『君の名は。』
まだ会ったことのない君を、探している
公開:2016年 時間:107分
製作国:日本
スタッフ 監督・脚本: 新海誠 声優 立花瀧: 神木隆之介 宮水三葉: 上白石萌音 宮水四葉: 谷花音 宮水一葉: 市原悦子 宮水俊樹: てらそままさき 勅使河原克彦: 成田凌 名取早耶香: 悠木碧 奥寺ミキ: 長澤まさみ 藤井司: 島﨑信長 高木真太: 石川界人
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
あらすじ
1000年ぶりという彗星の接近が1カ月後に迫ったある日、山深い田舎町に暮らす女子高生の宮水三葉は、自分が東京の男子高校生になった夢を見る。日頃から田舎の小さな町に窮屈し、都会に憧れを抱いていた三葉は、夢の中で都会を満喫する。
一方、東京で暮らす男子高校生の立花瀧も、行ったこともない山奥の町で自分が女子高生になっている夢を見ていた。心と身体が入れ替わる現象が続き、互いの存在を知った瀧と三葉だったが、やがて彼らは意外な真実を知ることになる。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
とりかえばや物語
何度観ても発見があるし飽きない。新海アニメのひとつの到達点だろう。興行成績もそれに比例している。
西新宿を中心とした高層ビル街や電車の行きかう風景のリアル描写、美しく広がる空の描き方など、従来からの新海誠の映像的な魅力はきちんと持続させながら、それに見劣りしないしっかりとしたスケールの時空を越えたドラマが成立していることに感動を覚える。
これまでのように、目の届く範囲だけの恋愛ドラマを描いているミクロの世界でもないし、幻想的な世界を描いていても、けしてジブリや他作品の模倣にはなっていない、紛れもない新海オリジナル作品に仕上がっている。
◇
はじめに主人公の男女の身体が入れ替わる展開がくる。新海誠自身は古典である『とりかへばや物語』からの着想だというが、おじさん世代には大林宣彦の『転校生』がまず頭をよぎる。
ついでに、しっかり者の妹と朝ごはんを食べながらの三葉の会話(前日の記憶喪失)がまるで『時かけ』なので、ますます大林作品の影響を感じ取ってしまう。
◇
だが、そう思ったのはその一瞬だけだ。思春期の男女の性への関心の描き方も、『転校生』ほどえげつなくなく、朝起きるたびに自分の胸をまさぐる笑いの取り方の匙加減もいい。
アニメだからこそ生々しくならずに済んでいるのかもしれないが、ここは時代に即した対応になっていると感心。
彗星の彼方へ
男女の精神と肉体が頻繁に入れ替わる話を、ただのファンタジー青春恋愛ものから、時間と場所を越えた物語に昇華させた脚本力にはたまげた。
二人の間のルール設定や記録の保存など、スマホを活用した話の展開は面白いが、そんな些末な点よりもはるかにダイナミックな物語が根底にあることは、当初予想していなかった。
彗星の落下で村が消滅し死んでしまう少女と、都会の少年との心の絆の物語。そしてそこには、当初は気づかれないように巧みに設置された、3年間の時間の隔たりという伏線まで存在する。
組み紐は時間の流れの暗喩であり、口噛み酒は時を超える呪文となる。RADWINPSの音楽は本編中でもかなり目立つ形で使われるが、物語と世界観を共有しているためか、音楽だけが浮き上がることがなく、一体感が心地よい。
『らんまん』の神木隆之介と『カムカムエヴリバディ』の上白石萌音という朝ドラ主演同士の声優仕事も、新海ワールドにしっかり溶け込んで俳優の顔を想像させず見事なものだ。
時間を隔てた二人が何かの超常現象で会話ができるようになる設定というのは、実写作品でいくつか思い出せる。洋画ならデニス・クエイドの『オーロラの彼方へ』(2000)、或いは日本でもリメイクされた韓国ドラマの『シグナル』など。
ただ、設定上、いずれも当事者同士が対面することが難しい。本作も同様の障壁があったはずだが、その土地では古来かたわれ時といわれる黄昏の一瞬にのみ、二人は言葉を交わし、存在を確かめ合うことができるという説明で、強引に乗り切ることができている。
デビュー作『ほしのこえ』から時が経ち、時間を越えてケータイに届くカノジョからのメッセージにかつては受け身なだけだった少年は、みずから行動を起こすまでに成長したかのようだ。
自然災害との向き合い方
本作から『天気の子』そして『すずめの戸締まり』と続く超ド級メジャー作品で、新海誠はいずれも自然災害を相手にあの手この手で希望を見出す作品を撮り続けている。
それを、都合よく過去を書き替えてしまう作品だと言う声はあるようだが、町中の500人の住民がみな隕石で亡くなったままでは、さすがに映画が重たすぎる。ファンタジーとしては、これでよいと私は思う。
四谷駅近辺が頻出するのは、子供の頃に土地に馴染みがあった者としてちょっと嬉しい。
記憶を失った二人が運命的に再会するも、相手が分からずにすれ違い、そして振り返るシチュエーション。ここもまた大林宣彦(『時かけ』)かと身を乗り出したところに、タイトルが現れるラストシーン。
なお、次作『天気の子』には、立花瀧と宮水三葉をはじめ、主要メンバーがカメオ出演するが、時系列的には、本作で再会する前の二人という扱いになる。
『君の名は。』はハリウッドで実写化されると発表され話題になったが、あれから6年近く経過した今でも監督はまだ調整中となっているようだ。まあ、この作品をアニメ以外で観ようとは思わないけど。