『白鳥とコウモリ』
東野圭吾の傑作原作を岸善幸監督が松村北斗と今田美桜の共演で映画化。
公開:2026年 時間:145分
製作国:日本
スタッフ
監督: 岸善幸
原作: 東野圭吾
『白鳥とコウモリ』
脚本: 向井康介
キャスト
倉木和真: 松村北斗
白石美令: 今田美桜
五代刑事: 柄本佑
中町刑事: 前原滉
倉木達郎:三浦友和/ 井之脇海
浅羽織恵: 井川遥
浅羽洋子: 風吹ジュン
白石健介:中村芝翫/ 漆山拓実
白石綾子: 吉田羊
堀部弁護士: 宇野祥平
佐久間弁護士: 松岡依都美
灰谷昭造: 三浦誠己
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
善良な弁護士・白石健介(中村芝翫)が刺殺された事件は、容疑者として浮上した倉木達郎(三浦友和)が犯行を自供したことにより解決したはずだった。
しかし、容疑者の息子である倉木和真(松村北斗)と被害者の娘の白石美令(今田美桜)は、互いの父親の言動に違和感を抱く。出会ってはならないはずの二人は手を取り合い、共に事件の真相を追いはじめる。
レビュー(今回ほぼネタバレなし)
禁断のタッグを組む男女
本作公開を待たずに東野圭吾先生は先日逝去された。膨大な著作の多くが映像化されているのは周知のとおりだが、現時点では来年の2月に『殺人の門』の公開が控えている。
さて本作は、後期の東野作品の中では屈指の力作といえる犯罪ドラマである。
ある善良な弁護士の殺人事件を捜査する中で浮かび上がった容疑者が、弁護士殺害だけでなく30年以上前に愛知で発生した金融業者殺害を自供。だが、被害者の娘と容疑者の息子は、それぞれに容疑者の供述に疑念を抱く。

本来、会うことさえ望まないであろうし、裁判では敵対関係になるはずの二人が、禁断のタッグを組んで真実の行方を捜し始める。
◇
話の内容は全く異なるが、この人目を忍び密会する二人の関係が、東野文学のひとつの頂点ともいえる名作『白夜行』を彷彿とさせる。
演じるのは、容疑者の息子・倉木和真に松村北斗、そして被害者の娘・白石美令に今田美桜。

そのネームとポスタービジュアルなどから、華やいだ恋愛ミステリーを想像しがちだが、二人ともかなりストイックな芝居に徹しており、一瞬たりともキラキラ感は見せない。
松村北斗には役柄上当然の思いつめたような暗さが漂い、実写版『秒速5センチメートル』を思い出させる。
最新キャラ・五代刑事の登場
あることをきっかけに弁護士殺しの自供を始めて逮捕された、和真の父・倉木達郎に三浦友和。当然、その自供の背後には、あるドラマが隠されている。三浦友和と東野圭吾の組み合わせの朧気な記憶をたどっていくと、ドラマ『流星の絆』の刑事役だった。

本作で刑事を演じるのは、警視庁捜査一課の五代(柄本佑)と所轄の中町(前原滉)のバディ。犯罪ミステリーの刑事としては、熱血漢でもないし頭脳明晰ともいえない。
東野文学の名物キャラの中では、日本橋署の加賀恭一郎(阿部寛)や、ガリレオの親友・草薙(北村一輝)、マスカレードの新田浩介(木村拓哉)などに比べると、ちょっと影が薄い。
バディが二人とも熱くならない冷静キャラというのも珍しいが、あの低熱量で淡々と捜査を進め、斬りこんでいく柄本佑が『木挽町のあだ討ち』と重なる。でも、この作品において主役はあくまで和真と美令なのだとすれば、五代はあまり目立ってもいけない存在なのだ。

良かった点、引っかかった点
さて、内容にはあまり触れずに映画自体について、この映画について感じたことを書かせていただく。
まず、舞台となっている門前仲町、清洲橋。ここは『新参者』の人形町や日本橋界隈と違い、あまり場所を意識させないカットが多い印象を受けた。原作とも温度差を感じる。
◇
脚本は向井康介だが、結構なボリュームの原作を破綻なくあの尺に収めているのはうまい。
「あれっ、ここの説明がないから、話がつながらないぞ」と思うような場面がいくつかあったが、すぐその後のシーンで補足され、未読者であっても理解しやすく、また説明的でもない流れになっている。
映像処理で見応えがあったのは、オープニングタイトルを、和真の仕事である広告業界のパイロットビデオと重ねて見せる場面。
これはブックカバーデザインのままだけど、タイトルの『白鳥とコウモリ』の「と」を英語の「&」と混ぜたデザインにしていることに、今頃気づいた。
あとは、古い写真にある愛知県常滑市の街並みと同じ場所を訪れるシーンは、さすがに文章よりも説得力があった。

一方で、33年前の事件の時代背景を伝えるために、わらべやチェッカーズの曲を流す手法は、やや安易に感じた。
また、いくら松竹配給だからといって、五代刑事が非番で小津の『麦秋』を映画館で観ているシーンがなぜ入ったのかがよく分からなかった。五代の人間性アピールだとしても、この映画を劇場で観るような映画好きなら、携帯電源は切ってほしいものだ。
その他キャスティング
33年前の金融業者殺害事件で誤認逮捕され留置所で自殺した男の妻と娘が、門仲で小料理屋をやっている。
事件の鍵を握る人物でもあるが、この母娘役が風吹ジュンと井川遥というのも、美人の家系という点では説得力はあるが、キャスティングに意外性がなさすぎないか。

現に、原作読んだときに、私の脳裏に浮かんだのはこの二人の女優だったものだから、少々驚いた。井川遥に小料理屋はベタすぎるでしょ。
一方で、突撃取材の週刊誌記者に笑いなしの松尾諭、まったく人道派ではない冴えない国選弁護人の宇野祥平なんかは、意外性のある起用で、結構楽しめた。
◇
父が殺人を犯すとは思えず、その自供を疑い調査を開始する息子。そして殺された男の娘の方も、その自供内容にある自分の父の言動が真実とは思えず、犯人の量刑よりも真実の解明を望む。親を想うこの若い二人の行動は頷けるし感動も呼ぶ。
残念なのは父親世代の方だ。殺された弁護士先生にも、そして犯行を自供した男の方にも、若いころにしでかした過ちは相当に大きい。その重みを改めて考えると、この物語は素直に感動している場合かという気にもなってしまう。
五代刑事は今回の捜査でちょっとした失態を犯すのだが、優秀であることには変わりなく、続編にあたる『架空犯』も出版されている。
この刑事の物語もシリーズ化が期待されていたが、小説二本で打ち止めになってしまったのは悔やまれる。せめて、柄本佑の再起用で続編も映画化してほしいものだ。
