『おいしい結婚』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『おいしい結婚』今更レビュー|はじまりはいつも雨だよ

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『おいしい結婚』

森田芳光監督が三田佳子と斉藤由貴の母娘と唐沢寿明で贈る、平成の結婚ラブコメ。

公開:1991 年  時間:109分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:      森田芳光


キャスト
矢頭美栄子:      三田佳子
矢頭のん:       斉藤由貴
川又保:        唐沢寿明
川又重樹:       田中邦衛
山内政行:       小林稔侍
小野吾郎:        橋爪功
田宮作男:       斎藤晴彦
小山まつ:        南美江
小野恵美子:      入江若葉
田宮明子:      結城美栄子
大下久代:       成田路実
人見美起:       白島靖代
榎本紀美子:      松浦佐紀

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

あらすじ

質屋を営む未亡人、矢頭美英子(三田佳子)は一人娘ののん(斉藤由貴)を条件のいい見合いで結婚させようとするが、のんは会社の同僚・川又(唐沢寿明)を恋人に仕立て断ろうとする。

ところがいつしか二人は恋に落ち、本当に結婚することになるが、今度はその結婚式をめぐって両家に様々な出来事が起きる。

今更レビュー(ネタバレあり)

本作も『愛と平成の色男』と同様、キャストが豪華な割には、森田芳光監督作品の中でコンプリートのDVDボックス以外にDVD化がされていない一本。

結婚を題材にしたコメディで、斉藤由貴三田佳子の母子役がダブル主演という扱いになっているようだ。糸井重里の作った西武百貨店の名コピー『おいしい生活』を思い出すようなタイトルだが、映画のオリジナル脚本。

サンダンス・カンパニーの企画で、斉藤由貴が共演を願ったという三田佳子との主演と、映画のタイトルだけが決まっている状態で、森田芳光監督に白羽の矢が立った。

当初は結婚詐欺師のような題材だったというが、それなら『おいしい結婚』というタイトルは合点がいく。

だが、結局森田監督が書いたのは、片親同士の男女がすったもんだの末に社内恋愛で結婚するという、そこだけ見るとどこにでもある結婚話なのだ。その点では、何が<おいしい>のかは不明である。

早くに夫を亡くし、買い取り屋(質屋ですな)を切り盛りしている矢頭美英子(三田佳子)は、電器メーカーに勤める一人娘・のん(斉藤由貴)と暮らしている。

美しき未亡人の美英子には、親衛隊のような三匹のおっさん(小林稔侍、橋爪功、斎藤晴彦)がつきまとっており、のんも適齢期だからと、それぞれが見合い写真を用意する。

どれを断ろうが遠慮はいらないから、一度会ってみるといいと母親にも言われるが、のんは気が重く、会社の陸上同好会仲間の同僚である川又保(唐沢寿明)に頼んで、恋人のフリをしてもらい、見合いを断る。

こうして、いつの間にか川俣は美英子にも気に入られ、のんとの疑似恋愛も、本物に移り変わっていくといった話。

未亡人に夢中になるのはともかく、いい歳をした男三人が仲良くジムでランニングしたり、水着姿でリゾートのようなプールで盛りあがっている姿は気色悪い。

これが小津安二郎『秋日和』原節子司葉子の母娘に結婚話をもちかける三匹のおっさんのオマージュなのは分かり易いが、私はあの作品も苦手なのだ。

本作の母娘が鎌倉の屋敷に住んでいるのも、小津『晩春』あたりを意識したのかもしれない。

小津の時代ならいざ知らず、平成になっても、この気色悪いオジサマたちに付き合わされ、見合いに悩んで川俣にすがる羽目になるのんが気の毒ではある。

「じゃあ、その恋人とやらに会わせてみろ」と言い出す三匹に、のんは自宅の鍋パーティで川俣を紹介することになる。

ストーリー自体にさしたる驚きも共感もなく映画は進むが、そんな中でも、斉藤由貴コメディエンヌとしての存在感は目を引く。

演技やアクションというのではなく、台詞まわしと絶妙な間だろうか。滑舌がよい訳ではない。むしろダメな部類だ。だが、そこに不思議な味わいとリアルさがある。

頬っぺたを膨らませて文句をいう姿は、彼女ならではのものだが、そのおかげで、本作は恋愛コメディとして成立している。

そして、当初は陸上バカの同僚だと思われた川俣を演じる唐沢寿明も、真面目くさった風貌が斉藤由貴といいバランスになっている。

森田監督作品は主演の若手女優がしっかりしていれば、相手男優の演技力はお構いなしというパターンが多いなか、唐沢寿明さすがに安心感がある。

とはいうものの、スーツアクターの下積みを除けば、重要な役での映画出演は、本作公開がほぼ初めてのようだ。

のんと川俣がいつから互いを意識するようになり、結婚することになったのか。この重要なポイントの描写が、本作では弱い。コメディとはいえ恋愛ものである以上、そこはもっと丁寧にやってほしかった。

バブル期の軽薄さが売りの『愛と平成の色男』といい、無味無臭が持ち味の『キッチン』といい、平成に入ってからの森田作品には恋愛に共感できる作品がなかなか現れず、『(ハル)』の登場まで待たないといけない。

さて、のんと川俣のカップルが結婚するのかしないのかヤキモキさせる一方で、花嫁の母である美英子役の三田佳子も主演であるからには、相手役がいるのではないか。それは、三匹で唯一の独身、小林稔侍ではないはず。

そう思っているところに、片親である川俣の父、重樹(田中邦衛)が現れる。「結婚のことは息子に任せてますから」と無関心で、結納にも顔を出せるか分からないというこの変わり者は、ホテルのプール専門のデザイナーという謎の職業。

『北の国から』的な頑固な職人気質の男ではなく、カタカナ職業の重樹は『若大将』シリーズの青大将キャラに近い。『私をスキーに連れてって』のような起用法と思える。

こういうふざけたキャラ設定や森田芳光監督お得意の実験的な演出が田中邦衛のお気に召したのかは知らない。かつて大林宣彦監督の異色作『金田一耕助の冒険』で、あまりに風変りな演出に警部役の田中邦衛が呆れはてた話を思い出した。

一度は婚約解消しそうになった若い二人が、もう一度結婚というものを見つめ直し、「披露宴なんてやめよう」と言い出す。

その代わりに親族友人一同が顔を合わす場として、新郎新婦がサークル活動をしている陸上競技場でカップ麺をみんなで啜る。それでも座がシラケているから、重樹の発案で息子の短距離走で賭けをし始める。

もう、どうにでもなれ」の展開は『そろばんずく』のようだ。そのまま終盤で突入するガーデン・ウェディングのだだっ広い屋外の舞台設定も、同作のような雰囲気。

仲人は三匹の中で病院で医者をやっている田宮(斎藤晴彦)。医者役で田宮って、『白い巨塔』田宮二郎が演じた財前教授だよね。その新郎に、やがて財前を演じることになる唐沢寿明がいるのも奇縁かも。

劇中、斉藤由貴が入浴シーンで都はるみ「好きになった人」を熱唱するが、終盤では橋爪功がガーデン・ウェディングで八代亜紀の曲を「雨、雨、降れ、降れ、もーっと降れ」と歌い、大雨になるというベタなコントがある。雨降って地固まるというわけか。

最後に流れるのはASKA「はじまりはいつも雨」。映画では、終わりが雨だったけど。

ASKAの曲が封印解除でも、本作がDVD化されてない理由はなんとなくわかる。キャスティングは豪華だが、これといったセールスポイントに乏しいのだ。

本作はウェルメイドな作品をめざしたようだが、私には実現したようにはみえなかった。