『グッドストライプス』今更レビュー|世の中には良い平行線もあるのだ

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『グッド・ストライプス』 

『あのこは貴族』の岨手由貴子監督の長編デビュー作。菊池亜希子と中島歩の倦怠期カップルが、でき婚を期に互いを理解し始める。

公開:2015 年  時間:119分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督:          岨手由貴子
キャスト
萬谷緑:        菊池亜希子
南澤真生:         中島歩
裕子(緑の親友):   臼田あさ美
祥子(真生の元同級生): 井端珠里
萬谷桜(緑の妹):     相楽樹
萬谷美幸(緑の姉):   山本裕子
工藤紗代子(吉村の恋人):中村優子
南澤里江(真生の母):    杏子
吉村仁志(真生の父):うじきつよし

勝手に評点:2.0
(悪くはないけど)

(C)2015「グッド・ストライプス」製作委員会

あらすじ

ともに28歳の緑と真生は、交際を始めて4年。すでにマンネリ状態になり、お互いに心の中で別れることも考えていたが、その矢先、緑の妊娠が発覚。

行きがかり上、結婚することになるが、生まれも育ちもこだわりも全く違う二人は、一緒に住むことになっても揉めてばかり。

「できちゃった婚」することになり、結婚の準備を進めていく中で、二人はそれまで知らなかった相手のルーツを知っていく。

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今更レビュー(ネタバレあり)

倦怠期の二人を追いかけるドラマ

2021年2月公開の商業映画二作目『あのこは貴族』がとても良かった、岨手由貴子監督のデビュー作品ということで観てみた。

自然消滅的に別れようかという雰囲気の倦怠期のカップルが主人公。冒頭、インド料理屋でマトンカレーを食す女・緑(菊池亜希子)に質問攻めの男・真生(中島歩)。噛み合わない会話と険悪なムード。居心地の悪さに、早くも観ている方も空気が重い。

そして、真生のインド出張中に、緑は生理がこないことに不安を抱く。別れるつもりが妊娠というのも間が悪いが、診察してもらった産科医が真生の母親(杏子)というのも、また気まずい。

(C)2015「グッド・ストライプス」製作委員会

カメ好きで自分の愛亀(カシオペア)のタトゥーを二の腕にいれるほどの吹っ切れたキャラの緑と、犬好きで愛犬(チセ)と暮らす優柔不断な青年の真生。

どういう出会いかは知らないが、傍から見ても相性が良さそうには見えない二人。別れる気配濃厚だったけれど、真生が海外出張中から戻れば、もう中絶もできない時期に入っている妊娠だと知り、なんとなく結婚する流れとなる。

そうとなれば、互いの親にも挨拶せねばならず、そこから次第に相手の生まれ育った環境や、相手自身について知っていくことになる。

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よい平行線もあるのではないか

本作は、相手を知る過程をとらえていく作品である。それぞれに複雑な家庭事情を抱えているとはいえ、多かれ少なかれ、誰にでも固有の事情はあるもので、とりたててサプライズはない。

では、相手を良く知ることで、深く分かり合うことができたかというと、そういう風でもない。それが、映画の中では語られなかった<グッド・ストライプス>というタイトルの所以らしい。

「結婚は、相手にあわせて自分の生活や趣味や友人関係を変えなくてはいけないと思われがちなんですが、そのままの自分で、平行線のままでも良いんじゃないかという思いをこめた」

岨手由貴子監督は、そう公開時に語っている

(C)2015「グッド・ストライプス」製作委員会

「交渉が平行線」とは、互いに歩み寄らず着地点が見いだせないことをいうが、人間関係には、よい平行線(ストライプ)もあるのでは、ということか。

そう聞くと、タイトルはなるほどと思ったが、映画だけでその平行線の良さが伝えられたかは、私には懐疑的だ。最後には結婚して幸福になる二人というようには、あまり見えなかった。

おそらく現実社会には、この二人のように成り行きで結婚し子供を育てる夫婦は少なくないのだと思う。それは分かっているが、作品として映画にするだけの題材だったのだろうか。

もっと端的に言えば、二時間をかけて観客に見せるに足るドラマがそこにあったのか。さしたる盛り上がりもなく、その気配があっても不完全燃焼で次に進んでしまったように感じた。

『あのこは貴族』を観れば、岨手由貴子監督の才能や手腕をはっきりと感じ取れる。それは、この5年間で培ったものなのかもしれないし、私に本作の良さが評価できていないのかもしれない。

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主演の二人はよかった

ただ、ひとつ言えるのは、ダブル主演の二人の演技がとても良かったということ。最後まで観る者をひっぱるハラハラ感を持続させることができていたと思う。

まずは萬谷緑を演じた菊池亜希子。思ったことをズケズケ言ってしまう自由奔放でズボラな感じの緑。高校時代は洋楽好きが高じて、パンクファッションに身を包んだピアス女だったことも判明。

そんなキャラに、ファッションモデル出身の菊池亜希子が意外とハマっている。いつも不機嫌そうに口をとがらせている風貌が合う。

最新作では『かそけきサンカヨウ』(今泉力哉監督)の母親役で泣かせる演技をみせた菊池亜希子は、まじめそうなイメージがあったが、こういう役もうまいのだ。

働いている飲食店の厨房で、同僚の裕子(臼田あさ美)と一緒に制服姿で並んでいると、ドラマ『問題のあるレストラン』(坂元裕二脚本)を思い出してしまう。

(C)2015「グッド・ストライプス」製作委員会

一方の南澤真生を演じた中島歩。真生は優柔不断な長身の優男だが、子どもの頃から自分の期待通りに物事が進んだことがない。

父親との離婚家庭、法学部を出た後の就職先、緑の妊娠もそうだ。だから、人生には期待せず、何事も甘んじて受け容れる体質が身についている。そんな真生に中島歩が合う。

朝ドラ『花子とアン』で注目された彼だが、私にとって中島歩の印象は、『愛がなんだ』(こっちも今泉力哉監督)と『いとみち』(横浜聡子監督)のイケメン青年。本作とはだいぶ雰囲気と風貌が異なる。

なので主演が誰かも知らずに観始めていた本作で、真生が中島歩だと気づいたときは、ちょっと驚いた。

映画『グッド・ストライプス』予告編

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。

あのこは貴族。ならば、この娘は?

妊娠したっぽい⇒彼氏の母親の病院で診察⇒できちゃった婚に向けて準備⇒でも、田舎の母には何も知らせず⇒自腹じゃないのに披露宴の料金設定に毒を吐く。

緑の言動は本能の赴くままでとても分かりやすい。ちょっとしたイザコザで、親友の裕子とぶつかってしまうのも、何となくわかる。

自分が悪いと分かっていても、謝れないタイプ。妹の桜(相楽樹)を伴い、真生を田舎の両親に紹介しに実家に帰るシーンが怖い。父親の仕事が傾き、借金返済のため家業を手伝う姉の美幸(山本裕子)の性格が悪いのだ。

一家そろっての夕食の空気が一触即発ムードでドキドキ。しまいには姉が緑の昔の部屋に内緒で真生を招き入れ、パンクに憧れるも楽器ができず、ティーンの頃の緑がDJの真似事をしていた録音テープを聴かせる。赤っ恥の緑が怒り心頭。

この、妹の過去を暴いて恥をかかせるパターンは、『犬猿』(𠮷田恵輔監督)にも通じる。

(C)2015「グッド・ストライプス」製作委員会

二人は住む世界が違うのだ。真生は母子家庭とはいえ、母は医者だし、離婚した父親も売れっ子の写真家で裕福で文化水準の高そうな家庭環境。父親の万年筆を欲しがり、大人は自分の万年筆を持つもの、という感覚で育ってきている。

暮らしている階層が違う男女を描いている点は、やがて『あのこは貴族』の中の水原希子と高良健吾の関係に繋がっていくのだとも思える。

ただ、真生の両親はBARBEE BOYSの杏子『子供ばんど』のうじきつよしのわけだから、どちらかといえば緑の両親はこっちの方がフィット感はある。

(C)2015「グッド・ストライプス」製作委員会

ここは盛り上げてほしかった

真生の父親は別居後に南紀白浜で若い女(中村優子と暮らしていた。挨拶のために二人が父を訪れると、その女性も妊娠中。生まれたら、真生には自分の子供と同い年の弟ができるということになる。

真生には長年あっておらず疎遠だった父に恨みつらみもあったが、久々に再会し打ち解けたと思っていた。だが、父親にとって、息子との再会は、新たに生まれてくる子供の父親になるための練習台だったと知る。

ここで、今まで流される人生に慣れてきた真生が、ひとり夜の田舎道にとびだし初めて感情を露わにする。そして、あとから真生を追いかけた緑が、クルマをよけようとして人気のない用水路に落ちてしまう

(C)2015「グッド・ストライプス」製作委員会

このクライマックスであるはずのシーンでも、なぜか二人は妙に落ち着き払っている。これでは、観る側は心を動かしにくい。

その夜、コンビニで店長に長々と説教されているパンクな田舎娘を見て、真生はどうするのかと思っていたが、何もしない。

おまけに、暗く冷たい冬の用水路に落ちた緑は、流産してしまわないか、誰が見つけてくれるのか、いかようにも盛り上げられるのに、こちらも水路に亀をみつけただけで、あっさり救出されてしまう。

このまま、さしたるドラマもなく挙式にながれていく。幸福な結婚生活になって欲しいとは思うが、ドラマ的にはどうにも拍子抜けだ。

転職して花火職人になったという妹が、亀のお墓のまえで自作の小さな打ち上げ花火をあげるところは、ちょっと映画的だったけど。