勢志摩「北村有起哉映画祭」「坂井真紀映画祭」をやってしまうほどの二大俳優の夢の組み合わせなのだ(共演場面はないが)。にも拘わらず、泣ける場面も心に残る場面も見当たらない。

母に捨てられた怒りを持ち続けて思春期を過ごしてきた榊さんが、容易にその思いを断ち切れないのも分かる。

「(その重荷を)半分持ちたい」と言い、「僕だって大人たちにふざけるなと怒りたいんだ」と泣く直達も純粋でいい。

ドラマの王道パターンとして、最後に子どもが分かってあげるのだろうと思っていたが、今回は予想外な着地だった。直達が榊さんの母親からカツアゲした3万円をそのまま募金箱に入れるというささやかな反抗は、ノーサイドとは違う。

親のかつての不倫が子供たちに赦されるかどうかは、作品によってどちらの答えも有りだとは思う。

だが、結局突き放したままなのであれば、この不倫の親の役を北村有起哉坂井真紀にするのは、宝の持ち腐れではなかったか。どちらも、瞬時に観る者の涙腺を緩ませることができる役者だというのに。

さらに言えば、善人から悪人まで何でもできる高良健吾を、ただのお人好しの漫画家で終わらせてしまったのも残念。ニゲミチ先生を悪人にはできないとは思うが、善人キャラでも『横道世之介』みたいに、もっと活かしようがあったのでは。

(C)2023映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 (C)田島列島/講談社

この手の下宿ドラマにみられる刹那的なバカ騒ぎの高揚感だとか、親の不倫の果てに見られる親子関係の修復だとか、無意識に期待していたものも、結局最後までお目にかかれなかった。

直達と榊さんが旅館に泊まり、翌朝の浜辺で彼女が直達に喰らわす跳び蹴りの美しさ。そしてエンディングの雨降る橋の上のツーショット。

「俺は榊さんが好きです」
「バカじゃないの」

そこにスピッツの曲。このフィニッシュは決まった。きっと原作でも名場面なのだろうと思しきカットの繋ぎ方や、雰囲気作りも良かった。

子供たちが親を憎もうが赦そうが、水が海に流れるように、人生の大きな流れは変わるものではなく、そこに身を委ねればいい。この若い二人の行く末は、きっとそういうものなのだろう。