『転校生 さよなら あなた』 考察とネタバレ:副題にこんなに深い意味があろうとは

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『転校生 さよなら あなた』

尾道三部作の原点を大林宣彦監督自らリメイク。舞台は信州に、階段は水場になっても、面白味は健在。蓮佛美沙子の堂々の男っぷりに驚かされる。「さよなら、オレ。さよなら、あたし」の壁を超えられるか。

公開:2007 年  時間:120分 
製作国:日本

スタッフ 
監督: 大林宣彦
原作: 山中恒
『おれがあいつであいつがおれで』

キャスト
斉藤一夫:  森田直幸   
斉藤一美:  蓮佛美沙子  
山本弘:   厚木拓郎    
吉野アケミ: 寺島咲
一夫の母:  清水美砂
一美の母:  古手川祐子
一美の父:  田口トモロヲ

勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

(C) 2007「転校生」製作委員会

あらすじ

両親の離婚を機に尾道から、母とともにかつて幼少期を過ごした信州に転校してきた斉藤一夫(森田直幸)は、転校してきた中学校で、幼なじみの斉藤一美(蓮佛美沙子)と再会する。

会話を重ねるうちに昔のように自然と呼吸が合ってくる一夫と一美は、思い出の場所である水場へ足を運ぶが、誤って転落してしまう。

レビュー(まずはネタバレなし)

大林監督自身のリメイク

長年作品を観続けてきたファンの一人として、大林宣彦監督の作品は、それ自体がひとつのジャンルだと改めて思う。

型にはまらず、常に挑戦があるのに、「A Movie」で始まらなくても、どの瞬間を切ってみても、大林映画だと感じ取れるからだ。

先日亡くなった大林宣彦監督の追悼の意をこめて今年は多くの作品を振り返ってみようと思うが、最初の一本に、数少ない未見の作品を選んだ結果、本作になった。

オリジナルの『転校生』は何度も観ているが、25年ぶりのセリフ・リメイクというやつである。

本作の前年に市川崑監督も『犬神家の一族』のセルフ・リメイクを公開している。当時の流行だったのかもしれない。

とはいえ、犬神家とは異なり、本作は前作と違う点も数多い。舞台を尾道から信州に移しているし、運命の場所も石段から水場に変わった。

何より、蓮佛美沙子は前作のヒロイン小林聡美とはまるで違うタイプの女優だ。

尾道三部作で、続く『時をかける少女』『さびしんぼう』は少女アイドル路線に走ったが、唯一独自路線だった『転校生』を、本作ではアイドル路線で撮ろうというねらいがあったのだろうか。

勿論、前作と変わらない点もある。幼馴染の男女ふたりがハプニングで身体が入れ替わる基本設定はそのままだし、寝ているお婆ちゃんの口に殺虫剤を吹きかける細かいネタも変わらない。

(C) 2007「転校生」製作委員会

新たなヒロインの男っぷり

さて、映画は冒頭の一夫と母(清水美沙)との列車内のシーンから、会話を小刻みにつなぐ独特の編集スタイル水平ラインを無視した斜めの画面構成、そして次々に登場する常連の共演者たち。

強烈な違和感だがすぐに麻痺してしまい、気が付けば、大林ワールドに没入している。いつものパターンだ。

聞いていて恥ずかしくなるような、昭和のジュブナイル感覚たっぷりのセリフ回しも、慣れればむしろ快感である。

だが、この映画の私の評価は、前半と後半で大きく変わる

当初、前作踏襲のストーリーに蓮佛美沙子森田直幸という新味を投入した本作は、オリジナルを凌駕したのではないかと思った。

オリジナルの演出で不思議だったのが、男女が入れ替わる前から小林聡美は男っぽいし、尾美としのりも別に荒っぽいキャラではなかった点だ。

入れ替わりによる変化の幅が減ってしまうのになと、当時は残念に思った。

そして、なぜか今回も、蓮佛美沙子は登場時点から男っぽく、ガサツである(とはいえ、年頃の女子が、「ち〇ぽこ」と声高に連発するのは相当奇異)。

同じミスを繰り返したかと思ったが、意外にも入れ替わり後の蓮佛は、たしかに少年が憑依したかのように見え、オリジナルよりも効果がある。

これは、小林聡美が男を演じてもあまりに自然なので違和感なく観客は受け容れてしまうが、蓮佛美沙子が演じるとイメージとのギャップが大きいので驚きがある、ということではないか。

勿論、小林聡美に非はなく、それどころか当時、彼女の演技は高く評価され、スマッシュヒットの原動力となったことは書いておかなければいけない。


しかしながら、私の前半での高評価は、後半で音をたてて瓦解する

リメイクというのはオリジナルの評価が高いゆえ作られる訳だが、同じ監督のセルフリメイクなら大きくはずすこともないかわりに、前作を超えることもまた難しいのだろう。

この曲は、胸に沁みました。映画のイメージにぴったり。

レビュー(ここからネタバレ)

突如湧き上がる失望感

後半でいっきに熱が冷めてしまったのはなぜか。このまま、オリジナルの脚本ベースで進めばよかったのに、あろうことか、一美に不治の病の設定を投入してくるのだ、それも唐突に。

もともとスピーディに話を運ぶのが好きな大林監督だが、これはあまりに乱暴な展開。

体調不良を訴える一美。重い生理痛に、入れ替わって慣れない一美(中身は一夫)が苦しんでいるだけだと思っていたら、いきなり緊急入院だ。

しかも、医者が「現代医学では残念ですが…」と言葉を濁しただけで、父親(田口トモロヲ)が、「先生、娘はあとどのくらい生きられますか」って、質問が早すぎだろう。

オリジナルでは、引っ越しで入れ替わったまま別れることになり絶望する二人が、最後に元に戻る展開だったと記憶している。

本作も、再び<さびしらの水場>に行って体が元に戻ったらハッピーエンドだと信じて疑わなかったが、よもやの展開だ。

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私の愛した一夫と一美

前作はカラッとしているからこその秀作であって、別れ際に8ミリカメラをまわしての「さよなら、オレ」「さよなら、あたし」がグッと胸にきたのである。

この切ないながらも爽やかな幕切れがあってこそ、映画にパワーが宿り、『転校生』は尾道三部作の先鋒として、道を切り開くことができた。私はそう思う。

その大事なセリフを、「さよなら、あなた」に変えてはいけなかったのではないか。サブタイトルに、こんなに深い意味があろうとは。

本作においても、監督の実験的な試みは衰えをしらない。

  • 決闘のように荒っぽくおかずを取り合う家族の夕飯
  • ガラケーのメールの絵文字を読み上げるシーン
  • 二人が入れ替わったことを論理的に見破って、一夫とBL風に触れ合う一美の彼氏・山本(厚木拓郎)
  • 独特の世界観に引き込んでくれる旅芸人一座の宍戸錠山田辰夫

などなど、面白味を感じた部分はいくつもあったので、余計にもったいない気がした。

追悼で観ておきながら、評価が厳しいってどういうことだよ。と自分にツッコミながら書いているが、レビューとはそういうものだと割り切らせてもらう。

監督は生前よく語っていたそうである、
「分かってくれる人のために、常に映画を撮っているのだ」と。

先生、わたしも前半1時間なら、よき理解者でした。