『ヨコハマBJブルース』『俺達に墓はない』考察とネタバレ !あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『ヨコハマBJブルース/ 俺達に墓はない』今更レビュー|優作の蘇える勤労

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松田優作が東映セントラルフィルムに残したハードボイルドアクションから、『ヨコハマBJブルース』『俺達に墓はない』の二作を今更レビュー。

1. 『ヨコハマBJブルース』(1981)
2. 『俺達に墓はない』(1979)

『ヨコハマBJブルース』

公開:1981 年  時間:112分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督:     工藤栄一
脚本:     丸山昇一
撮影:     仙元誠三

キャスト
BJ:      松田優作
蟻鉄雄:    蟹江敬三
紅谷悟志:   山西道広
椋圭介:    内田裕也
椋民子:    辺見マリ
牛宅麻:    財津一郎
安永:     安岡力也
近藤明:    田中浩二
ヨシヲ:    山田辰夫
林ミドリ:   鹿沼えり
堀功:     殿山泰司
除除:     宇崎竜童   

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

あらすじ

横浜に住むBJ(松田優作)は、毎晩場末のうらぶれたバーで歌っているブルースシンガー。だが歌だけでは食えない状態で、生活のために私立探偵紛いな副業で小銭を稼いでいる。

ある日、失踪した少年・明(田中浩二)の行方調査を依頼されたBJ。所在を見つけたものの、彼は闇組織のボスでゲイの牛(財津一郎)の男娼となっていた。

次の日、BJは久々に再会したニューヨーク時代の親友で刑事の椋(内田裕也)を目の前で突然殺され、その上BJを何故か快く思っていなかった椋の同僚刑事・紅谷(山西道広)から殺人容疑をかけられて、取り調べと称したリンチを受ける。

更に牛からも麻薬取引で運営している組織のメカニズムに触れたと見なされて命を狙われ、BJは窮地に陥る。

今更レビュー(ネタバレあり)

歌う探偵物語

生活のために私立探偵をやる元刑事で売れないブルースシンガーのBJ。松田優作は主演はもとより、原案も手掛け、主題歌や挿入歌まで歌う。だが、押しつけがましい自己陶酔の世界では勿論なく、どれも憎いほどにサマになっている。

それは松田優作がラブコールを送り続けた、『傷だらけの天使』工藤栄一監督や、『処刑遊戯』・『野獣死すべし』などでも組んだ脚本家の丸山昇一やカメラの仙元誠三など、スタッフにも恵まれたおかげでもあるのだろう。

東映セントラル製作のハードボイルドとしては、少々マイルドな仕上がりであり、突き抜け感は正直あまりない。何を考えどう暴れるか分からない、松田優作の演じるキャラの過激さや非日常感と言う点では、物足らないという意見もあるだろう。

時系列的には、『探偵物語』(映画ではなく、ベスパにのったドラマ版の方)のあとであり、あそこまでとぼけたキャラではないが、今回は副業で探偵をやる歌い手。

本作に前後して『陽炎座』(鈴木清純監督)や『家族ゲーム』(森田芳光監督)に出演しており、松田優作自身、アクションから多方面な作品に活躍の場を広げている時期だったといえるか。そう考えると、本作のもつマイルドさにも合点がいく。

仙元ブルーに染まるヨコハマ

本作のみどころは、何といっても、優作横浜の町の組み合わせが醸す、えも言われぬ魅力だろう。全編を通じた、渋く青みがかった横浜の景観は、仙元ブルーと呼ばれた仙元誠三独特の映像美。今とはだいぶ雰囲気の違う当時の横浜のロケ地が興味深い。いくつか代表的なロケ地を挙げてみる。

  • 赤レンガ倉庫は現存の商業施設と建物は同じでも、環境はだいぶ異なる。ここをネオンや看板で飾り立てて、異国情緒のある飲み屋街に変貌させる仕事ぶりがいい。排水溝からあがる蒸気も雰囲気満点。
  • 中華街も現存の街並みよりだいぶおとなしめ。しかも早朝なのか、人気のない通りをBJが一人さまよう。背後に黒人父子のオープンカーが近づくシーンはポスターにも使われるが、物語とは無関係。カッコよさだけ追求。
  • バンドマンたちが仕事帰りに歩いている、背後にそびえる巨大な橋は大黒大橋らしいが、その後ベイブリッジの開通などで景観が変わってしまった今よりも、はるかに迫力がある。なんでそこを歩いているのか不明だけど。
  • 旧友の椋刑事(内田裕也)が撃たれた根岸公園、名前はモントレに変わったけどザヨコ(ザ ホテルヨコハマ)、ゆーみんが歌った山手のドルフィン、この辺までは健在。本牧の由緒あるディスコLINDYはさすがにもうないか。
  • BJが早朝に線路のある鉄橋を渡るシーンは貨物用の引き込み線。ここもそうだし、大岡川あたりが結構でてくるのは『ションベンライダー』(相米慎二監督)と場所や撮影時期が近い感じがする。
  • ラストに登場する客船・氷川丸。これも現存だけど、当時すでに横浜港に係留され、現役引退してたはず。山下公園から海外に出航する設定には、さすがに無理があった。

この時代のヨコハマは絵になる

この時代の横浜は、ちょっと退廃的な感じもするけど、絵になるし、東京とはどこか空気が違う気がする(もっと昔の本牧あたりは、さらに違いがあったのだろうけど)。みなとみらいに代表される今の横浜も明るく健康的でよいのだが、町にあった映画的な色気は希薄になった。

わかりやすい例は、スタッフや配役(紅谷刑事役の山西道広)で本作とも縁深い『あぶない刑事』だろう。テレビシリーズの頃は、ちょっと危険な匂いのした横浜が魅力だったのに、平成後期の劇場版はみなとみらいの発展のおかげで、『逃げ恥』と同じ時空間となってしまい、タカとユージも居心地が悪そうだった。

話が脱線したが、この時代のヨコハマと松田優作の相性は実にいいということを言いたかった。数年前に公開の『冬の華』(1978)の高倉健も横浜が舞台だが、こっちの方が、絵になっている。

本作は探偵もののハードボイルド。BJ(名前の由来は不明)がかつてサウスブロンクスで暮らしていた頃(どんな設定なんじゃ?)の親友・椋刑事(内田裕也)が目の前で射殺される。椋の同僚刑事紅谷(山西道広)は、BJが女(辺見マリ)を椋に奪われた腹いせに殺したのだろうと執拗にせまる。

一方、BJは、使われた拳銃から、闇組織のボスの(財津一郎)の右腕の(蟹江敬三)が怪しいとにらむ。こうしてBJは、巻き込まれた事件の究明に乗り出すのだ。伊坂幸太郎『グラスホッパー』のネーミングセンスはここからきてたりして(あちらは、鯨とか蝉とかだけど)。

ラストにはきっちり収束するストーリー

スタイリッシュな映像に目を奪われるが、丸山昇一による脚本はしっかりとミステリー仕立てになっており、クルマが大爆発したあたりから謎めいてきた展開が、ラストにはきっちりと収束するところは気持ちよい。

神奈川県警からは、すぐに死ぬ内田裕也と、相当あぶない刑事山西道広『あぶ刑事』では心優しき<パパさん>刑事だったが)の、二人以外に警察官は登場せず、ちょっと無理がある。

闇組織の方は、財津一郎蟹江敬三、そして用心棒の安岡力也と気分が高揚する顔ぶれ。それ以外にも、山田辰夫、殿山泰司、宇崎竜童など、いかにもな面々が登場するのが嬉しい。

(c)東映

本作でゲイの牛の男娼となっていた美しい若者・近藤明(田中浩二)。彼とBJには二人で心を通わせるようになる、麗しい友情のシーンがあって、この若者も印象深い。というか、彼の顔にははっきりと見覚えがある

田中浩二という名前では思い当たらず、しばし悩んだが、彼は私がガキの頃に欠かさず観ていた、あだち充原作のドラマ『陽あたり良好!』(竹本孝之が主人公)の準主役のイケメン少年だった。ああ、懐かしや。

最後になったが、音楽はクリエイション。ブルースシンガーとしての松田優作も、結構聴かせる。ああ、かっけーなあ、BJ。