『雲のむこう約束の場所』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『雲のむこう、約束の場所』新海誠一気レビュー|新宿から始まるセカイ②

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『雲のむこう、約束の場所』

あの遠い日に僕たちは、かなえられない約束をした。

公開:2004 年  時間:91分  
製作国:日本
 

スタッフ 
監督・脚本:   新海誠

声優
藤沢浩紀:    吉岡秀隆
白川拓也:    萩原聖人
沢渡佐由理:   南里侑香
岡部:      石塚運昇
富澤常夫:    井上和彦
笠原真希:    水野理紗

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

(C)Makoto Shinkai/ CoMix Wave Films

あらすじ

日本が南北に分断された、もう一つの戦後の世界。米軍統治下の青森の少年・藤沢ヒロキと白川タクヤは、同級生の沢渡サユリに憧れていた。

彼らの瞳が見つめる先は彼女と、そしてもうひとつ。津軽海峡を走る国境線の向こう側、ユニオン占領下の北海道に建設された、謎の巨大な「塔」。いつか自分たちの力であの「塔」まで飛ぼうと、小型飛行機を組み立てる二人。

だが中学3年の夏、サユリは突然、東京に転校してしまう。言いようのない虚脱感の中で、うやむやのうちに飛行機作りも投げ出され、ヒロキは東京の高校へ、タクヤは青森の高校へとそれぞれ別の道を歩き始める。

三年後、ヒロキは偶然、サユリがあの夏からずっと原因不明の病により、眠り続けたままなのだということを知る。サユリを永遠の眠りから救おうと決意し、タクヤに協力を求めるヒロキ。

そして眠り姫の目を覚まそうとする二人の騎士は、思いもかけず「塔」とこの世界の秘密に近づいていくことになる。はたして彼らは、いつかの放課後に交わした約束の場所に立つことができるのか。

一気通貫レビュー(ネタバレあり)

南北に分断された日本

ほとんど一人で作り上げたといっていい『ほしのこえ』と同様に、原作・脚本・監督・撮影・美術などを新海誠自身が手掛けるが、作画監督に田澤潮、美術に丹治匠が加わり、チームプレイで作品を作る体制に移り変わりつつある。

今回の舞台は津軽。パラレルワールドの設定なのか、1996年、日本は南北に分断統治されている。共産国家群「ユニオン」が蝦夷地を支配下に置き、島(つまりは北海道)の中央に天まで届くほどの高い、純白の塔を建造している。

その塔は津軽は勿論、天気がよければ東京からも見えるという巨大なもので、主人公の中学生ヒロキとタクヤは、飛行機を組み立てて、津軽海峡を越えて敵地の塔までそれを飛ばす計画を内密に進める。

そこに同級生のサユリが加わる。彼女も塔に強い関心を持っており、それが危険かつ逮捕の恐れもあるにもかかわらず、ヒロキたちが塔まで飛行するときには自分も乗せてくれると聞き、素直に喜ぶ。

男二人に女一人という、恋愛劇おなじみの組み合わせだ。

別にサユリを取り合う訳ではないが、彼女が急に東京に行ってしまったことで、雲の向こうに飛んでいく約束は宙に浮き、残された男子二人は、飛行機組み立てを断念してしまう。

(C)Makoto Shinkai/ CoMix Wave Films

ユニオンの塔へ飛べ

「あれから三年、ぼくは沢渡と会っていない」

サユリと意識しあう関係になっていたヒロキがつぶやく。

新海誠の世界観に、ヒロキを演じた吉岡秀隆の発話と声質はウェットで特徴が強すぎる(つまり顔が浮かぶ)のではないかとはじめは思ったが、後半のドラマ展開からは、むしろ心地よく聞こえた。

タクヤを演じた萩原聖人の声が、対照的に特徴を感じさせなかったので、バランスが取れていたのかもしれない。

蝦夷の中心にそびえるユニオンの塔は、宇宙の見る夢(平行宇宙)を観測し、高精度な未来予測を行うためのシステムと考えられている。

だが、平行宇宙の侵食が塔の周辺で停止しているのは、何らかの外因が塔の活動を抑制しているせいではないか。

東京の病院で原因不明の病気で眠り続けているサユリが、この塔の外因と関係していることで、物語は、「組み立てた飛行機にガールフレンドを乗せて喜ばせる」という単純な青春恋愛ものとは一線を画すこととなる。

更に、三年後のタクヤは塔の破壊を企てる反ユニオン組織・ウィルタ解放戦線に内通し、要はテロ集団の一員になっている。殺戮行為を犯す訳ではないが、やわなラブコメとは違うのである。

突如姿を消したサユリを忘れようと上京したヒロキだが、晴れた日には東京からも、遠く津軽の更に先のユニオンの塔が見え、彼を苦しめる。新宿からの風景画に新海誠のセンスが冴える。

そしてサユリは眠り姫となって都内に入院している。夢の中の彼女は、無数にある塔の一つの上におり、ヒロキたちの組み立てた飛行機がやってくるのを待っている。

女を取るか、人類を取るか

サユリは、塔の設計者の孫娘だった。塔の平行宇宙の情報は彼女の夢に流れ込んでいた。彼女が万が一目覚めれば、並行宇宙はこの世界を飲みこんでしまうだろう。でもどうすればサユリは目覚める?

ヒロキには確信があった。ボクたちの飛行機で塔に近づけば、彼女はきっと目を覚ます。平行世界とか浸食の概念が奇想天外すぎて理解が追い付かないが、要はこういうことだ。カノジョを救うか、世界を救うか。

このままサユリに眠ってもらっていたのでは、物語が成立しない。飛行機が塔に近づき、夢の世界から目を覚まし、全てを忘れてしまう前に、想いをヒロキに伝えたい。だが、サユリの目覚めは人類滅亡を意味する。

全てが暗転したラストに一瞬、なんてすごい映画だとたまげた。究極の二択を迫られる物語は、大抵は都合よく両者が手に入るハッピーエンドに落ち着くものだ。ノーラン監督の『ダークナイト』バットマンが大事なものを失うのは異例だ。

ネタバレになるが、私の想像とは異なり、本作のラストではタクヤの尽力により人類も救われる。エンドロールの裏側で、台詞もなく重要な場面が展開される。ご都合主義とは言わせないだけの周到な構成力ではある。

だが、少女を目覚めさせることで人類滅亡の起爆装置を押したに等しい主人公が、結果オーライとはいえ、何もお咎めなしなのはユニークな結末といえる。でも、人類よりも一人の恋人を救いたい主人公がいたっていいか。

「約束の場所をなくした世界で、それでも、これからボクたちは生き始める」

思い出の廃駅からはもう、ユニオンの塔はみえない。