『こわれゆく女』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『こわれゆく女』今更レビュー|こわし続ける男との不思議な夫婦のカタチ

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『こわれゆく女』
A Woman Under the Influence

ジョン・カサヴェテス監督が妻・ジーナ・ローランズと盟友ピーター・フォークを起用した夫婦のドラマ。

公開:1974 年 (日本公開:1993年)
時間:147分  製作国:アメリカ

スタッフ 
監督・脚本:   ジョン・カサヴェテス

キャスト
ニック・ロンゲッティ:
          ピーター・フォーク
メイベル・ロンゲッティ: 
          ジーナ・ローランズ
ジョージ・モーテンセン(妻の父):
         フレッド・ドレイパー
マーサ・モーテンセン(妻の母):
          レディ・ローランズ
マーガレット・ロンゲッティ(夫の母): 
       キャサリン・カサヴェテス
アンジェロ:   マシュー・ラボートー
トニー:      マシュー・カッセル
マリア:  クリスティーナ・グリサンティ
ガーソン・クロス:   ジョージ・ダン
ハロルド・ジェンセン: マリオ・ギャロ

勝手に評点:3.0
   (一見の価値はあり)

(C)1974 Faces International Films,Inc.

あらすじ

専業主婦のメイベル(ジーナ・ローランズ)は、土木工事の現場監督を務める夫ニック(ピーター・フォーク)や三人の子どもたちと暮らしている。

精神バランスの不安定なメイベルは、ある晩ニックが仕事での突発的なトラブルで帰宅できなかったことを発端に、異常な行動を見せるようになる。

今更レビュー(ネタバレあり)

圧巻のジーナ・ローランズ

精神のバランスを崩した妻と、土木工事の現場監督を務める夫。壊れかけそうな家庭を必死に繋ぎとめようとする夫婦の姿を描いたジョン・カサヴェテス監督作品。

妻のメイベル役には勿論、監督夫人であるジーナ・ローランズ。そして夫・ニック役には、こちらもカサヴェテス監督の盟友ピーター・フォーク

これまでに私が観てきたいくつかのカサヴェテス監督作品は、インディペンデント映画としての独創性には感銘をうけたものの、作品内容に深く共感できるものは少なかった。

だが、本作の二人の姿には鬼気迫る緊張感と互いを必要とする夫婦愛が感じ取れ、純粋にドラマとしてのめり込むことができた。

これにはやはり、ゴールデングローブ賞最優秀女優賞(ドラマ)に輝いた、ジーナ・ローランズの迫真の演技が大きく貢献している。

(C)1974 Faces International Films,Inc.

はじめは普通にみえたけど

映画は冒頭、作業員仲間と海だか河の中に入り、何かを探している現場監督のニックの姿。一仕事終えたあとに、今度は水道管の破裂事故が発生。

「今夜は大事な予定があるから駄目だ!」と文句を言うが、復旧のため徹夜仕事を余儀なくされる。

一方、彼の家では妻メイベルが離れて暮らす母に三人の子供を預けて、夫の帰りを待つ。どうやら、夫婦水入らずの一晩を楽しみにしている様子だが、そこに夫から「仕事で帰れない」と詫びの電話が入る。

(C)1974 Faces International Films,Inc.

落胆はするが素直に状況を受けいれるメイベル、この時点ではまだ不自然な点はない。

その後、ひとりで夜の町に繰り出し、バーで隣の席の男性ガーソン・クロス(ジョージ・ダン)に声をかける。

「子供を預けてヒマなのよ」

酒をストレートで一機にあおり、気がつけばガーソンを自宅に招き入れベッドイン。

だが、翌朝から、いよいよ彼女の言動が怪しくなる。夫ニックの名を呼んだり、子供たちがいないと騒いだり。なるほど、メイベルが情緒不安定で神経症気味であることは確定的になる。

「妻は病気なんだ」とニックが同僚に語っていたのは、このことか。

妻が男を自宅に連れ込んで一晩過ごす展開は『フェイシズ』と同じだ。その男が軽薄なジゴロではなく、案外いいヤツだという点も似ている。

だから、本作も夫婦が喧嘩別れする展開かと気が重くなっていたのだが、どうやらそうではない。

少なくとも、この夫婦は互いを必要としている。だから、他のカサヴェテス作品と違い、あまり心が荒まずに観ていられたのかもしれない。

妻の奇行が増えていく

やがて、ニックが大勢の同僚を連れて朝帰り。といっても、飲み明かしではなく徹夜仕事明けだ。

みんなに大量スパゲティをふるまうメイベルは、一人ひとり名前を聞いたり、歌いだしたりと、ハイテンションにはしゃぎまくり「みんな、疲れてるんだ!」と夫にどやされる。

メイベルは人をもてなしたいという純粋な思いなのだが、何故か過剰に振舞ってしまう。日を追うことに、彼女の言動は過激さを増していく。

スクールバスに子供たちを迎えにいくにも、往来の人に時間をきき無視されて毒づきまくる。

子供たちの友だちを家に預かり、用事があるというその父親(マリオ・ギャロ)を引き留め、歌やバレエを無理やり見せてドン引きされる。

それにしても、このお父さん、妻が引っ張り込んだ男と誤解され、とんだ災難だった。

ハイテンションで誰彼構わず毒づくメイベルと、そんな妻に手を焼くニック。

妻が<動>なら夫は<静>でバランスを取っても良さそうなものだが、興味深いことに、この夫婦はどちらも大きい声をあげ激しく動くのだ。

精神科病棟で入院生活

日本では1993年の<カサヴェテス・コレクション>なる回顧展で、米国公開から20年を経て公開された。

「こわれゆく女」とは、なかなかうまい邦題だ。原題は” A Woman Under the Influence” 。

「影響を受けて」に当たる部分は、「薬の影響で酩酊状態になって」というのが本来の意味と思うが、彼女の症状には夫ニックの影響も否定できないだろう。

この1970年代という時代に、精神疾患にどれだけ世間の理解があったかは分からないが、病気で苦しむメイベルに対するニックや義母マーガレット(キャサリン・カサヴェテス)の対応は相当非常識だ。

ニックは大声で恫喝するように彼女に言葉をぶつけるわ頬を叩くわ、義母は彼女を子供から遠ざけ本人の前で「さっさとこの女を入院させろ」と容赦ない。

結局メイベルは精神病棟に半年強制入院させられ、薬漬けの日々を過ごし、ようやく退院を許される。

だが、そこでも相変わらずニックは無神経だ。病院まで迎えにいかないどころか、自宅では近所の人を大勢呼んでのサプライズパーティを企てる。しかも、愛する三人の子供たちにもまだ会わせずに食事会を始めるのだ。

挙句の果てには、薬漬けでおとなしくなった彼女を不憫に思ったのか「昔のように自分らしく振舞って、普通に会話をしろ」と強要し、かつての妻の真似さえ始める。これって、わざとやってる? 

退院初日に興奮させてはいけないのに、すっかり元の木阿弥に。破滅型なのは、妻ではなく夫の方ではないか。こわれゆく女と、こわしまくる夫。「うちのカミさんがね」刑事コロンボとは似ても似つかぬガサツな男。

この夫婦はもう瓦解寸前と思われたが、それでもメイベルとニックは互いを愛し、必要としあっているのだ。

無神経でも、ニックの言動は彼女を想えばこそのものだし、メイベルもまた、「ニックと寝たいの、みんな帰って」と食事会の席でいうほどだ。夫婦の在り方は、なんと多様なものなのだろう。