『ほしのこえ』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『ほしのこえ』新海誠監督作品一気通貫レビュー|新宿から始まるセカイ①

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『ほしのこえ』

私たちは、たぶん、宇宙と地上にひきさかれる恋人の、最初の世代だ。

公開:2002 年  時間:25分  
製作国:日本
 

スタッフ 
監督・脚本: 新海誠

声優
長峰美加子: 篠原美香(オリジナル)
        武藤寿美(声優版)
寺尾昇:   新海誠(オリジナル)
        鈴木千尋(声優版)

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)Makoto Shinkai / CoMix Wave Films

あらすじ

2046年、関東で中学に通う長峰美加子と寺尾昇は同級生。同じ部活で仲の良いふたりだが、中学3年の夏、ミカコは国連軍の選抜メンバーに選ばれたことをノボルに告げる。

2047年冬、ミカコは地球を後にし、ノボルは高校に進学する。

地上と宇宙に離れたミカコとノボルは携帯メールで連絡をとりあうが、リシテア号が木星・エウロパ基地を経由して更に太陽系の深淵に向かうにつれて、メールの電波の往復にかかる時間は開いていく。

ノボルはミカコからのメールだけを心待ちにしている自身に苛立ちつつも、日常生活を送っていく。やがてリシテア艦隊はワープを行い、ミカコとノボルの時間のズレは決定的なものなっていく。

一気通貫レビュー(ネタバレあり)

独力でできるレベルを超えている

「私たちは、たぶん、宇宙と地上にひきさかれる恋人の、最初の世代だ。」

携帯電話のメールをコミュニケーションツールとして最大限に活用し、宇宙に旅立った少女と地球に残った少年の遠距離恋愛を描く。

25分の短編を一作品として取り上げるのは当ブログでは珍しいが、新海誠の初の劇場公開作であり、まずはここから一気通貫レビューを始めたい。

本作の何が凄いって、フルデジタルアニメーションの監督・脚本・演出・作画・美術・編集のほとんどを、新海誠監督が一人で成し遂げてしまったことだろう。いわば、自室のPCで劇場用アニメをつくってしまったということだ。

そういう時代に突入したことの象徴的な動きだったのか。残念ながら私は当時まったく関心を持っていなかったが、短編映画専門の映画館だった下北沢トリウッドで公開され、口コミで人気を集め出していたという。

中学時代に意識しあっていた二人の男女。少女は国連宇宙軍の選抜に選ばれ、異星人との戦争に参加する。少年はそのまま高校に進学する。

(C)Makoto Shinkai / CoMix Wave Films

踏切、電車、コンビニ。ディテールまでリアルに描き切るこだわりと、登場人物そっちのけの本気モードで描く背景には、雄大な空に流れる雲とレンズフレアを作る陽光。そこには既にしっかりと確立された新海誠の作風が見て取れる。

少女は火星に行き、冥王星に行き、次第に地球から遠く離れていく。人類のために戦うことを選んだ少女と、地上にしがみついて進学する少年。

この男子は草食系というわけではなさそうだが、それでもヒロインの方が戦う設定は、エヴァの影響なのだろうか。

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片道8年かかるメール

少女がロボットを操縦して異星人と戦う姿は、個人作業で創り出したものとすれば舌を巻くほどの水準だが、他のアニメ作品に比べれば特に秀でているわけではない。

だが、本作で重点を置いている部分はそこではない。メールだけで繋がる遠距離恋愛にこそ、意味があるのだ。少女が遠くに行くにつれ、片道のメールが到着する所要時間がどんどん長くなり、ついには8年もかかるほどになる。

ウラシマ効果によって、空の上の15歳の少女を残して、地上の少年だけが成長していき、間隔の長いメールをひたすら待つこともできず、変わっていく。

太田裕美「木綿のハンカチーフ」で歌われた昭和の時代では、地方に残した娘を忘れ、都会に出た青年が変わっていってしまったものだが、本作では残された少年が変わってしまうのだ。

ほしのこえ 予告編 (The Voices of a Distant Star)

とはいえ、8年ごとに届くメールを待つだけの恋愛関係はさすがにつらいだろう。宇宙と地上で引き裂かれるのは無理もない。

「世界っていうのは携帯の電波が届く場所なんだって、漠然と思ってた」

それはある意味正しい。広大な宇宙では、片道8年かかる距離でも電波が届くのだ。

私はここにいるよ

クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』では、宇宙に暮らす父親を、地上の娘の年齢が追い越してしまう。これも衝撃的だったが、恋人だけが15歳のままというのもまた、複雑な思いだろう。

「24歳になったノボルくん、こんにちは! 私は15歳のミカコだよ。ね、わたしはいまでもノボルくんのこと、すごくすごく好きだよ」

戦いに敗れ宇宙空間に浮かんでいる少女が、懐かしい思い出を列挙しては、「私はここにいるよ」と念じて息絶える。

その最後の言葉が少年のつぶやきと重なることで、観る者は、最後に二人が出会えたかのように錯覚するが、実際にはそんなはずもなく、悲恋で終わる物語だ。

まるでタイムカプセルのように長い年月を眠ってきたメッセージは、ビデオ映像も音声も自筆の手紙もなく、ただ無機質なメールの文字だけが綴られるが、それだけに一層儚さが強調されるように感じる。

甘酸っぱい想いがこみ上げる、遠距離恋愛の新しいカタチだ