『アネット』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『アネット』考察とネタバレ|恐るべき子供の60歳を過ぎてからの創造力

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『アネット』 
 Anette

レオス・カラックス9年ぶりの新作は、初の米国舞台、初の英語劇、そして初のミュージカル

公開:2022 年  時間:140分  
製作国:フランス
 

スタッフ 
監督:       レオス・カラックス
音楽:        ラッセル・メイル
             ロン・メイル
キャスト
ヘンリー・マックヘンリー: 
          アダム・ドライバー
アン:     マリオン・コティヤール
指揮者:     サイモン・ヘルバーク
アネット:   デヴィン・マクダウェル

勝手に評点:3.0
     (一見の価値はあり)

(C)2020 CG Cinema International / Theo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinema / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Televisions belge) / Piano

あらすじ

ロサンゼルス。 攻撃的なユーモアセンスをもったスタンダップ・コメディアンのヘンリー(アダム・ドライバー)と、国際的に有名なオペラ歌手のアン(マリオン・コティヤール)

<美女と野人>とはやされる程にかけ離れた二人が恋に落ち、やがて世間から注目されるようになる。だが二人の間にミステリアスで非凡な才能をもったアネットが生まれたことで、彼らの人生は狂い始める。

レビュー(まずはネタバレなし)

カラックスのミュージカル

1983年のデビュー作『ボーイ・ミーツ・ガール』から、短編を除けば実に40年で6本の作品しか撮っていない、寡作で知られるレオス・カラックスの新作が久々にお目見えした。それも、50年近い歴史をもつロックバンド<スパークス>メイル兄弟が音楽を手掛けたミュージカル。

前作(といっても10年も前だが)の『ホーリーモーターズ』でも、ごくわずかにミュージカルっぽい場面はあったが、カラックスの本格ミュージカルも初なら、アメリカを舞台に英語で撮る作品も初。しかも主演がアダム・ドライバーとくれば、何か想像のつかない世界が展開される予感。

(C)2020 CG Cinema International / Theo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinema / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Televisions belge) / Piano

さて、蓋を開けてみると本作、思った通り、いわゆる普通のミュージカルとは大きく異なる、レオス・カラックスの独創性に富んでいる。

まずは冒頭、スパークスの曲のスタジオ・レコーディングが始まりそうな雰囲気。キューを出すのはカラックス監督本人、そこに寄り添うのは実娘のナスティアか。この父娘カメオ出演も『ホーリーモーターズ』踏襲だ。

そして演奏が始まった途端、メイル兄弟はヘッドフォンを外し、ミュージシャンやコーラスガールズ、出演者一同総動員でスタジオを飛び出し、歌いながら夜のロサンゼルスの町を行進し始める。ここから始まる何でもありのカラックスワールド。早くも手におえない状況だ。

(C)2020 CG Cinema International / Theo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinema / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Televisions belge) / Piano

スタンダップコメディアンとオペラ歌手

マリオン・コティヤールが演じるオペラ歌手のアンと、アダム・ドライバーが演じるスタンダップ・コメディアンのヘンリー・マックヘンリー。人気者の二人が交際を始め、世間の注目を浴びる。

二人の愛の語らいは、基本的には歌を通じて行われる。このあたりはミュージカルのお決まりのパターンだろうが、おそらく歌のほとんどは同時録音で、実際に演技しながら歌っているものが多いのではないかと思う(さすがにオペラの熱唱は吹き替えか)。

同録なので音質や音圧にやや難点は感じたが、それを上回る臨場感は格別だ。さすがに本物感が違う。ひとえに役者と録音スタッフの努力の賜物だろう。特に、ノーヘルでバイクにタンデムしたヘンリーとアンが、真っ暗な人気ない山道を疾走しながら歌い続けるシーンは、凄いものをよく撮るなと感心した。

(C)2020 CG Cinema International / Theo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinema / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Televisions belge) / Piano

初めに楽屋でグリーンのバスローブ姿で興奮しているヘンリーを見た時、ボクサーか格闘家なのかと思ったが、そこからスタンダップコメディを延々と披露する。

観客は殆どがファンらしく、盛り上がってはいるが、内容は寒い。みんな、笑うために来たから、空気を読んで笑っているのだろう。もっとも、最初のステージはまだまともだ。これから、彼の芸風はどんどん荒んでいき、堕落していく。

一方、アンのオペラのステージは順風満帆だ。歌の伴奏をしている、指揮者(サイモン・ヘルバーク)との相性もいい。彼女の人気は続き、二人は次第に格差婚と言われるほどになる。そんな中で、アンは妊娠し、やがてアネットという娘を出産する。

(C)2020 CG Cinema International / Theo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinema / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Televisions belge) / Piano

ダークサイドに堕ちた男

二人の愛娘の名前がタイトルとなっていて、しかもアダム・ドライバーマリオン・コティヤールのカップルとくれば、苦しい環境にあっても頑張って幸福をつかむ家族の愛の物語のように思えるが、内容はだいぶ異なる。

美しく才能に溢れる妻や最愛の娘に恵まれながら、カイロ・レンよろしくダークサイドに堕ちていき自らの人生をぶち壊していくダメ男の物語なのである。

ぶっちゃけ、ミュージカル向きの話なのか?とは思うが、世の中にはビョークの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のような例外もあり、一概に善人の苦労話やサクセス・ストーリーだけがミュージカル向きなわけではないか。

冒頭には、息すらも止めて観てほしい、或いは、批評家の皆さん、けなさないでね、などと言い、エンディングには、面白かったら知人に勧めてね、と語りかける。不思議な作品だ。

本作を一般的な基準で人に勧められるかというと、なかなか悩ましいが、カラックススパークスがお好きな方なら、やはり勧めない訳にはいかない。というか、そういう人は、勧めなくても観るのだろうが。

ちなみに、出演者のなかで驚いたのは、突如現れた古舘寛治水原希子の二人だ。古舘寛治は目立つので、見逃すことはない。6年半ニューヨークで演技を学んだだけあって、台詞は単純とはいえ作品には溶け込んでいた。同じアダム・ドライバー主演の『パターソン』に出ていた永瀬正敏よりは。

水原希子は台詞なしで、ちょっと雰囲気も違うので本人か確信が持てなかったが、エンドロールで納得。なお、福島リラに至っては、溶け込みすぎて、日本人だと気づかず。

(C)2020 CG Cinema International / Theo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinema / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Televisions belge) / Piano

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

パペットアネット

まあ、本作で一番驚いたのは、アネットが人形だったことだろうか。精巧に作られてはいるが、どうみてもパペットなのは疑いようがなく、はじめは気になってしまったが、だんだん本物らしく見えてくる。

動きをコントロールできる分、パペットの方が扱いやすいのかもしれない。パペットマペットならぬパペットアネットというオヤジギャグが飛び出す。

今のご時世、デジタル処理でいろいろクリアできてしまうことは多そうだが、アナログ派のカラックス監督だ。このパペット採用も相当こだわった結果なのだろう。乳児を抱きながら至近距離で喫煙する父親のシーンも、生身の赤ん坊でなければ、まあ許せるか。

嵐のなか嫌がるアンを引っ張って船のデッキで無理やりダンスに付き合わせた挙句に、彼女が海に落ちてしまい溺死する。シングルファーザーとなったヘンリーには、殺人容疑がかかる。

(C)2020 CG Cinema International / Theo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinema / UGC Images / DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Televisions belge) / Piano

疑っている人物のひとりはアンを愛していた指揮者だが、なんと幼いアネットには光に反応してオペラを歌うという奇跡的な才能があり、ヘンリーと指揮者が組んで、彼女をスターに仕立てることに成功する。

だが、アネットの歌の才能は、そもそも危険な海に引きずり出されて死んでしまった妻アンの恨みつらみに由来するもの。人形のアネットが、亡き妻の怨念のこもった歌で夫を苦しめる構図は、まるで日本の怪談話と『チャイルド・プレイ』のチャッピーがコラボしたようで、冷静に考えると背筋が寒くなる。

とことん憎まれ役のヘンリーが、妻を亡くし、その妻と交際していた指揮者をカッとなって殺害し、それを娘に目撃される。ウディ・アレンのシニカルなコメディなら、それでも最後まで難を逃れてうまいことやりそうなキャラだが、本作では最後には警察に逮捕される。

面会に訪れたアネットは、ここでついに本物の少女(デヴィン・マクダウェル)になっている。

「あなたにはもう、愛すべきものはないのよ」

一人娘を愛することさえ、本人に拒絶されてしまうヘンリーは、深い溝(アビス)に堕ちていく何という悲劇のミュージカルなのだろう。