『太陽は動かない』今更レビュー|岸部露伴だって動かないぞ

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『太陽は動かない』

吉田修一原作のスパイアクション、藤原竜也と竹内涼真のコンビが諜報戦に身体を張る

公開:2021年 時間:110分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:         羽住英一郎
原作:          吉田修一
         『太陽は動かない』
         『森は知っている』
キャスト
鷹野一彦:        藤原竜也
(高校時代)        日向亘
田岡亮一:        竹内涼真
AYAKO:       ハン・ヒョジュ
デイビッド・キム: ピョン・ヨハン
風間武:         佐藤浩市
山下竜二:        市原隼人
菊池詩織:         南沙良
柳勇次:        加藤清史郎
アンディ・黄:       翁華栄
ジミー・オハラ:     横田栄司
小田部教授:        勝野洋
小田部奈々:      八木アリサ
河上満太郎:       鶴見辰吾
河上麻子:        宮崎美子

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)吉田修一/幻冬舎 (C)2020「太陽は動かない」製作委員会

あらすじ

謎の秘密組織AN通信。この組織に属するエージェントは心臓に爆弾が埋め込まれ、24時間ごとに死の危険が迫まるという。

エージェントの鷹野(藤原竜也)は相棒の田岡(竹内涼真)とともに、死の危険を抱えながら「全人類の未来を決める次世代エネルギー」の極秘情報をめぐって、各国のエージェントたちとの命がけの頭脳戦を繰り広げる。

今更レビュー(ネタバレあり)

いつもなら真っ先に観る吉田修一原作の映画なのだが、本作は公開時、食指が伸びなかった。というのも、劇場予告がひどく、品格のなさにあきれ果てたからなのだ。

「はい、胸に埋め込まれたチップが爆発するよ。5分でドーン!だ。ドーン!ドーン!」と連呼するという、宣伝部、原作読んだのかよと聞きたくなるほどの内容。

今回、ほとぼりも覚めたころにようやく観賞したら、映画そのものの内容は実にちゃんとしたスパイアクションだった。どうやら食わず嫌いだったのかもしれない。

秘密組織AN通信で情報を盗んでは高く売りつけるエージェント。彼らは胸に爆弾が埋め込まれ、24時間毎の定時連絡を怠ると、チップが作動し爆死する運命。

だから組織を裏切れないという現実離れした説明が冒頭にいきなり語られるのはやや興ざめ。だが、そこから先、ブルガリアを舞台にしたアクションから、もうメンバーはフル稼働。

エージェントの鷹野(藤原竜也)と相棒の田岡(竹内涼真)が、敵の手に落ちて定時連絡できない同僚の山下(市原隼人)の救出に奔走する。

(C)吉田修一/幻冬舎 (C)2020「太陽は動かない」製作委員会

吉田修一がスパイアクションも得意とする作家なのかは存知あげないが、小説だから世界を股にかけて主人公たちが次々と危険なミッションをこなしていく。

この手の物語を邦画で撮ると、どうしてもハリウッドの廉価版みたいな冴えない出来になりがちだが、その点、本作は健闘している。

敵対するエージェント、AYAKO(ハン・ヒョジュ)デイビッド・キム(ピョン・ヨハン)に、マルチリンガルの韓国人俳優を起用したことで、国際的なイメージも出ている。

(C)吉田修一/幻冬舎 (C)2020「太陽は動かない」製作委員会

イントネーションに少し異国情緒のある日本語が、ホントに国際スパイっぽくていい。ウィーンや香港に加え、ブルガリアでロケというのも新鮮。

WOWOW羽住英一郎監督が組んでいるので、『MOZU』を思わせる、安っぽくないスパイアクションになっているのだろう。渋谷の街に「アテナセキュリティ」の巨大広告を出す楽屋ネタまでやるとは思わなかったが。

(C)吉田修一/幻冬舎 (C)2020「太陽は動かない」製作委員会

次世代エネルギーの覇権を狙う情報戦を描いた「太陽は動かない」に、鷹野の高校時代を描いた前日譚である「森は知っている」という吉田修一の二つの原作を、この映画では回想シーンを使うことで一本化を図っている。

これは巧い手だと思った。鷹野がどのような生い立ちでエージェントになったのか、この人間形成が描かれることで、ただのスパイアクションに血が通うからだ。

幼い頃に弟を見殺しにしたことが、相棒の田岡を命がけで助ける行動原理に繋がってくる。

今のソーラーパネルに代わり太陽エネルギーで覇権を取る。

  • 人工衛星から太陽エネルギーをマイクロ波で地上に送る技術⇒小田部教授(勝野洋)
  • レクテナアンテナでそれを受ける巨大な設備⇒中国事業CNOXアンディ・黄(翁華栄)
  • 受け取ったエネルギーを蓄電する技術⇒日本メーカーMET河上(鶴見辰吾)

裏の顔を持つアンディ・黄が全てを牛耳ろうとするが、AN通信やら他の組織の諜報部員が入り乱れて、敵になったり味方になったりで戦い合う。

登場人物の相関は複雑だが、顔が見える分、実は小説よりも分かり易かった気もする。

(C)吉田修一/幻冬舎 (C)2020「太陽は動かない」製作委員会

鷹野役の藤原竜也『パレード』でも吉田修一原作ものに主演しており、激しいアクションと熱い芝居でキャスティングに違和感はないが、彼があの調子でビジネスを語り出すと、SkyのCMみたいに見えてしまうのが難点。

「明日のことなど考えず、今日一日だけ生きろ。そしてそれを続けていけ」

これは決めゼリフなんだろうけど、何度も熱く語られると、ちょっとげんなり。

相棒の田岡役の竹内涼真は仮面ライダー俳優だからアクションもいけるのだろうが、エージェントとしてはやや線が細くて頼りなさげ。まあ、コンビがふたりとも強すぎても、盛り上がらないからいいのか。

(C)吉田修一/幻冬舎 (C)2020「太陽は動かない」製作委員会

WOWOW製作だから仕方ないのだろうが、本作に合わせて展開されたドラマ『太陽は動かない -THE ECLIPSE-』というのがある。

本作ではすぐに死んでしまった市原隼人とか、安藤政信吉田鋼太郎まで登場して、なんだよドラマのが面白いじゃんということになりそうなのが悔しくて、まだ観ていない。

劇場版の方が冴えなかったら『MOZU』の再来だよ。

でも、エンドロールで物語のダイジェストみたいのが流れるんだけど、そこにはこのドラマのシーンがふんだんに採用されていて、むしろそっちのが良さそうに見えるのだ。

WOWOW契約者しか相手にしてないのだろうけど、ちょっとイラつく。