『NOPE ノープ』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『NOPE/ノープ』考察とネタバレ|見上げてはいけない夜の星を

記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

『NOPE/ノープ』 
 NOPE

鬼才ジョーダン・ピールが贈る新感覚のSFホラー。そこにあるのは最悪の奇跡。

公開:2022 年  時間:130分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ  
監督・脚本:    ジョーダン・ピール 

キャスト 
OJ・ヘイウッド:  ダニエル・カルーヤ 
エメラルド・ヘイウッド: キキ・パーマー
オーティス・ヘイウッド:
         キース・デイヴィッド 
エンジェル・トレス:ブランドン・ペレア 
アントラーズ・ホルスト:
        マイケル・ウィンコット 
ジュープ・パーク:スティーヴン・ユァン 
アンバー・パーク:  レン・シュミット

勝手に評点:3.5
  (一見の価値はあり)

(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

あらすじ

田舎町で広大な敷地の牧場を経営し、生計を立てているヘイウッド家。

ある日、長男OJ(ダニエル・カルーヤ)が家業をサボって町に繰り出す妹エメラルド(キキ・パーマー)にうんざりしていたところ、突然空から異物が降り注いでくる。その謎の現象が止んだかと思うと、直前まで会話していた父親(キース・デイヴィッド)が息絶えていた。

長男は、父親の不可解な死の直前に、雲に覆われた巨大な飛行物体のようなものを目撃したことを妹に明かす。

兄妹はその飛行物体の存在を収めた動画を撮影すればネットでバズるはずだと、飛行物体の撮影に挑むが、そんな彼らに想像を絶する事態が待ち受けていた。

レビュー(まずはネタバレなし)

予備知識なしで臨もう

本職はコメディアンのジョーダン・ピールは監督デビューとなるホラー映画『ゲット・アウト』(2017)で自らアカデミー脚本賞を獲得。本作は『アス』(2019)に続く監督三作目にあたる。

怖いシーンには才能を感じさせるものの、今までの惨劇ホラー作品とは少々違う路線といえる。

本作は、公開前ギリギリまであまり情報を目にしなかったため、どんな映画なのかも皆目見当がつかなかった。情報統制が敷かれていたのかもしれない。

直前に広告や記事が一気に拡散された印象だが、なるべく距離を置くようにした。結果的には、それで正解だった。

(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

これからご覧になろうかという方には、ぜひ予備知識なしで臨んでいただきたい。あらすじ欄には、公式サイトで解禁されている程度の情報は記載しているが、それすらスキップしても支障ないので。

ちなみに、どんなジャンルかさえ分からずに観賞した私だったが、上映前には激しい睡魔と戦っていたというのに、最後まで読めない展開に寝落ちの心配なく130分間作品にのめり込めた。

突如巻き起こった悲劇

私はあなたの上に汚物を投げつけ、
あなたを軽蔑し、見世物にする

旧約聖書『ナホム書』からの引用

『ナホム書』とは旧約聖書の預言書の一つで、主の憤りと報復がうたわれたものらしい。

それに続いて、チンパンジーと暮らす家族のシットコム『ゴーディーズ・ホーム』の収録場面らしき風景が冒頭に登場する。だが、どこにも笑いはない。そこには血に飢えたチンパンジーの姿があり、不穏な雰囲気から映画は始まる。

そして舞台はLA近郊にあるヘイウッド家の牧場へ。

映画の撮影に使われる馬の調教なども、仕事として請け負っている。そもそも、何代か遡ったヘイウッド家のご先祖様が、映画の歴史の第一歩といえる「馬に乗った黒人」として撮られた人物であり、彼らはこのビジネスの開拓者の末裔なのだ。

だが、撮影した監督ら白人のスタッフたちの名は歴史に刻まれていても、この黒人は忘れ去られている

このくだりはジョーダン・ピール監督が過去を調べる上で直面した事実らしく、本作のキャラ設定にも生かされている。常に人種差別への問題提起を織り込む、監督のこだわりだ。

そして、そんな背景とは関係なく、アクシデントは起きる。父子で馬の世話をしていた白昼の牧場で、空から異音がし、電気が不安定になり、天から銃撃のように何かが降ってくるのだ。

それが命中し、父親は死ぬ。銃弾ではなく、摘出されたのは硬貨。乗っていた馬には、降ってきたが刺さっている。何が起きたのか。

最悪の奇跡に立ち向かえ

飛行機部品の落下として片付けられたこの<最悪の奇跡>に、亡き父の息子OJ・ヘイウッド(ダニエル・カルーヤ)は妹エメラルド(キキ・パーマー)とともに立ち上がる。

ほんの少しだけネタバレさせてもらうと、OJはこの現象を宇宙人の仕業ではないかと疑い、それならば鮮明な映像を撮って、テレビ局に持ち込んで大金持ちになってやると意気込む。映画の歴史から消し去られた一族の子孫たちが、映像で名を上げてやるというのも面白い。

主人公OJには、『ゲット・アウト』でもジョーダン・ピール監督と組んだダニエル・カルーヤ。マーベル映画『ブラック・パンサー』での勇敢なリーダー役が印象的。続編の劇場予告編も偶然流れたが、そこには出演しないのかな。

妹のエメラルドにはキキ・パーマー『バズ・ライトイヤー』でヒロイン女性の声優をやっていたので、つい最近、声だけは聞いている。彼女がバイクをスライドで停車させる登場シーンは、まんま大友克洋『AKIRA』のオマージュだろう。

(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

監視カメラを設置することから親しくなった大型家電店の店員エンジェル(ブランドン・ペレア)は、はじめは憎まれ役かと思いきや、頼もしい戦力として仲間入り。

さらには、撮影スタジオで面識を得た著名な撮影監督アントラーズ・ホルスト役にマイケル・ウィンコット。途中から参戦する職人気質な壮年の男で、渋いポジション。

不思議な役が、近隣でカウボーイのテーマパーク「ジュピターズ・クレイム」を営んでいるジュープ・パーク。演じるのは『ミナリ』『バーニング 劇場版』でお馴染みのスティーヴン・ユァン、本作はやけに健康的な役だ。

彼が子役時代に、冒頭のチンパンジーのコメディ『ゴーディーズ・ホーム』に出演したいたことから、ようやく二つのエピソードが繋がってくる。だがその行く末は謎のままだ。

(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

こうして、いくつかの伏線を抱えたまま、OJとエメラルドの兄妹は、UFOの動画撮影に突き進んでいく。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

見上げてごらん、昼の空を

訳が分からない超常現象がおこり、そこに立ち向かっていく話ではあるが、自然現象を相手にしたディザスタームービーでもないし、かといって侵略してくる宇宙人と争う派手なSFパニックでもない。

どちらかというと、シャマラン監督系の超常現象ものにテイストが似ている。ただし、思わせぶりな展開であとでガッカリもなければ、はじめに敵の正体見せすぎの愚行もない。

話の運び方と、空を飛ぶ何ものかの見せ方のバランスもいい。

UFOの存在だけで引っ張る牽引力、結局敵の正体ははっきりと明かされないが、それゆえに不気味な存在となるところはスピルバーグの傑作『未知との遭遇』を思わせる。攻撃してくるのだから、むしろスピルバーグなら『激突!』か。

(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

「空を見上げてはいけない」

それが敵と対峙するうえでキモとなる防衛手段だ。ディカプリオのSFコメディ『ドント・ルック・アップ』(2021)は秀作だったが、本作にそのタイトルを譲ってほしいくらいだ。

とあるきっかけからコメディの出演者たちをチンパンジーが次々となぶり殺しにしていく惨劇。ただひとり生き残った少年はテーブルの下に隠れるが、獣に気づかれる。ここは怖い

目を合わせることで、獣は襲い掛かってくる。このシーンも然り、そして序盤で映画撮影時に暴れ馬になったOJの飼い馬も然り。だから、空を見上げてはいけない、目を合わせてはいけない

伏線は回収され、結論に導く

何カ月も動かない山の上の雲、携帯だろうが自動車だろうがお構いなしに停電してしまう現象、空から降る硬貨や鍵、そして赤い雨。すべての事象は、ひとつの答えを導き出す。

  • よく地方の国道沿いでみかける、空気で踊るように揺れ動くスカイダンサーの風船人形
  • テーマパークにある井戸の底から覗き込む子供たちを撮影する記念写真の撮影機
  • そして伝説のカメラマンが持ち込む、手回し式の映画用カメラ

これらの小道具もうまい具合に伏線回収につながり、物語はきれいに最終決着へと繋がっていく。

(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

『TENET』をはじめとするクリストファー・ノーラン作品を支えたカメラマンのホイテ・ヴァン・ホイテマが撮影監督を担当。

この謎の宇宙船というか生命体を<Gジャン>と名付けるセンスも面白い。無機質な造形と動きは、エヴァの<使徒>を意識しているのか。SFX的な視点ではややチープなようにも見えるが、どこか懐かしみを感じる。

それにこれだけの空中での怪現象を、薄暮や夜空に逃げずに白昼堂々撮影する大胆な取り組みにも痺れる。夜のシーンにも、それこそ『未知との遭遇』を思わせる荘厳な美しさがある。IMAXカメラで撮ったそうだ。日本では無理だろうが、IMAXで観るべき作品なのかもしれない。

どうやって、この怪物にとどめを刺せるのか。そこにも『ゴーストバスターズ』『MIB』にも似た、映像的な面白味とブラックジョークを感じる。大したものだ。

ラストは、主人公馬にまたがる、まるで西部劇のエンディングを思わせるカットで締める。

「よい子のみんな、閉園の時間だよ。また会いに来てね」