『夏の妹』 今更レビュー:沖縄でシルバー仮面の主題歌を歌ってる彼はアイアンキングだからね

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『夏の妹』 
 Dear Summer Sister

沖縄返還の年である1972年に公開された、当時のリアルな沖縄の姿。そこで腹違いの兄かもしれない青年を探す娘。青春映画と反戦映画が混然一体となったような、大島渚監督の異色作。

公開:1972 年  時間:96分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:      大島渚
脚本:      田村孟
        佐々木守
音楽:      武満徹

キャスト
菊池素直子: 栗田ひろみ
小藤田桃子:   りりィ
大村鶴男:   石橋正次
菊池浩佑:   小松方正
国吉真幸:    佐藤慶
大村ツル:   小山明子
桜田拓三:   殿山泰司
照屋林徳:   戸浦六宏


勝手に評点:2.5
(悪くはないけど)

(c) 大島渚プロダクション

あらすじ

素直子(栗田ひろみ)は父の婚約者でピアノの家庭教師でもある桃子(りりィ)と沖縄にやってきた。

数ヶ月前、素直子は大村鶴男と名乗る沖縄の青年から手紙をもらう。自分たちは腹違いの兄妹かもしれないというので、鶴男を訪ねてきたのだ。

素直子はギターを抱えた流しの青年(石橋正次)と知り合い、親しくなるが、実は彼こそが鶴男なのだった。二人はお互いに気づかないまま、すれ違いを繰り返していく。

今更レビュー(ネタバレあり)

そこは右側通行の異国の地

1972年はまさに沖縄返還の年であり、そこに本土と沖縄の関係を描いたオール現地ロケの本作が公開される。

もっとも、『儀式』で見せたような正面からの問題提起ではなく、中学生の少女と彼女を取り巻く不思議な関係の家族を中心に、ATGの青春映画のようなスタイルでテーマを扱っている。

大島渚は、こういう引き出しも持っているのか。大型船に乗って沖縄にやってくる若い女性二人、青い海、白い雲、およそ武満徹とは思えない平和な音楽、監督名さえなければ、東宝の昭和アイドル映画のような始まり方だ。

撮影した時点では、まだ返還前だったはずだ。ロケにはパスポートと米ドルが必要だったと、出演者である小山明子夫人も語っている。

とにかく、今以上に純度の高い、当時の沖縄の様子がフィルムに収められている。

何せ、主演の男女は、一回100円で沖縄の現地語を教えることで知り合うのだから、異国扱い。随所に沖縄のガイド的なカットが入り、よく見れば自動車だってまだ右側通行だ。

青春ミステリーのようなプロット

主人公の中学生・素直子(すなおこと読む)は、姉のような父の婚約者の桃子と二人で沖縄に来る。兄かもしれない大村鶴男という青年と会うためだ。

突然届いた手紙によれば、鶴男の母・ツル(小山明子)には息子の父親と考えられる男性が二人おり、その一人が素直子の父・菊池浩佑(小松方正)だという。鶴男はこっそり菊池家の庭で彼女を見初め、兄妹と確信したらしい。

自分に好意を持ってくれる見知らぬ男性、沖縄からの突然の手紙、運命のいたずら。何とも(当時の)中学生女子が夢中になりそうなプロットだ。一昔前なら、岩井俊二か赤川次郎が作りそう

だが、もうひとひねり。鶴男が見初めたのは素直子ではなく、桃子の方だったのである。素直子は、沖縄語を教える青年、後に再会し親しくなるギターの流し(石橋正次)が、当の鶴男本人だとはなかなか気づかない。

一方桃子はこの状況を把握しているが、鶴男の存在が気になり始める。このように、単純な恋愛ものとは一味違う味付けになっている。

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アイドル的素質十分の栗田ひろみ

素直子を演じた栗田ひろみは、本作が映画デビュー。私は世代的にあまり知らないが、その後人気に火が付くのも肯ける。どう見ても中学生設定には無理があると思っていたが、当時の実年齢に近い役だと知り、驚いた。

本作は、栗田ひろみのアイドル映画として純粋に見惚れる目的なら、大満足の一本だと思う。実際、可憐なショットは多い。

だが、今観るとさすがにキツイ部分がある。まずは演技。彼女の演技力云々ではなく、おそらくこの時代の若い女性の演出全般がそうなのだが、あまりに過剰な演技と台詞回しは、さすがに人工的すぎて、受け容れ難い。

並みの監督ならともかく、大島渚がこの演出でOKだすのかと、意外に思ったのは事実。もっとも、全然気にならない人もいるだろうから、これは個人差が大きいかもしれない。

台詞の喋り方ではなく、台詞そのものも、結構傍若無人なものが多く、はじめは聞き流していたがが、次第に気持ちが荒んできた。

いや、生意気盛りの若い娘という設定は承知しているが、人探しを依頼する地元警察署員をバカ呼ばわりしたり、仲の良いはずの桃子を陰で意地悪ババアとこき下ろしたり。自分のことを<スータン>と呼ぶのも萎える

そして、極めつけは、大島渚監督が言わせたかったのだろう
「沖縄なんか、日本に帰ってこなければよかったんだ!」

これを、どうでもいい場面で中学生の彼女に叫ばせるところは、罪深い。

ハスキーボイスの魅力・りりィ

素直子の姉のような年齢差で、彼女のピアノ教師で菊池浩佑の婚約者・小藤田桃子。結婚したら菊池桃子になるのかよ、と思っただけでちょっと笑える。

いい女にハスキーボイスの組み合わせが、アンヌ隊員(ウルトラセブンです、念の為)を思い出させる。

この女性、どこかで見たことがある人だとは思ったのだが、まさかりりィの若かりし頃とは気づかなかった。そうか、あの声は、彼女の独特の歌声ではないか。

本作が映画としてはデビュー作。冒頭から必然性なく入浴シーンというサービスぶりだが、私が最後に観たのは、こちらも脱ぎっぷりに驚いた『リップヴァンウィンクルの花嫁』

(c) 大島渚プロダクション

明日はどっちだ、石橋正次

大村鶴男は実に人懐っこい笑顔の好青年で、演じた石橋正次の雰囲気に合っている。ギターを抱えて流しをしているが、あまり演奏がうまそうには見えない。

夜の飲み屋街を鶴男と素直子が歩きながら二人で謳う『シルバー仮面』の唄が、妙にいい感じで耳に残る。

てっきり、石橋正次がシルバー仮面の主人公をやっていたからだと早合点してしまったが、よく考えたら、『シルバー仮面』は柴俊夫。石橋は後続の『アイアンキング』の主人公ではないか。

いずれも、知る人ぞ知る愛すべきB級特撮ヒーローであり、本作の脚本家・佐々木守の作という縁で、ここでも歌われたらしい。

エロ話しかしない、大人たち

さて、話を三人の親世代の関係に移したい。京大を出て判事になった、素直子の父・菊池浩佑(小松方正)。学友で、地元警察部長の国吉(佐藤慶)

学生時代、国吉が妹と偽って本土に連れてきたツルを、国吉が学生運動で勾留されている時に口説いて寝たのが浩佑。それを知り、後日慌ててすぐにツルを抱いて、どっちの子か分からなくしてやったと豪語する国吉。鶴男には聞かせられない会話だ。

今やツルは沖縄で手広く事業を営む女傑とあって、二人など相手にしない余裕を見せるが、それにしてもこの二人のやりとりはえげつない。

大体、町で女を買う話も含めて、猥談を武勇伝のように年頃の娘に語る判事というのも、今ではとても映画にできないようなキャラだ。

このように、若い世代は女二人に男一人、シニア世代は男二人に女一人という相関図のほかに、沖縄の唄者・照屋(戸浦六宏)と、船上で素直子らと知り合った元日本兵の桜田(殿山泰司)という二人の男性がいる。

桜田は、沖縄戦での罪悪感から、彼らに殺されたいと思っており、照屋は、日本兵を殺してやりたいと憎んでいる。

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大島渚が伝えたかったものは?

思えば、大人の世代の出演者は、みな『儀式』からの常連だ。同作では、佐藤慶の家長に従う立場だった小松方正戸浦六宏が、ここでは対等の立場になっている。佐藤慶からは前作のアクの強さが抜け、一方小松方正はギラつき度が増している。

本作は、コンプライアンスをつい意識してしまう最近の感覚からは、あまりに不用意な物言いが多すぎて、ちょっと敬遠してしまう。

だが、当時の沖縄の空気を伝えるという意味では、貴重な作品と言えるだろう。素直子のぶっとんだ言動や、大人たちの不穏な会話への許容度が大きい人には、楽しみようはある。

白く美しい砂浜のあちこちで、各世代の組み合わせの男女が語らっているのは、面白い光景だ。ウチナンチューとヤマトンチューの対立を、少しソフトな表現で描きたかったのだろうか。大島渚監督作品としては、変わり玉なのかもしれない。

ラストシーンでは、小舟の上で争った末に、元日本兵の桜田が、照屋を海に落とす。殺したい者と殺されたい者、利害関係が噛み合っても、結果は思うようにいかないのか。

今なお基地問題で揺れる沖縄を暗示しているのかとも思ったが、桜田が海に落ちていたら、映画の終わりが深刻になりすぎる。きっと、タイトルにふさわしく、軽妙さを残したかったのだろう。