『オー!ファーザー』考察とネタバレ|「おそ松さん」のオヤジ版か?

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『オー!ファーザー』 

伊坂幸太郎原作、『ヤクザと家族 The Family』の藤井道人監督のデビュー作。父親多数で賑やかな食卓。

公開:2014 年  時間:103分  
製作国:日本
  

スタッフ 
監督:  藤井道人
原作:  伊坂幸太郎
    『オー!ファーザー』

キャスト
由紀夫:      岡田将生
悟(大学教授):  佐野史郎
鷹(ギャンブラー):河原雅彦
勲(体育教師):  宮川大輔
葵(元ホスト):  村上淳
多恵子:      忽那汐里
鱒二:       賀来賢人
富田林:      柄本明
古谷:       駿河太郎

勝手に評点:1.5
(私は薦めない)

(C)吉本興業

あらすじ

性格も個性もバラバラな父親と呼ぶべき人物が四人もいる高校生の由紀夫(岡田将生)は、四人から受ける愛情に煩わしさも感じていた。

クラスメイトの多恵子(忽那汐里)には「父親たち全員に似ている」と言われ、複雑な思いを抱いたある日、由紀夫は賭博場で鞄の盗難事件を目撃。

そのことがきっかけで、一家はとんでもない事件に巻き込まれていく。

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レビュー(まずはネタバレなし)

映画化で見せたかったものは何か

母親と四人の父親と奇妙な同居生活をおくる高校生の由紀夫が事件に巻き込まれてしまい、四人の父が奮闘する姿を描く。

映画でいえば『スリーメン&ベビー』の赤ん坊が、高校生に成長したような話だと、原作者の伊坂幸太郎も自著で述べている。

冒頭から失礼な物言いで恐縮だが、本作は伊坂原作の映画化としては、成功したとは言い難い。原作の物語を表面的に追いかけるのに手一杯で、映画ならではの付加価値が見当たらなかった。

原作では不満点の一つだった、四人の父親がみんな漢字一文字で、人物像と台詞の読み分けが難しい点を、映画ではどう解決してくれるか。

ここは期待していたのだが、キャラの描き分けも中途半端で、大差がない。まるで「おそ松さん」が大人になったようだ。

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不満な点を言い出したら止まらない

どうにも馴染めなかったのが、嘘くさい世界観の描き方だった。父親が四人いるのは、よい。それが本作の設定の肝なのだから。

ただ、その非現実な設定を観る者に納得させるためには、彼らを取り巻く日常社会を、もっとリアルに見せたほうが良かったと思う。

例えば、紅白知事選挙の報道や選挙カー、みんなが恐れる富田林さんの存在など、いかにも取って付けたような説明や映像で済ませてしまうのは、安っぽく見えた。

映画でしかできない取り組み、伏線のひとつ、子供の頃のテレビ番組『ランナウェイ・プリズナー』などは、回想シーンで観せる手もあったのではないか。

『オー!ファーザー』予告編

監督とキャスティング

本作で一番イキイキと描かれていた役は、富田林(柄本明)と、子分の古谷(駿河太郎)だったように思う。二人の演技力もさることながら、暴力的な人物のとらえ方がうまいのかもしれない。

さすが『ヤクザと家族 The Family』 という傑作を世に出した藤井道人監督。才能の片鱗がうかがえる。駿河太郎は、『ヤクザと家族』でも存在感大。

藤井監督は、長篇映画としては本作がデビュー作であるだけに、なかなか実現できなかった面や、役者に気を遣った分もあるのだろうと推察する。

主演の岡田将生は、『アヒルと鴨のコインロッカー』『重力ピエロ』、それに本作と伊坂作品には縁がある。

24歳で高校生役はこれを最後にしたいと語っている。友人・鱒二を演じた賀来賢人が30歳で『今日から俺は‼』で学ランを着ているのだから、面白い。

そうそう、紅一点の多恵子を演じた忽那汐里は、その後『デッドプール2』で、堂々のX-MENメンバーでハリウッドに進出し、驚いた記憶がある。

親がいっぱいでてくる話というのは、小説では面白いが、映画にするとつまらない。これが正しいかどうか、本屋大賞受賞の『そしてバトンは渡された』(永野芽郁と石原さとみが出演予定)の完成を待って検証してみたい。

(C)吉本興業

レビュー(ここからネタバレ)

ここから、ネタバレとなる部分がありますので、未見の方はご留意願います。

四人の父親たち

四人の父親のキャスティングはどうだったろうか。個人的な感想だが、原作イメージと合致した配役は一人もいなかった。

大学教授の佐野史郎、体育教師の宮川大輔は分からないこともないが、ちょっとベタなイメージに安易に走り過ぎ。宮川は製作が吉本興業ということだろうが、この配役で笑いはとらなくてよかったのでは。

元ホストで主夫の村上淳はどんな役でも上手だが、むしろギャンブラーの鷹の方が彼には似合っていた気がする。葵には、もっと、どんな女にも声かけそうな軽薄さが欲しい。

河原雅彦は演劇メインの俳優だと思うが、過去に舞台で、やはり伊坂ものの『オーデュボンの祈り』をやっていた。ギャンブル好きっぽく見えたので、さほど違和感はない。

(C)吉本興業

原作と比較してのあれこれ

本作は台詞回しも含め、原作を忠実に再現しているように見えるが、当然時間や予算的な制約から、落としているものも多い。

カネの入ったカバンをすり替える舞台がドッグレース場ではなくただのゲーセンだったり、或いはクラスメイトの一人、殿様というあだ名のキャラや、今川焼屋をやる鱒二の父親などの主要キャラが出てこなかったり。

そうそう、人気男性アイドルの田村麻呂も、残念ながら登場しなかった

でも、これらの削ぎ落しは映画をシンプルに分かりやすくする点では有効だったし、今川焼屋の代わりに、犯人の拳銃の弾切れという、別な解決策で処理されたのも考えられている。

矢島健一を司会者にしてクイズ$ミリオネア風なテレビ番組を作ったのも、映画的なアプローチで良かったと思う。

ただ、生放送で父親たちが手旗信号を始めるのは、(原作通りなのだが)映像でみると不自然で目立ち過ぎた。

なお、手旗信号が映画では意外とサマにならないことは、『亡国のイージス』で真田広之が身をもって教えてくれている。

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拉致された由紀夫が犯人に見張られながら家にかけた電話を鷹が受けて、あるキーワードで異変を察知するシーンがある。

ここは、不運にも一番勘が鈍い鷹が受電したために、事態に気づかなかったように観客を誘導すべきところなのに、映画では気づきがバレバレのカット割りだったので萎えた。

また、彼らが大好きだった番組『ランナウェイ・プリズナー』のように、ロープとタオルでマンションのベランダから車に向けて斜めに滑り降りて救出する場面は、最大の見せ場なので、もう少し撮り方に臨場感が欲しかった(このロケ場所が横浜と気づいたので、他の撮影地との違和感は否めず)。

最後に四人の父親に愛されている母親についてだが、映画では顔を見せない。最後だけ女優にカメオ出演されてもシラケてしまうので、これは好判断だと思う。

ラストに「これから合コンに行くから」という電話が入るのだが、原作では、出張帰りの母親が由紀夫に道で会い、「元気?私の大事な夫たちは」と聞くシーンで終わる。

ここは原作の読後感の方が伊坂幸太郎らしいほのぼのさがあって、私は好きなのだが。

以上、お読みいただきありがとうございました。原作もぜひ。