『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『007 ワールドイズノットイナフ』ボンド一気通貫レビュー19|ソフィの選択

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『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』
 The World Is Not Enough

007シリーズ第19作、ピアース・ブロスナン版ボンドの第3作。ボンドガールにソフィー・マルソーとデニス・リチャーズ。

公開:2000 年  時間:127分  
製作国:イギリス
  

スタッフ 
監督:  マイケル・アプテッド
原作:   イアン・フレミング
キャスト
ジェームズ・ボンド: 
        ピアース・ブロスナン
エレクトラ・キング: 
         ソフィー・マルソー
クリスマス・ジョーンズ: 
         デニス・リチャーズ
レナード:   ロバート・カーライル
ズコフスキー: ロビー・コルトレーン
ロバート・キング:デヴィッド・カルダー
ジュリエッタ・ダ・ヴィンチ:
    マリア・グラツィア・クチノッタ
ダヴィドフ:    ウルリク・トムセン
M:         ジュディ・デンチ
マネーペニー:    サマンサ・ボンド
Q:     デスモンド・リュウェリン
R:         ジョン・クリーズ
タナー:      マイケル・キッチン
ウォームフラッシュ: 
      セレナ・スコット・トーマス

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

あらすじ

巨大石油パイプラインの計画を進めていたイギリスの石油王キングが、MI6本部で暗殺された。

犯人は国際的テロリストのレナードだと突き止めたMI6は、キングの仕事を継いだ娘エレクトラが次の標的になると考え、護衛としてボンドを送り込むが……。

一気通貫レビュー(ネタバレあり)

小粒と思ったアヴァンタイトルの活劇が

ピアース・ブロスナンのボンドも三作目に入る。毎度お馴染みのアヴァンタイトルでの活躍は、今回はスペインの銀行家相手の撃ち合い。現金を奪還してロンドンはMI6の本部ビルに戻るボンド。

それなりに盛り上がりはするが、いつもに比べるとやや小粒な内容の印象。などと早合点するが、まだまだメインテーマ曲は流れない。そう、まだ序盤戦の途中なのだ。

この後に現金の持ち主である石油王のキング卿(デヴィッド・カルダー)が紙幣に仕込まれた罠により、MI6施設内の金庫で爆死。テムズ川の上で監視していた怪しい女(マリア・グラツィア・クチノッタ)を追うボンド。

最新鋭のボートによる派手なチェイスを展開。ロンドン市街を混乱させた後(ボンドのせいだけど)、女は気球に乗り込む。美女とみると親身になって説得を図るボンドだが、女は観念して自害を図る。

ここでようやくタイトルとは、何ともゴージャス

マンネリズムの打開策あれこれ

中盤で展開される山岳スキーでのバトルアクションといい、このテムズ川のボートチェイスといい、過去二作に登場しない新競技の投入であり、マンネリ化に陥らない工夫がみられる。

そして目新しさに貢献しているのは、本作でのボンド・ガールの位置づけだろう。メインとなる、敵に殺された石油王の娘・エレクトラ・キングに大物ソフィー・マルソーを起用。

通常であれば亡き父の仇敵をボンドと共に追う役割になりそうなものだが、なんと彼女こそ、油田の資産を母から横取りした父を憎み、建設中のパイプラインで世を支配しようと企む美しきラスボスなのだ。

当初、エレクトラをねらう悪党と思わせたレナード(ロバート・カーライル)は、脳に残った弾丸の影響でいつ死ぬか分からない運命ながら、何の痛みも感じない無敵の身体を手に入れた男。

こいつは、かつてキングの娘として誘拐したエレクトラと、いつの間にか強い絆で結ばれた共闘関係にあった。

だが、彼女の保護をしているうちに、ボンドは誰も気づかなかった二人の関係を見抜く。それは、ストックホルム症候群のようなものだ、と。

ボンド・ガールの役割期待

メインのボンド・ガールが殺されてしまうケースは過去にもあるが、それが敵のボスであり、しかも最後にはボンドの手によって殺されてしまうといのは珍しい。

だが、エレクトラが正体を明かすまでは、そんなはずがないと観客を十分に惑わせることができている。ソフィー・マルソーの配役の賜物だと思う。

メインの女優を悪役に据えたために、本作はもう一人のボンド・ガールを用意している。物理学者のクリスマス・ジョーンズ(デニス・リチャーズ)だ。

石油パイプラインの工事をしているアゼルバイジャンの殺伐とした現場で、彼女一人がタンクトップと短パンでプレイボーイ誌のピンナップガールみたいな恰好をし、周囲から浮きまくっている。

リアリティそっちのけでボンド・ガールを演じるこの物理学者は、それでも核弾頭の解除をめぐってボンドとともに大活躍。本作における世間の注目度もソフィー並みに高かったと記憶する。

確かにクリスマス博士は不自然な存在だが、本作には、テムズ川チェイスの挙句に自害した秘書や、ボンドの健康状態と驚異的なスタミナにお墨付きを与えた女医のモリー・ウォームフラッシュ(セレナ・スコット・トーマス)だとか、賑やかしの女性が多すぎて、博士の違和感は緩和されてしまう。

とはいえ、ここまでモテキの設定は、さすがに軽薄すぎやしないか。

本作よりもう少し後になるが、『ミッション・インポッシブル3』でライバルのイーサン・ハントは結婚し、妻の危機を案じて、彼女を想いながら離れ離れに暮らすようになる。対極的なキャラだが、時代はボンドにアウェイになっている。

元KGBのスパイとの奇縁

過去二作にわたって登場したCIAの友人ジャック・ウェイドに代わり、本作では前々作以来となる元KGBのズコフスキー(ロビー・コルトレーン)が登場。シリーズ通しで観ないと、なかなか思い出せない。

この憎めないロシア人は、今回重要な役回り。はじめはただの羽振りの良いマフィアのような人物に見えたが、エレクトラの計画で、甥っ子の乗るロシア原潜が危険な目に遭うとボンドに教わる。

そして終盤では彼女に反撃を挑み、結果的にボンドを窮地から救い出すことになるのだ。

かつて自分の脚を撃ち抜いて杖を手離せない人生にした憎むべき存在であるはずのボンドを、エレクトラへの復讐のために、命を賭して救い出すことになるとは

作品を跨いで築かれた、この不思議な友情がいい。ボンドはまったく無頓着だったけれど。

ガジェットについて

ガジェットに関しては、本作で高齢を理由にQが(実際に)引退することから、盛りだくさん。少々頼りない後継者のRまで紹介される。

なお、長年Qを演じてきたデスモンド・リュウェリンは、奇しくもクランクアップから間もなく、交通事故で亡くなられたため、本作は遺作になってしまったそうだ。

Qの開発で大きな代物は、未完成だったボートチェイスのジェット噴射式ボート。また、ボンド・カーにも毎回新製品が投入され、今回はBMWのZ8が登場。

愛くるしい風貌のコンバーチブルは、愛犬のように遠隔操作で飼い主に近づき、ヘリを撃墜する活躍をみせるものの、すぐに巨大ノコギリで、まるでスラップスティック・コメディのごとく真二つにされてしまう

『スターウォーズ』R2D2のように電子音と点滅で意思表示する姿が哀愁を誘う。

その他、ふざけた開発品では、ダンゴムシのように身を護るシェルター機能付きのスキージャケット。実利用の機会があろうとは。

メガネに関しては、ワルサーの遠隔操作機能や、武器携帯をチェックする(それ以外の楽しみも)透視機能つきが登場。

お馴染みのオメガ・シーマスターは、腕時計サイズで電動ウインチ機能があり、ワイヤーでボンドを引き上げてしまうのが、さすがに嘘っぽい。

愛した女を殺せるの?

終始シリアス展開の『スカイフォール』なら、敵に捕まったMが凶弾に倒れることはあり得ても、軽さが売りのブロスナン版では、敵に拉致されたままMが死んでしまうことはないだろう。実際、彼女は無事にボンドに保護された。

「あなたは、愛した女を殺せないわ」

高を括って勝ち誇ったようなエレクトラに、銃弾を撃ちこむボンド。スパイは冷酷無比でなければ。死ぬのは奴ら、いや、エレクトラだ。最後は必殺仕事人、中村主水もんどのように決めるボンドであった。

原潜の中でレナードをどうにか始末し、核のメルトダウンを寸前で防いだボンドとクリスマス。ラストでボンドが「トルコでクリスマスか」というのは、トルコとターキー(七面鳥)をかけたジョークなのだ。

同シリーズの作品にしてはシリアス路線とは思うが、クレイグ版ほど重苦しくはなく、ほどよい後味。