『レミニセンス』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『レミニセンス』考察とネタバレ|記憶探偵と鍵をなくした女

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『レミニセンス』
 Reminiscence

甘い記憶のなかに浸る行為は、麻薬よりも常習性がある。記憶潜入のエージェントは、失踪した恋人の過去に潜入していく。

公開:2021 年  時間:116分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ 
監督・脚本:        リサ・ジョイ
製作:       ジョナサン・ノーラン

キャスト
ニック・バニスター:ヒュー・ジャックマン
メイ:      レベッカ・ファーガソン
ワッツ・サンダース:タンディ・ニュートン
セント・ジョー:     ダニエル・ウー
サイラス・ブース:  クリフ・カーティス
ウォルター・シルヴァン:ブレット・カレン
タマラ・シルヴァン:マリーナ・デ・タビラ
セバスチャン・シルヴァン:
           モージャン・アリア
エルサ:    アンジェラ・サラフィアン

勝手に評点:3.0
        (一見の価値はあり)

(C)2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

あらすじ

多くの都市が水没して水に覆われた世界。記憶に潜入し、その記憶を時空間映像として再現する「記憶潜入(レミニセンス)エージェント」のニック(ヒュー・ジャックマン)に、検察からある仕事が舞い込む。

それは、瀕死の状態で発見された新興勢力のギャング組織の男の記憶に潜入し、組織の正体と目的をつかむというものだった。

男の記憶から映し出された、事件の鍵を握るメイ(レベッカ・ファーガソン)という名の女性を追うことになったニックは、次々とレミニセンスを繰り返していく。

しかし、膨大な記憶と映像に翻弄され、やがて予測もしなかった陰謀に巻き込まれていく。

レビュー(まずはネタバレなし)

おしりじゃないよ、記憶たんてい

レミニセンスと呼ばれる記憶潜入のエージェント、水没都市を壮大なスケールで描き出したダークな舞台設定。悪くないよ、ここまでは。

過去と未来の差こそあれ、特殊な技術で仕事をこなす主人公は、スピルバーグの『マイノリティ・リポート』を思い出したし、誰かの記憶を探っていく工程もリドリー・スコットの『ブレードランナー』の捜査プロセスを感じた。どっちもフィリップ・K・ディックが原作だ。

そうそう、かつてマーク・ストロングも『記憶探偵と鍵のかかった少女』で、まさに記憶探偵というのを演じていたっけ。

その意気込みと着想や良し。だが、この題材を新人監督が扱うには、少々荷が重かったのではないか。リサ・ジョイ監督は、テレビシリーズ『ウエストワールド』のクリエイターとして知られているようだが、映画監督としては本作がデビュー。

それをサポートするのは、製作を手掛けた夫のジョナサン・ノーラン。そう、クリストファー・ノーランの弟であり、『プレステージ』『インターステラー』ほか、兄の複数の監督作に共同執筆者として名を連ねてきた人物だ。

私はノーラン監督のファンではあるが、弟ジョナサンにどれだけ才覚があるかは、よく存じ上げない。

ただ、本作の国内プロモーションにおいて、「ノーラン監督の弟ジョナサンが製作!」というのが前面に出ていたことに、不安を感じ取った。だって、その妻リサ・ジョイが監督なのに、殆ど記憶に残らない告知だったから。

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サンクンコーストなど町の描写は秀逸

そして、その不安は現実となった本作は脚本が弱い。レミニセンスを操る男、ヒュー・ジャックマン扮する主人公のニックが、謎の女メイ(レベッカ・ファーガソン)に翻弄され、気がつけば彼女は失踪し、ニックは彼女との甘い思い出に耽るようになる。

そこから物語は、何やら麻薬組織をめぐる犯罪捜査のような形で進行していく。どことなくハメットの『マルタの鷹』チャンドラーの探偵小説を思わせるストーリーは、前世紀なら面白いのかもしれないが、昨今の脚本としてはひねりが足らない。

これがローバジェットの懐古主義な探偵ものだったら理解もするが、皮肉なことに背景となるサンクンコースト(沈んだ町)をはじめディストピア的な町の描き方があまりに素晴らしすぎて、相対する物語の貧相さが目立ってしまうのだ。

戦争と海面上昇により多くの都市が沈み、ニックたちが暮すマイアミの町もまるでベネチアのようになっている。この世界観を映像化できたのは、立派だと思う。ぶっちゃけ、この町の様子が見られるだけでも本作には価値がある

超遠景からズームして海面をせき止めた町並みに入っていく冒頭部分は気分を高揚させる。海の上を突き進んでいくようなハイウェイや鉄道線路など、未来都市ではなく普通の都市の将来の姿を具現化しているのも偉い。しかも夜景でごまかすことなく、白昼堂々のシーンで見せている

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地主たちの住む高台の快適な空間と、庶民の住むスラムのような猥雑なサンクンコーストの対比も面白い。

庶民の足元を見て土地を買い漁る悪徳資産家ウォルター・シルヴァン(ブレット・カレン)が、物語のキーマンとして登場するのだが、声のかすれ具合からアレック・ボールドウィンだと勘違いしていた。

ヒュー・ジャックマンのアクションが欲しい

本作はヒュー・ジャックマンを主人公に起用し、その記憶潜入技術で事件の謎を解いていくものの、敵との戦いにおいては、これといったアクションを披露しない

勿論、いつもウルヴァリンよろしく好戦的なわけではなく、平和的解決を図ったっていいのだが、SFノワールでもアクション場面がある以上、これはちょっと寂しい。

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そんな彼に成り代わって銃撃戦で活躍するのは、謎の女メイ(レベッカ・ファーガソン)と、ニックの仕事上の相棒女性・ワッツ(タンディ・ニュートン)の二人。

レベッカ・ファーガソン『グレイテスト・ショーマン』でもヒュー・ジャックマンと共演しているが、近年では『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』『DUNE砂の惑星』それに本作と、アクション女優としての活躍が目立つ。

一方のタンディ・ニュートンのアクションにも見覚えがあると思ったら、『ミッション:インポッシブル2』のヒロインだった。この二人は、どちらもイーサン・ハントが愛した女性たちということか。

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ところで、この作品を<必ず騙されますよ>的な宣伝文句で誘導するのは、どこか違う気がするが、わりとプロモーションで目にする。

実際、ある程度は騙されるように作ってあるが、容易に想像がつくひっかけであって、感覚的には「騙されてあげてる」のである。へぼな催眠術師に付き合ってあげているようなものだ。

公式サイトに掲載された、<三つのルール>

  1. 潜入できる記憶は、対象者が五感で体感した世界すべて
  2. 同じ記憶に何度も入ると、対象者は記憶に呑み込まれ、現実に戻れなくなる
  3. 記憶に事実と異なるものを植え付けると、対象者は脳に異常をきたす

これも嘘を書いてはいないが、ルールというほどのものではなく、観客はここから謎解きをする訳ではない。

1は自明だし、残りもニックの行動にワッツが補足を入れるので、悩むことはない。それに、この<ルール>的な紹介手法が、ノーラン便乗商法のようで好きではないし、本作のノワール路線には合わないように思う。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

捜査は進み、攪乱も進む

麻薬組織のボスであるセント・ジョー(ダニエル・ウー)、そして彼の配下にいる悪徳警官サイラス・ブース(クリフ・カーティス)、失踪したメイを巡って徐々にレミニセンスで手がかりをつかんでいくステップは、私立探偵のハードボイルド小説風である。

そして、冒頭にニックの常連顧客であったエルサ・カリーン(アンジェラ・サラフィアン)がいつも記憶回想している不倫相手が地主のウォルターであり、エルサは彼の生ませた隠し子とともに、殺されたものと分かってくる。

だが、ここにはいくつか騙されそうな点がある。正確には、騙されてあげた方が楽しめる点というべきか。

まず、冷淡にも不倫相手と我が子の殺しを命じたと思われたウォルターだが、実はその首謀者は、隠し子を抹殺し父の財産を独占しようとした息子のセバスチャン(モージャン・アリア)だったこと。記憶がバーンしてしまい、廃人のようになった妻タマラ(マリーナ・デ・タビラ)のふるまいが哀れだ。

そしてもう一つの騙されポイントは、失踪したメイははじめの出会いからニックの気を惹くように狙っていたこと、そして、ニックに近づいたのは彼女の本意ではなく、サイラスに脅迫されたためのやむない行動であったことだ。

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騙されるより大事な観るべきシーン

この仕掛け自体は、大仰なものではなく、とりたててサプライズはない。

だが、悪徳警官サイラスの記憶に潜入しメイを見ていたニックがたまらず彼女の記憶像に近づく。一方、その場にニックがいて自分を見ているはずだと確信している(過去の)メイが、ニックと抱擁しキスするシーンは切なく美しい(文章にすると複雑だが、実際には彼女はサイラスと抱き合っている)。メイもまた、ニックを愛していたのだ。

その直後、殺されたと見せかけて彼女たちが匿っているエルサの子供の身を案じて、記憶潜入による情報漏えいを防ぐためメイは投身自殺を図る。ニックはなすすべもなく、自分の手の届かない過去で、自殺する恋人の姿を目の当たりにし、悶絶する。

ラストは、娘との生活を取り戻し未来に向けて生き始めたワッツと、過去のメイとの思い出を永遠に再生し、機械の中で生き続けようと決めたニック。

過去と未来のどちらにすがって生きていくか。どちらも正解と思いたいとワッツは言うが、これをハッピーエンドとは呼びにくい。まあ、それがリサ・ジョイ監督の目指したノワール映画の宿命なのだが。