『キングダム』(2019)
『キングダム2 遥かなる大地へ』(2022)
『キングダム 運命の炎』(2023)
『キングダム 大将軍の帰還』(2024)
『キングダム 運命の炎』
シリーズ第3作は強大な隣国・趙との戦い。信が率いる100人隊が敵陣の盲点を突く。
公開:2023年 時間:129分
製作国:日本
スタッフ
監督: 佐藤信介
原作: 原泰久
『キングダム』
キャスト
<飛信隊>
信: 山﨑賢人
羌瘣: 清野菜名
尾到: 三浦貴大
尾平: 岡山天音
澤圭: 濱津隆之
沛浪: 真壁刀義
渕: 田中美央
有義: やべきょうすけ
有カク: 町田大和
竜川: 佳久創
輝蓮: 栄信
爽悦: 青木健
<王宮>
嬴政: 吉沢亮
昌文君: 髙嶋政宏
肆氏: 加藤雅也
河了貂: 橋本環奈
蒙毅: 萩原利久
<呂不韋陣営>
呂不韋: 佐藤浩市
昌平君: 玉木宏
蒙武: 平山祐介
<王騎軍>
王騎: 大沢たかお
騰: 要潤
壁: 満島真之介
干央: 高橋光臣
<趙国>
趙荘: 山本耕史
万極: 山田裕貴
馮忌: 片岡愛之助
<回想>
紫夏: 杏
亜門: 浅利陽介
道剣: 杉本哲太
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
春秋戦国時代の中国。天下の大将軍を志す少年・信(山﨑賢人)は秦の若き国王・嬴政(吉澤亮)と運命的な出会いを果たし、ともに中華統一を目指すことに。
魏との戦いに勝利をおさめた彼らのもとに、秦に対して積年の恨みを抱える隣国・趙の軍隊が攻め込んでくる。嬴政は長らく戦場から離れていた伝説の大将軍・王騎(大沢たかお)を総大将に任命。
王騎から戦いへの覚悟を問われた嬴政は、かつての恩人・紫夏(杏)との記憶を語る。
100人の兵士を率いる隊長となった信は、王騎から「飛信隊」という部隊名を授かり、別働隊として敵将を討つ任務に挑む。
レビュー(まずはネタバレなし)
前作の伍から一気に100人隊
快調にヒットを飛ばすシリーズの、前作『キングダム2 遥かなる大地へ』から続く第三弾。ついにタイトルからは『3』の表記すらなくなり、一見さんお断りの雰囲気が濃厚になっていく。
もはや、信(山崎賢人)の親友で、秦国の若き王・嬴政(吉沢亮)の影武者として殺された漂の存在さえ、殆ど語られない。なんで着ぐるみを着た橋本環奈が王のまわりをうろちょろしているのかも、知らない人には意味不明だろう。
突然に秦国を攻めてくる隣国・趙の将軍たちは初登場ゆえ親切な紹介があり分かりやすいが、嬴政の家臣たちにいたっては、誰と誰が敵対していて、誰が腹黒いヤツで、といった人物相関図となってはお手上げだ。
まあ、いきなり三作目から見始める人もそういないか。となれば、余計な説明抜きでテンポよく話が進む方が好ましいといえるかもしれない。
◇
第1作『キングダム』では、信と嬴政の出会いや伝説の大将軍・王騎(大沢たかお)の登場など、巨大なスケールの物語のお膳立てと人物紹介、第2作『遥かなる大地へ』では、五人単位の伍のメンバーの一人となった信が隣国・魏との戦いで初陣を飾る。
そして本作は、強大な敵・趙との戦いを通じ、これまで明かされなかった嬴政の過去が描かれ、また信は王騎将軍の下で、100人隊を率いるまでに出世する。
本作は天下の大将軍に昇り詰めることを夢みる信が、仲間たちにも助けられ、ひとつずつステップアップしていく物語なのだろう。
なお、私は原作未読で映画だけを追いかけているので、原作ファンからみたら的外れなことを書いているかもしれないが、ご容赦願いたい。
ネバーエンディングストーリー
前作の終盤に突如現れたラスボス感たっぷりの呂不韋(佐藤浩市)と彼を取り巻く昌平君(玉木宏)と蒙武(平山祐介)。
てっきり本作ではこの連中との争いが描かれるかと思っていたが、考えてみれば、それでは秦国内の内紛劇にとどまってしまう。話のスケールからは、今回が隣国・趙との戦いがメインになるのは当然か。
それにしても、敵将に趙荘(山本耕史)を筆頭に万極(山田裕貴)、馮忌(片岡愛之助)とはまた、豪勢な布陣だ。
山田裕貴が吉沢亮相手に決闘を挑むとなれば、まるで『東京リベンジャーズ』のドラケンとマイキーが仲間同士で喧嘩するみたいじゃないか、とちょっと興奮。
しかし、こんな贅沢なメンバーを相手に、二時間ちょっとの上映時間枠で決着がつくものかと疑問に思ったが、この戦いはそう簡単に終わらないことを、私は映画を観終わって初めて知った。
そのあたりの、人気原作コミックをシリーズで映画化してなかなか終わらずに次作を待つという構造もまた、『東京リベンジャーズ』と共通するところか。
◇
本作ではこの趙国と争う<馬陽の戦い>と、嬴政が王位継承者となるまでを描いた<紫夏編>を取り上げているそうだ。どこをどう勘違いしたか、私は「キングダム」が三部作で、この作品が中華統一がなされる完結編と思い込んでいた。
だが、そもそも原作コミックは現時点で単行本約70巻、しかも連載中という超大作だ。三作目で打ち止めになるはずがないし、春秋戦国時代に敵国がいくつあるかを考えれば、統一などまだまだ先なのは自明だ。
本作の見どころ
というわけで、まだまだ『男はつらいよ』なみにシリーズ化しそうな本作(だからタイトルのナンバリングもやめたのかな)。
過去二作のレギュラー陣に、個性豊かな敵の新顔も加わってくる豪華な面白さは一層強まったが、正直いって、メインとなる戦闘アクション自体に、そう目新しさはない。
妖術使いのような怪しげな剣法の使い手たちと信がタイマン勝負でぶつかり合う一作目や、五人の仲間同士で助け合う伍の闘いや羌瘣(清野菜名)の華麗な殺法を堪能できる二作目に比べると、個々のバトルアクションとしてはむしろ控えめになった気もする。
だが、その分、何十万という兵力をぶつけ合う、智将同士の戦略やかけひきが本作では存分に楽しめる。敵の頭脳派である馮忌(片岡愛之助)と、秦の総大将・王騎(大沢たかお)の腹の探り合い。
信が率いる王騎将軍直属の100人隊<飛信隊>は、どのような特命を授かるのか。軍師見習いとなった河了貂(橋本環奈)に同僚の蒙毅(萩原利久)が地図を使って軍略を説明してくれるのが、大変分かりやすくて重宝した。
なぜ中華統一を目指すのか
「あなたはなぜ、中華統一を目指すのか」
王騎将軍が、自分を大将に任命してきた王・嬴政に問いかける。予告編の決め台詞だ。
ここからしばらくは、王位継承者となった若き日の嬴政が、とらわれていた隣国から命からがら脱出して自国に戻るまでのつらい日々が回想される。危険を顧みず彼の脱出に尽力した闇商人の紫夏(杏)。
このエピソードで、三作目にしてようやく嬴政の過去と、中華統一にこだわる理由がみえてくる。王になれ。生きろ! 前作の主題歌、ミスチルの「生きろ」が、ここで伏線回収されたのかも。
前作は吉沢亮の出番が少なく、消化不良気味だったファンも、本作には満足できるのではないか(橋本環奈ファンは、引き続き物足りないだろうが)。
◇
「私もまた、過去と向き合わなければなりませんね」
王騎の独白は続く。彼にも、これまで伏せられていた過去がある。だが、本作ではまだ、その多くは語られない。
王騎の常に笑みを湛えた表情から語られる、ゆっくりしたペースとバカ丁寧な言葉遣いの言い回し。一作目ではコントにしか見えなかったそのキャラが、回を追うごとに大物感に変わっていく。
腹心の騰(要潤)とのやりとりはまるでバカ殿と家来とのそれだが、将軍としての資質とカリスマ性は圧倒的だ。大沢たかおが楽しんで演じている感じが伝わってくる。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
公開直後なので、まだ詳細には触れないが、本作にもワンカットのみ登場のサプライズな出演者が何人か登場する。
それは単なるカメオ出演ではなく、次作での主要キャラになってくるはずだ。『るろうに剣心 京都大火編』のラストシーンで初登場し次作に繋げた福山雅治みたいなものだろう。
これは観る者の興味をひく一方で、本作の展開とはあまり関係がなく唐突感が強いので、安易に濫用するとシラケてしまう(次作まで覚えていられる自信もないし)。
本作は総じて楽しく見させてもらったが、一つ不思議に思ったのが、敵将の首を取ったら、そこで相手が戦いをやめてしまう点だ。
信たちの飛信隊は、圧倒的多数の敵陣営に攻め込んでいき、まるでラグビーの試合のように、敵のタックルをすり抜けて敵将めがけて突き進む。そこまではいい。盛り上がれる。
だが、敵将を倒した途端に、何万という敵兵が、動きを止めてしまうのはなぜだ。みんなで囲い込んで袋叩きにすれば勝算がありそうなのに、まるで試合のルールがあるかのように、そこでゲームセットとなる。
前作では同様の場面で、敵兵が座り込んで戦意喪失する姿が描かれていたのでまだいい。今回はそこが奇異に映った。
◇
今回のエンディングに流れるは宇多田ヒカルの『Gold ~また逢う日まで~』。作品の世界観をゴージャスに彩り、個人的にはシリーズ最高のフィット感。
空前のスケール感で描く歴史アクション、三作目にしてまだ失速はしていない。
次回作では、吉沢亮と山田裕貴の東京卍会タッグに加え、趙荘(山本耕史)と山の民の女帝・楊端和(長澤まさみ)の『シン・ウルトラマン』タッグも観られる期待大。
はたして、中華統一まであと何年何作を要するのか。気長に構えよう。