『インソムニア』 今更レビュー:6日間徹夜続きで捜査とは、さすがに死んでまう

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『インソムニア』 Insomnia

クリストファー・ノーラン監督によるハリウッド・リメイクのサスペンス。白夜のアラスカで発生した殺人事件。アル・パチーノとロビン・ウィリアムズの心理戦が魅せる。

公開:2002 年  時間:118分  
製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:    クリストファー・ノーラン

キャスト
ウィル・ドーマー: 
            アル・パチーノ
ウォルター・フィンチ: 
         ロビン・ウィリアムズ
エリー・バー: 
          ヒラリー・スワンク
ハップ・エッカート: 
        マーティン・ドノヴァン
レイチェル・クレメント: 
          モーラ・ティアニー
フレッド・ダガー: 
           ニッキー・カット
チャーリー・ニューバック署長: 
          ポール・ドゥーリイ
ランディ・ステッツ: 
        ジョナサン・ジャクソン
タニヤ・フランケ: 
         キャサリン・イザベル

勝手に評点:★★★☆☆3.5 
(一見の価値はあり)

あらすじ

白夜の季節のアラスカの小さな町で、全裸の少女の猟奇殺人事件が発生、ロサンゼルス警察のベテラン警部ドーマーと相棒は捜査に赴く。

だが、ドーマーは警察上層部から彼の内偵を命じられていた相棒を事故死させ不眠症に陥り、猟奇殺人犯は彼の弱みを知り取引きを申し出る。

今更レビュー(ネタバレあり)

白夜の異世界アラスカに

レビューに挙げていないクリストファー・ノーラン監督作品もだいぶ少なくなってきた。

本作は『メメント』で商業的にも成功を収めたノーラン監督が、ハリウッドのシステムの中で手掛けた初の大物作品。そのせいか、スケールは格段にアップしたが、エッジの効き具合は若干マイルドになった印象を受ける。

所謂ハリウッドリメイクなので、通常の例であれば、元ネタとなったノルウェー映画はもっと面白い可能性が高いが、残念ながら、そちらは未見だ。

冒頭、小型飛行機の窓から見渡す限りの氷河。異世界に入り込もうとするかのように、最果ての地のアラスカの田舎町ナイトミュートにやってくるロス市警のベテラン警部・ウィル・ドーマー(アル・パチーノ)と相棒のハップ・エッカート刑事(マーティン・ドノヴァン)

17歳の少女撲殺事件の捜査応援に訪れた彼らを歓待する地元警察の女性刑事エリー・バー(ヒラリー・スワンク)に、旧知の警察署長(ポール・ドゥーリイ)。エリーは、数々の難事件を解決したドーマーをアカデミーの論文でも研究課題に選ぶほど、彼の捜査哲学に心酔していた。

だが、ドーマーとハップは厄介な問題を抱えていた。過去の事件に不審な点があり、内務監査部門が彼らを調べ始めているのだ。そして、家族のためにハップは、内務監査に全てを自供する覚悟だとドーマーに告げる。

万事休す。もしもドーマーが悪徳警官だとなれば、これまでに逮捕してきた連中を、むざむざ釈放することになってしまう。

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誤射なのか、故意なのか

こうして設定のお膳立ては整う。そしてドーマーの罠にかかった殺人犯は、警察の待つ湖畔の現場に現れるのだが、たちこめる深い霧にも助けられ、まんまと逃げられてしまう。

ドーマーは匂いが嗅げるほど犯人に接近できたというのに。そして、犯人と間違えてドーマーが射殺してしまったのは、相棒のハップだった。

アラスカはこの時期、白夜で一日中暗くなることはない。生活のリズムは狂い、ドーマーは不眠症に陥る。徹夜続きの捜査に、彼の神経は参っていく。

ハップが死んだのは誤射だったのか、内務監査の口止めだったのか、それさえも分からなくなっていく。ドーマーは犯人が落とした銃を隠し持ち、ついには偽装工作まで始めてしまう。

『メメント』『プレステージ』といった、どんなに思考を巡らせても騙されてしまうような大仕掛けのどんでん返しを期待する人には、本作は期待外れだろう。

だが、こういうノーラン作品があっていいと思う。騙されることに過度に期待を抱かなければ、本作は一流の犯罪サスペンスだ。アル・パチーノロビン・ウィリアムズが敵同士となって心理戦に入っていくだけでも興奮する。

ロビン・ウィリアムズの不敵な笑み

ここから先、更にネタバレに入っていくので、未見の方はご留意願います。

ウォルター・フィンチ(ロビン・ウィリアムズ)は、殺された女子高生・ケイが大ファンだった作家だ。彼女に興奮した彼は、笑われたことに激昂し、彼女を撲殺した。

フィンチは、罠にかかったと悟り、霧の中を逃げながら、ドーマーが相棒を射殺するのを見ていた。そして、わざと自分の銃を捨てたのだ。

彼は切れ者だった。ドーマーが内務監査に追われる事情にも気づき、自分もお前も、意図せずに誰かを殺ししまった同じ境遇だと言う。

自分の目撃証言でドーマーが捕まれば、多くの犯罪者が釈放されるだろう。だが、それは望ましくない。ケイ殺しの犯人を彼女の浮気性なボーイフレンドに押し付けて、俺は作家、お前は刑事の生活を続けたらいい。そう持ち掛けるのだ。

ウォルターの謎めいた雰囲気が素晴らしい。追いかけるドーマーを材木運搬船まで誘導し、水上の材木に脚を滑らせたドーマーが丸太の下で溺死しそうになるシーン

そして、フェリーの中で秘密の会話をしたあと、ひとり下船したウォルターが隠し撮りの録音機を船上のドーマーに掲げ、俺のワイルドカードだと告げるシーンいずれも緊張が高まる。

人懐こい笑顔が売りの善人俳優ロビン・ウィリアムズだが、この年には本作と『ストーカー』で、本性の知れない不気味な男も演じている。これがまた怖い。

ああ、久々に彼の演技を観ると、映画界は惜しい人材を失ってしまったのだと改めて思う。

それぞれのワイルドカード

ウォルターにとってはドーマーの自白テープ、ドーマーにとってはウォルターの落とした銃が、最後の切り札だ。

主導権を握るのは俺だと言うドーマーだが、次々と繰り出されるウォルターの攪乱の先制攻撃で、実際にはウォルターが優位に立っているように見える。

敵に対して、ここまでやられ放題で精彩を欠くアル・パチーノも珍しい(演技ではなく、そういう役柄という意味です、念のため)。

さて、女性刑事エリーは憧れの教官ドーマー警部に叱咤激励されながら、頑張って報告書を仕上げているが、やがて、銃声と銃弾の方向の矛盾に気づき、一人で真実に近づいていく。

図らずもドーマーが教えた、小さな事件でも事実を丹念に積み上げることが大事だという教えを守り、ついには、相棒ハップの射殺現場の河原で、ドーマーの銃弾を見つける

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アル・パチーノにとっての正義

ところで、冒頭のタイトルバックで使われる映像が大きなヒントになっているという事例を、ノーラン監督の作品ではよく見かけるが、本作では血液が白い布地に沁みこんでいくような映像が使われている。

ハップの射殺後に証拠隠滅のために、ドーマーが自分のワイシャツに着いた血を洗うシーンが出てくる。これがそうかと思っていたら、終盤で宿泊ホテルの女性レイチェル(モーラ・ティアニー)相手に、彼は問わず語りを始める。

かつて、証拠不十分だった悪徳犯人をぶち込むために、子供の遺体から採取した血液をそいつの家に残して偽装工作したのだと。なんと、冒頭のシーンはその深層心理を示していたようだ。

警察では力不足だ。自分が法となって、悪を叩き潰すしかない。それがドーマーを突き動かす原動力ということか。まるでバットマンではないか『バットマン・ビギンズ』を作る前に、その原型がここにあったか。

ウォルターは、彼の屋敷を訪ねたエリーにまで襲い掛かり、危うく彼女も、そしてドーマーまでも彼の餌食になるところだったが、さすがに最後は勝利を手にする。

真実にたどりついたエリーだったが、誰も望んでいない答えだったと、ドーマーの銃弾を湖に投げ捨てようとする。だが、「道を誤るな」そう言ってドーマーは彼女を制する。最後にようやく、彼も警察官の矜持を取り戻すのだった。