『ふりむけば愛』今更レビュー|振り返ればダンがいる

記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

『ふりむけば愛』

大林宣彦監督が百恵・友和コンビの映画のメガホンを取った、サンフランシスコの恋愛もの。

公開:1978年 時間:92分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:        大林宣彦
脚本:     ジェームス三木


キャスト
石黒杏子:      山口百恵
田丸哲夫:      三浦友和
大河内修:      森次晃嗣
杏子の父:     玉川伊佐男
杏子の母:     奈良岡朋子
杏子の次弟:     黒部幸英
杏子の末弟:     神谷政浩
松下幸平:       名倉良
修の母:       南田洋子
哲夫の父:      岡田英次

勝手に評点:1.5
(私は薦めない)

あらすじ

ピアノ調律師の杏子(山口百恵)は旅行で8日間、サンフランシスコへ。そこでたこ揚げをしていた青年・哲夫(三浦友和)と出会い、彼と恋に落ちる。

杏子は哲夫にプロポーズするが、突然過ぎて哲夫は返事に困る。

東京の自宅に戻った杏子は道を歩いていた際、ジープにはねられてしまう。大事には至らず、杏子はジープを運転していた会社役員、大河内(森次晃嗣)と交際するようになり、彼から結婚を申し込まれる。

杏子はもう一度、哲夫に会おうと渡米するが…。

今更レビュー(ネタバレあり)

百恵・友和映画の8作目。グリコセシルチョコのCMを手掛けて、二人とも親しかった大林宣彦監督がついにモモトモ映画のメガホンを取る。脚本はジェームス三木

同じホリプロ山口百恵二世と言われた片平なぎさ大林監督『瞳の中の訪問者』で先に映画デビューしてしまい、映画をやりたくて悶々としていた山口百恵の念願がようやく叶ったのかな。

サンフランシスコの1週間ロケで撮りきった、モモトモ映画初のオリジナル脚本の現代劇。

人気絶頂の山口百恵には、三浦友和とのベッドシーンもあり、しかも二人は結婚秒読みだろうと日本中が見守っている中の作品。そんな環境下で撮られた映画なので、興行成績としては良かったようだ。

カメラに残る二人のやりとりや目線・仕草は、実際の恋愛感情から生まれたものと思われるものもあるし、それをねらって撮っていたという大林組の作戦勝ちという部分もある。

だが、映画単体として観た時には、噴飯もののラブストーリーであって、およそこの二人の共演でなければ、観るに耐えない内容だった。

それは、大林監督も、脚本のジェームス三木も自覚して撮っているようだ。

そもそも、ジェームス三木が最初に描いたシナリオには、郷ひろみ風の若者が登場する内容になっており、当時の三浦友和ではとても演じられないものだったそうだ。

なのでシナリオは大幅に書き直し。「およそ真剣に書いた内容とは思えないが、二人が演じれば何とかなる代物でいいのだな」ジェームス三木が開き直って書き直したのが本作の原型らしい。それならば合点がいく。

サンフランシスコの金門橋で凧揚げしている若者・田丸哲夫(三浦友和)。それを追いかけてヒールを折ってコケる旅行者の女・石黒杏子(山口百恵)

「日本人の旅行者かい。俺が案内してやろうか」

だが、約束した翌日に現れるのは、キザな語学留学生(名倉良)。哲夫が権利を売ったのだ。

ここでヘソを曲げる杏子だが、すぐに哲夫と仲良くなって、地元の店で哲夫がギター弾き語りで歌う「ふりむけば愛」に酔って、バージン捧げてツアー帰国。

女の方からプロポーズしたら「僕も追いかけて帰国するから」と言われ、まずはひとり、再会を夢みて日本に戻る杏子。

  • まあ、サンフランシスコで暮らしているにしては英語が下手だし
  • 白人だらけのディスコで弾き語る歌は四畳半フォークだし
  • 俺の消息を尋ねろという店が、百草園<馬の骨>というスナックという超ローカルな設定だし、

どこからツッコんでいいのやら。

山口百恵のドラマ「赤いシリーズ」だって、もう少し現実味のある設定だったと思うが、サンフランシスコならすべてが許されると、大林監督は踏んでいたに違いない。

部屋の中で雨が降りだして、二人で外に出ると土砂降りという場面は、監督らしいうまいつなぎ方だと感心していたが、実は合成のミスで部屋にいる場面から降り出してしまったものらしい。ここはリカバー成功。

ピアノの調律師をしている杏子が一人旅で運命の男性にめぐり合うのは良い。硬いイメージの山口百恵にも意外とふざけたシーンもある。

実家では奈良岡朋子演じる母相手にザ・家族ドラマ風な演技もみせ、なるほど河合優実百恵菩薩の再来のように、雰囲気が似ていることに改めて驚く。

一方、哲夫が冴えない。この時代の三浦友和はまだ山口百恵の引き立て役扱いで、演技も面白味のない好青年ばかりで、彼が役者として面白味を見せ始めるのは『台風クラブ』(相米慎二監督)からだ。

だから、本作の哲夫も好青年だと思っていると、どうにもクズ野郎なのだ。杏子が帰国しても日本にも戻らず、意を決して彼女が再び渡米すると、裸の女と寝ている始末。

何か、彼がここまで堕落した原因があるのだろうと好意的に見ていたら、病院経営する父親に医学部に裏口入学させられたことで、自棄を起こしているだけらしい。

何という若造だ。あまり同情する気にはなれない。

恋愛ドラマにはライバルが必要で、日本で哲夫の居場所を探していた杏子を自動車事故で怪我させてしまう、家業の役員をやっている大河内(森次晃嗣)が登場。

加害者ではあるが、彼女に誠意をみせ、ついにはプロポーズをして結婚を果たす。誠実そうな人物だ。

杏子の家族も大喜びだが、花嫁を奪い返そうと今更ながら躍起になる哲夫が、二人がハネムーンで向かったサンフランシスコで、あの手この手で強引に杏子に迫る。

大河内役の森次晃嗣は当然、我々世代にはウルトラセブンモロボシダンなわけで、こんなアホな恋の引き立て役にはなってほしくないのだ。

杏子を追いかけてすがりつく不審者のような哲夫に鉄拳制裁する大河内。まるで人間になりすました侵略宇宙人を殴りつけるダンにしか見えない。

結局、かつて杏子が哲夫と踊った地元の店で、白人たちに囲まれて弾き語りで「ふりむけば愛」を歌う哲夫に、杏子は自分の気持ちを気づかされる。

「最低の男、でも愛してる」

こんなクズ男に惹かれちゃダメなんだが、それでは映画にならないから、これまで爽やか路線だった大河内も、最後にはマザコンキャラを強調させられる。

「ママ、とんでもない女だったよ。僕は一人で帰国するから」

いや、森次晃嗣ファンには、観るのが切なくなる映画だ。最後は金門橋に再び凧が揚がり、めでたし、めでたし。

哲夫に駆け寄って抱き着く杏子。セシルチョコのCMか。そういえば、杏子の弟役はカプリコチョコ黒部幸英だったし、グリコの協賛色の強い作品だった。