『みんなやってるか!』 考察とネタバレ !あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『みんな〜やってるか!』今更レビュー|なんでも許される時代だったのだ

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『みんな〜やってるか!』 

ビートたけし名義での監督作品。ベタなコントで突き進む110分に付き合う勇気はあるか。

公開:1995年  時間:110分  
製作国:日本
 

スタッフ 
監督・脚本: ビートたけし

キャスト
朝男:     ダンカン
その他は本文に記載

勝手に評点:1.0
       (私は薦めない)

あらすじ

女にもてたい、セックスしたい、その欲望だけで行動する青年・朝男(ダンカン)

「あ~、カーセックスできる車がほしいなぁ…」

彼の他愛のない日常の出来事が、さらに彼の妄想が、夢が、あらゆるものを巻き込んで、やがて予期せぬ大事件へ…。好色一代男ならぬアホ一代男の大冒険が始まった!

今更レビュー(ネタバレあり)

ある意味、凄い作品

ここまで寒い映画は久々にみた。北野武ではなくビートたけしの監督作品だということは知っていたし、『スーパージョッキー』並みのベタなギャグの連発だということも分かっていた。いや、これを劇場で観ていたら、きっと10分で席を立っていただろう。この悪ノリでよく110分も映画が撮れたものだ。その精神力はさすがだと思う。

北野映画のファンに向けた(違うのか?)、これまでとは180度違う路線からの展開。「これが本当に同じ監督の作品か」と騒がれた狂気のギャグ映画。

そういうと、面白いように聞こえるが、熱狂的なたけしファンを始め、相当のお笑い好きでないと、これだけのくだらなさには付き合えないと思う。怖いもの見たさで観るならよいのかも。みんなでバカ騒ぎしながら、観る手はあるか。

女にモテたい、というかセックスしたい一心で、あれこれバカなことを始める冴えない男・朝男(ダンカン)

こいつが予算もないのにクルマを買ってみたり、銀行を襲ってみたり、人気俳優を目指して撮影に参加してみたり、殺し屋になったり、埋蔵金を探してみたり、とにかく手あたり次第に挑戦してみる。

いってみれば、それだけの映画なのだが、終盤、透明人間になると言い出し始めてから、話はさらに混迷を極めていく。

クルマを買ってモテたい

まずはクルマを買って女にモテたい編。バブルを象徴するような幕張の高層マンション街、湾岸沿いの道でポルシェでナンパする男(沢村一間)と、すぐ車上でコトに及ぶ女(立野しのぶ)

そのAVを見て、20万円で外車ディーラーに向かう朝男に店長(日野陽仁)は予算相応の欠陥車を売りつける。ここから妄想男によるベタな展開のコントが延々と始まる。

話の流れを途中でスキップしてオチに持っていく4コマ漫画的な手法は、これまでの北野武の静かなドラマには面白味を添えたが、本作ではどうか。

たとえば道路わきの巨大な看板に、ブレーキの壊れたクルマで向かっていく朝男、次のカットはもう看板に突っ込んでいるクルマというのは、サイレント映画の時代のスタイルで、さすがにこの当時も通用しなかったのでは? 淀川長治先生は、だからこそ本作に面白味を見出したのかも。

銀行を襲ってカネを作ろう

次はファーストクラスに乗って、CAにエロいサービスをしてもらおうという妄想。そのためにはカネがなく、銀行強盗をするために、まずは川口の鋳物工場で働いて、工場で拳銃を密造しようという壮大な計画。そこに血まみれのヤクザ(寺島進)が現れ、拳銃とクルマを預かってくれというから、手間が省ける。

ここから、何度か銀行を襲ってみては、次々といろんなパターンで失敗するという、ドリフでいえば、おなじみ「もしも○○だったら」コーナーのような展開。くだらないが、「シャッターを閉めろ」と脅迫したら、丁度閉店時間で、朝男を外に残して何もなかったようにシャッターが下りてしまうコントには笑えた。

このあたりから、三億円事件帝銀事件など、戦後日本を代表する実際の出来事もネタに採り入れられる。この辺は毒があって、たけしらしい。

何千万もの現金を持ち歩くことでテレビでは有名だった、城南電機の宮路社長本人が出演していたのには驚いた。そのカネ目当てで大勢の質の悪い男たちが社長を付け狙うのだが、社長の愛車の上で大見得を切る歌舞伎役者(つまみ枝豆)は、当時のバラエティ番組的な笑いを誘う。

人気俳優になってモテよう

次に朝男は人気俳優になってモテようと考え、オーディションを受ける。審査員白竜が怖いが、何とここで朝男は審査を通過する。披露したのは、「わき毛で遊ぼ!」という身体を張った一発芸なのに。この芸は脚本的にはスベッている設定だろうが、あまりにくだらなくて失笑してしまった。

これによって、何の演技力もないこの朝男は、時代劇の撮影に入り込んで、業界用語を我が物顔で使うようになっている。ビートたけし『座頭市』を監督・主演するのは2003年だが、それに先立って、ここではダンカンがコントのネタとして演じているのも興味深い。

朝男の無茶な演技で、火事場で水の代わりに油をかけられた俳優が火だるまになったシーンがあるのだが、これは特撮ではなさそうだから、スタントマンは命がけだと思った。この作品に、あそこまで身体を張れるこのスタントにあっぱれをあげたい。

セスナに乗ったあと殺し屋に

ここから徳川埋蔵金探しや麻薬の売買を経て(品質を味見する博士にそのまんま東)、なぜかセスナに乗り込む朝男。飛行中にサービスのショーが始まる。

だが登場するのはCAではなくパイロットガダルカナル・タカ。いつの間にかノリノリになっているタカがストリップでマンボ、マンボと踊るのがあまりにバカらしくて、悔しいけれど笑いがこらえきれず。

その後は宍戸錠(役名です)と誤解され、殺し屋として暴力団に迎えられる朝男。腕利きの同業者大杉漣。この辺の展開は、親分たちを演じるチャンバラトリオの面々の舞台のノリに合わせているのか。


最後にはハエ男に

その後には、ビートたけしが作品常連の芦川誠透明人間推進協会の博士と助手を演じ、朝男を透明人間に変えることに成功。だが、逃げた朝男はハエと融合してしまい、『ゴーストバスターズ』『ザ・フライ』を混ぜ合わせたような乱暴な展開に。

更には地球防衛軍まで引っ張り出して、隊長には『ウルトラマン』『仮面ライダー』の功労者、子供番組のレジェンド・小林昭二まで引っ張り出す。さすがに双子役でのザ・ピーナッツ再結成は無理だったようだが。

たけしが博士で登場してからはハチャメチャな展開にさらに拍車がかかり、すでに映画としては悪ノリが過ぎたただのコントになっていたように思う。

これをあえて観ようという人は、根っからのたけしファンか、マニアックなお笑い好き、あるいは怖いもの見たさでこういうゲテモノ的な作品に目がない人だろうか。

でも、そんなことは重々承知のうえで、ビートたけしは本作を撮っているのだろう。名前だって北野武名義ではないし、裏アカみたいなものだ。

こういう作品で、頭の中にある煩悩を整理するからこそ、世界が認める北野武として世に出せる芸術的な作品を撮り続けられるのかもしれない。その辺の機微は、凡人の私には窺い知れないが。