『鬼畜大宴会』『空の穴』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『鬼畜大宴会』『空の穴』熊切和嘉監督の初期二作品|今更レビュー

『鬼畜大宴会』(1998)
『空の穴』(2001)

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『鬼畜大宴会』

公開:1998 年  時間:112分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:    熊切和嘉

キャスト
雅美:      三上純未子
岡崎:       澤田俊輔
熊谷:        木田茂
杉原:       杉原敏行
藤原:     小木曽健太郎
山根:       財前智宏
相澤:       橋本祐二
平:         平良勤
メンバー1:    東野哲也
メンバー2:     仙田学

勝手に評点:1.5
  (私は薦めない)

あらすじ

学生運動全盛の頃。1つの左翼グループが、薄汚れたアジトに集まっていた。メンバーは、カリスマ・相澤(橋本祐二)の信奉者たち。

相澤は獄中におり、出所までの組織の実権は、彼の恋人・雅美(三上純未子)が握っていた。だがそのやり方に信念や展望はなく、アジトの雰囲気は徐々にすさみ始めていた。

そして出所間近のある日、相澤が独房で割腹自殺を遂げ、指導者を失った組織は混乱に陥る。そんな時に起きた仲間割れの制裁が、彼らを逆戻りできない狂気と暴力の世界へ暴走させていく。

レビュー(ネタバレあり)

熊切和嘉監督の初監督作は、大阪芸大卒業制作にして、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)準グランプリ受賞作

『天然コケッコー』『1秒先の彼』山下敦弘を助監督、更には『愚行録』『ある男』など傑作多数の脚本家・向井康介を照明係として起用。みんな大阪芸大の同窓なのだ。

これだけの純度の高い二時間弱の作品をアマチュア監督の熊切和嘉が手掛け、しかも濡れ場から修羅場まで大胆に撮りきっていることは、称賛に値する。凄いことだと思う。

だが、後で述べるが個人的にこの題材は苦手だ。

大学の学生運動から始まったような左翼組織の内部崩壊と総括。

  • 冒頭に出てくる獄中の男・相澤(橋本祐二)は組織のリーダー、出所まであとわずか
  • 留守中の組織を牛耳って好き勝手にやっているのは相澤の恋人である雅美(三上純未子)
  • 雅美の無謀な采配に従って活動しているが、それに反発し始めるのが年長者の山根(財前智宏)
  • その後輩で相澤を愚弄する山根と敵対するロン毛のフォークギター弾き・熊谷(木田茂)
  • ルームメイトというだけで熊谷に誘われ組織に参加した新入生の杉原(杉原敏行)
  • 雅美が性のはけ口として利用している岡崎(澤田俊輔)
  • そして相澤に刑務所で世話になったという日本刀使いの藤原(小木曽健太郎)
『鬼畜大宴会』DVDトレーラー

信念のあるリーダー相澤不在の組織は迷走し始め、出所直前に相澤は割腹自殺。雅美は暴力と自分の肉体を使って組織を維持しようとするが、仲間割れと制裁が次々と行われるようになる。

あさま山荘事件で知られる連合赤軍のリンチ殺人劇をモチーフにしていることは明白だ1974年生まれの熊切和嘉監督が、もうすぐ21世紀になろうという時代に、ここまで当時の雰囲気で大胆にこの題材を映画化しているのは驚きである。

連合赤軍の映画なら、原田眞人監督が警察側視点で『突入せよ! あさま山荘事件』を、若松孝二監督が漣赤軍視点で『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』を撮っている。

それぞれ2002年と2008年の作品だから、同じ題材でも、実は本作が先駆けなのではないか。その意味では、大した作品なのである。ハイレベルな卒業制作だ。

だが熊切監督なぜかこの題材を、スプラッタ映画にしている。これが個人的には耐えられない。

左翼の活動家たちが内紛で次々とリンチ殺人で総括されていく話であれば、気が重くはなるが、社会派作品として観るべきものになる余地はある。

一方、スプラッタ映画も血みどろやグシャグシャのゴア映像で気色悪くはあるが、怖いもの見たさ的な面白味はある。

だが、両者は食べ合わせが悪いと思う。胃が受け付けない。

スプラッタは呪われた場所に肝試しに来たり、悪霊が憑りついたりするから、深く考えずに怖がって観られるわけで、そこに重苦しい話はなくてもよい。

一方、リンチ殺人の話は、実際に起きた凄惨な事件がモチーフなだけに、単純に「ああ、怖かった、気持ち悪かった」で済ませるには気まずさがあるはずだ。

こんな話で、日本の国旗を血だらけにしてしまっていいものか、という罪悪感もある。

『スキャナーズ』を思わせる頭グシャグシャの死体とか、白ブリーフの無精ひげ男とか、身の毛もよだつようなケツ出しのベッドシーンとか。

「くっせえー」男根切り落としを命じる悪女のリーダーが、オバQメイクで喪服着て舞う姿はまさに狂気。

本作が鬼畜の名にふさわしい異色作であることは間違いない。

熊切和嘉監督が本作の次に、菊地凛子主演で『空の穴』などというピュアな恋愛映画を撮るなんて、誰が想像しただろうか。

最後は、そして誰もいなくなった。