『キャラクター』考察とネタバレ|世界の終わりの不気味さ

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『キャラクター』

それは描いてはいけない主人公。菅田将暉演じる漫画家の連載通りに起きる惨殺事件。謎の殺人鬼にセカオワのFukaseが演好演。

公開:2021 年  時間:125分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督:     永井聡
原案:     長崎尚志
キャスト
山城圭吾:  菅田将暉
両角:    Fukase
       (SEKAI NO OWARI)
川瀬夏美:  高畑充希
清田俊介:  小栗旬
真壁孝太:  中村獅童
奥村豊:   小木茂光
大村誠:   中尾明慶
辺見敦:   松田洋治

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

(C)2021映画「キャラクター」製作委員会

あらすじ

漫画家として売れることを夢見て、アシスタント生活を送る山城圭吾(菅田将暉)

ある日、一家殺人事件とその犯人を目撃してしまった山城は、警察の取り調べに「犯人の顔は見ていない」と嘘をつき、自分だけが知っている犯人をキャラクターにサスペンス漫画「34」を描き始める。

お人好しな性格の山城に欠けていた本物の悪を描いた漫画は大ヒットし、山城は一躍売れっ子漫画家の道を歩んでいく。そんな中、「34」で描かれた物語を模した事件が次々と発生する。

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レビュー(まずはネタバレなし)

これは菅田将暉の『MONSTER』か

主演の菅田将暉の共演で「SEKAI NO OWARI」Fukaseが映画にデビューするとことで話題になった作品、しかもFukaseは連続殺人鬼で期待大。

あいにく公開時には都合がつかず、観られなかったのだが、ようやく観賞。これはなかなかの出来栄えといえるダークな作品だ。

監督は『帝一の國』でも菅田将暉と組んだ、CMディレクター出身の永井聡。私は監督の作品では『恋は雨上がりのように』しか観ていないのだが、正直、若干消化不良な作品で物足りない印象。従って、本作も観る前には半信半疑だったが、序盤からその不安は吹っ飛ぶ

静かで美しい冒頭部分、夜明けの団地に一つだけ灯りの点る窓。そこには徹夜仕事でマンガを描いていた主人公の山城圭吾(菅田将暉)

手描きにこだわる伝統的なスタイルで漫画家を目指す青年、本作同様、川村元気が企画した『バクマン。』(大根仁監督)を思い出す。

(C)2021映画「キャラクター」製作委員会

雑誌編集者(中尾明慶)には、絵は抜群にうまいが、殺人犯のキャラクターにリアリティがないとダメ出し。もう漫画家の夢を捨て、恋人の夏美(高畑充希)のために定職につこうと決心した山城。

漫画家アシスタントとしての最後の仕事に、夜の住宅街で幸せそうな一軒家をスケッチし、幸か不幸か一家四人猟奇惨殺事件の現場に遭遇してしまう。

そして山城は、犯人と思しき金髪の若者(Fukase)が去り際に振り返った、笑みをうかべた顔を見る。ここでタイトルが現れる。

惨殺現場に優しそうな顔の好青年が静かにほほ笑む。そして何の関係もないはずの目撃者に、次第にその殺人鬼が接近していき、不思議な関係が出来上がる。

これじゃまるで、浦沢直樹の『MONSTER』だぜと思っていたが、あとで確認したら本作の原案・脚本はなんと長崎尚志、浦沢直樹と数々のヒット作を共同制作してきた張本人ではないか。なるほど、これならパクリではなく、本家筋である。

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隣人13号から34号へ

一家四人惨殺とあっては、警察は本腰をあげて捜査する。その後も連続する犯行内容からは、神奈川県警だけ、しかも捜査本部で登場する刑事が上司の奥村(小木茂光)真壁警部補(中村獅童)、そして清田(小栗旬)の三人くらいというのは手薄すぎる感が強い。

だが、元暴走族という裏の経歴(これって結局必要だったか?)をもつ清田と、上司ながらタメ口をきかれる真壁の組み合わせは面白い。中村獅童小栗旬の共演は、なんと懐かしの『隣人13号』(井上靖雄監督)以来16年ぶりとか。

小栗旬が刑事役で惨殺現場に現れて、「ここに何かありますね」とか言って凶器の場所を探しあててしまうシーンを見ると、ドラマ『BORDER』の時のように、死んだ被害者の声が聞こえてしまうのではないかと、困惑してしまう。

(C)2021映画「キャラクター」製作委員会

ともあれ、この最初の事件を機に、現場と犯人を目撃した山城のマンガには一気にキャラクターのリアリティが溢れだし、彼の描く連続殺人鬼ダガーのマンガ『34』は、大ヒット作となる。

そして、ダガーの最初の犯行は、山城の目撃した惨殺事件をモチーフにしたものだったが、次からは、彼の描いた惨殺事件とまったく同じ場所や状況で、模倣犯による惨殺事件が起き始めるのだ。

現場で目撃した犯人をモデルに山城が描いてしまった主人公ダガー、当然ながらそれに酷似した、両角と名乗る青年(Fukase)が、あちこちで犯行を続ける。

何を考えているか分からないこの青年が、無邪気な笑顔で出刃包丁を片手に突進する姿は、『ヒメアノール』(𠮷田恵輔監督)の森田剛とはまた違う怖さがあるな。演技未知数のFukaseがそれをやっているところにも、読めない不気味さがあって、うまい配役だと感心。

【6月11日公開】映画『キャラクター』予告

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

四人家族は幸福の象徴

本作では、四人家族を幸福の象徴である一つのユニットとしてとらえている。だから両角は徹底して、四人家族しか狙わない。唯一の例外はあったが、その時は辺見敦(松田洋治)という人物を使っている。松田洋治、風貌いじりすぎてて、気がつかなかった

(C)2021映画「キャラクター」製作委員会

冒頭の一軒家の事件のほか、山道で乗せてもらったクルマでドライブする家族、川辺でキャンプする家族、テレビゲームに興じる家族、いずれも子供二人の四人家族だ。

全員手足を縛られ血だらけにはなっているが、殺害する現場は撮っていないので、PG12指定に留まっている。たしかに、死体の数と殺され方の割には、グロテスクなシーンは少ないか。

それにしても、漫画家といえば藤子不二雄の『まんが道』から始まり、最近でも『重版出来!』の世界くらいしか知らない身には、『ゴルゴ13』でおなじみアシスタントの分業体制までは馴染みがあっても、近年のデジタル化による変化には全く疎い。

イマドキはペンタブレットで、あんなに効率的に作業が進む世界になっているのか。

はじめは、犯人に酷似した似顔絵でも描くのかと思った山城が、犯人をモデルにヒット作を連載する漫画家となる。

山城が団地からみなとみらいのタワマン最上階の豪華メゾネットに移り住み、デジタルを駆使してリモートワークのアシたちと原稿をやりとりする姿は、いかにも売れっ子。

描いてはいけないマンガ

これはもしや、両角となにか裏取引でもしてのし上がったのかと思ったが、どうやらそうではない。彼は、ガード下の飲み屋で偶然再会した両角に、殺人犯がきたと驚愕していたから。

この飲み屋のシーンは狭い店内の構造と時間差を使って、うまい具合に構成されていた。はじめに山城を尾行し、隣に座って情報を取ろうとする清田。

彼が電話のため店外に出た隙に両角が現れ、「先生のファンで『34』の事件を再現しました」と言い、すぐに消える。あの客は常連かと山城が店主に聞き、コースターに似顔絵を描く。

店外の清田は出ていく両角を目にするが気に留めない。そして後日、聞き込みにきて壁のコースターに気づく。ダガーが実在するのか、と。

(C)2021映画「キャラクター」製作委員会

描いてはいけないマンガを描いてしまった」と連載をやめる山城。両角は書店で彼に近づき「なんで休載するんですか。先生だって楽しんで人を殺しているじゃないか」と食ってかかる。

うーん、不気味。本作は、中盤の展開が一番盛り上がるように思う。

読めてしまった点

本作は終盤までどういう流れになるのか皆目見当がつかなかった。ただ、序盤で読めてしまった点は二つほどある(ここからネタバレになります)。

まず、清田と真壁の刑事コンビが、双方割といいヤツであることと、途中で山城との信頼関係ができてしまうことから、これはどちらか一人が殺されてしまうのではないかという予感がした。

そうなれば小栗旬のほうか。いわば『ブラック・レイン』(リドリー・スコット監督)のアンディ・ガルシア。優秀で人柄もいい刑事は、早死にしてしまうものだ。

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そして、犯人が四人家族に執着していることと、結婚して妊娠している夏美が、子供は男女どっちがいいか山城に尋ねることから、おのずと生まれてくる子どもは双子なのだろうと気づく。

両角もそれをお見通しだが、警察は山城の実家が四人家族であることから、そこに張り込み犯人を待ち構える。山城の母と妹が連れ子で再婚だという設定が、土壇場で効いてくる。

「ダメだよ。先生の実家は幸福な四人家族ではないよね」

そういえば、セカオワのSaoriの処女小説も『ふたご』だったっけ。関係ないんだろうけど。

(C)2021映画「キャラクター」製作委員会

最後の修羅場まで読めない

そして最後。山城を襲撃し自宅に侵入、妻にも刃物を突きさす両角。

「先生、大げさだな。このくらいじゃ人は死なないよ。四人殺すのにどれだけ体力使うと思ってるの」

この修羅場に、一体何人の死者が出るかと思ったが、意外とおとなしい結果だった。

夏美は妊婦とはいえ、高畑充希ならもっと抵抗して犯人に一矢報いるように思ったが、本作ではおとなしく言葉もなく床にへたり込むだけ。逃げも叫びもしないのがもどかしい。

本作は、結局逮捕され裁判を受けている両角だが、共犯者(実行犯?)である辺見はまだ捕まっておらず、まだまだ安心はできないトーンのエンディングとなっている。

少し切れ味は悪いが、ここまでの話の運び自体は悪くない。本作公開時にはあまり派手にプロモーションされた記憶がなく知名度はもう一歩だった気もするが、私はぜひオススメしたい。