①『東京リベンジャーズ』
②『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 運命』
③『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 決戦』
『東京リベンジャーズ』
超人気コミックの映画化。ヤンキーものとタイムリープの異色コラボ、原作愛溢れるキャスティングに注目。
公開:2021 年 時間:120分
製作国:日本
スタッフ 監督: 英勉 脚本: 髙橋泉 原作: 和久井健 「東京卍リベンジャーズ」 キャスト 花垣武道/タケミチ: 北村匠海 佐野万次郎/マイキー: 吉沢亮 龍宮寺堅/ドラケン: 山田裕貴 橘直人/ナオト: 杉野遥亮 橘日向/ヒナタ: 今田美桜 千堂敦/アッくん: 磯村勇斗 清水将貴/キヨマサ: 鈴木伸之 三ツ谷隆/ミツヤ: 眞栄田郷敦 半間修二/ハンマ: 清水尋也 稀咲鉄太/キサキ: 間宮祥太朗
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
ダメフリーターの花垣武道(北村匠海)は、ヤンキーだった学生時代に付き合っていた人生唯一の彼女・橘ヒナタ(今田美桜)と彼女の弟・ナオト(杉野遥亮)が、関東最凶の組織・東京卍曾に殺されたことをニュースで知る。
その翌日、駅のホームで何者かに背中を押され線路に転落したタケミチは、不良学生だった10年前にタイムスリップする。
過去の世界でタケミチがナオトに「10年後ヒナタは殺される」と伝えたことにより未来は変化。現代に戻ったタケミチは、死の運命から逃れ刑事になっていたナオトと出会う。
レビュー(ネタバレあり)
ヤンキー映画+タイムリープ
和久井健の超人気コミック「東京卍リベンジャーズ」の実写映画化。とはいえ、あいにく原作もアニメも知らず、劇場予告を観ても、また懲りずにヤンキーものの映画かと興味をそそられずにいたが、そんな自分が恥ずかしい。
ヤンキー映画とタイムリープものの異色コラボが、こんなに面白くなるとは思わなかった。これは興行成績がよかったのも肯ける。
きっと原作読みだすと、ハマってしまうに違いないのだろうけど、とりあえずここでは、予備知識なしで映画を観た状態でのレビューとなる。
◇
冒頭、いかにも人生負け組っぽい冴えないフリーターのタケミチ(北村拓海)が、元カノのヒナタ(今田美桜)とその弟・ナオト(杉野遥亮)が東京卍曾に殺されたことをニュースで知る。
その後、タケミチ自身も渋谷駅のホームから何者かに線路に突き落とされる。そして電車に轢かれる直前、10年前の高校時代にタイムリープしてしまうのだ。
10年前とは微妙な設定
その頃のタケミチはアッくん(磯村勇斗)ら<溝高五人衆>の一員として、イケイケのヤンキー生活を満喫していた。
冴えない現在の自分とは違い毎日が充実していたが、東京卍曾の一人、渋工のキヨマサ(鈴木伸之)の一派にボコられて以降、奴隷のように謝り続ける日々となる。
◇
10年前とは意外と中途半端な過去であり、同じ渋谷でも『ボクたちはみんな大人になれなかった』(森義仁監督)のバブル期の回想シーンのような驚きはない。
せいぜいガラケーとか、改築前の渋谷駅や宮下公園、109のロゴが古くなっている程度か。ただ、本作は古い町並みの映像でタイムスリップ感を出すのではなく、俳優の演技でそれを伝えようとしている。そこが分かりやすくていい。
◇
高校時代のタケミチが仲間たちと交わす楽しそうな会話。「え、俺死んだんじゃないの。これって走馬灯的な?」と、まるで『くれなずめ』(松居大悟監督)の成田凌のような台詞。
そして、今はクズ人間のタケミチに、「頑張って10年後も一緒にいてね」と言ってくれるヒナタ。
過去と現在を行ったり来たり
その後、タケミチは再び現在に戻ってくる。姉と殺されたはずの弟ナオトが生きており、彼を駅のホームで救ってくれたのだ。
10年前に会ったタケミチの教えで、ナオトは死を免れて刑事となっていた。だが、ヒナタは救えなかった。
姉を救うために、10年前に戻り、東卍の幹部二人の出会いを阻止してほしい。ナオトの依頼で、タケミチはそれから何度も過去にタイムリープし、ヒナタを救うために、東卍の総長・佐野万次郎(吉沢亮)に近づいていく。
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タケミチが過去で何かアクションをとるたびに、パラレルワールドのように現在が変わっていくが、思うように姉を救えず苛立つナオト。
苦悩する杉野遥亮はどこか、ドラマ『シグナル 長期未解決事件捜査班』で過去とコンタクトする刑事の坂口健太郎のようだ。
タイムリープ抜きでも面白い
さて、はじめのうちは、このタイムリープに着目して映画を観ていたのだが、途中からは、この過去との往復や、それによって現在で何が変わったのかといったことには、あまり関心を払わなくなった。
現在のシーンには、タケミチが東卍の幹部となったアッくんとビルの屋上で再会し語らう場面くらいしか見どころがない。
一方で、10年前の世界でタケミチが巻き込まれる東京卍曾と愛美愛主とのヤンキー抗争の話が、タイムリープ抜きでもそれだけで十分面白いのだ。だから、途中からはただのヤンキー映画として楽しく観させてもらった。
高校生のヤンキー映画なんて、古くは『ビー・バップ・ハイスクール』から『クローズZERO』あたりでほぼ正統派は終焉を迎えた。
あとは『今日俺』とか『地獄の花道』(こりゃOLか)、『HiGH&LOW』みたいに笑いもありじゃないと成り立たない、ほぼ絶滅危惧種のジャンルだと思っていた。
だが、本作は正統派のヤンキー映画であるにも関わらず、10年前の設定にしたおかげで古臭いことの免罪符を与えることで、この問題を楽々クリアしてしまったようだ。
スタッフについて
監督は英勉。デビュー作の『ハンサム★スーツ』(2008)と『行け!男子高校演劇部』(2011)しか観ていないのだが、13年間で16本と、今日の映画業界にしては、結構ハイペースで作品を世に出している監督。
本作のようなハードなバイオレンスものは珍しいのではないかと思うが、結構迫力はあった。
◇
脚本の髙橋泉は、人気原作をコンパクトにまとめるうえで、いろいろ苦労が感じられた。
現在と過去との因果関係、特に、キサキ(間宮祥太朗)がどのようなキャラで、どう現在に繋がっていったのかは、初心者にはよく分からなかった。
冷静に考えれば、消化不良の多い脚本だが、アクションの面白味で、それを補った格好。どうもこの脚本家とは、『ごっこ』(2018)、『ひとよ』(2019)と近年は相性が悪い。
メイン三役キャスティングについて
さて、実写版としての本作の魅力は、結局キャスティングの妙に尽きるのではないか。
主人公タケミチの北村匠海、東京卍曾(文字にすると東京會舘みたい)の総長マイキーこと佐野万次郎の吉沢亮、そしてその相棒ドラケンこと龍宮寺堅の山田裕貴。
この三人はいずれ劣らぬ好演だったし、原作キャラクターへの深い造詣と愛情をも感じさせた。
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まずは主人公花垣武道の北村拓海。『キミスイ』から『とんかつDJアゲ太郎』まで幅広いジャンルの主演で活躍する北村匠海は、ソフトな好青年役のイメージが強いが、本作ではヤンキーの一員。
ただし、現在では冴えないフリーターだったり、ヤンキー時代も根性だけで腕力弱めのいい奴キャラだったりと、観ていてギャップはない。マイキーにもらった愛称<タケミッち>が良く似合う。
そのマイキーこと佐野万次郎は、泣く子も黙る東卍の総長であるが、長身のドラケンが常に横に立つこともあり小柄なのが目立つのと、金髪に優しく美しいマスクで、とても強そうには見えない。
だが、喧嘩となればべらぼうに強い。このカリスマ・ヤンキーに吉沢亮とは、ハマり過ぎる。
大河ドラマ『青天を衝け』の渋沢栄一も悪くないけど、なんか吉沢亮は『銀魂』の沖田とか、本作のマイキーみたいな意外性のある役の方が好きだな。
そして、マイキーの良心として彼を支える相棒のドラケンこと龍宮寺堅の山田裕貴。映画的には、このドラケンが一番光っていたのではないか。めちゃくちゃ、痺れる。
吉沢亮と同様、朝ドラ『なつぞら』にも出演していた山田裕貴だが、ガラッとイメージ変えてきた。
靴は15センチ上げ底して長身にして、側頭部には原作忠実な剃り込み。威圧感がすごい。彼のおかげで、映画全体の緊張感が数段階高まっている印象。
<今日俺>の最凶タッグの二人
このメイン三人衆に比べると、ちょっと存在感が途中から薄れてしまったのが残念だったのは、タケミチの親友アッくんこと千堂敦の磯村勇斗と、彼ら溝高五人衆を奴隷扱いでいじめ倒した挙句に、東卍を破門となったキヨマサの鈴木伸之。
磯村勇斗演じる優しい顔立ちヤンキーは、『ヤクザと家族』(藤井道人監督)を思い出させるが、何より迫力満点の鈴木伸之と磯村勇斗の組み合わせは、『今日から俺は!!』の開久高校のツートップそのものの復活ではないか。
磯村勇斗が「おい、さとし~」と呼びかける錯覚に陥る。それにしても、鈴木伸之が『今日俺』で築いた硬派番長イメージが、音を立てて瓦解してしまった。
思えば、『今日俺』では、賀来賢人と伊藤健太郎がふざける部分よりも、ヤンキー同士が戦い合うパートが好きだったのだ。そこだけを抽出しているような本作が、つまらないはずがない。
ただ、ヒロイン二人をはじめ、女子キャラも多数登場する同作に比して、本作では女性出演者は、ヒロイン・橘日向の今田美桜ただ一人(ワンカットだけ、入院した娘の母役で篠原ゆきこが出たけど)。
映画的には、もう少し、誰かの彼女役がいても良かった気はする。「タケミチが童貞喪失してたら許せねえ」と盛り上がる仲間たちに、誰も彼女がいないのはゲイなのかなと思った(原作は知らない)。
それはさておき、「きみはいつも急にくるねぇ」の今田美桜はただ一人のヒロインとして大いに魅力を放っている。
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映画は予定調和の着地となり、そこに不満はないが、ストーリー的にはまだまだ終わった気がしない。こりゃ当然、次回作があるんだろうな。