『夜がまた来る』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『夜がまた来る』今更レビュー|復讐するは名美にあり

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『夜がまた来る』

石井隆監督の名美と村木のシリーズもの。今回は夏川結衣と根津甚八。昭和感満載のエロティックバイオレンス。

公開:1994 年  時間:108分  
製作国:日本
 

スタッフ 
監督・脚本:     石井隆

キャスト
土屋名美:     夏川結衣
村木哲郎:     根津甚八
池島政信:      寺田農
池島組幹部:     渡辺哲
柴田一哉:     椎名桔平
土屋満:      永島敏行

他勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

あらすじ

土屋名美(夏川結衣)は麻薬Gメンの夫(永島敏行)を横流しの濡れ衣を着せられたまま殺されたうえ、組員たちにレイプされ、後追い自殺を図る。

それを救った組員の一人、村木哲郎(根津甚八)。村木に惹かれながら復讐に燃える名美はクラブホステスになって組長に近づく。

今更レビュー(まずはネタバレなし)

名美と村木ふたたび

石井隆監督による、お馴染みの名美と村木の物語。土屋名美を演じる夏川結衣の初主演ながらも文字通り身体を張った大熱演と、相手役の村木哲郎を演じる根津甚八のいぶし銀の渋さ。

石井監督作品では、『死んでもいい』大竹しのぶ『ヌードの夜』余貴美子の名美もいいが、カチッとしたミステリアスなストーリーとエロチシズムが融合した本作が一番好きだ。

冒頭、ベッドの上で夫と濃厚な夜を過ごしながら、名美は男の拳銃のグリップにハートマークを落書きしている。夫は土屋満(永島敏行)、暴力団池島組に潜入している麻薬Gメンだ。

大きな麻薬取引を前に、危険な仕事から手を引くように懇願する名美。だが、土屋は潜入先に戻り、そして何者かに射殺される。永島敏行がこんなに早く殉職するとは意外だったが、もう回想シーンにすら登場しない。

名美は茫然自失で夫の葬儀を迎える。どうやら夫は麻薬の横流しに加担した汚職Gメンとされているようで、心中は複雑だ。

そして、夫のいないマンションに突如、柴田(椎名桔平)らチンピラ連中が押し入り、麻薬を返せと骨壺をひっくり返し、ついでに彼女をなぶりものにして去っていく

絶望して自殺を図る名美だったが、何者かの通報で一命を取り留める。

根津甚八と夏川結衣

名美は、組織の会長・池島(寺田農)が汚職の濡れ衣を着せて夫を殺したと気づき、無実の罪を晴らすために彼に復讐することを誓う。

地下駐車場で池島をナイフで刺そうと迫るが、それに気づいた村木(根津甚八)が制したことで命拾いする。ここで、ようやく根津甚八の登場か。随分と引っ張るものだ。

ドラマのイメージから漠然と根津甚八は刑事役だと想像していたが、村木は池島組の幹部のようだ。だがなぜか、会長の命をねらった名美をとっさに庇う。村木は名美に、「今度姿を見せたら素性をばらすぞ」と脅かす。

だが、名美は復讐をあきらめない。会長のいきつけのクラブにホステスとして入り込み、まんまと会長の目に留まる。ここからの名美の命がけのアプローチが壮絶だ。

憎き会長の愛人になるだけでも覚悟がいるが、椎名桔平舎弟たちにレイプされたり、シャブ漬けにされたり。

初主演にしては相当にハードな作品だと思うが、出演にあたり夏川結衣は、本作がビデオでなく劇場公開されるのなら、という条件を提示したという。

その時点では、本作は劇場公開用に撮る予定ではなく予算も不足していたため、石井隆監督は『ヌードの夜』で獲得したサンダンス映画祭の賞金を、それに充当してどうにか夏川結衣との条件をクリアしたのだ。ちょっといい話である。

朝がまた来る

敵でありながら、常に名美のピンチにはどこからか現れ、彼女を救う村木。そして、そんな村木への反発分子である用心棒の柴田。

根津甚八椎名桔平、そして冒頭に殺された永島敏行、場末の風俗店の客として登場する竹中直人。これだけ揃うと『GONIN』の布石か。

『夜がまた来る』というタイトルは、意味はよく分からないがイメージが広がって耳障りがいい。小林旭の曲「さすらい」の歌詞にあるそうで、本作にも会長が名美に「お前の年齢でこんな歌を良く知っているな」という台詞がでてくる。

ちなみに、ラストシーンで会長や村木、名美らが死闘を繰り広げるビルの屋上は、撮影が難航したため何日間も要し、夜間撮影が終わらぬ間に空が明るくなり「朝がまた来る」とスタッフの嘆き節が聞かれたという。

この中には、『死んでもいい』の撮影時にも「死にたくない」と嘆きながら徹夜作業を頑張ったスタッフもいたことだろう。

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

屋上のネオンサインがいい

さて、隣で寝ていた会長を刺したのはいいが殺し損ね、正体を吐けと拷問されていた名美は、自分の指を詰めてまで、彼女を危機から救い出した村木のおかげで、何とか生き長らえる。

だが、シャブ漬けで場末の風俗店に沈められる名美。どこまで堕ちていくのか。そんな彼女を引っ張り上げて、何とか会長への復讐を叶えてやろうと協力する村木。

そしてついにその日は訪れる。村木のおかげで苦しいシャブ抜き地獄にも耐えて、銃の使い方も学んだ名美。

賭場が立った夜に現れた会長。密告でやってきた警察のガサ入れの混乱に乗じて、村木は会長を屋上に逃がす。ここからの夜の屋上シーンは圧巻。おそらくは東京晴海あたりのビル。遠くに見える赤い文字は懐かしのホテル浦島か。

そして屋上の真ん中に捨てられたネオンサインが煌々と光り出すと、えもいわれぬ妖しい雰囲気になり、そこにサマードレスで風に髪をなびかせた名美が登場。手にしているのは拳銃。絵になるわ~。

「土屋満って知ってますよね、あなたに麻薬横流しの濡れ衣を着せられ殺された」

ついに名美は正体を明かし、会長におのれの罪を突き付ける。だが、会長は否定する。

「知らん。それこそ私も濡れ衣だ。そうか、ヤツの仕業だ」

真実を知れば、絶望が増す

ここまで相当に匂わせ演出なので、その気になれば(ならずとも)最初からミエミエだが、一応ネタバレ注意でお願いします。

そう、この会長は嘘は言っていない。だが、真犯人を明かそうとした瞬間、現れた村木の拳銃が火を吹く。そして村木は会長の罪状を口にする。

劇中で麻薬取引の情報が洩れていると何度も話がでたが、彼こそが警察の潜入捜査官だった。ああ、やはり根津甚八といえば警察官という第一印象は的中。

そして会長の死んだあとに現れたのは、椎名桔平演じるボディガードの柴田。名美、村木、そして柴田が死闘を演じるが、そこで村木が落とした銃を拾い、柴田を撃とうとする名美が、グリップを見て妙な表情をする。

これ以上は語らないが、本作には一応の伏線回収があり、更にそこからのひねり技もある。

名美の夫の土屋満は厚生省の麻薬Gメン、そして村木は警察官。潜入のイヌが二匹。

自分の経歴やアイデンティティを捨てた者たちの、命がけのドラマがあることを、我々は『インファナルアフェア』でよく学んでいるが、本作はそれに先立つ潜入捜査官ものだ。

村木はただの裏切り者ではなく、彼にも彼なりの事情があり、人生があった。そして名美にもまた、夫の名誉と復讐のために、全てを犠牲にしてたどりついた先にあった真実は、あまりに虚しく哀しいものだった。

「明けない夜はない」というが、それは本当だろうか。