『どんてん生活』今更レビュー|学生さん?パチプロ?じゃあ、プータローなの?

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『どんてん生活』

山下敦弘監督の長編初監督作にして、 <ダメ男三部作>の第一弾。

公開:1999年 時間:90分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:       山下敦弘
脚本:          向井康介


キャスト
南紀世彦:        山本浩司
町田努:         宇田鉄平
愛子:           康季丹
田所:          前田博通
佐知子:         今枝真紀

勝手に評点:2.5
  (悪くはないけど)

あらすじ

先の見えない曇り空のような生活を送っている青年・努(宇田鉄平)は、パチンコ店の前で特大リーゼントの男・紀世彦(山本浩司)と知り合い、裏ビデオのダビングを手伝うことになった。

不思議な存在の紀世彦は元暴走族。別れた妻子がいるらしく、生活費を仕送りしているらしい。ある日、ふたりへの仕事がなくなった。

その上、努は缶ビールの万引きで捕まり、紀世彦も妻・佐知子(今枝真紀)の再婚で子供に会えなくなってしまう。

今更レビュー(ネタバレあり)

山下敦弘監督の長編デビュー作にして、大阪芸大の卒業制作。

大学の先輩・熊切和嘉監督の異色作『鬼畜大宴会』では助監督だった山下敦弘が照明の向井康介、撮影助手の近藤龍人と組み、監督・山下、脚本・向井、撮影・近藤というトリオを結成。

そこに先輩の山本浩司が主演することで、本作から『ばかのハコ船』『リアリズムの宿』と繋がっていく<ダメ男三部作>が誕生する。

いまや名バイプレイヤーぶりが際立つ山本浩司の初主演作だが、コントのようなリーゼントに安っぽいヤンキー姿の主人公、南紀世彦が何ともいえぬダメ男の哀愁を漂わす。漢字を見ると“紀世彦”とあるので、尾崎紀世彦のイメージなのか。

紀世彦がロードサイドのパチンコ屋で開店前から並んでいると、覇気のない無職の若者・町田努(宇田鉄平)と出会い、親しくなる。意気投合した紀世彦は、裏ビデオのダビングという自分の仕事を手伝わせる。

その映像を撮っているのは、紀世彦の仕事の元締めの田所(前田博通)、そして彼の妻でAV女優の愛子(康季丹)

紀世彦は努に、ダビングだけでなくAV男優の仕事もやってみろよと薦めるのだが、二人で観ている裏ビデオに、紀世彦が突如姿を見せるのは面白かった。

小柄の痩躯に長大なリーゼント、女もののサンダル、赤いカーディガンにちょび髭という時代錯誤なツッパリ姿の紀世彦は、イモ欽トリオのワルオのようであり(古いね)、松田優作をモノマネしていた頃の竹中直人のようにも見える。

でも、これでも若い頃は暴走族のメンバーとして、粋がって単車を転がして虚勢を張っていたのだ。

そんな紀世彦と対照的に、人生に何の目的も見いだせず、ただ平凡に生きているだけに見える努。まじめそうに見えるが、ただの間抜けにもみえる。

紀世彦はダメ男なのだろうが、ダメンズぶりは三部作の中では控えめで、『リアリズムの宿』になるにつれ、山本浩司の演じる主人公の情けなさは強まっていくように思える。

フィックスの画面に独特の間合いの静かな会話劇。そしてシニカルな笑い。なるほど、ジャームッシュカウリスマキが引き合いに出されるのも、分からなくはないオフビート感。

ダメ男三部作も次第に洗練度があがっていく中で、初発のこの作品こそが、もっとも荒削りで、何も特別なことが起きない中でのドラマの純度が高いといえる気もする。

紀世彦には妻子がおり、かつては幸せな家庭生活を過ごした時期もあったが、今や妻の佐知子(今枝真紀)は別の男と結婚し、紀世彦が子供に会えるのは許された日だけ。

こういうシチュエーションは、離婚家庭のドラマには付き物だが、紀世彦は風邪気味でも保険証がないので医者に行けず、子供に会ったときに渡す玩具を買うカネもなく努に借金。

だが、それでも結局子供と会う日には息子の体調不良で、駅で待ちぼうけを食わされる。

元妻とやりたいから、ラブホの前で腹痛を起こすという古典的なネタで失笑を買うのも見ていてイタい。紀世彦の哀愁は沁みる。

が、一方の努は得体が知れない人物だ。

コンビニでビールを万引きして店主に捕まるが、事務室で金属バットでその店主を撲殺する妄想を抱く(『鬼畜大宴会』っぽいね)。

或いは子供が体調不良で今日はいけないという元妻の伝言を、なぜか紀世彦に伝えず、待ちぼうけを誘発する。

若さゆえの勢いで撮った映画なのだろうから、細かい粗さがしをしても始まらないし、最後に全員集合してお花見を楽しんで、1億円あったら何するかを語り合うのもいいだろう。

でも、やっぱりジャームッシュと比較してしまうと、ちょっと、物足りないんだよなあ。