『ダークナイトライジング』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『ダークナイトライジング』一気レビュー③|愛する者の為にマスクを着けろ

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『ダークナイト ライジング』 
The Dark Knight Rises

三部作堂々の完結編。新たな敵ベインは同じ組織で修行を積んだ身。そしてキャット・ウーマンは敵か味方か。ゴッサムに平和は訪れるのか。

公開:2012 年  時間:165分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ 
監督:     クリストファー・ノーラン
キャスト
ブルース・ウェイン:クリスチャン・ベール
アルフレッド:     マイケル・ケイン
ジム・ゴードン: ゲイリー・オールドマン
ルーシャス:    モーガン・フリーマン
セリーナ・カイル:   アン・ハサウェイ
ベイン:         トム・ハーディ
ミランダ・テイト:マリオン・コティヤール
ジョン・ブレイク: 
     ジョセフ・ゴードン=レヴィット
ガルシア市長:   ネスター・カーボネル
フォーリー副本部長:マシュー・モディーン
ジョン・ダゲット: ベン・メンデルソーン
ジョナサン・クレイン:
          キリアン・マーフィー

勝手に評点:4.0 
(オススメ!)

(C)2012 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES FUNDING, LLC

あらすじ

地方検事ハービー・デントの死の責任を背負い、悪者となったダークナイトことブルース。彼の死後、制定されたデント法により、ゴッサム・シティは平穏を取り戻していた。

だが、8年後、謎の覆面テロリスト、ベインが現れ、街の人々の大きな脅威となる。潜伏を決めていたブルースは、再びダークナイトとして人々の前に現れることに。

一気通貫レビュー(ネタバレあり)

ダークナイト・トリロジー完結編

ついに、ダークナイト・トリロジーも完結編を迎える。165分の長尺をものともしない重厚さとドラマの深さ。

一作目は邦題もビギンズとしたのに、本作はライゼズにしなかったのは、ライジングの方が日本人にはスペルがイメージできるから?

ありきたりなスーパーヒーローのエンタメ路線とはまったく異質の世界観。同じバットマンものでも、これでは敵キャラに、馴染みのある人気者でもペンギンなど出しようがないと監督がいうのもよく分かる。

クリストファー・ノーランがこだわった、大人の世界のダークヒーローは、これだ。

超ド級のスペクタクルとして、迫力ある場面は勿論多いのだが、チャラチャラと浮付いた派手なアクションはない

その分、過去作品に続き、人間ブルース・ウェインの内面の葛藤と成長を描くドラマ要素にも重きが置かれている。

こんなスーパーヒーローものは、この三部作以外にもう登場しないかもしれない。ティム・バートンの目指したバットマンとも大きく違うし、また、クリストファー・ノーラン監督のフィルモグラフィにおいても、トリロジーは異色な存在だ。

同じアメコミのヒーローものでありながら、MCUのアベンジャーズたちとはまったくかけ離れた主人公。好戦的で徒党を組んで戦っている、ビビッドなカラータイツの陽気な超人たちと違い、ダークナイトは闇に潜み、ストイックに孤独でゴッサムの平和を守る(どちらも好きなヒーローたちではあるが)。

とはいえ、バットマンにも、本作を離れればロビンというサイドキックもいるし、また『ジャスティス・リーグ』では徒党を組んで戦ってもいるので、本作のようなブルースのキャラ設定は、ノーラン、或いはクリスチャン・ベール固有のものといえそうだ。

来年公開予定の『THE BATMAN-ザ・バットマン-』は若き日のブルースを描くそうだが、どのようなキャラになるのだろうか。ちなみに新作はノーランの監督作品ではないが、新たな主人公は『TENET』で大活躍したロバート・パティンソンが演じるので、どこか奇縁を感じてしまう。

(C)2012 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES FUNDING, LLC

過去作とのつながりも大きい

さて、話を本作に戻そう。このトリロジーで私が感心したのは、三部作それぞれがきちんと物語を完結させた独立作品となっており、前編後編的な扱いではないこと。そして、それにもかかわらず、作品同士の繋がりも大きな意味を持っていることだ。

例えばハービー・デント。敏腕地方検事だった彼は前作で正義の人からダークサイドに堕ちてしまう。バットマンは彼を倒したあと、ゴッサムの平和のためにその罪をかぶり、表舞台から姿を消す。

何も知らない市民は、デントの生前の功績を称え、デント法で厳しく悪を取り締まるようになるが、やがてこの圧政は破綻する。デントは名前のみだが、本作においても大きな役割を果たしている。

同様に、第一作の敵であり、ブルースを鍛えてくれたラーズ・アル・グールも本作では重要な存在だ。何せ、新たな敵であるベイン(トム・ハーディ)は、このラーズ・アル・グールに育てられ、破門された男なのだ。

(C)2012 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES FUNDING, LLC

このように、過去作の重要キャラを絡ませる一方で、前作の人気キャラだったジョーカーなどは、完全に捨て去っているのも興味深い。

ヒース・レジャー亡きあと、未公開シーンを使う噂も流れた人気者なのに(余談だが、本作公開時に劇場で起きた銃乱射事件、あるいはホアキン・フェニックス版に感化されて東京で先日発生した京王線無差別死傷事件など、ジョーカーが社会に与えた影響力は恐ろしいものがある)。

今回ジョーカーを持ち出さないのは、最強ヴィランのベインとキャラがかぶるからだろう。一人よがりの狂人ではなく、ベインには、集団を熱狂的な信者にさせるカリスマ性もある。しかも、腕っぷしもバットマンを凌駕するし。

出演中ずっと呼吸マスクをつけているので、トム・ハーディの顔をなかなか拝めないのが勿体ない。

それにしても、ブルース・ウェインとベインは同じ虎の穴の出身者でともに鍛えられ、おまけに戦いに負けたブルースはマスクを剥ぎ取られ正体を知られ、ついでにブルースは孤児院のこどもたちを救済しようと一肌脱ぐなんて、まるでタイガーマスクのようではないか。

(C)2012 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES FUNDING, LLC

キャット・ウーマンの登場

さて、その他今回登場の新キャラ。まずはキャット・ウーマンセリーナ・カイル(アン・ハサウェイ)

はじめはブルースの母の形見のネックレスを盗み出す、まさにキャッツアイのような宝石泥棒であったが、次第にこの二人が共闘体制を組み始めるところが見どころ。

これまで超人キャラの助っ人はいなかったブルースだが、敵か味方か微妙な峰不二子キャラのセリーナが一枚噛んでくるところで、アクションのバリエーションにも厚みが加わる。

レイチェル亡き後、ブルースのハートを射止めるのがなぜセリーナだったのかは、いまひとつ不明ではあったが、まあよいか。

(C)2012 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES FUNDING, LLC

もう一人の女性新キャラはミランダ・テイト(マリオン・コティヤール)。中盤でウェイン産業の経営を引き継ぐことになるビジネス・ウーマン。

はじめはこちらがブルースの彼女になるのかと思ったが、どっこい最後には大きなサプライズ。ネタバレになるので、未見の方はご留意いただきたいが、私は何度も本作品を観ているはずなのに、なぜか彼女の正体にはいつも驚かされる。

そう、ラーズ・アル・グールの子供で、谷底から這い上がることのできたただ一人の存在というのは、ベインではなく、ミランダだったのだ。

ベインと戦って最後の一撃を加えようとするバットマンの背後から、長いナイフを深くゆっくりと突き刺すミランダ。形勢再逆転は、いかにもノーランっぽい展開。

ジョン・ブレイクの本名とは

最後に忘れてはいけないジョン・ブレイク(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)。ただのゴードンの新しい部下なのかと思っていると、次第に存在感を増していく。

「刑事は偶然を信じない」と敵に気づき追い詰めていく姿も、橋の上で子供たちを逃がそうと孤軍奮闘する姿も、なかなか絵になる。そして最後に明かされる彼の本名がロビン。このさりげなさがいい。

トリロジーの中では孤高のヒーローに弟子は不要だったが、バットマン亡き後、その役割を担うのは、この若き正義漢なのだ。

これまでのレギュラー陣だけでも相当にノーラン組常連者は多いが、そこにジョセフ・ゴードン=レヴィットトム・ハーディマリオン・コティヤールまで加わって、ちょうどトリロジーの間に製作された『インセプション』ともシンクロ率が高まる。

常連といえば、ブルースを取り巻く仲間のオジサン連中にまざって、スケアクロウのキリアン・マーフィーが本作にも登場するのが何とも痛快。彼も三部作皆勤賞のひとりなのだ。しかも今回は、暴徒と化したゴッサム市民の検事のような役柄で、だんだん偉くなっている。

(C)2012 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES FUNDING, LLC

闇に生まれ、闇に消える宿命

本作前半では指名手配犯として久々に姿を現しては、ゴッサム中の警察車両に追い回されるバットマン(タイヤがクルクル自転してコーナーを曲がるバイクの構造が謎だったが見栄えはいい)。

なんとも哀れな状況から、会社もベインの策略で乗っ取られ、絶望を味わって死ねと谷底に突き落とされる。

「お前は死を恐れていない。それがお前の弱さだ」

禅問答のようだが、第一作でコウモリの恐怖さえ乗り越えてここまできたブルースには無慈悲な言葉。

だが、彼は谷底を這いあがり、セリーナと同じく、どこにでも逃げられるのに、ゴッサムに戻ってきた

仲間たちの協力を得ながら、最後に敵を倒し、停められなかった核爆弾を積んだザ・バットを操縦し、海の向こうへと飛んでいく。そして閃光。

町は爆破を逃れた。だが、バットマンは、もういない。彼は姿を消すが、市民からの名誉を取り戻す。

アイアンマンが爆弾を抱えてはるか宇宙空間に消え、爆死したかのようにみせてすぐに落下してきたのはMCUの何作目だったか。本作でもブルースは死んでいないが、あそこまでコミカルにすぐに再登場はしない(無論、その方が似合う)。

ただ、アイアンマンくらい地球から離れるならまだしも、飛行機で2~3分離れた海上で爆破させたのでは、みんな被ばくしてしまわないのか。あまり安心できる局面でもないような気がした。

(C)2012 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES FUNDING, LLC

ヒーローはどこにでもいる

とはいえ、映画の終盤の盛り上がりは、三部作のフィナーレにふさわしい

自動装置の不具合さえなければブルースは死なずにすんだのに、そんなルーシャス(モーガン・フリーマン)には、死後にブルースがどこかで装置のプログラムにパッチをあてていることを知る。

アルフレッド(マイケル・ケイン)は、最後に自分がブルースを見放し、力になれなかったことを泣いて悔いる。だが、後日彼は街のオープンカフェで、セリーナと過ごす幸福そうなブルースを見かけ、一瞬目を合わす(ここはセリフがないところが渋い)。

ゴードン(ゲイリー・オールドマン)は壊したはずのバットシグナルが修復されていることに気づく。

生前バットマンは最後まで彼に正体を明かさなかったが、「ヒーローはどこにでもいる。少年の肩に上着をのせ、世界の終わりではないと励ますような男だ」と語って爆弾を抱えて去っていく。ゴードンは、ブルース少年との初めての出会いを思い出し、正体に気づく。ここは泣かせる。

そして、最後にブルースが未来を託したのがロビンというわけだ。映画はこの後も続くような匂わせ方だが、MCUのように作品の余韻を壊すような登場人物をラスト1分で投入させたりはしない。緊張感のあるこのエンディングは、本作にふさわしいと思った。

愛する者を守る為に、マスクを着けろ。バットマンの言葉がコロナ禍の今,身に沁みる。