『竜とそばかすの姫』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『竜とそばかすの姫』細田守作品一気通貫レビュー|スタジオ地図のミライ⑥

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『竜とそばかすの姫』

細田守監督が大好きな『美女と野獣』を、インターネット全盛の現代社会で再解釈。その意欲は買うけど

公開:2021 年  時間:121分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:      細田守

声優
すず/Belle:    中村佳穂
しのぶくん:      成田凌
ヒロちゃん:     幾田りら
カミシン:      染谷将太
ルカちゃん:    玉城ティナ
すずの父:      役所広司
竜:          佐藤健
ジャスティン:    森川智之

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

(C)2021 スタジオ地図

あらすじ

高知県の自然豊かな田舎町。17歳の女子高生すずは幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人で暮らしている。

母と一緒に歌うことが大好きだった彼女は、母の死をきっかけに歌うことができなくなり、現実の世界に心を閉ざすようになっていた。

ある日、友人に誘われ全世界で50億人以上が集う仮想世界<U(ユー)>に参加することになったすずは、「ベル」というアバターで<U>の世界に足を踏み入れる。

仮想世界では自然と歌うことができ、自作の歌を披露するうちにベルは世界中から注目される存在となっていく。そんな彼女の前に、<U>の世界で恐れられている竜の姿をした謎の存在が現れる。

レビュー(ネタバレあり)

細田守監督による、インターネット仮想世界<U>でもう一人の自分に覚醒する女子高生を描いた物語。

高知の田舎町に生まれ育った主人公の女子高生すずは、幼少期に母を水難事故で亡くす。川で溺れる見知らぬ子どもを救おうとして、自分が犠牲になった母は、無謀で無責任な行動だとネットで叩かれ、すずは心を閉ざし、好きだった歌も苦手になる。

そんな彼女が成長し、<U>の世界でBelleと名付けたアバターを手に入れ、そこで自作の歌によって瞬く間にネット世界の歌姫にのしあがる。だが、自身のライブに突如現れた凶暴なの存在に、Belleは気をとられていく。

私のように予備知識なく見ていても、この竜の登場で、なんだよ『美女と野獣』かよと気づくとともに、がっかりする。世界に誇る日本のアニメが、ヒットメーカー細田守が、今更こんな古典をなぞらなくたっていいではないか。

『美女と野獣』が観たければディズニーのアニメを選ぶよ、と言いたくなる。『バケモノの子』の英題を”Boy and the Beast”にしたところまではセンスを買うが、これはやりすぎ。

同じ古典でも、シェイクスピア原作を思いっきり現代版に焼き直した、ディカプリオ主演の『ロミオ+ジュリエット』(1996)という実写映画があった。

本作もいっそ、紛らわしいタイトルなどつけずに、『美女+野獣』とでもしてくれると落胆もなかったのに。

主人公すずのアバターがBelleというのも、ディズニー版の主人公ベルに因むのだろうし、日本各地で昔からよく見る、鈴木さんが経営する商店やアパートをベルウッドと名付けるのと同じでひねりがない。

おまけに、よせばいいのに本家ディズニーからジン・キムを招聘しCGキャラクターデザインを任せているものだから、Belleの動きや造形まで、ディズニーのパクリに見えてしまう

(C)2021 スタジオ地図

細田守監督は『美女と野獣』好きを以前から公言しているが、こういう本家スタッフの手を借りず、「憧れるのをやめましょう」じゃないと、先人は越えられないのではないか。

<U>の中の自警集団「ジャスティス」のキャラデザインも、どこかピクサーアニメの廉価版っぽくみえる。

原作ものを映画化するのなら、『時をかける少女』くらい大胆にアレンジしてしまったら細田監督らしかったのに、「憧れ」だけに遠慮がみられた。

(C)2021 スタジオ地図

古典にインターネット世界を舞台にして現代解釈を織り込んだのは分かるが、<U>の仮想空間は傑作『サマーウォーズ』の美しくクールだった<OZ>の世界を越えていないと思う。そこに10年の進歩は感じ取れない。

<OZ>にも空飛ぶクジラは出てきたと思うし、アバターのデザインも個性的だった。<U>に目新しさは乏しく、今回登場する竜の後ろ姿『サマーウォーズ』のヒーローキャラ、キングカズマの模倣に見えてしまう。

(C)2021 スタジオ地図

インターネットの世界と歌姫との融合が新しい試みだというのなら、それは岩井俊二が20年前に『リリイ・シュシュのすべて』で見せてくれたものだといいたい。

本作で私が感銘を受けたのは、Belleの歌だ。今回声優もやったミュージシャンの中村佳穂による独特のメロディラインと声質は、歌姫と言わせる説得力がある。本家ディズニーのミュージカル調とは一味違うものを感じる。

また、CGの表現力もさすがに優れていると思った。Belleの衣装や表情なども自然で見応えがある。

ただ、脚本が雑すぎて感情移入できず、ついアラ探ししてしまい、興ざめだ。

主人公のすずと親友のヒロちゃんはまだキャラが立っているが、それ以外の登場人物は、絶望的にキャラが弱い

以下ネタバレになるので、未見の方はご留意ください。

本作は、途中から、竜の現実社会での正体は何者なのかが取り沙汰される。

だが、竜と似たタトゥーの現代美術家や嘘だらけの孤独なオバサン、傷だらけの野球選手など、竜ではないかと匂わせる連中はどうみても本命ではないことがバレバレだ。

最後に登場する、DVの父親に虐待されている兄弟のうち、兄の方が竜だと判明するのだが、事前にそれとなく伏線はあったものの、正直、竜の正体としては唐突感がある。

本作は、仮想空間を舞台にした『サマーウォーズ』と女子高生主人公の『時をかける少女』という、細田監督の二つの秀作と比較されてしまうという不幸な運命にある。

『時かけ』目線で見た場合、竜の正体はどうみても幼馴染のモテ男子しのぶくんが本命で、体育会系のカミシンが対抗なのだが、いずれもハズレ。

カミシンと学校のアイドル女子ルカは、序盤から思わせぶりに登場させておいて、結局、竜の正体である虐待されている兄弟の住居割り出しにヒントをくれるだけの存在で肩すかし。

一方、しのぶくん。「すず、お前、Belleだろ?」などと、前後の脈絡なく主人公の正体を暴くところは『時かけ』に出てくる「お前、タイムリープしてない?」の名台詞のようだが、その後が冴えない。

(C)2021 スタジオ地図

「竜の信用を得るために、<U>の中で自分の正体をアンヴェイル(晒す)するしかない」と、すずに告げるだけの役割

亡くなった母親代わりにすずを気遣う幼馴染であるはずのしのぶは、安全な場所から彼女に危険な行為を推奨するだけ。こいつは使えない。

今度は『サマーウォーズ』目線で見てみよう。

すずがBelleのアバターを作って歌を披露し、一気にフォロワー爆上がりする展開は、あまりに唐突すぎて実感がわかない。『SW』で主人公ケンジが数学の難問を解いて<OZ>をスラム化させてしまったときのように、突然の出来事の裏付け描写がほしい

本作の合唱隊のオバサンたちも、『SW』のように頼れる存在になるかと思いきや、ただの賑やかしでしかない。

DV父に虐待される子どもを救おうとするも48時間ルールとやらに阻まれ、結局すずが高知から武蔵小杉近辺まで救出に向かう展開になる。

子どもの安否が問われるときに、女子高生一人を東京に送り出す、しかも深夜バスというのんきな手段ですますのだ。

それを傍観しているオバサンたちは意味不明すぎる。大人ならもっと親身になってやれよ、と言いたい。

(C)2021 スタジオ地図

『SW』くらい壮大な話だと、仮想空間と現実社会の融合のストーリーに細かいツッコミもないが、本作のように虐待児童のような現実味のある題材だと、こういうアラが妙に気になってしまう。

それに、虐待されている兄弟の居場所を突き止めたとはいえ、大田区と川崎市の境目近辺という情報だけで、単身上京の小娘が田園調布に降り立ち、住宅地を偶然徘徊している弟にすぐに遭遇してしまうというのは、ご都合主義の極み

襲ってくる子供たちの父親から身を挺して兄弟を庇うすず。軽く顔に傷を負うが、DV父の方は、彼女の睨みに恐れをなして腰を抜かすという展開。竜である兄弟のお兄ちゃんは、すずに触発されて「これからは僕も戦うよ」となる。

えっ、このままハッピーエンドにしていい題材なのかこれ! 誰か大人が介入しないと、一歩間違えば、かつて子どもを助けて死んだ、すずの母親と同じ運命を辿るところだ。

そうなれば、合唱隊のおばさんも、しのぶくんたちも、すずの母親にネットで毒を吐いてた連中と何が違う。すずの父親の無力さも歯痒い。もっと踏み込んでほしい。

結局、このDV父はその後警察の世話になったのかもわからず、兄弟が虐待なしの平穏な暮らしを手に入れられたのかもわからずじまい。

(C)2021 スタジオ地図

無事に高知に戻ったすずに、しのぶくんは「もう見守るのは終わり。これからは普通に付き合えるな」だってさ。最近のディズニーアニメのように、もはやプリンセスの周囲にはボンクラな王子しかいないということか。

このボンクラ王子しのぶと、<U>で支配欲の権化だった自警団長のジャスティンの二人は、ぜひアンヴェイルにしてお仕置きしてほしかった。

本作で細田守監督作品の一連のレビューは完了なのだが、『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』、これを勝手に三大<細田監督傑作選>と名付けてしまおう。

ちなみに、この三作はどれも奥寺佐渡子の脚本になる。細田守監督とのタッグでの新作がぜひ観たい。