『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』
Doctor Strange in the Multiverse of Madness
いよいよ、サム・ライミ監督がMCUに参戦。複雑だからと敬遠せずに、マルチバースに身を委ねよう!
公開:2022年 時間:126分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: サム・ライミ 脚本: ジェイド・バートレット マイケル・ウォルドロン キャスト スティーヴン・ストレンジ: ベネディクト・カンバーバッチ ワンダ・マキシモフ:エリザベス・オルセン ウォン: ベネディクト・ウォン アメリカ・チャベス: ソーチー・ゴメス クリスティーン:レイチェル・マクアダムス バロン・モルド:キウェテル・イジョフォー トミー・マキシモフ: ジェット・クライン ビリー・マキシモフ:ジュリアン・ヒルヤー
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ(公式サイトより引用)
元天才外科医にして、上から目線の最強の魔術師ドクター・ストレンジ。
時間と空間を変幻自在に操る彼の魔術の中でも、最も危険とされる禁断の呪文によって“マルチバース”と呼ばれる謎に満ちた狂気の扉が開かれた──。
何もかもが変わりつつある世界を元に戻すため、ストレンジはかつてアベンジャーズを脅かすほど強大な力を見せたスカーレット・ウィッチことワンダに助けを求める。
しかし、もはや彼らの力だけではどうすることもできない恐るべき脅威が人類、そして全宇宙に迫っていた。
さらに驚くべきことに、その宇宙最大の脅威はドクター・ストレンジと全く同じ姿をしていて…。
レビュー(ネタバレなし)
背中を押してあげたい!
もうそろそろ、MCUの新作はDisney+待ちでもいいかな、降りてくるの早いし。そう迷っている方々が(私も実はそうだった)、劇場に足を運ぶように背中を押したくてこのレビューを書いている。
何せ、20年前に『スパイダーマン』(トビー・マグワイヤ版)でアメコミ映画の持つ興奮を教えてくれたサム・ライミ監督が、久々にヒーロー映画のメガホンを取り、MCUに初参戦するのだ。夢のようなタッグではないか。
◇
日本では全米より公開日が早いので、ネタバレしないように気を付けたいが、ひとつ心配していた点は解消された。
前作『スパイダーマン:ノーウェイ・ホーム』でスティーヴン・ストレンジ自身が切り開いてしまったマルチバースが、以降の映画を理解不能で訳がわからないものにしてしまうのではないかと危惧していたのだが、そこまで難解ではなかった。厳密には、わかりにくいのだが映画としては十分楽しめるレベルだった。
キャプテンではないアメリカ
映画は冒頭、宇宙空間で謎の巨大生物に襲われているドクター・ストレンジと見知らぬ少女。大迫力の場面ではあるものの、その人物関係も経緯も分からないし、MCUでのこの手の戦闘シーンはやや既視感多く食傷気味。
などと思っていたら、実はこれは夢で、現実世界では、懐かしや元カノのクリスティーン(レイチェル・マクアダムス)が、ストレンジに見切りをつけて他の男と結婚する。
そのパーティの最中、突如ニューヨークの町に現れて暴れまくる一つ目の怪物と、対戦するストレンジ(ついでにウォンも大活躍)。このバトルは見応え十分! やはり、MCUは街中のファイトがいい。
一つ目の怪物の造形や動きも、どこか手作り感があって、これまでのMCUの洗練とは違うテイストが新鮮。そして、ストレンジはこの対戦の中で、怪物が追っていた、夢の中に出てきた少女アメリカ・チャベス(ソーチー・ゴメス)と出会う。
このアメリカは、マルチバースを自由に行き来できる能力を持っており、彼女の力が本作で敵味方が追い求めるマクガフィンなのだ。
MCUにはキャプテン・アメリカという大先輩がいるのに、また紛らわしい名を付けたものだと思ったが、原作コミックにもマーベル初のラテン系LGBTQ+のヒーローとして登場しているらしい。
彼女の過去の回想シーンで、一瞬だけ両親(どちらも女性)が登場する。これが原因で一部の国で上映禁止になったのなら、ちょっと厳しい措置だと感じた。
ワンダヴィジョンは観ておきたい
アメリカを助けようとストレンジが応援を求めたのが、最強の魔女ワンダ・マキシモフ(エリザベス・オルセン)。だが、このスカーレット・ウィッチは、アメリカの能力を得て、自分でマルチバースをコントロールしようとする。
サノスとの戦いで失った最愛の人ヴィジョンと育てるはずだった二人の息子。この世界以外のワンダはみな、息子たちと幸福に過ごす母親なのだ。
本作ではMCUのレギュラーメンバーの登場は少ないが、その一人であるワンダが、ここでは何と最強の敵として猛威を振るうとは。もともと魔女だが、サム・ライミの手にかかると、更にホラー演出が加わってきて、一層怖い。
『マイティ・ソー バトルロイヤル』のヴィランだったソーの姉(ケイト・ブランシェット)や、『X-MEN』で暴走したジーン・グレイくらいの破壊力だ。
本作はMCUの予備知識なしで観てもそれなりに楽しめるとは思うが、敵に回ったワンダの心中を理解するには、ドラマ『ワンダヴィジョン』を事前にチェックしておいた方が、一層感情移入できる。
ただ、ドラマだけ観てもさらにその前段を知らないとよく分からないので、結局中途半端になるか。MCUだけでは分からないマーベルの他ヒーロー登場もあるので、知ってるファンなら更に興奮、ということでよいかも。
結局マルチバースって何?
さて、このマルチバースというやつ。馴染みのある言い方でいえばパラレルワールドだろうか。
ストレンジが禁断の魔術を使った結果、時空の歪みで複数世界の扉が開いてしまったのが『スパイダーマン:ノーウェイ・ホーム』。
あの時は、過去にピーター・パーカーが倒した敵や、複数のピーターまでが、次元を超えて集結した。もっとすごいのは、20世紀フォックスやソニーピクチャーズといったスタジオの壁を超えることもできてしまう点かも。
思えば、マルチバースという概念は、MCUにおいても、それ以前から小出しに登場している。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)は、指パッチンのされなかった世界に戻す話だし、ドラマの『ロキ』は時間の分岐を管理する組織が舞台だった。本作とかかわりの深い『ワンダヴィジョン』も、ワンダが<そうあってほしい世界>を構築する話だし、『ホワット・イフ…?』などはマルチバースそのもののような企画だ。
マルチバースでは、複数バージョンの自分自身が登場するほか、今までの時間軸ではありえなかった敵との対戦がみられるようになる。
本作でも、おーっと声が漏れるようなキャラが(本人のキャスティングで)登場する。ありえない夢の対決って、なんだか往年の『ウルトラファイト』とか『マジンガーZ対デビルマン』を思い出すなあ、年齢がバレるけど。
ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)とウォン(ベネディクト・ウォン)の二人のベネディクトは『ドクター・ストレンジ』以来、他のMCU作品に応援参加ばかりが続いていたが、今回は久々の冠作品。
いつのまにかソーサラー・スプリームとしてストレンジより出世している盟友ウォン、久々登場の元カマー・タージの魔術師モルド(キウェテル・イジョフォー)などの旧交を温める盛り上がりに加え、自然や花に溢れたマンハッタンの街並みなど、多種多様なマルチバースの面白味。
サム・ライミ監督の再登板に期待大だ。次作は、手塚治虫『三つ目がとおる』とのマルチバースかな。