『アイデンティティー』考察とネタバレ !あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『アイデンティティー』今更レビュー|そして俺もいなくなった

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『アイデンティティー』 
 Identity

豪雨で外界から閉ざされたモーテルに残った11人の男女が一人ずつ死んでいく。予備知識なしで観てほしいサスペンス。

公開:2003 年  時間:90分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ 
監督:   ジェームズ・マンゴールド
脚本    マイケル・クーニー

キャスト
エド:      ジョン・キューザック
ロード:     レイ・リオッタ
パリス:     アマンダ・ピート
ラリー:     ジョン・ホークス
ジニー:     クレア・デュヴァル
ジョージ:   ジョン・C・マッギンリー
アリス:     レイラ・ケンズル
ティミー:    ブレット・ローア
ルー:    ウィリアム・リー・スコット
ロバート:    ジェイク・ビジー
カロライン:   レベッカ・デモーネイ
マルコム:プルイット・テイラー・ヴィンス
マリック医師:  アルフレッド・モリーナ
弁護人:  カーメン・アルジェンツィアノ
検事:      マーシャル・ベル
判事:      ホームズ・オズボーン

勝手に評点:4.0
       (オススメ!)

あらすじ

豪雨のために交通が遮断され、さびれたモーテルに泊まることになった10人の男女は、若いカップル、わがままな女優とそのマネージャー、囚人と彼を護送する刑事、子供連れの夫婦など。まもなく女優が行方不明になり、その頭部が乾燥機の中で発見される。

犯人は誰なのか? その目的は? 謎の犯人は殺人を続けていく。

今更レビュー(まずはネタバレなし)

チープだけど大好きなB級エンタメ

もう20年の前の作品になる。今となってはあまり名の通った作品ではないのかもしれないが、この作品はとても面白い。何度も観返しているが、嬉しいことにNETFLIXで配信されたので、ついまた観てしまった。

大雨が降り続ける寂れた町にあるモーテルに、さまざまな理由で集まることになった老若男女と支配人の計11人が、一人ずつ殺されていくサスペンス。監督はジェームズ・マンゴールド『17歳のカルテ』から『フォードvsフェラーリ』まで、およそ得意分野がつかめない作品群の幅広さ。

公開予定作は『インディ・ジョーンズ5』と、近年では大作の監督も手掛けるマンゴールド。そんな彼のフィルモグラフィにおいて、B級エンタメ作品に属するであろう本作は代表作に位置づけられることは少ないのだが、私は一番気に入っている。

暗く大雨が降る田舎町の一夜を描いた本作にはどことなくチープ感も漂うし、11人も男女が集まる割にメジャー級の俳優陣は殆どいない。

だが、90分という短い尺にコンパクトに収めたサスペンス・ストーリーには無駄がないし、キレもよい。ぜい肉を落とすこともなく。2時間半から3時間級の長尺作品が当たり前になりつつある昨今の風潮に、つい喝を入れたくなる。

洪水で幽閉されたモーテルに集まる11人がひとりずつ死んでいく。『そして誰もいなくなった』のようなプロットに思えるが、正統派ミステリーではないし、かといって、殺され方の凄惨さでアピールするたぐいのホラーでもない。

本作の魅力を伝えたいのだが、少しでも語るとネタバレで魅力が半減してしまいそうだ。ここは騙されたと思って、ぜひ観てほしい。

楽しみ方としては、謎を解こうと思って観ないことだろうか。本気モードで取り組めば、きっと答えは出るだろうが、それではつまらない。深く考えずに事件の成り行きを見守るくらいが、丁度いいのだ。

登場人物の紹介

ネタバレしない程度に、登場人物を紹介したい。

一応主人公らしき人物はエド・ダコタ(ジョン・キューザック)。落ち目の女優カロライン(レベッカ・デモーネイ)の運転手。元警察官であり、誰に頼まれたわけでもないのに、事件の解明に乗り出す。『マルコヴィッチの穴』(スパイク・ジョーンズ監督)のジョン・キューザック。見た目、善人っぽい。

一方、現役警察官はサミュエル・ロード(レイ・リオッタ)。連続殺人犯のロバート・メイン(ジェイク・ビジー)を刑務所に移送中だったが、洪水で足止めをくらい、モーテルにやってくる。近年では『マリッジ・ストーリー』(ノア・バームバック監督)で活躍のレイ・リオッタ。本作ではまだまだ若くて渋い魅力があるが、どうにも悪人顔で怪しさ十分。

コールガールのパリス・ネバダ(アマンダ・ピート)はベガスから故郷に戻る途中で事件に巻き込まれる。本作では意外と善人キャラだが、モーテルの支配人ラリー・ワシントン(ジョン・ホークス)は大の娼婦嫌いらしく、彼女には接し方が厳しい。ジョン・ホークス『スリー・ビルボード』(マーティン・マクドナー監督)でフランシス・マクドーマンドの元DV亭主。

数時間前に挙式したばかりの夫婦は、ルー・イジアナ(ウィリアム・リー・スコット)ジニー・バージニア(クレア・デュヴァル)の二人。本作ではあまり目立った活躍はない。クレア・デュヴァル『パラサイト』(ロバート・ロドリゲス監督)や『ゴースト・オブ・マーズ』(ジョン・カーペンター監督)など、この時代のB級ホラーには欠かせない女優だったが、本作での存在感のなさは意外。

夫婦はもう一組いて、こちらは小さな男の子ティミー(ブレット・ローア)をもつ再婚夫婦。夫のジョージ・ヨーク(ジョン・C・マッギンリー)と妻のアリス(レイラ・ケンズル)。全ての事件は、この家族のクルマが、コールガールのパリスの投げ捨てたヒールを踏んでパンクを起こしたことから始まる。

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

答えを知ってもなお面白い

本作は、前述した11人の登場人物が次々と死んでいく物語である。それだけなら目新しさはないが、死んでいく人間がみな、ルームキーを握っていて、その部屋番号がカウントダウンのように減っていくのだ。

はじめは部屋番号に意味があるのかと思ったが、その数字は、生存者の数だと分かってくる。11人がいつのまにかモーテルに集結してしまう展開は、目まぐるしいが分かりやすく、またテンポもいい。

いくつかの偶然や悪天候が重なり、警察から囚人まで老若男女が集められ、高慢だった売れない女優が最初に犠牲になる。本作はミステリーではないが、どういうジャンルか判明しかけたところで、若干の失望を感じた人もいるかもしれないが、面白味は失われない。

はじめのうちは、犯人が何らかの意図で被害者にキーを持たせていると生存者たちは推理する。だが、息子を守ろうと、暴走したクルマに飛び込んで圧死した父親がキーを持っていたことで、これは人間の計画的な犯行ではありえないという、オカルトっぽい流れになっていく。

いきなりこの展開だったらやや鼻白むが、交通事故死のあとに死んだ母親が持っていたキーの数字がひとつ飛んでいたことを不審に思った生存者たちが、圧死した死体を調べてみてキーの存在に気づくのだ。この演出は芸が細かい。

並行するもう一つのドラマの正体

ここに集められ、死んでいく見ず知らずの登場人物たちは、自分たちに何か共通点があるはずだと考え始める。それは全員が同じ誕生日で、ファミリーネームが州名になっているということだと分かる。

そして、モーテルの惨劇と並行して冒頭から時折インサートされる、死刑執行前夜の囚人を巡る判事や医師たちのやりとりの意味がようやく終盤で解明される。

『スパイダーマン』のドクター・オクトパスでお馴染みアルフレッド・モリーナ扮するこの医師によれば、この死刑囚マルコム(プルイット・テイラー・ヴィンス)は、解離性同一性障害だという。彼の中に何人もの別人格が存在し、そのうちの一人が殺人犯なのだと。

まるで、ダニエル・キイスの小説で広く知られるようになったビリー・ミリガンの事件だ。医師は、マルコムの人格を意図的に一箇所に集め、人格の統合を図ったのだ。これで殺人犯の人格を消せば、少なくとも死刑を免れられる。モーテルの惨劇は、その過程だったのである。

人格のひとつであるエド(ジョン・キューザック)が判事たちの前にいきなり登場し、事実を聞いて混乱し、鏡に映った自分の顔が坊主頭の巨漢マルコムになっているという見せ方が面白い。

多重人格のなかに猟奇連続殺人犯がいるというアイデア自体は見慣れた感があるが、そうと分かっても面白さを持続するだけの作り込みになっているところが憎い。

元警官のエド(単に休職中だった)と、現役警官ではなく実は囚人だったサミュエル(制服の上着の背中に穴が開いていたのは、護送警官を刺殺した為)が最後には殺し合いの末、ともに果てる。

モーテルの面々で生存者はコールガールを廃業して実家で果樹園をやるパリスと、両親が死んでしまった少年ティミーのみ。殺人者人格は死んだと判断され、マルコムは死刑執行を免れる。映画は最後まで緊張感が続く。ミステリーではないが、一番怪しくないヤツが犯人という定説は崩れないのだ。

本作は改めて観ると、冒頭に詩の朗読とともに、マルコムの診断書らしきノートが写される。クリストファー・ノーランの作品のように、冒頭を凝視すれば隠されたヒントが発見できたわけだ。まあ、それで解明できてしまっては、楽しくないのだろうけど。